軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第648話 無防備な異世界人

ドローンから送られてくる画像には、中学生か高校生らしき男女三人が映っている。

「どうやら三人だけのようですね」

「ふむ」

ディスプレイの映像には、学生服を着た二人の男女と私服の男が、座って話をしているのが映し出されていた。

「あんな狭い場所で魔法を使えば自分達にも被害が及ぶと、分かっているでしょうかね?」

「分かっとらんじゃろ。訓練などしていないじゃろうからな」

という事は3人同時に制圧する必要がある。

「女は私が、先生は男を行動不能に出来ますか?」

「もちろんじゃ、もう一人はどうする?少しの隙を与えれば反撃の危険があるのじゃ」

「ラウル様、モーリス様。もしよろしければ三人とも私がやりますが」

俺達の話を割って、カーライルが俺達に言った。彼には何か考えがあるらしかった。

「どうするつもりだ?」

「縮地で距離を詰め、一人を眠らせます。もう二人に気づかれる前に凍らせます」

「凍らせる?」

「魔法でもつかうのじゃろか?」

「ご冗談を。モーリス指令、私は魔法など使えませんよ」

そう言って、カーライルは自分の腰にぶら下げた剣を見せた。

「氷の魔剣か」

「ええ。私もだいぶ使いこなせるようになりました。おそらく魔法の発動よりも早いかと思いますよ」

「わかった。なら万が一の時は俺と先生が支援をする」

「指令とラウル様が。ならば鬼に金棒です」

カーライルがそう言うとスッと立ち上がった。躊躇なく部屋を出ていくので、俺達が慌ててついて行く。俺達にきちんと意志を伝えてからにしてほしいものだ。部屋の前についてドローンの映像を見ると、3人はまだ話に夢中になっていて気が付く様子もない。

「ふう…無防備すぎんだろ…」

俺はつい呆れてしまう。だが相手は日本の学生だから無防備で当たり前。

俺は身振り手振りでみんなに指示を出すため三本の指を立てた。

3,2,1

指を折り終わると、カーライルがスッと部屋に入って行った。続けざまに俺と先生が部屋に入った時には…既にカーライルが三人を制圧していた。一人を手刀で眠らせて、迎えに座っていた男女は反応する事も出来ずに凍っている。

「魔剣を使いこなしているんだな」

「だいぶ使い慣れてきました。これのおかげで進化した魔人とも、対等に立ち回れるようになってきたんですよ」

「進化した魔人と…対等?」

「まあ、サシならばですがね。もちろんラウル様の直属には、足元にも及ばないと思いますが」

「当り前じゃない。そのくらいじゃ私たちは止められない」

カトリーヌがカーライルに不遜な態度で言う。

「カトリーヌ様?」

「いいえルフラよ」

「纏われているのでしたね」

「ルフラ!別にそんなこと言わなくてもいいの!」

まるでカトリーヌが一人二役しているようだ。独り言のように話している。

「いえ。カトリーヌ様、ルフラさんの言う通りです。私の力量はまだそこに到達していないのです」

カーライルが苦笑いをする。

「到達?人間に出来るかしら」

「研鑽してまいります」

どうしたことだろう?シャーミリアだけが、カーライルに突っかかるんじゃないみたいだ…ルフラまでも、俺のイケメンアレルギーが移ってしまったのだろうか?

「あの、凍らせたままでは死んでしまうのでは?」

マリアが言う。

「そうですね。氷はいずれ消えますが、体が冷えすぎてしまうかも」

「眠らせた男を目覚めさせよう。銃の存在は分かっているだろうから、銃を見せて脅せば反抗する事は無いはずだ」

「ふむ。ならばわしが起こしてやろう」

そしてモーリス先生が、少年の鼻先に杖を向ける。ピリッ!一瞬電気のようなものがはしり、少年が薄っすらと目覚め始める。

「マリア」

「はい」

俺の指示で、マリアがベレッタ92を少年の目の前に振りかざした。

「あ、あれ?なに?」

「しーっ!」

慌てる少年に対し、カトリーヌが指を顔の前に立てて静かにするように言う。少年はカトリーヌの美しい顔を見て、一瞬呆けたような顔をしたが周りを見て凍り付く。マリアが銃口を少年の眉間に向けていたからだ。

「なに?もしかして自衛隊の人?」

「違うわ。私たちはあなたと話をしに来たの」

カトリーヌが優しく言う。

「話?」

「ええ。あなたに危害を加えるつもりはないわ。ただこんな狭い場所で魔法を使われたら、下手をすると全員死ぬことになるのよ。あなたがどんな魔法を使うか分からないけど、絶対に魔法を使っちゃダメよ」

少年がコクリと首をかたむけた。マリアが銃を下ろす。

「いい子。変な事はしないでね、目の前の二人はこのまま放っておけば死んでしまうかもしれないわ」

「わかった」

多少聞き分けが良いようだ。

「まず女の子の氷を溶かすわ。あなたも一緒に今の説明をしてもらえるかしら?」

「はい」

マリアが女の子に向かって、ボゥと火魔法を出して温める。すると氷が溶けだして少女の体が自由になった。ショックで気を失っているようだったが、モーリス先生が鼻先に魔法の杖を持って行ってピリッとやる。

「う、うう」

「ゆっくり起きて良いわ。怖い思いをさせてごめんなさいね」

「あ、あの。あなたは?」

「私はカトリーヌ。あなた達とお話をしに来たのよ」

「お話?」

すると目の前の少年が言う。

「俺達に危害は加えないって。この狭い場所で魔法を爆発させたりすると、みんな死んでしまうらしいよ」

「死ぬ?」

「ええ。死ぬわ。だから大人しくお話を聞かせてちょうだい」

「わかりました」

「じゃあ彼も起こすわね」

最後の少年もマリアが火魔法で氷を溶かしモーリス先生が起こした。何も抵抗をすることなく、カトリーヌに従ってくれた。もしかしたらカトリーヌは交渉事に関して、イオナ譲りなのかもしれない。

「三人は一体どこから来たの?」

「日本」

少年Aが答えた。

「やはりそうなのね。三人とも一緒かしら?」

「「「はい」」」

やはり転移者だった。まあ服装からしても間違いなくそうだ。

「ラウル様。やはりそのようです」

「君たちはいきなり呼ばれたんだな。急にこんなところに呼ばれて怖かっただろ?」

「はい…」

「ここは一体なんなんですか?」

少女が頷き少年Bが聞いて来た。

「君たちの居た日本とは違う世界だ。そもそも地球じゃない、でも君たちならきっとなんとなく理解できるんじゃないかな?」

「異世界?」

「そう。異世界だ」

「やっぱり!」

「本当にそうだったんだ!」

「他の国に来たわけじゃないんだ」

「そういう事だ。そして君たちは魔法が使えるようになっていたんじゃないか?」

「「「はい…」」」

「ここは君たちの想像する剣と魔法がある世界なんだ。騎士や魔法使いがいただろう?だが彼らは君たちの敵じゃない」

少年少女が黙る。

「何かされたか?」

「されてはないけど…なんか座敷童みたいな子が来て、変な事を言うんだ」

「なんて?」

「お前たちは私の子だ。身も心も捧げ一生を私のために尽くせと」

「そんな事言われたの?」

「そして毎日祈りを捧げ続ける事で、僕たちは救われるそうなんです」

「そんなのって奴隷と同じじゃないですか!」

「俺は自由に生きたい!」

三人が不平不満を言うが無理もない。そしてそれを言った犯人も分かってる。

「あー、その人たぶん、そう思い込んでるだけの子供だよ」

「えっ!」

「でも気弱そうなのに、偉そうな人が一緒に居ました!」

「偉そうな人?」

そんな人いたっけ?

「神様の後ろ盾があるから偉いんだ!的な事を言っていたのです」

「えーっと、ちょっと弱そうな…気弱そうな人?」

「「「そうそう!」」」

ケイシー神父だ。どうやらアトム神に魅了されてしまったようだ。以前のケイシーならそんなことは言わなかっただろう。

「それも…勘違い野郎だな」

「勘違い…」

「じゃあ一生尽すなんて、しなくてもいいんですか?」

「自由に生きて良い?」

「もちろんもちろん!君らの人生は君らのものだ。だけどこの世界は多少不自由に出来ているかもな」

三人が顔を見合わせる。

「それは分かります。だってここ異世界ですよね?貴族や王様がいるんですよね?」

「それがね、いる国と居ない国があったりするんだよ」

「えっと、社会主義と民主主義みたいな感じですか?」

「違う。数年前までは王様や貴族がいっぱい居たんだけどね、物凄い悪い怪物が出て来て滅ぼして行ったんだよ」

「「「えっ!」」」

「どっちかっつーと、俺達はその物凄い悪い怪物を倒す側の存在だよ」

三人は理解できていない顔をした。もちろんそれだけで今までの全てを説明できたとは、俺も思ってなどいない。まずは少しずつ分かってもらうしかないだろう。

「ところで、何で銃をもっているんですか?地球から助けに来たんじゃないんですか?」

「まあ。助けに来たっていうのは当たってる。だけど地球からってのは間違いかな、地球からこちらに来た人がいっぱいいてね、それを戻したいとは思っているのさ」

「戻す方法があるんですね?」

「残念ながら模索中だね」

「分からないんですか…」

「みんなは、大賢者ってしってるかな?」

「RPGに出てきたりする?」

「映画にも出てきますよね?」

「アニメにもいる!」

俺が目線をモーリス先生に向けた。モーリス先生は少年少女にニッコリと笑いかける。

「だ、大賢者?」

「ふむ。わしをそう呼ぶ者は多いのう」

「すげえ…本当にヒゲが長いんだ」

「帽子もかぶってるし」

「凄い魔法って使えるんっすか?」

「そうじゃのう。いろんな魔法を熟知しておるかのう」

「「「わあ!大賢者だ!」」」

三人の少年少女が色めきだつ。それもそのはず、大賢者を絵にかいたような人だから。

「というわけで、今は大賢者と共に君たちを元の世界に帰す方法を模索しているのさ。もちろんすぐにとは言えないが、皆を日本に帰すために日夜努力をするナイスガイというわけだ」

「わかりました」

「ただ、君たちには魔力が備わっている。それをむやみに振りかざすと、死ぬかもしれないので注意が必要なんだ」

「どうすればいいんですか…」

「いずれにしろ死ぬ?」

「魔法が身を滅ぼすんですか?」

「身を滅ぼしたりなどせん。ただ使い方をきちんと覚えた場合は、というのが正しいじゃろう。まだお前たちの器は脆く極大魔法に耐えられるか分からん。実際その反動もあるのじゃろうが、精神が不安定になってしまった子もおるのじゃ」

「僕たちみたいな子がいるんだ…」

「そうだ。彼は俺達が保護している。そして君たちの事も保護しに来たんだよ」

三人はきちんと話を聞き入れてくれたようだった。これから彼らを保護して基地へと連れて行かねばならない。とにかく慎重に説得し傷つけることなく済んだことは大きい。

「俺達は他の子らも助けたいんだ。みんなの所へ連れて行ってくれるかい?」

「わかりました」

少年少女が立ち上がった時だった。

《ラウル様》

西方に調査に出ていたナタからの念話が入る。

《どうした?》

《正体不明の魔法使い達なのですが、大移動が確認されました》

《大移動?》

《はい。東へと向かっているようです。恐らくはファートリアの村民が人質になっているのかと…》

《わかった。引き続き監視を続けろ》

《はい》

こっちがまだ片付いていないというのに、光柱が発動してたくさんの異世界人が湧いてしまったらしい。とにかく急いでこの地下にいる異世界人をなんとかしないと。

「では先生」

俺はモーリス先生に目配せをした。

「ふむ」

もちろんこの三人が馬鹿な真似をしないように、見張ってもらうための目配せだ。魔法の解除に失敗したら総がかりで眠らせる必要がある。

《殺して良いなら簡単なのに…》

《いかんいかん!それでは魔王じゃないか!》

ルゼミアだってそんなことはしない。俺は心の中でノリツッコミをするのだった。