作品タイトル不明
第588話 差別と危機意識
俺は計画通りなんちゃって貴族達の使用人として、未進化魔人を基地から連れて来た。未進化魔人はグラドラムかルタン町かフラスリアあたりなら見慣れてい人も多いと思うが、ユークリットにいる人達はあまり見たことが無いはずだった。
「獣人ですか?」
ヴァーグ子爵に聞かれる。
「まあそうです。北からやってきましたが、サナリアやグラドラムには普通にいるんですよ」
「彼らは私が見たことのある獣人とは少し違うように見えます」
まあヴァーグ子爵は獣人じゃなく、オーガやオークやゴブリンを見て言っているのだが。
「いろんな種族がおりますからね。サナリアやルタン町辺りでは普通に使用人として働いていましたよ」
これは本当。
「奴隷では無く使用人としてですか?」
「そうです」
なるほど…ヴァーグ子爵はあえて表情をおさえるようにしたが、顔の一枚下に嫌悪感を隠した。やはり獣人を普通の使用人として働かせることは、ユークリットの常識には無いらしい。バルギウス帝国やファートリア神聖国ではその傾向はもっと強く、ファートリア神聖国ではその存在すら知らないほどだった。
「ちょっとよろしいでしょうか?」
カトリーヌがヴァーグ子爵に声をかける、どうやらヴァーグ子爵が抑えた感情を見抜いたらしい。
「はい」
「私は獣人と言えど普通の人間と対等に扱うべきと考えております。全員を貴族の使用人として扱う事にすら私は不服なのです」
カトリーヌにしてはきっぱりとした物言いだった。
「も、申し訳ございません!カトリーヌ様のお考えを否定するわけではございません。私ももちろん賛成でございます」
「もちろんヴァーグ卿に、そんな否定的なお考えは無いと思っておりますわ」
「は、はい」
ヴァーグ子爵の額に汗が噴き出てきた。図星を突かれて焦っているのだろう。
「ですから、彼らにはのびのびと働いてもらいたいと考えております。そうですよね?ハリス宰相?マーカス財務大臣?」
「はい。我々はなるべくその意に副うようにと思っております。そのために大賢者様のお知恵をお借りして法整備を行ったのですから。そうですよねウルド司法長官?」
「そうです。恩師様のお導きは尊いものです。私はそれを遵守する事が仕事ですので、法令順守が出来ないものがいたら厳しい処罰をするつもりです」
「は、はい!それはもちろん!大賢者様のお考えでございましょうから、私どももそれに従うのは当然でございます」
ヴァーグ子爵はどうやら自分の認識だけが、この場で違う事を知ったらしい。ヴァーグ子爵を護衛しているカロとタキトゥースも微妙な顔をしていた。やはりユークリット王都の貴族として染みついたものは、簡単には落ちないらしかった。
「言って見れば私も人間から見れば、獣人と同じ亜人の一種でした」
エミルが諭すように話した。
とにかく大都市となる、ユークリット王都での亜人差別を無くすことから始めないといけないと判断した俺達は、洗脳をせずにヴァーグ子爵以下の元王都の民を啓蒙していく事にしたのだった。今はその話し合いの最中だ。
「申し訳ありません。私は恐らく思い違いをしておりました」
どうやらヴァーグ子爵が観念したらしい。きちんと自分の認識が違う事を謝罪した。
「いいんです」
俺が救いの手を伸ばす。
「元は私もユークリット王都に住んでいました。王都では獣人などほとんど見かけたことはありませんでしたが、サナリアに帰った時に父のグラムは獣人を対等に扱っておりました。サナリアには獣人の街もあったのです。私は父のその考えが好きでしたし、私も将来そういう人物になろうと思っていました。カトリーヌは私の気持ちを理解し私と行動を共にしてくれるようになりました。母のイオナなどは父のグラムよりその考えが強く、常に平等であらんことを願っていたのです」
「ユークリットの女神さまが…そうでしたか。私達ユークリット貴族の目は曇っておったのでしょう。イオナ様が光り輝いておられる理由を知る事が出来たように思います」
「まずはそれを理解する事が出来ればいいかと。どうしても生理的に納得できないという気持ちもあるでしょうから、少しずつ歩み寄ってもらい彼らの良い所をたくさん知ってもらいたいです」
「かしこまりました。もちろん最大限の敬意を払ってお付き合いさせていただきます」
「まあ強制的にするものでもありませんので、少しずつで良いです」
「さすがカトリーヌ様がお見初めになった御方、その広き御心は大空のようです」
ヴァーグ子爵が俺にお世辞を言い深々と礼をする。なんか貴族って感じがする。
そして…そんなに心は大きく無いんだけどね、いろいろ気にしいだし面倒になって人間を洗脳しちゃったりするしね。結構身勝手な事ばかりしてきた気もしてる。
「というわけで彼らにも仕事場を用意せねばと思いましてね、ヴァーグ子爵は抵抗がありますか?」
「今は無いと言えばうそになるかもしれませんが、皆様のご意向が一緒となれば私のような小さい貴族が何を言う事がありましょう。郷に入っては郷に従えという事です」
ヴァーグ子爵は正直に話を始めた。
「分かってくださって嬉しいです。それでは貴族の使用人として彼らは都市内で働く事となります。知力は人間に劣るものの、その体力と腕力はかなり役に立ちますよ」
「ええ…して…それを私にわからせたところで…何をしてほしいのでしょうか?」
さすが元貴族。俺達が何の下心も無しに、こんな話をしているわけじゃないと見抜いていた。
「えーっと。実はヴァーグ子爵と私、そしてカトリーヌと大賢者様だけでお話がしたいのですが」
「分かりました。それでは従者二人は下がらせましょう」
「いえいえ。他の全員もですので、私とカトリーヌと共に学校で教えている大賢者様の元へまいりましょう」
「わかりました」
「では皆さん!面接をして集めた方達を、それぞれの部署の長の元へ連れて行って挨拶をさせてもらえますか?」
「了解」
「かしこまりました」
「はい」
「私達も手伝いましょう」
「お願いします」
エミル、ケイナ、ハリス、マーカス、ウルドとライカン進化魔人、オーガ進化魔人、カロ、タキトゥースに仕事を頼む。
「あの…」
「どうしたハイラさん」
「私は…あの…」
「ああ、ウルド!ハイラさんをお連れしていろいろ見せてやってくれ」
「かしこまりました!」
するとハイラはウルドの後ろをついて出て言った。
「ラウル様。さすがに乙女心にお気づきになったのですね。お優しい限りです」
「さすがに気づくだろ」
「ふふふ」
カトリーヌはいたずらっぽく笑った。皆が部屋を出ていくと俺とカトリーヌとヴァーグ子爵だけが残っる。マリアは今日も王城のメイドたちの教育をしているので、城のあちこちを駆けまわっている事だろう。
「行くぞ」
「はい」
「仲睦まじいご様子で微笑ましく思えますな」
「はい!」
カトリーヌがより一層大きい声で返事をする。どうやら今の言葉が嬉しかったようだ。
俺達が王城の会議室をでると、廊下にファントムとシャーミリア、マキーナ、アナミスが待っていた。
「お待たせ。ちょっと学校に行くから一緒に来い」
「「「は!」」」
美魔人3人はしゃなりしゃなりと付いて来る。どこからどう見ても魔人だとは思えないが、その美しさが人間の域を超えていた。ヴァーグ子爵は未だに緊張しているようだ。
「えっと…すみません。彼は…」
ヴァーグ子爵が急に何かを思いついたように言う。
「え?」
「つかぬことをお伺いします。彼は火傷か大けがをなさったのですか?顔色が優れないようですし、あの目は見えているのでしょうか?お疲れになっているのではないでしょうか」
ヴァーグ子爵がファントムに気を使っている。
「ああ、こいつは俺の事を常に守るように昔から従っているのですが、元々こんな顔色なんですよ」
まあ基本は屍人だからね。
「そうなのですね。貧民街では彼を見て失神する者が続出してしまい、もしかしたら彼の心は傷ついたのじゃないかと心配していたのです」
「えーっと。そうですね…もしかしたら悲しかったかもしれません。でもあの顔色や肌感は生来のもので気にすることはないです」
たぶん悲しいとか無いと思うけど。
「何と申しますか、これほど大きな体をしているのに…そこにいるようないないような不思議な雰囲気をお持ちの方ですな」
「よく言われます」
いや、言われた事ないか。
学校につくとまだ中では授業をしているようだった。次の授業の順番の生徒たちが学校の周りで座って話をしている。
「王城に一般市民がいるというのも不思議な光景ですな」
「まあ侵入できる場所は限られてます。機密の場所には高い塀が設けられておりますので行けません。また王城内にはわが軍の衛兵がいるので絶対侵入できません」
「そういうわけですか」
「王城内を全て自由に徘徊させるわけにはいかないですからね」
「それを聞いて安心しました。王とは特別な存在で、何人たりともその存在を脅かすような事があってはいけません。現在は王が不在という事は了承しておりますが、万が一と言う事もございますので十分注意されるがよろしいかと」
どうやらヴァーグ子爵はこの城の安全体制を心配していたらしい。
「あの、私の父を覚えておりますか?」
「はい。素晴らしい御仁でした」
「王城の警備や辺境の兵の指導、そして王都の治安を守る兵隊の長をしておりました」
「存じ上げております」
「ヴァーグ子爵は武道の心得があるように思えるのですが、父との交流などはありましたか?」
「グラム殿と?いえ、彼は身分こそ男爵で私より位は下ですが、恐れ多くて声をかける事など出来ませんでしたよ」
「そうなのですね?」
「ですが…」
「ですが?」
「一度だけ手合わせをしていただいた事が御座います」
「そうなのですか?どうでした?」
なんか現役時代の親父の事を聞けるのは凄く嬉しい。いったいどんなエピソードなのだろう。
「それが…一瞬でしたのでよくわかりません」
「一瞬?」
「実は王都内には派閥がありましてね、派閥対抗の剣術試合があったのですよ」
「剣術試合ですか!?どんな感じですか?」
そんな剣術の試合とか胸躍る出来事があったのか!サバゲみたいなもんだろうか?
「派閥は4つあって、それぞれから10名の代表が選ばれ勝ち上がり戦があったのです。決勝はもちろん陛下の前での御前試合となる大会です」
「うちの父はどうでした?」
「強い、なんて言葉じゃ表せないほどの猛者です。鬼神と言った方があっているのではないかと」
「そうですか。ヴァーグ子爵はそこで手合わせを?」
「はい。はじめ!の合図の次の瞬間、私の手から剣は落ちておりました。気が付くと私の喉元に剣が突き付けられている状態で…何が起きたのかすら把握できませんでしたよ」
「その大会にはどんな人が集まっていたのです?」
「各派閥で腕のたつ者があつめられました。私も剣には並々ならぬ思いがあったのですが、闘気を練り上げる事が出来ない未熟者でした。ですがまさか1回戦でグラム殿とし合う事になるとは思いもよりませんでした」
「ハリスに向けた剣技は相当なものでしたが?」
俺がハリス暗殺未遂の事を言う。
「そ、それは、ご勘弁を。既にそのような気持ちは持ち合わせておりません」
「いえ、責めているのではありません。実はヴァーグ子爵にお願いしたいことがあるんです」
「私に?」
「この都市の警備隊の相談役として力を貸していただきたい」
「それは喜んで!もとよりこの都市は出入りが無防備というか、ずさんだと思っておりました」
やはりそう思っていたか。ヴァーグ子爵は貧民街に多数のユークリット人を潜り込ませていたが、ざるのような警備体制を突いていたのだろう。
「ですよね。私はずっと適任だと思っておりました。この都市の穴や欠点を見抜いていますよね?」
「そのとおりです」
「ではそれも含めて、これからお話していきましょう」
「はい」
俺達は学校の扉を開けて中に入って行く。その俺の目に信じられない光景が飛び込んで来た。
「えっと…ここ文官学校だよね?」
俺がそう呟いたのも束の間、目の前では数人の生徒たちが信じられない事をしていたのだった。