軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第595話 夜間生き残り訓練

シュラーデン王都の北東に位置する森、その森の奥を俺達は獣人を連れてぞろぞろと行進している。さらに奥に進めば大型の魔獣が出てくるらしいのだが、俺はそれを目当てに歩いているのだった。

パキッ

ガザガザ

大勢で森を歩くたびに枝を踏み、枯れ葉を踏み分ける音がする。もちろんわざと無防備に進ませていた。

「日が暮れてきたのう」

「だいぶ気温も落ちて来たようです。ここいらで少し止まります」

「ふむ」

俺が止まって手を上げると獣人たちはそれに合わせるように止まった。あたりは薄暗くなってきており、誰がどこにいるか人間では分からないだろう。

「そろそろ魔獣たちの時間になる。シャーミリアとファントムはモーリス先生に傷ひとつ負わせるなよ」

「心得ております」

「……」

「わしは大丈夫じゃ、ファントムはラウルを守っとれ」

「いえ!先生。それはいけません!とにかくミリアとファントムは先生から離れるなよ」

「は!」

「……」

「やれやれ過保護じゃの」

次に俺はエミルに無線でつないだ。

「エミル聞こえるか?」

「良好だ」

エミルには森の外の汎用ヘリコプターUH-1Y ヴェノムで待機してもらっていた。

「これから訓練に入る」

「了解だ」

「アナミスとマキーナは?カティとマリアとケイナもオッケーかな?」

「スタンバイしている」

「了解。エドハイラはお手伝いが出来るようにと伝えてくれ」

「ラウル、もう後ろで全員聞いてるよ」

「そうか、みんな!俺が連絡したらすぐに対応できるようによろしくな!」

「はい!」

「いつでも大丈夫です」

「わかりました!」

カトリーヌとマリアとエドハイラが返事をした。

「さてと、獣人のみんな!俺の周りに円陣を作ってくれ」

素早い動作で俺の周りに獣人たちが集まった。総勢30名ほどの犬系猫系の獣人が黙って立っている。皆筋肉が発達していて毛におおわれており、人間よりはるかに強そうだ。夜目も利くし、かなりの戦闘力が期待できると思う。

「この森の事はしっているか?」

「はい」

山猫獣人のリガスが答えた。

「どんな場所か?」

「これからの時間帯は大型の魔獣がうろつきやす。かなり深い場所まで入ってきているので、向こうがこちらに気が付くほうが早いかもしれねえでやす」

「そうか」

「こんな物騒な場所で何をするのです」

「これから説明をする」

「へい」

「皆よく聞け!これから6人ごとの組に分かれて、生き残り訓練を行う」

「い、生き残り訓練てなんでやす?」

「この森で生き残ればいいだけの簡単な訓練だ!すぐに自分と組む者を決めろ、俺が30数える間に決めなければ脱落だ!」

「へ、へい!」

「ひとーつ、ふたーつ…」

ぞろぞろと自分に近い者達が集まって、約6人ずつ5つの組が出来上がった。

「じゅうろーく!よし!出上がったか?」

「「「「「へい!」」」」」

「上出来だ!この森から出るのは3日目の朝日が昇る時だ。それまでは素手でこの森で生き残れ!6人で相談しても役割分担を決めてもいいし、何をしても良いが森から出たら失格だ!俺がここで監視しているから手を抜く事は出来ないぞ!」

「「「「「へい!」」」」」

獣人たちは分かったのか分からないのか、ただ返事をするのだった。

「ただし!死んでもらったら困るので、どうしても切り抜けられないと分かった段階でやってほしい事がある」

「「「「「へい!」」」」」

そして俺は軍用の救急用ビーコンを5個召喚した。あらかじめエミルと決めていた周波数を合わせていく。

「これを一組にひとつずつ渡す。危なくなったらここを伸ばしてつまみを捻るんだ!やってみろ!」

俺は犬系獣人のサバーカに渡す。サバーカはビーコンを受け取って、俺が言うとおりにつまみを捻る。

「ラウル!緊急ビーコンの音をキャッチした」

無線にエミルから連絡が入る。

「オッケ、試験だ。これから本番にはいるから、次に音をキャッチしたら救助要請だ」

「了解」

「よし!それは諦める時に使うんだ。それを使った段階で失格となるから取り扱い注意だぞ」

「「「「「へい!」」」」」

「質問は?」

「あの、5組に分かれましたが…全員で協力してもいいんですかい?」

「それはダメだ。俺はそれも監視するためにここに残る。各組ごとに生き残るすべを考えるんだ」

「わかりました」

「隣の組と100メード以下の距離にならないように!それじゃあここから更に奥へと歩き続けろ!魔獣と遭遇したら何とか切り抜けて、食料は勝手に調達してくれ!」

「「「「「へい!」」」」」

獣人たちは俺達を置いて更に森の奥へと進んでいった。俺達がいる場所でもかなり入り込んでいるが、更に深い場所へと移動していく。

「ふむ。どうなるかのう」

「どうでしょう?いかに獣人とは言え、魔獣の嗅覚や触覚を上回る事はでき無いかもしれません。ですが彼らは私が思う以上の能力を持っていると思います。協力し合って皆が生き残れるのではないでしょうか?」

「生存訓練とはのう、こりゃまた面白い事を考えるもんじゃ」

「はい」

いや…俺が考えたというより、前世のオージェから聞いた訓練をそのままやっているだけだ。ただ前世の日本の森林と、この異世界の森では危険度は比べ物にならないが。

「よ!」

俺は暗視ゴーグルENVG-Bとヘルメットを召喚して装着する。

「じゃ行ってきます。シャーミリアとファントムはくれぐれも先生を頼むぞ」

「ラウルは本当に大丈夫かの?」

暗視スコープ越しにモーリス先生が心配そうだ。

「ええ、先生。だてに私はシャーミリアから、しごかれて来てませんよ。すっごい過酷なんですよ!魔獣など比較にならないんです」

「そ、それはご主人様が…」

シャーミリアがうろたえている。

「わかってる。シャーミリアが嫌々付き合ってくれてるって、俺を殺すつもりの訓練なんて嫌だよな?」

「は、はい!」

「だけど俺はデイジーとミーシャの作った高性能エリクサーを信じてるから」

「それはそうですが…今後は…」

「だめ。やってもらう」

「は‥‥か、かしこまりました」

シャーミリアは本気で嫌そうだが、俺と阿吽の呼吸で動ける彼女だからこその訓練なんだよな。しかも他の魔人達はどうしても手加減してしまいそうだし、シャーミリアは俺に絶対服従なので要求は必ず完遂してくれる。

「じゃ行ってきます」

「くれぐれも気を付けてのう、まあラウルであれば切り札だらけなので問題ないじゃろうがの」

「そのとおり!心配ご無用です」

ザッ

俺は一気に森の奥に消えた獣人たちを追いかけていく。俺が彼らの下に行くのはもちろん、俺が指示したことをきちんと守っているかの監視と護衛を兼ねている。万が一命の危険があるようなら、救出されるまで援護するつもりだ。

(いた)

組のうちの一つがいた。どうやら動き回ることなく一か所にとどまってやり過ごす事にしたらしい。俺はシャーミリアとの訓練で身に付けた、気配を消す能力で距離を置いた場所から獣人たちを監視する。

(火おこしか…草原なら定石だが)

獣人たちは薪を集めて焚火をするようだった。確かに暖かく暖をとれるのでそれもいいだろう。だがこの世界の巨大魔獣は炎を恐れない、逆に呼び寄せなければいいのだが。薪に火がつき燃え上がる。

(ん?)

火が高くたちこめようかとした瞬間だった。

バシーン!いきなり焚火が蹴散らされて炎が消された。

「あぶないじゃろがい!」

ああ…アレだ…あの木のやつだ…

「ああ!すんまへん!トレント様!そちらにいらっしゃると気が付きませんでした!」

獣人の1人が謝る。

「森が燃えてしまうじゃろがい!」

獣人たちが謝っているのに、トレントは怒ってバシーンバシーンと獣人たちを叩き始めた。でかめの木だったのでかなり力は強く、獣人たちはなすすべもなく蹴散らされていった。

キュイキュイキュイキュイ

俺の無線にもビーコンの音が鳴り響く。

「ラウル」

「すまん!怪我人がいる。これから照明弾をあげるからそこに来てくれ」

「了解だ」

俺は照明弾を召喚して、上に向けて射出した。

パシュ―

ヘリを待っている間もトレントは暴れまわっていた。仕方がないのでFN SCARアサルトライフルを召喚し、トレントに向けて打ち込んだ。

パラララララララ

「痛い!イタタタタタタタ!いたぁ!なんじゃ!!」

トレントが振り払うように木の枝を振り続ける。

パラララララララララ

「いた!いただたたた!いででででで!」

それでも撃ち続けた。トレントはどうやらどこから攻撃されているのか分からないようで、むやみに枝の腕を振っていたが、たまらずに逃げ出して行った。二カルスのトレントとは違いそれほど大きくないので、アサルトライフルでも十分利いたようだ。

ヒュンヒュンヒュンヒュン

「到着したぞ」

《マキーナ!アナミス!怪我人を収容する、降りてきてくれるか》

《は!》

《わかりました》

俺が獣人たちの所にやってくると、死んではいないもののかなりの重傷だった。

「大丈夫か?」

「いてて…す、すんません!下手うってしまって…」

狸のような獣人が言う。

「今助けてやるからな」

そして俺の元にマキーナとアナミスが降りて来た。

「こいつらをヘリに」

マキーナとアナミスは重傷者から一人づつ、上空待機しているヘリに獣人たちを連れて行った。

「エミル!けが人がそっちに行った」

「カトリーヌさん達はいつでもオッケーだ」

「了解」

次々に怪我人を連れて行き全員がヘリへと乗り移って行った。ヘリではカトリーヌが回復魔法をかけて、マリアとケイナがポーションにて治療を施している事だろう。エドハイラも手伝っているに違いない。

「エミルどうだ?」

「野戦病院のようだ」

「とにかく一旦、怪我人をシュラーデン魔人基地に置いて来てくれ」

「了解」

怪我人の第一陣を連れてエミルの、汎用ヘリコプターUH-1Y ヴェノムは飛んで行った。

「ふう、やばかったな。まさかしょっぱなからトレントに遭遇するとは、こんなところにいるんだな。獣人たちを痛い目に合わせやがって!二カルス大森林に行ったら、主を痛い目に合わせてやらないとな。セルマ熊を連れて」

俺は全く責任の無い二カルス大森林の主に八つ当たりをすることを考えつつ、再び他の組に向けて森を進むのだった。また火を焚いたりすればトレントの襲撃に合うかもしれない。いかに獣人とは言え、さすがにトレントは荷が重すぎたかも。

「まだいるんだろうか?」

俺が進んでいる10時の方向に獣人の気配がした。

(こんどは火は焚いていないようだな、そして今度は木の上にいるのか)

6人の獣人は全員木の上に上っていた。木の上で敵から身を隠す方法をとっているようだった。

(一晩木の上にいるつもりか?まあそれもいいが安全とは限らないぞ)

俺は地面に寝そべりながら、暗視スコープ越しにFN SCARアサルトライフルを構えて監視している。しばらくはその状態が続いたが、その時はやって来た。

「ぐあ!」

一人が木から落ちたのだった。

「どうした!」

「ヤマビルだ」

(なんだ、ヒルごときで落ちたのか?)

俺はそう思って、暗視スコープで木の上の獣人たちの周りを見た。

(でっか!)

ヒルって言うからどんなもんだと思ったら、1メートル以上あるようなのがいっぱいいた。

「おりろ!」

獣人たちがたまらず降りる。そして一か所に固まって周囲を警戒していた。

(どうするんかな?)

そう思って俺が見ていると、俺のスコープ越しに獣人以外の魔獣がうろついているのがわかった。それもだいぶ多い…

「シルバーウルフだ!」

「に、逃げろ!」

「走るな!」

シルバーウルフが走り出す魔人達に一斉に襲い掛かった。俺は急いでレミントンM24スナイパーライフルを召喚した。既にすべての獣人がシルバーウルフと乱戦になっており、倒れている獣人を噛んでいるシルバーウルフもいた。

キュイキュイキュイキュイ

ビーコンが鳴った。襲われながらも誰かが鳴らしたらしい。

バシュー

俺は天に向けて焼夷弾を照射した。そのままレミントンM24スナイパーライフルを構えて、シルバーウルフを1匹づつ仕留めて行くのだった。ヘリは直ぐに来ないので対処する事にする。

(えっと…3日3晩か…訓練失敗かも)

次々にシルバーウルフを仕留めながら俺は冷静に思うのだった。