軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第584話 煉獄より戻る者

カトリーヌが捕らえた3人に近寄ってしゃがみ込む。どうやら顔を見ようとしているらしいが、気絶して俯いているので分からないようだ。

「どうしたんだ?カティ」

「なんとなくですが…面影が…」

「アナミス起こしてくれ。みんなは念のため警戒しろ」

アナミスから刺激性のある目覚めの煙が漂い3人を包み込んだ。すると眠りながらそれを吸い込んだ男たちは一気に目覚めた。

「う、うう…」

「ん‥」

「なん…」

ぼんやりとしながらも頭を上げて囲んでいる俺達に気づく。次第に意識がしっかりして来たようで周りを見渡し始めた。

「そうですか…やはり失敗しましたか」

ダンクライドがうつむいて頭を振る。

「もしや…」

カトリーヌがささやきかけるように声をかけた。しかし3人は観念したようにうなだれたままだった。暗殺が失敗して自分たちが処刑されると思っているのだろう。

「あの、もしかしたらキンジャール卿ではございませんか?」

そうカトリーヌがつぶやいた瞬間、ハッとするように3人が声を発した本人を見た。しばらくその顔をボーっと見つめていたが、徐々に焦点があってきたようだ。

「…まさか…」

「…そんな…」

「…うそだ…」

カトリーヌの顔を見てただ呆然としている。

「私が分かりますか?」

「このユークリットにおいて、あなた様を分からぬ男がいますでしょうか!」

ダンクライド、もといキンジャール卿が言う。

「本当に?」

「ええ。ユークリットの女神、イオナ・フローリア・シャーロット・アン・ナスタリア様…いや…それにしてはお若いか…」

えっ!うちのママの名前ってそんなに長かったの!知らんかった!

「それは私の叔母です」

「!!おお!!」

「はい。かつ叔母は今はフォレストの姓を名乗っております」

「そうでした!うっかりしておりました。それではあなたは?」

「カトリーヌです」

「カトリーヌ様…なんとナスタリア家の…生きておいででしたか」

ダンクライド改めヴァーグ子爵と他二人の目からは大粒の涙が流れていた。

「あなた方もよくぞご無事で」

「シャーミリア、拘束を解いてやれ」

「は!」

ジャキン

シャーミリアは鍵を使わずに手錠を破壊して外し、更に腰に括り付けた縄も切れた。

「これは…なんという神の思し召し」

「よくぞ…よくぞ…」

「ユークリットの希望」

「ところでカティ、この人たちはいったい誰なんだい?」

「ヴァーグ・アーヴィン・キンジャール子爵様ですわね」

「様などと…ヴァーグと呼び捨てになってくださいませ」

泣きながらヴァーグは頭を下げると、他の二人もならって下げる。

「こちらのお二人は?」

「私の家に仕えていた騎士にございます」

「あなた方もよくぞキンジャール卿を…ヴァーグをお守りくださいましたね」

「はは!」

「はは!」

二人の男は頭を上げることなく返事をした。

「あの、頭を上げてください。よく顔が見えません」

二人が頭を上げるとぐしゃぐしゃに泣きじゃくっていて、精悍な顔つきが台無しだった。

「素晴らしい…」

「お美しい…」

カトリーヌの顔を見て二人の頬に赤みがさす。

「とても似ておりますな」

ヴァーグが言う。

「ええ。最近はよく似てきたと言われますわ」

3人は周辺の状況を忘れカトリーヌだけを見て話し続けていた。やはりイオナ同様に一気に心を奪ってしまう美の力は健在だ。

「えっと、すみません」

俺が声をかける。

「はっ!」

「あっ!」

「えっ!」

俺の言葉に一気に我に返りまた暗い顔をして下を向いてしまった。それもそのはずで王城にて謀反を起こそうとしたのだ、どう考えても死刑以外に考えられない。

「あの、取り合えず顔を上げてください」

「はい」

俺が言うと、辛うじてヴァーグ子爵だけが顔を上げた。

「ユークリットの貴族なのですね?」

「その通りです。そしてこの罰に関しては甘んじてお受入れいたします」

「罰?罰とか考えてないですが?」

「そんな馬鹿な」

ヴァーグが何を言っているという顔をする。

「本当に」

「あ、あの!それでは示しがつきません!」

「いや本当に」

するとヴァーグ子爵はチラリとカトリーヌを見つめて言う。

「もし可能でしたら、私達を処刑してカトリーヌ様をお見逃しになってはいただけませんか!どうか彼女を自由の身に!」

ヴァーグが言うと後ろの二人もさらに深く頭を下げた。

うん。彼らは何か勘違いをしているようだ。

「えっと、カトリーヌは自由だよ。自分の意志でここに居る」

「それはバルギウスに従うしか生き延びる方法が無いでしょうから!自分の意志に反してここにおられるのでしょう!」

ヴァーグ子爵は怒ったように言う。どうやらカトリーヌがバルギウスに囚われの身になって、かごの中の鳥のように扱われていると勘違いしているのだろう。

「いえ。ヴァーグ、私は好きでここにいるのですよ」

「はっ?」

カトリーヌの言葉を聞いてあっけに取られている。

「いやいや。バルギウスは既に我が軍の支配下にあるんですよ」

「バルギウスは!!‥‥は?バルギウスが支配下に?」

「はい。バルギウスは我が軍の支配下にあります」

「ですが…こちらのお二人はバルギウス人なのでしょう?」

どうやら俺が何を言っているのか、なかなか理解が出来ないようだった。

「まあなかなか飲み込めませんよね?無理もありません…」

「どういうことです?」

「彼らはバルギウスから解放したバルギウス人です。今はユークリットの市民権を持ち、我々の下で行政を受け持ってもらっているんです」

「行政を?」

「はい」

3人は黙り込んでしまった。そりゃそうだ、これほどの情報量が一気に頭に流れ込んだらパンクする。今はたぶん真っ白になっているだろう。

「で、では!カトリーヌ様はどのような状況になっておられるのですか!」

「まず一つお教えしておきますが、私はイオナ・フォレストの息子です。そして父親はグラム・フォレストです」

「な…なんと…グラム殿の一粒種の…ラウル様であらせられると?」

「そのとおりです」

「こ…こんなにも大きくおなりになって!」

「私を知っていますか?」

「ええ。グラム殿が王都にいらした時…あ…」

ヴァーグは目線をずらしてマリアをみた。

「申し訳ございません。私を覚えておいでのようですね」

マリアがその目線に気が付いてニッコリ笑う。

「ええ…あなたはフォレスト家のメイドですね」

「はい」

「そうですか…そうでしたか…助かっていたのですね」

ヴァーグがまた目から涙を流し始める。二人の騎士たちは頭を下げて肩を震わせていた。

「ぐす…あなた様とそちらのメイドが…街を歩くさまを良く見ておりました」

「そういうことでしたか」

「本当に立派になられて、私がお姿を拝見した時にはまだ小さいお子でした」

「いろいろあって成長しました」

「は、はは…素晴らしい」

「まあそう言う事ですので、あなた方を処刑するわけもありません」

「そ、そう言う事でしたか」

「ええ」

どうやらようやく腑に落ちて来たらしく、3人とも落ち着いて涙もひいたようだった。とにかく落ち着いてもらわないと話もできない。

「と、とにかくラウル様!地べたに座ったままお話するのはいかがかと」

ハリスが言う。

「ですね。とにかくお座りになってください。ゆっくりお話しいたしましょう」

「わかりました」

3人が立ち上がって軽く頭を下げテーブルの椅子の横に立つ。俺達が椅子につくのをまってから3人は腰かけた。なんとなく社交界的な何かだと思うのだが、この際そんな細かい礼儀はどうでもいい。

「落ち着かれましたか?」

「はい」

「それはよかった」

「あっ!」

「どうしました!」

ヴァーグが思いっきり声をあげたのでびっくりした。

「そういえば、貧民街の人たちを止めないと!皆が着の身着のまま郊外から、北へと逃げて行ってしまいました!彼らはほぼ丸腰で森を抜けねばなりません!このような時に逃げるように指示をだしていたのです!」

「そりゃまずい!」

「彼らはユークリットから逃げ出した市民なのです!」

「シャーミリア!マキーナ!アナミス!急いで飛べ!止めろ!」

「は!」

「は!」

「はい!」

3人は二階の窓を開けて、外に飛び出して行った。

「はっ?ここは二階ですぞ!」

ヴァーグが叫ぶが俺達は誰も動かなかった。

「大丈夫ですわ。彼女達なら問題ございません」

カトリーヌが言う。

「そ、そうなのですか?二階ですよ」

「大丈夫です」

カトリーヌに言われて彼らは再び席に着いた。既に彼らの情報量の限界を超えているのだろう、呆然とした表情で椅子にこしかけた。

「ハリスさんお茶とか軽い食べ物はありますかね?」

「用意させましょう」

そしてハリスは席を立ち、ドアの側に立っているオーガの進化魔人に指示を出した。

「とにかく市民は大丈夫です」

「そうなのですか?」

「時間的にそう遠くへも行っていないでしょう。森に差し掛かったとしてもさして危険な魔獣はおりません」

「そんなことはございません!シルバーウルフなどがおります」

「問題ありません」

「はあ…」

確かに女3人が助けに駆けつけたところで、シルバーウルフの群れに遭遇したら殺されると考えるのが普通だ。しかしあの3人ならばシルバーウルフを殺すこともなく制圧できるだろう。

「ご安心を」

なかなか落ち着いて話を始められないな…とにかくお茶を待つか。

「それにしてもよくぞ生きておられましたわね」

カティ―が話し始める。

「はい。私たちはあの時、王都にも西の山脈付近にもおりませんでした。北の村々の巡回の仕事を申し付かっており、町長や村長などと税の集金についてや農作物の出来栄えなどの確認をしておりました」

「なるほど。支援食糧や資金などの確保は戦時において重要でございますからね。そのお仕事は当然必要となりますわ」

「はい。それらの巡回を終えてすぐさま王都に駆けつける予定でございましたが…」

ヴァーグは口をつぐむ。

「ええ。結果はわかっております」

「申し訳ございません。私たちはおめおめと生き延びてしまいました」

「いえ。素晴らしい判断であったと思われますわ」

「そして、我々は村々に潜伏をしました。必ずバルギウスに一矢報いる事を誓って、ひたすら身を隠し続けたのです」

「私もですわ。たまたま西に出向いており、大賢者様に逃がす算段をつけていただいたのです」

「そうですか」

「そういえば!」

「はい?」

「大賢者様もご存命ですわ!」

「なんですと?」

ヴァーグ子爵はまたも目を見開いた。さすがにもう泣く事はないようだが。

「マリア。先生を」

「はい」

マリアが部屋を出て行った。先生は執務室で今ごろカリマと共に資料に埋もれている頃だ。

「あの、つかぬことをお伺いいたしますが」

ヴァーグ子爵が聞きづらそうに言う。

「ああ、いいですよ。なんでも聞いてください」

「今のカトリーヌ様の待遇はどうなっているのです?」

「えーっと。将来の私の奥様候補と言う事になっております」

「な…な…なんですと!」

「えっ!」

「なんと!」

「あの、すみません。血筋の事もありますし、何より母がとても喜んでおりまして」

「いえ!何というおめでたい事でございましょう!王家の血筋が途絶える事は無かったという事ですね!」

カトリーヌを見ると、物凄く顔が真っ赤になっていた。考えてみれば落ち着いてその事を話し合った事は無い。

「ま、まあ。まだ私たちも若いですので、どうなって行くのか分からないところもあるのですがね」

「それにしても、正当な血筋がお残りになるではありませんか!」

「まあ、そうですね」

ヴァーグ子爵と二人の剣幕に押されてしまいそうだ。恐らく相当それについて期待しまくってくれているみたいだ。どうなるかまだよくわからないってのに。

「すばらしい!」

「本当だ!」

「これでユークリットは終わらない!」

3人はものすごく喜んでくれている。

《ご主人様》

《どうだ?》

シャーミリアから念話が来た。

《民が集団で北へと向かっております》

《それは貧民街の民か?》

《そのようです》

《全員確保だ。傷つけるなよ、市民が危険を顧みず逃げるようならアナミスの洗脳を使え》

《わかりましたラウル様》

これでユークリット市民の生き残りを確保できた。都市に戻したらすぐにアナミスに洗脳を解いてもらう事にしよう。

コンコン!

ドアがノックされた。

「先生をお連れしました」

マリアの声が聞こえる。大賢者が忙しい仕事を抜けてきてくれたようだった。ヴァーグ子爵たちが今までどんな道のりでここまでたどり着いたのか分からないが、かなりの決断と覚悟が必要だったろう。よくぞ生き抜いて来てくれたもんだ。

そして既に俺はこの都市復興のため、この3人と元ユークリット市民をどのように活用するか思考を始めていた。