軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第68話 お風呂会議

グラウス魔人国は白銀の世界だった。

グラドラムではまだ冬を予感させる程度だったが、グラウスは全く季節が違うように感じた。グラウスについてから2週間ほどになるが、毎日のように雪がちらついている。しんしんと降り積もるほどではないが気温が低いので雪が解けずに、その上にまた雪が降るので少しずつ白さが増していくようだった。

グラドラムからの船旅のあいだに妹が生まれ、グラウス城にてルゼミア王から名前を授かった。

アウロラ

それが俺の妹の名前だった。ルゼミア王は美しい名前を授けてくれた。「心も体もオーロラのように神秘的で美しい人であれ」とつけてくれたようだった。

「アウロラ」

俺はそっとつぶやいてみた。いい名前だ。

今は俺のそばでイオナの胸を吸っている。髪はまだ薄っすらとしか生えていないが、イオナと同じ美しい金髪だった。目の青さもしっかり引き継いできっと美人になるのだろう。グラムも精悍な感じではあったがイケメンと言えない事もなかったし。

「ラウル、この子は本当に力強いわ。乳を吸う力もすごいみたい。」

「やはりグラム父さんの子だね。」

「もし死んでいたらこの子には会えなかったのね・・」

「本当によかった・・」

イオナがどんなに窮地に立っても、過酷な長旅の最中もお腹の中でしがみついていたのだと思うと、この子は本当に強いのだと思える。

「イオナ様がお乳をあげているお姿を見ることができるなんて・・本当にたどり着いたのですね。」

マリアがイオナのそばについて話しかける。

「マリアが心の支えになってくれたからよ。」

イオナがマリアに感謝の気持ちをのべた。

部屋には俺達3人とアウロラだけがいた。暖炉には火がくべてありパチパチと音をたてながら皆を温めていた。この国の夜は本当に寒いが俺はそれほど寒さを感じない、魔人にはまだそれほどでもないようだ・・がイオナとマリア、ミーシャ、ミゼッタには厳しいようだった。

「魔人の国は寒いね。」

「ええ、最北の国だものね。」

「どうして魔族はこんな厳しいところに住んでいるのかな?」

「ああラウルは、モーリス先生の教えの途中でサナリアに移ったんですもんね、そこまで教えてもらえなかったのかしら?もしかすると、あえて教えなかった・・のかもしれないわね。」

「教えなかった?」

「あなたに魔人の血が流れているのを見抜いているようだったから。」

「そういえばモーリス先生は、俺の魔力の流れを見抜いていたみたいだ。」

モーリス先生は俺の中に2つの魔力の流れを感じていた。魔人の血が入っているのを知っていたのかもしれなかった。

「魔人と人間は相まみえないのは知っているわね。それは2000年前の人間と魔人の戦いに原因があるのよ。」

「人魔の戦い・・それは聞いたことがある。」

「魔人と人間では数が違い、圧倒的に人間が多いの。だから魔人がどんなに強くても、人の数と物量で人間がはるかに有利だったのよ。中には魔人をもしのぐような剣士も出てきて、魔法も研究されてきた。魔人は魔法がほとんど使えないから圧倒されていったのね。」

「ああ・・確かにいた・・グラドラムで戦った騎士にもバケモノが。いまこの部屋のドアの前にその成れの果てが立ってるけどね。」

ハイグールになった敵の大将の事だ。シャーミリアが禁呪を使って作った最高傑作ということだ。

「ええ、それで魔人が人間に和平交渉をしてきたのよ。」

「和平交渉・・・」

「そう、でもね人間はそれを受け入れなかった。人間上位主義者がたくさんいたのね、特に教会の人間は受けいることはなかったわ。」

「人間上位主義者?」

「人間のほうが魂の存在が上だと、神を信仰する人間が魔人や魔族、そして亜人などと同列ではないという考えね。」

「差別か・・」

「そうね。」

なるほど、この世界にも差別ってあるんだな。ユークリット公国に魔人や亜人なんて見なかったもんな。サナリア領に亜人はいたけど、領主のグラムが博愛主義者だったからだし。イオナなんてもっと生き物に平等な人だ、イオナが国の有力な貴族の娘だから許されていたようなものだった。

「そのあと破れた魔人は迫害され、どんどん住む地を追われ北へ北へと向かっていった。そして安住の地として選んだのがこの国というわけね。ただ・・私もそのくらいしかわからないけど。」

「ルゼミア王はよく俺達を受け入れてくれたね。」

「それは、あなたとあなたの本当の父親ガルドジンのおかげだわ。」

「俺は特に何もしてないけどね。」

「2000年もたてば、その争いの記憶も薄れているかもしれないわね。」

「人間の国に住んでる時も、人魔の戦いの事はほとんど話を聞くこともなかったな。」

「魔人は人間より純粋だわ。オーガの3人もとても素直だし、ルゼミア王なんてまるで子供のような純粋さを持っているし。」

「本当に。自分にまっすぐに生きている感じがするよ。」

俺達は魔人に対するイメージが過去とは全く違っていた。触れ合ってはじめてわかった事が多かったが、彼らは純粋で気遣いもできる、なにより深い優しさを持っていた。

《むしろ・・俺はそこに・・魔人が人間に負けてしまった理由を感じるがな・・》

人間はしたたかだ、勝つためにはいろんな策略をこうじてくるだろう。俺が・・そのいい例かもしれなかった。勝つためには手段を選ばない。

「人間はそんな魔人を受け入れずに、ひっそりと暮らしているのを見つければ討伐するわ。魔人側としては何もしていないのに狩られてしまうわけね。」

「知らないというのは怖いことだね。」

確かに・・魔人は人間からみたら化け物だもんな、それは生理的にうけつけない人も大勢いるだろう。だからといって無条件に殺されていい、いわれはない。

「だけど母さん、今回の戦争は人間が人間に仕掛けた虐殺にちかいものだ。何がそうさせているんだろう。」

「それは、わからないわ。」

確かに前世の大戦で虐殺はあった、恐れや憎しみだけでなく狂気に満ちたものだった。この戦いにはそういった狂気じみたものがある。そもそも民や兵士がいなくなったらその領土は誰がみるんだ。

「まあ、アウロラの前で話すことじゃないな」

「そうね」

いつのまにか、アウロラは寝てしまっていた。

すると・・コンコン!ドアがノックされた。

「はい、どうぞ。」

俺が言うとドアを開けて入ってきたのはシャーミリアだった。

「どうした?」

「ご主人様、お風呂のご用意ができました。」

「ああ、それなら俺は最後でいいよ。」

「いえ、ガルドジン様が水入らずで入ろうとの事です。」

「父さんがか?・・わかった。」

シャーミリアについて浴場に行く。

「もう入っているのかな?」

「はい、もう入っていらっしゃいます。」

「わかった。」

俺は服を脱いで浴場に入っていく。湯気でよく見えないが誰かが入っている。

「おお、アルガルドか?こっちへおいで。」

「はい、父さん。」

浴場にはすでにガルドジンが入っていたが・・・・ルゼミア王もいた。

えっ!?

「あ、あの。シャーミリア!陛下も入っているんですけど!!」

俺が振り返ると、シャーミリアも裸になっていた。

「え!え!シャーミリアも裸って・・入るのか?」

「あ・・は、はい!ご無礼を失礼いたしました!すぐに出ます!!」

シャーミリアが真っ白な顔を真っ赤にして浴室を出ていこうとする。

「これ!シャーミリア!妾が来いと言ったのじゃ。勝手に出て行ってはならぬぞ!アルもおかしなことをいうな、風呂場で裸なのはあたりまえじゃろが!」

ルゼミア王はシャーミリアに強要した。

「あ、はい、シ・・シャーミリアいいよ別に・・俺は。いてくれ。」

「あ、ありがたき幸せ。ご一緒させていただきます事お許しください。」

「シャーミリアはアルが気に入っているのじゃ、少しぐらい一緒にいてやってもよかろう?」

「あ・・まあ陛下、俺はかまいません・・・」

4人で湯船に入る。あったかい風呂だ・・これ温泉か?すべすべするぞ。というか・・これは・・ルゼミア王の作戦だったようだな。純粋というのは撤回するか・・いや単刀直入と言えば単刀直入だな。

「アルガルド、そう照れるな。はじめてではないだろ?」

「それは・・イオナ母さんやマリア達とは旅の途中で一緒に風呂に入りましたが・・慣れません。」

ガルドジンが見えない目で俺が照れているのを察したらしい。フォローのつもりか知らんが・・慣れない物は慣れない。

「俺はあいにく目が見えなくなってしまった。きっとお前には素晴らしいものが見えているのだろうな」

「はい・・それはもう。」

「はははは。そうかそうか。」

なんだ・・父よ、俺は(まだ)なんだぞ!9才なんだぞ!わかってんのか?

「父さん、体のほうはいかがですか?」

「うむ・・」

ガルドジンは口をつぐむ。するとルゼミア王が代わりに話した。

「正直なところ目はもう復活せぬ。そして体の方じゃが復活まではかなりの時間を要するじゃろう。まあ妾に任せておけば大丈夫じゃ。」

「そうですか・・目が・・それでも体は治すことができるんですね!」

「そうじゃな。四六時中一緒にいることになるがの。」

「四六時中ですか・・」

そうか、手を抜けばあまりよくない状態になるという事なんだろうな。《酷い毒を飲まされたものだ・・クソムカつくぜ。》するとガルドジンが話を続ける。

「それでだ・・アルガルド。お前ともこうして再会を果たした。グレイス・・ああ、お前の母さんだが、きっとお前と俺がふただび出会えた事を喜んでいるだろうと思う。」

「一目お会いしたかったですが・・」

「うむ・・お前を生んで死んでしまったのだ。」

「俺を生んで!?」

「まあ気にしなくてもいいぞ。むしろ人間が魔人の子を産むその方が危険性は高かったのだ。むしろ俺の責任によるところが大きい。」

「俺を・・産んで・・」

「アルガルドよ、妾もガルのいうとおりだと思うぞ。そしてグレイスはな、お前を産めて幸せだったはずじゃ。」

「そうなんですか?」

「好きな男の子供を産む。それ以上の幸せがあるものか!イオナをみよ!幸せな顔をしておるわ。」

確かにそうだ・・グラムはもう死んでしまった。しかしイオナはその子供を産んだことで幸せを感じているようだった。いまならわかる気がする。こういうタイミングだからこそ・・打ち明けたのか。ガルドジンとルゼミア王は・・なんという心遣いをする人たちなんだろう。

「はい・・お心づかい痛み入ります。」

「そこで相談なんだがな・・俺はこのままお前の足手まといになろうとは思わない。」

「足手まといなどとは思っておりません。」

「いや、俺の部下たちからみれば、はっきり言って俺は足手まといだ。」

「本当に、彼らはそのように思っているでしょうか?」

「思ってはいないだろうが、俺が足を引っ張りたくはないのだ。お前も男だ戦士ならばわかるだろう?」

「・・・はい。」

気持ちはわかるが・・足手まといなどと思うわけがない。本当の父親なのだから。

「俺はな、ルゼミアと一緒になる。」

えっ!?

「・・・それは結婚という事ですか?・・おめでとうございます。」

「アルよお前は祝福してくれるのか?」

「ええ、もちろんでございます陛下。父を治していただけるだけでもありがたいのですから。」

「そうか、アルガルド。俺の願いを聞き入れてくれるか!?」

「願いですか?」

「俺の部下をお前に預ける、死して別れが来るまでお前の部下として使ってやってくれるか?」

「部下としてですか!?」

「ああ、ギルに聞いたんんだ。お前が・・元始の魔人なんじゃないかと。」

「それはギレザムに言われたことがありますが。」

「ご主人様、私もそのように思います。」

シャーミリアも俺を元始の魔人だという。

「アルよ、本来ならばお前がこの国の王なのじゃぞ。妾が国ごとくれてやると言うたのが冗談だと思うか?」

「いえ、それでも俺にはまだそんな大役、想像もつきません。」

「まあ今は子供じゃからの。しかしお前はその器じゃということだ。」

「器・・ですか?」

「そうじゃ。これはな運命なのじゃよ。お前は逃げることは出来ないのじゃ。」

「運命ですか・・」

運命とか言われても・・いまいちピンとこねーわ。とりあえずどうしたらいいのよ俺。

「あとはな、ガルが妾の元へ来てくれたのでな、もう国はいらぬわ。飽きたし。」

「飽きた・・って・・」

「まあ今すぐとは言わん。いずれ・・くらいに考えておれ。お前が元始の魔人なら寿命は我々より長いかもしれん。」

「まあ、それならば・・まずは。」

いきなりな話だった。風呂という他のものが誰もいないところでの話、トップの機密会議というわけか。元ルゼミアの腹心であるシャーミリアが俺の腕を抱き取って、お湯からあげる。

「ご主人様それではお体をお流しいたします。」

「自分でできるよ。」

「アル!お前は主ぞ!務めを果たせ!」

ルゼミアに怒られてしまった。え?体を洗われるのも務めなの?洗い場にいくとなんと、マキーナもスタンバイしていた。

「それではお力を抜いてお座りいたしてください。全て私たちがやりますゆえ。」

シャーミリアとマキーナが俺に近寄ってきた・・

えっと。

洗うだけ・・だよね?ね?

湯けむりが俺たち3人を包みこみ見えなくなった。