作品タイトル不明
第573話 美の貴公子とやつれた宰相
「ここらで降ります」
「そのほうがええじゃろうな」
「はい」
俺達は96式装甲車で王都に直接乗りつけるのをやめることにした。こんなものでいったら、一般の人たちが騒いでしまうのではないかという結論に至ったからだ。ここまですれ違った商人や冒険者達が装甲車にぶったまげて逃げて行った。これではよくないと思い近隣の森に車両を隠す事にしたのだった。
「ではここからは徒歩で」
「うむ。いちいち腰をぬかされていたんじゃあ、こちらも気が悪いからのう」
「先生の言う通りですわね」
「ふむ。じゃがカトリーヌは本来、高貴な馬車などで訪れるのが良いのじゃろうがな」
「いえ先生。私はいち魔導士ですので必要ございませんし、目立たぬように王都へ入りたいですわ」
カトリーヌは元公爵令嬢としてではなく、あくまで一般人を通したいらしい。
「確かに、冒険者や商人の人通りが多いですね。もしかしたらカトリーヌを認識する人も居るかもしれませんね」
「まあ確かにのう…ここまで人通りがあるほど復興しとるとは思わなんだ」
「はい」
俺達が歩いていると冒険者として目立つことも無いと思ったが、女子たちが際立って綺麗なのでどうしても目を引く。もしかしたら公爵令嬢としてのカトリーヌを知っている人間に会う可能性もある。ちらちらと人目を感じながらも10分ほどで俺達はユークリット王都に到着した。
「これはだいぶ」
「じゃな」
まず驚いたのが市壁が元通り以上に完成しており、西の正門はかなり巨大で重厚なものになっていた。今はまだ陽も高く門は開け放たれていて、人の出入りもそこそこ多いようだった。
「ご苦労さん」
俺が門番をしていた男に声をかける。すると中から10名の男たちが出て来て俺達の前に跪いた。
「よくぞおいでくださいました!」
門番の衛兵は全て進化した人間に見える魔人達だ。通行人たちが何事かと足を止めて、俺達を遠巻きに眺めている。カトリーヌの一般人として王都に入りたいという希望が崩れそうな勢いだ。
「いやいや。お前達は仕事中だろ?門番の仕事に戻っていいぞ」
「「「「「「は!」」」」」」」
魔人達が立ちあがり深々と頭を下げる。
「では!」
仕事に戻った魔人達は次々に通行人を止めて話しかけていた。俺達11人はそのまま顔パスで門を通り抜けることができた。きちんと門番の役割を果たしているらしい。
「そういえばマリア。覚えているかな?」
俺はふとある事を思い出した。
「もちろんでございます」
「なつかしいな」
「はい」
俺はグラムとイオナそしてマリアと一緒に馬車でここを通り、グラムの顔パスで通り抜けたことを思い出したのだ。いまその時と同じように俺の顔パスでここを通る事になるとは、とても感慨深い出来事だった。
「父さんと通ったっけな」
「はい」
「そういえば、サナリアに出立する時に先生ともここでお別れしましたよね」
「そうじゃったなあ。なんとも懐かしいもんじゃ、こんなに大きくなってもラウルと一緒にいることになるとは夢にも思わなんだ」
「はい。あの時は先生から学べなくなってしまうんじゃないかと寂しかったです」
「ふむ。いろいろあったのう」
「そうですね」
そして俺達はそのまま街の中に進んでいく。すると道の向こうから銀髪の超イケメンの男が走り寄って来た。女性のような綺麗な顔立ちは紛れもなく、元ダークエルフの隊長ウルドだった。
「遅くなりました!」
「いやいや。わざわざ戻ってきてくれてありがとうな」
「いえ!狩猟は冒険者と魔人達に任せてまいりましたので大丈夫です」
「わるいね。で、どこに行ったらいいかな?」
「ハリス様は王城に、マーカス様は市場におられると思います」
「じゃあ、まずは王城か」
「は!」
「街はずいぶん復興したようだな。魔人もいるが人間もだいぶ増えたように思う」
「はい。ラシュタルやシュラーデン、サナリアにいた元バルギウス人なども住み着いております。またフラスリアやルタンからの商人なども来ておりますので」
「そうか流通が本格化してきているのか。人間ってのは本当に生きる力が強いと思うよな」
「そのように思います」
そして俺達がウルドに連れられて街中を歩いていくと、あちこちから女性の黄色いため息が聞こえて来る。どうやらウルドを見てうっとりしているようだった。
「ウルド。なんか気にならないか?」
「なにがでございましょう?」
「いや…いいんだ」
どうやら自分が注目を浴びているという事に全く気が付いていないらしい。
「ああ!なるほどでございますね!」
いきなり気が付いたようだ。
「やっと、わかった?」
「はい。カトリーヌ様やマリア、女の魔人がおりますからね。男たちの目を引いているようですね」
違うって。
「ま、まあそれもあるかな」
「はい」
すっごい天然ぷりに、俺もエミルもモーリス先生ですらもひいている。と言うか一緒に歩きたくなくなるような美男子ぶりに、俺達は一歩下がって歩くのだった。
「それで、こちらの方は?」
「ああ、エドハイラさんだ。ファートリアの地下で救出した人だよ」
「ああ!はい、聞き及んでおります」
「今は俺達と同行してこの世界を知ってもらっているんだ」
「そう言う事でしたか」
「ハイラさん。こっちは配下のウルドだ」
俺がハイラを見ると、めっちゃくちゃ頬を染めて恥ずかしそうにしていた。
「私はラウル様の配下のウルドと申します」
「は、あ。はい!私はえっ、エドハイラと申します」
「ハイラ様。よろしくお願いします」
「えっと!その!よろしくお願いします!それと…」
「はい?」
「私の事はハイラと呼び捨てになってくださいませ」
くださいませ?こんな言葉遣いをするような人だっけ?ウルドは困ったような表情で俺を見た。俺はエドハイラの要望通りにするようにウルドにコクリと頷く。
「ではハイラ。これからよろしく」
この世の者とは思えない美しい笑顔でウルドが答える。
「ええ!ぜひ!」
ハイラがさっきから前髪を何度も何度も直している。何度いじったところで何も変わらないのに、何度も何度も。
「ハイラさん。ちょっと」
カトリーヌがハイラを連れてみんなの一番後ろに連れて行った。何が始まるのだろう?
「これ、手鏡です」
カトリーヌがこっそり手鏡を渡している。
「あ、ありがとうございます!」
ハイラが手鏡を見て、前髪や顔の周りや口を開いて歯をみたり念入りに確認している。そしてスッとカトリーヌに手鏡を返した。カトリーヌに連れられて俺の隣までやって来た。
「なにしてた?」
「ラウル様。女性だけにしかわからない事ですわ」
「そうか。なら深く詮索はしない」
「ええ」
エドハイラは何故か下を向いて歩いている。でも理由は分かる…こんなイケメン前世でも見たことが無いだろう。これほど顔立ちの整った美形の銀髪にのぼせあがらない訳はないのだ。
「しかしウルド。よくここまで都市を復旧させたもんだな、東側の街並みが戻ったように見える。まあ元々あった貴族街と比べるとかなり無骨に見えるけどな」
「はい。人も増え、ラウル様が更にグラドラムから魔人を手配なさっていただいたおかげで、かなり急速に復旧しました」
「魔人の力か…」
「ラウル様がお連れになった貴族たちも、一生懸命都市運営に協力しているかとは思います」
「そりゃよかった」
ウルドが王城の正門につくとスッと手を上げて門番に合図をする。するとすぐに門が開いて両脇に進化魔人が並び、頭を下げて迎え入れてくれる。王城に入ると高貴な服を着た人間と、近衛兵のように城内を巡回する進化魔人達がいた。
「なるほどのう。王城もすっかり復元されておるようじゃ、まあ昔とは全然違うがのう」
「そうなのですね?私は昔の王城に入った事が無いのでわかりません」
「そうかそうか。そして新貴族たちもせわしなく動き回っておるようじゃな」
「そのようです」
「その件については後で」
ウルドがつぶやいた。
「わかった」
なにかあるらしい。
俺達はウルドについて王城の2階へと上がって行く。廊下を歩いている貴族たちはウルドをみると上品に会釈をしてすれ違う。まあ本当に貴族のようで立ち振る舞いが良い。
「こちらです」
コンコン
「はい」
「ウルドだ」
中からドアが開けられた。するとそこにはスーツを着た進化魔人のライカンがいた。なかなか様になっていて、その厚い胸板が押し出すスーツ姿がシークレットサービスのように見える。
「ラウル様をお連れした」
「お入りください」
俺達が部屋の中に入るともう一人のスーツ姿の進化オーガがいる。そして資料が山積みになっているデスクの脇に、見慣れた男が立っていた。
「ハリスさんお疲れ様です。エミルを連れてきましたよ」
「おお!ラウル様!エミルも良く来てくれた!」
近くに寄ってみると、ハリスさんは少しやつれてしまったようだ。痩せたようにも見えるし目の下に、くまを作っているようだった。
「ざっくばらんでいいですよ」
「ラウルもこういってるし、とりあえず硬くならなくていいだろ」
「と、とにかく応接間へ」
「わかりました」
スーツの進化魔人が先導し隣の部屋に続くドアを開ける。そこには立派なテーブルと椅子が並べられた応接室があった。
「ささ!皆さんお座りください!」
「すみません」
そしてそのテーブルに皆が腰かける。ハリスも腰かけて俺達と向かい合った。
「ふう」
「大丈夫かい父さん」
やつれたハリスを心配してエミルが声をかけた。
「まあ、大丈夫だが…」
「ずいぶんお疲れの様子ですが、何か困りごとがありますか?」
「えっと…」
ハリスがウルドをチラリと見る。
「それではその件について話し合いを」
「あ、ああ」
「とりあえず皆さんに軽い食事とお飲み物を」
ハリスが言う。
「は!」
パンパン!
進化ライカンが手を叩く。
・・・・・・・
静かだ。
パンパン!
しばらくして、コンコン!とドアをノックする音が聞こえた。
「入れ!」
「はいー」
入って来たのは人間のメイドだった。しかしどこか覇気が無くダラダラと動いているように見える。あと身だしなみがきちんとなっているように見えない。髪の毛もぼさぼさに見えた。
「お客様にお茶と軽い食事を」
「はいー」
メイドがダラダラと出ていく。
「もうしわけございません」
ウルドがいきなり頭を下げた。
なるほどね。おおよその察しはついた。
「いささか疲れました…」
何も聞いていないのにハリスが言う。
「何というか…重責を押し付けて申し訳ありませんでした」
「いえいえいえいえいえ!ラウル様のせいではないのです!」
「でも父さん…やはりキツかったんじゃない?」
「でもこれはエミルのためだからな!もちろん俺はここで頑張っているぞ!」
ハリスの様子がどう見てもいっぱいいっぱいだ。一応親バカっぷりも発揮している。
《ご主人様。恐らく彼は限界かと》
《だよな》
「あの、エミルはよくやってくれてますよ。ハリスさんも少しお休みに‥」
「いやいやいや。私が手を止めるわけにはいかんのです!ではそろそろお話を終えて、書類仕事に戻ろうかと!」
「いやいや。父さん!話は始まったばかりだから!」
「いやエミルよ!一分一秒が大切なんだぞ!」
どうやら俺達の言葉はほとんど聞こえてないように思える。何かものすごくテンパったような…これ、前世のブラック企業で酷かったころのグレースと症状が似ている。
「ラウル…」
「ああ…」
どうやらこれはブラック企業病というか、仕事中毒のような症状が出ているようだ。
「とにかくいいのです!まずはいろいろ話をいたしませんか?」
「何をおっしゃいますやら!とにかく私は仕事に!」
「いいって言ってるじゃないか父さん」
「エミルは黙っていなさい」
なんか頑固になっているし、俺達の言葉が耳に入っていないようだ。
「エミルすまんな」
「仕方ない」
《アナミス》
俺がアナミスに念話で言うのと同時くらいに、赤紫の煙がハリスの周りにたちこめる。するとスッとハリスは糸の切れた操り人形のように力が抜ける。
シュ
シャーミリアが瞬時にハリスの脇に現れて抱きかかえた。
「ウルド。寝室はどこだろう?」
「こちらです」
俺達はハリスを連れて寝室へと向かうのだった。ハリスにはアナミスが楽になるような夢を見せているのであろう、気を失いながらも穏やかな笑みを浮かべているのだった。