軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第674話 不可解な動き

誤算だった。まさか光柱だらけの聖都にデモンが侵入してくるとは思わなかった。しかも正面から…いや、都市の真っ只中にいきなり出現してきた。だがそれはデモンの意志ではなく、転移魔法で飛ばされて来ているのだった。

「エミル!」

俺は急ぎ、AH-1Z ヴァイパー戦闘ヘリで待機中のエミルに無線をつなぐ。

「はい、こちらエミル!」

「デモンがあちこちに出現している」

「どうやらそのようだな」

「そっちはメリュージュとシャーミリアがいるから安全だと思うが、エミルは大丈夫だったか?」

「ここに敵は入ってきてはいない。彼女らは侵入を許してないようだ」

「了解だ、メリュージュがかなり活躍したらしいしな」

「それは直に見た。オージェの母ちゃんはすっげえぞ!」

「らしいな」

「デモンがたちまち消えて行くんだ」

エミルが興奮気味に言う。リアル龍が火炎でバケモノを薙ぎ払うなんて、特撮物じゃない限り見られない。俺はそれを直に見たエミルがうらやましくなってきた。

「ああ、だから基地は彼女らに任せていい」

「って事はもしかして、やっと俺の出番かな?」

「そうだ。エミルはスラガの援護に向かってもらいたいんだ」

「よっしゃぁぁ!やっと活躍の場が来た!」

「ああ、思う存分やってくれ」

「了解しました!隊長!」

「手加減は不要だ」

「エミル!AH-1Z ヴァイパーいきまーす!」

無線の向こうからテンションマックスのエミルの声が聞こえた。

「ずっと兵員輸送ばっかりだったからな。アトラクションを楽しんでこい」

「言われるまでもないさ」

「頼む」

無線を切り、俺は魔人と人間兵が避難している都市中央の地下部屋へと走った。

「ラウル様」

走っている地下道の途中でルフラが出現した。地上から隙間をすり抜けて入ってきたようだ。

「ルフラ無事か!」

走りながら話す。

「気づかれる前に潜りましたから」

「あちこちにデモンだ。侵入経路は恐らく転移魔法だな」

「魔法?ということはデモンに与する人間がいると言う事ですか?」

「魅了されているのか、利害関係が一致したからなのかはわからないがな」

「厄介な…」

「恐らくは俺が逃した転移魔法使いだ。目視で確認している」

「よりにもよって、くっついてほしくない者同士ですね」

「そうだ」

「それでどうなさいますか?」

「転移魔法の少年が問題だ。なんとか居場所をつきとめて始末したいところだが、すぐ転移するから居所をつかむのが困難だな…」

「ラウル様は顔を見られているのですよね?」

「あの村の地下室で話した」

「その者がラウル様を狙っていると考えられませんか?」

「俺をか?」

「あの時ラウル様を殺そうとしましたよね?」

「…確かにそうかもしれん。だがどういうことだ?俺に対する恨み?」

「推測ですが…顔を覚えたから、という軽い理由ではないでしょうか?」

なるほど。その線は考えつかなかったな。あのとき俺は助けにきてやったって言ったんだが…逆恨みじゃね?てか俺の居場所がなんでわかったんだ?偶然来たのか?

「まあ仮にそうだとして、よくここがわかったよな?」

「デモンにも知られています」

「確かに…」

この広いファートリア国でなぜ俺がここにいる事が分かったのか?どう考えてもその理由が分からない。デモンの魅了か?魅了にそんな力は無いか…

「ラウル様。もしラウル様に対しての恨みなのだとしたら、私がオトリになっておびき寄せてはいかがでしょう?」

「ルフラが?」

「私がラウル様に成りすまして、野に出れば敵はそちらに向かうのではないでしょうか?」

「ルフラが危険じゃないか?」

「いざとなれば私はどこにでも逃げれますよ」

「…なるほどね。やってみる価値はありそうだ」

「ならすぐにかかりましょう」

「だが、ルフラ。俺が一人でこの聖都を出るのは不自然だろ」

「ならば魂核を書き換えた人間を、部下として連れてまいりましょう」

「そいつは…ちょっと」

いくら鍛え上げられた騎士とはいえ、デモンにも異世界の魔法使いにも瞬殺されてしまいそうだ。あとサイナス枢機卿は意外に顔を覚えているから、いなくなった人間が居たらすぐ気が付きそうだし。

しかし…ルフラも他の魔人同様に、身内以外の人間に対してはとても薄情だな。

「ならば、やはり私が単体で」

単体で俺が歩いていたら不自然だ…簡単に人間が死なない方法…

「…まてよ。竜化薬を使えば何とかなるかな?」

「ミーシャが作ったアレですか?」

「そうそう。あれのおかげで魔人はユークリット戦で生き延びたんだ」

「なるほど。ではそうしましょう」

「薬はファントムに収納してある」

俺達が走って地下の大部屋に飛び込むと、ズゥゥン! ロケットランチャーの爆破音が聞こえてくる。魔人や人間兵達が俺の方をふり向いた。

「まだデモンの襲撃が続いているのか」

近くにいるゴブリンの進化魔人に聞く。

「一時、攻撃は途切れていたのですが、再び攻撃が開始されたようです」

って事は転移魔法のアイツがまだどっかから、こっちにデモンを飛ばしてんな。

「行くぞ」

「はい」

入り口付近では、魔人がまだロケラン三段撃ちをやっていた。12.7㎜重機関銃の銃撃も続いている。

「まだ途切れないか?」

「一度途切れましたが、再び始まりました」

「一度途切れた?」

「ラウル様が去った後、いったんデモンの攻撃が止みました。ですが再び始まったようです」

オークの進化魔人が言う。

…なんだ?俺がここから動いた事を知っているのか?俺が戻ったから攻撃を再開したって事か?

「ラウル様、やはりラウル様が狙われているのでは無いでしょうか?」

「ルフラの言う通りかもしれん。だがどうして俺がこの場から動いた事が分かったんだ?」

「確かに…」

「今は考えても始まらない!偶然かもしれん!とにかく行動に移すぞ」

「わかりました」

「ファントム!竜化薬を十粒ほど出してくれ!」

「……」

ポロポロポロポロ ファントムの背中から竜化薬のカプセルが出て来た。それをルフラが両手で受け取る。

「俺はここで敵を食い止める。ルフラは十人の騎士を選び俺に成りすまして、秘密通路から外に連れて行け。全力で魔人基地の方に走るんだ。魔人基地までたどり着けばメリュージュが敵を焼き払う」

「わかりました」

そう言って俺とルフラが人がいない部屋に入る。そしてすぐに全く同じ姿かたちをした俺が二人になって出て来た。もちろんルフラが俺に成りすますための儀式は企業秘密だ。

「よし!じゃあ任せたぞ!」

「ああ、俺が敵をひきつけるからな」

「頼むぞ」

言葉も声も俺に成りすましたルフラは、まるで俺のように親指を立ててサムズアップした。部屋を出て二人は別々の方向に向かうのだった。

「ファントム。M61バルカンを出す。外の敵を一掃するぞ」

「……」

俺がファントムの前にM61バルカンを召喚した。ファントムは数百キロのバルカンを担いでのしのしと歩き出す。

「お前たちは一度下がれ!」

「「「「「は!」」」」」

ロケラン三段撃ちをしていた魔人達を下がらせて、ファントムが前面に出た時だった。

「デモンが続きません」

「なに?」

俺が走り込み、部屋の窓から外をそっと見る。

「いない…」

「さっきもこんな感じでした」

「さっきも?」

「はい」

どういうことだ?俺がいるから攻撃を開始したわけでもないのか?なぜデモンは退いたんだ?聖都を埋め尽くさんとするデモンが居なくなっている。

《ラウル様。ルピアがいる秘密の出口に到着しました》

ルフラが秘密の出口に到着したらしい。

《敵はいるか?》

《こちらは静かです》

《分かった。作戦通りにやってみてくれ。気を付けるんだぞ!》

《わかりました》

さてと敵さんは、偽者の俺を見つけてくれるかな?だがルフラと竜化薬を飲んだ騎士とはいえ、デモンと異世界人魔法使いを相手にすればかなり分が悪いだろう。無事に魔人基地へとたどり着いてくれることを祈る。

《シャーミリア!》

《は!》

《これからそっちの基地に俺に化けたルフラと、竜化薬を飲んだ人間たちが行く》

《はい》

《俺をおとりにして敵をひきつけるつもりだ。メリュージュさんに伝えて敵を迎撃してくれ》

《かしこまりました》

俺の側にはファントムがバルカンを構えて立っているが、デモンが居なくなってしまった以上何もすることは無かった。

だが、何故ここの攻撃が止まったんだ?まるでこの内部の動きが筒抜けになっているみたいだ。というか、俺に成りすましたルフラが下に降りたとたんに攻撃が止んだようだが…

「ファントム、ここに待機だ」

「……」

「敵が攻めてきたら同じ攻撃を続けろ!敵を地下に入れるな!」

魔人の兵士にも伝える。

「「「「「「は!」」」」」」

「今は敵の攻撃が止んでいる。見張りを立て交代で休め!」

「「「「「「は!」」」」」」

俺は魔人達の前にレーション用のペットボトルの水を用意してやった。魔人達はそれを受け取ると、蓋を開けて飲み始める。俺の魔人達は皆、現代兵器やペットボトルに驚く事は無い。慣れ親しんでいる。

《ラウル様!》

スラガからの念話だった。

《どうしたスラガ!》

《エミル様の凄まじい攻撃により、デモンの数がかなり減りました。今はこちらの兵達が押し返し始めています》

エミルの戦闘ヘリの攻撃により戦局が変わったようだ。

《よし!》

《エミル様がリシェルを基地に連れて行ってはどうかと言っておりますが》

《いや、待ってくれ。いま作戦の一環で基地に敵をおびき寄せているんだ》

《作戦ですか》

《敵をひきつけて、メリュージュさんの火炎で焼き払うつもりだ》

《わかりました》

「さて」

無線機を取り出してエミルにつなげる。

「エミル」

「いやー、スッキリした」

いやいや、トイレから出てきたやつの台詞だよそれ。

「おかげでデモンをかなり減らせたみたいだな」

「だが武器がすっからかんだ」

「一度帰投して、新しいヘリに乗り換えてくれ。武器の補給をしている暇はない」

「了解。だが敵を基地にひきつける作戦中なんだって?」

「そうだ。出来るだけ早く戻って、メリュージュたちの援護をしてほしい」

「いいね。では基地へ帰投する」

「気をつけてな」

「了解」

ルフラが言うように敵の目標が俺ならば、基地におびき寄せる事が出来るだろう。その間に転移魔法を使うあの少年を見つけ出したい。恐らくは基地には近づかないだろうが、遠隔でデモンを送りこんでくるはずだ。絶対に目視できる距離に出現するはず、危険だがマカ、クレ、ナタを周辺の捜索に出す必要がありそうだ。

「俺は下に降りる」

「「「「「は!」」」」」

俺が現場の魔人達に声がけをして地下の部屋にもどった。

「あれ?」

部屋にいる進化魔人が声をあげる。

「いま外に出られたんじゃ?」

なるほど進化しきっていない魔人は…成りすましたルフラと俺の見分けがつかないのか。

「戻って来たんだ」

「そうですか」

そして俺は違和感を抱く。何か足りないような気がする。

「あっ」

ここにいたはずの礼一郎が居ない。生気のない顔でここにいたはずの少年が消えていた。

「礼一郎はどうした?」

「あれ?」

魔人達がざわつく。

「申し訳ありません。いつの間にかいなくなっていました」

「いなくなっていた?」

「も、申し訳ありません!」

「いや…お前たちを責めてはいない、俺が見張っていろと言わなかったからだ」

「「「「「は、はい!」」」」」

一般兵の魔人達が恐れおののくようにペコペコしている。

いや…本当に怒ってないんだけどな。だけどアイツはいったいどこをうろついているんだ?基地を出てふらふら、ここでもふらふらしやがって…

「俺は枢機卿と話をしてくる。何かあったらすぐに知らせろ」

「「「「「は!」」」」」

そう告げて地下に続く廊下に出る。ここから枢機卿がいる部屋までも魔人を配置しているため、俺が歩いて行くと頭を下げて礼をしてくる。

「少年を見なかったか?」

「こちらには来ていません」

「そうか…アイツ…一体どこに行ったんだ?」

「探しますか?」

「…いや…いい」

流石に敵と戦っているのは分かっているはずだ。危険な外にわざわざ出る事は無いだろう。

俺はこの地下深くに眠っているアトム神の事も含めて、サイナス枢機卿と今後について話さねばならない。俺は地下に避難したサイナス枢機卿の元に急ぐのだった。