軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第667話 急速接近

俺達はファートリア聖都へと戻り、サイナス枢機卿らにこれまでの経緯を話した。ファートリア聖都側では、いずれ異世界の少年少女たちを受け入れると言ってくれている。いったん魔人軍が隔離施設を作って異世界人たちを管理し、ファートリア人らには迷惑をかけないという話で了承してもらった。

「可哀想な子供達、死んだ魚のような目になってしまって…」

聖女リシェルがとても悲しそうな顔をして、異世界の少年少女を見ていた。異世界人らはアナミスの催眠のために、死んだ魚のような目になっているのだが…そこは黙っとこう。

「まあ精神的に疲れているのでしょう」

「そうなのですね‥‥可哀想に」

慈悲深い目で見ている。さすが聖女だ。

「彼らは一旦、先に助けた学生たちと共に施設へと入ってもらいます」

「分かりました」

「アナミス、彼らを収容所へと連れて行ってくれるか?」

「はい」

「スラガも護衛としてついて行ってくれ。ハイラさんとマリアも一緒に付き添ってあげれるかな?」

「はい」

「かしこまりました」

「ラウルさん。礼一郎はどうします?」

ハイラが聞いて来る。

「彼はまだダメか?」

「かなり衰弱しています」

「ならば彼らと一緒には、しなくてもいいだろう」

「わかりました」

礼一郎はまだ復活していないらしい。ハイラも今回保護して来た少年少女に対して心を痛めており、出来るだけの事はしてあげたいと言うのだった。ファートリア聖都で保護した少年も含めて面倒を見ている。

「私も何かの力になってあげたいと思います」

聖女リシェルが言う。

「では一緒について行ってくださいますか?」

「そうしましょう」

聖職者として清らかな心を持っているリシェルも、この子らの状態を見て何とかしたいと思っているらしい。さすが聖女オブ聖女様だ。

「じゃあアナミス、彼らを連れて行ってくれ」

「かしこまりました」

アナミスと一緒に彼らが異世界人の子供の手を取り連れて出ていく。異世界人たちは催眠のため、どことなくぎこちない動きで歩いて行った。魔人が急ピッチで建てた収容所だが後で視察に行くとしよう。

「それで、都市内の光柱はどういう状況ですか?」

俺がサイナス枢機卿に聞いた。

「少しずつ本数が減っているやもしれん。数が多くてよく分からんが、市壁の上で都市内を監視している兵士からそのように伝わってきているのじゃ」

「わかりました。それでは正門からスピーカーで呼びかけて呼び寄せましょう」

「なるほどのう」

俺はすぐにマカとクレとナタを呼んで、召喚した長距離音響発生装置LRADを渡す。

「枢機卿から少年少女に話しかけをしていただけますと助かります」

「わかったのじゃ」

「クレ、マカ、ナタ!枢機卿達と共に正門に向かえ。適当に魔人の護衛を任命して連れて行け。枢機卿に傷ひとつつけるな!」

「「「はい」」」

「カールはどうしたらよいかの?」

サイナス枢機卿が言う。

「もとよりカーライルは私の配下ではありません。枢機卿のご指示で動いている方です」

「ラウル君。この人員不足で、猫の手も借りたいはずでは?使ってもらってよいのだが」

「ならば、カーライルにはお願いしたいことが御座います」

「カーライルもそれでいいな?」

「はい枢機卿」

カーライルがサイナス枢機卿に頭を下げる。

「カーライルにはルタンから連れて来た兵士とビクトールたちを率いて、都市内の光柱を監視してもらいたいのです」

「それなら既に、生き残りの騎士と魔導士がやっておるがのう」

サイナス枢機卿が言った。

いやいや、魂核をいじった奴らでは何があるか分からないんだよね…

「すみません。事情があって、カーライルとビクトールたちにやってもらいたいのです」

「わかった。カールよ、それでいいかの?」

「私は問題ございません」

「ならばそうしてくれるか?」

俺からもカーライルにお願いする。

「はいラウル様。私が役に立つのであれば喜んで」

サイナス枢機卿とカーライルが、超進化ゴブリン三人衆と共に部屋を出て行った。

《ミリア、聖都周辺の監視体制はどうだ?》

シャーミリアとマキーナには、魔人達に聖都周辺を警備させるように伝え、その状況の確認をさせていた。俺が進捗を聞くために念話を繋ぐ。

《既に聖都の周囲にはかなりの魔人を配備しました》

シャーミリアが言う。

《了解だ》

この本拠地をかためて、大量の被害者を出さないようにすることが重要と考えたのだった。ファートリア国内に点在する光柱の数より、聖都にある光柱の方がはるかに多いのだ。ここだけは守らなければならない。

《あとは都市の表層部です》

《魂核を変えた人たちじゃダメっぽいからな》

《要領が悪いといいますか…》

《それも問題ない。カーライルとビクトール、ルタンの兵士を向かわせた》

《まあ、あの馬鹿者はそれなりに使えるかもしれません》

《そうだな》

シャーミリアのカーライルに対しての評価が少し上がっている。ダメって言われると思ったら、『使えるかも』に格上げされた。

《引き続き頼む》

《は!》

後は地下の警備だった。あそこにはアトム神が眠っているし、何かと重要っぽいんだよな。

《ルフラ、ルピア。そっちはどうだ?》

《魔人の配備は、ほぼ終了しています。兵器も万全ですので、侵入者が迷いこめばひとたまりも無いかと思われます》

ルピアが答えた。

《秘密通路の出口はどうなってる?》

《既に入り口の内部には交代制で守衛が立つようにしました》

今度はルフラが答える。

《地下にはアトム神が眠っているからな、万が一があると大変な事になりそうな気がする》

《心得ております》

《ネズミ一匹も入れませんよ》

《分かった引き続き頼む》

俺が念話を追え、モーリス先生に向かう。

「ラウルよ、後は北大陸全土の監視をどうするかという事じゃな」

先生が言う。

「それならご心配に及びません。ここに書いたやつらが北の大陸に待機しています。あいつらの力は一騎当千ですから、どこに現れても我々が行くまでは持ちこたえるでしょう」

俺は壁にかけられた、魔人製の黒板に記された文字を指した。魔人の技術はドワーフと俺の系譜の影響により、現代日本の技術がところどころに見られるようになった。各拠点の作戦ルームには必ず黒板が置かれている。

バルギウス帝国にいるミノタウロスのタロス

ユークリット王国にいるダークエルフのウルド

シュラーデン王国にいるライカンのマーグ

ラシュタル王国にいるオーガのザラム

ルタン町にいるダークエルフのダラムバ

グラドラム第一防衛基地にいるオークのガンプ

サナリア領にいるライカンのジーグ

グラドラムにいるミノタウロスのブロス

フラスリア基地にいるスプリガンのマズル

ファートリア西部基地にいるスプリガンのニスラ

ファートリア西部ラインにいる竜人のドラグ

二カルス大森林基地のティラが率いる魔人精鋭部隊

黒板にはそう書かれていた。

「まあそうじゃな、彼らの力ならデモンでも一筋縄ではいかんじゃろ」

「問題ないですよ」

「力強いのう!ラウルに元気が出てなによりじゃ」

「すみません。少し精神的にやられていたようです」

「無理もないわ。のうカトリーヌよ」

「はい。同郷の人間の惨い死をたくさん見たのです。しかも不可抗力だったとはいえ、自らの手にかけてしまった事も心に深い傷を残すでしょう」

「カティにも心配をかけていたんだな」

「かなり焦っておられたようですので心配しておりました」

「もう大丈夫だ。あいつらが俺に元気をくれたからな」

シャーミリアが気を聞かせて俺の精神を復活させてくれた。

「お優しい配下をもって幸せですわね」

「俺にはもったいないくらいだよ」

モーリス先生やカトリーヌも大切だが、それと同じくらいに配下の魔人達も大切だった。本当に俺なんかでいいのか?と聞きたいくらいだが、彼女らは俺の系譜の下にいるためそれが当然なのだ。しかしそれを当たり前とせずに、感謝をしていかねばならない。

「リュート王国はどうするのじゃ?」

さっきの黒板に書かれなかった国の事をモーリス先生が言う。やはり気になっているようだ。

「アスモデウスが監視をしています」

「デモンがか?」

モーリス先生が心配そうに言う。

「大丈夫です。なぜかあれは私の系譜の下にいます。絶対に裏切れないでしょう」

「そう理解すればよいのじゃな?」

「そう理解していただいて結構です」

「ふむ」

デモンと戦っている側の人間としては、敵と同じ種族が味方にいる事に抵抗があるのは分かる。だが俺の感覚が間違いなく、あいつが俺の元を離れる事が無いと分かるのだった。

まあそれが絶対のものなのかどうかは分からないが。

「異世界人たちに、アグラニ迷宮へ行かれる可能性があると思いますので、アスモデウスに見張りをさせています」

「このあたりの冒険者であれば行った事があるじゃろうからな」

「万が一冒険者に接触すれば、恐らくアグラニに行くのではないかと予想しています」

「冒険者の生き残りがおればじゃがな」

「はい」

冒険者やギルドは解体されほとんど全滅に近い状態だった。だが普通の村人として生きている可能性もある。その冒険者と接触し逃げ場所を、アグラニ迷宮に誘導させる恐れがあった。

「とにかく、冒険者の生き残りや商人に接触させないように手を打っています」

「間に合えば良いがのう」

「はい」

そのため既にファートリア国内には、西の前線基地から大量の魔人が送り込まれているはずだ。なんにもない草原や森にでも潜まれてしまうと見つからないかもしれないが、いかに魔法が使えようともこの世界の森で生きる事など出来ないだろう。日本の中高生にそんなサバイバルが出来るとは思えない。

「この地で学生相手にしている暇なんか無いんですけどね」

エミルが言う。俺と先生との話を黙って聞いていたが、話の切れ目をみて話しかけて来た。

「まったくじゃな。あのザンド砂漠に現れたデモンの大群も正体が分からんしのう」

「私が一気に焼き尽くしてしまって、情報を取れなくしてしまいましたから…」

「あのような大量なデモンがシン国へ上陸してしまえば、あの国が滅んでしまったじゃろうから仕方ないのう」

「仕方なかったのでしょうか?」

「仕方がないじゃろ、わしゃそれよりも今ここで起きとることの方が許せんわい」

「まあ…そうですね」

「だけどラウル、このままじゃあ膠着状態になる可能性があるぞ」

「そうなんだよなあ。オージェやグレースからの連絡は無いが、いつ新たな敵が現れるか分からないし何とかしないといけない」

「こっちはこっちで兵器の補充が出来ないと、対応しきれないのもあるな」

「困ったもんだよ」

エミルの言う通り、南の前線に待機しているオージェとギレザム以下の魔人達を、そのままにしておくことはできない。もしあっちにまた大量のデモンが襲来してきたら、すぐにでも向かう必要がある。

《ご主人様!》

そんな話をしている時シャーミリアが慌てて念話を繋げて来た。

《どうしたミリア?》

《北から強大な力を持つ者が接近しております!》

《なに!》

《とてつもない力です!》

《どのくらいで到着する?》

《この速度なら…5分》

《シャーミリア!魔人全員に緊急事態だと伝えろ!迎撃態勢を取るんだ!》

《かしこまりました!》

俺はファートリア国内にいる、異世界人を捕まえる事をメインに考えていたが…敵は待ってくれなかったようだ。噂をすれば何とやらというのは、この事かもしれない。

「モーリス先生!北から巨大な力を持つ者が接近しているとの事です!」

「なんじゃと!」

「すぐに迎撃態勢を取らねばなりません!」

「それならばラウル!戦闘ヘリを出してくれ!」

「分かった!」

「どのくらいで来るのじゃ?」

「すぐに到着するようです!先生とカトリーヌは地下へ非難してください!」

「しかし!」

「もし敵が、デモンなら対応しきれないかもしれません!」

「分かったのじゃ…」

モーリス先生に直接は言えないが、さすがにデモンなら足手まといになる。ここでじっとしていてもらうしかない。

「ラウル様はどうされるのです!」

カトリーヌが叫ぶ。

「魔人を率いて撃退してくる」

「大丈夫なのですか?」

「問題ないさ。今までも問題なかったろ?」

「どうかご無事でお戻りください!」

「大丈夫だよ。じゃあエミル、ケイナ行こう!」

「了解」

「はい」

俺達は会議室を抜け出て、建物を飛び出した。シャーミリアからの念話から既に一分は経過している、もたもたしている暇はなかった。ドン!AH-1Z ヴァイパー戦闘ヘリをフル装備で召喚した。エミルとケイナがコクピットに乗り込んでいく。

「エミル!状況判断は任せる!」

細かい指示などをしている暇はなかった。

「了解だ!」

その時、ドン!俺の前にクレーターが出来た。その中心にシャーミリアが跪いている。

「ご主人様!魔人達はすぐにこちらへまいります。私奴が一足先におさえておきましょう!」

「俺も連れて行け!」

「それは…」

「迷っている暇はないぞ!」

「かしこまりました!」

シャーミリアが俺をかかえて上空に飛んだ。

「対象に向かって飛べ!」

「は!」

俺はシャーミリアの超高速飛行で北方向へ飛ぶのだった。