軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第567話 偉業を成し遂げた男

グレースの後を継いだ2番隊大隊長のジークレスト・ヘイモンが直立で立っていた。その後ろに4人の騎士を従えているが、彼らはジークレストよりさらに緊張しているようでガチガチだった。

「あの…みなさん座ったらどうかな?」

「えっ?私が皇太子殿下や皆様と同じテーブルにでしょうか?」

「見たところ他に座るとこは、なさそうだけど」

「そ、そんな同じテーブルなど滅相もございません!立ったままでお話は出来ますので!」

「いや逆に話し辛くて」

「えっと…」

俺達11人がテーブルについて、屈強な騎士たちがメイドのように立ち尽くしているのだ。とても話し辛い。

「いや、むしろ皇帝代理なのだから堂々としているべきでは?」

「そんな、私は皇帝が戻るまでのお飾りのようなもので…」

「立派にお勤めになっているようだけど?」

「それでも…」

「ご主人様が座った方が話しやすいと言っていたのが聞こえたかしら?」

滅茶苦茶な殺気がシャーミリアから騎士たちにたたきつけられる。

ピョン

5人は飛びこむように椅子に座った。

「これで話しやすくなった」

「は、はい」

コンコン

メイド達が軽食とお茶を運んできた。

「あ、粗相のないようにね。ねっ」

ジークレストがメイドに言う。そう言うと逆にメイドたちは緊張気味に料理を置いて行く。どうやらベテランのようで失敗するような事は無かった。むしろ騎士たちよりメイドの方が落ち着いているんじゃないかと思える。

「どうぞどうぞ!最近良いお茶が入るようになりまして!」

「もしかしてフラスリア産?」

「左様でございます!私たちも来賓が来た時のためにとっておいたものです」

「そりゃありがたい」

ティーカップをソーサーにのせてスッと持ち上げ、カップに口をつけると極上のお茶の香りが漂って来る。一口飲むと爽やかで芳醇な香りが口いっぱいに広がった。

「とても良い感じだ」

「良かったです」

俺達が全員お茶を飲んでいるのに、ジークレストと騎士たちは手を付けなかった。

「飲まないのは毒を盛っているからではないよね?」

もちろん飲んで分かる。お茶に毒などは入っていない。

「いえ!そんな事をするはずがありません!」

「では一緒に」

「は、はい」

カチャカチャカチャカチャ

カチャカチャカチャカチャ

カチャカチャカチャカチャ

カチャカチャカチャカチャ

カチャカチャカチャカチャ

うるさい。

5人のティーカップが震えてソーサーにぶつかり音を鳴らしてしまう。だがどうにか口に運びお茶を飲むことができたようだ。

「この4人は文官を?」

「騎士の中から選びました」

「どうやら俺の事を思い出したようだけど」

「はい。あの時の戦いで私の側にいた者達です。もちろん皇太子殿下の事は覚えております」

なるほどね。極度に緊張をしていたのはそのためか、俺の正体を知って震えあがっているというほうが正しいかもしれない。

「俺の事は誰に聞いたのかな?」

「元の2番隊大隊長のグレース様です」

そう言う事か。俺はテーブルに並べられたオードブルのような物を一つ口に運ぶ。

「美味い!」

「そ、それは良かったです!ささ!皆さんもぜひどうぞ!」

「皇帝代理もぜひ一緒に」

「そうでしたな!私から先にいただきましょう」

震える手でオードブルを取り分けて口に運んでいる。

「みんなも食べよう」

俺が言うと、モーリス先生やカトリーヌ、マリアと魔人達、エドハイラも料理を手に取った。

「美味いのう」

「本当ですわね」

「簡単なようで手が入っておりますね」

「喜んで頂けて何よりでございます!」

俺達がうまいうまいと食べていると少し緊張がほぐれたようで、ジークレストが少し緩んだ表情をした。

「そろそろ本題に入りたいんだけどいいかな?」

「もちろんでございます。なんでもお聞きいただけましたらと思います」

なんでも聞いて良いと言いながらも、ジークレストからはかなりの緊張感が伝わってくる。

「ちょっと気になったんだけどさ、騎士が少ないように思えるんだ。以前はもっといたと思うんだけど」

「…それは…」

ジークレストが言いづらそうに俺をチラリと見る。

「言っていいよ」

「大量に辞めました」

「辞めた?騎士を?」

「はい」

「なんで…って聞くのもアレだけど、理由的はもしかして?」

「はい。あの一戦で…自分たちの非力さに気づいてしまったようでして」

「どのくらい辞めたの?」

「半数が」

「そんなに?」

「お恥ずかしながら、引き留める事すらできませんでした」

「そうでしたか。何というかそれは申し訳ない」

「いっ!いえいえいえいえいえ!」

ジークレスト・ヘイモンと4人の騎士がふるふると首を振っている。

「いや、だって俺達があんなことをしたから」

「まっっっっったく関係御座いません!」

いや絶対あるだろ。

「それで新しい騎士を入れてんだ」

「そう言うわけでございます」

「たしか35万人くらいはいたとおもうけど」

「今は20万を下まわっており、専属の兵隊も少なくなりました。普段は市民の手伝いをしながら兼業で兵隊をしている者もおります」

「それを軍部が許してるって事か?」

「グレース様が男手も必要だし、人が少なくなってしまったのだから変えていかないととおっしゃいまして」

なるほど。ここでもグレースのアイデアが生きてくるわけね。

「それで何か大変な事はない?」

「逆に魔人様の基地があるおかげで、魔人と繋がっている上官の私達に逆らうものはおりません」

「逆に役に立っているわけか」

「はい。力のある大隊長格も副隊長格もいなくなってしまいましたから、北への遠征から全て帰ってくる事は無かったですし」

それはそうだ。俺達がみんな殺しちゃったんだし。

「でも1番隊大隊長と皇帝の消息が分かっていないんだよね?」

「は、連れて行った50万の将兵と共に帰って来た者はおりません」

ファートリアで数万人いたけどだいぶ殺しちゃったし、洗脳してファートリアで復興作業させている。それでも50万には程遠いはずだ。

「分からないか…」

「申し訳ございません」

《ご主人様。嘘はついておりません》

《了解》

「そうか」

消えた皇帝と1番隊隊長、消えた50万の将兵の行方は分からなかった。ファートリア神聖国にもリュート王国にも居なかったので、消息を掴みたい所だったがバルギウスに戻って来た形跡もないらしい。

「お役に立てなくてすみません」

「いや。俺達も探してるんだけどね、北大陸のどこにもいないんだ」

「そうですか…」

バルギウス帝国はこのまま新体制に変わった方が良い国になりそうだが、行方不明の奴らが帰ってこないとも限らない。帰ってくれば魔人軍とも交戦となり、これ以上不必要な人死にを出してしまうだろう。またデモンが絡んでいる可能性もあるから油断は出来ない。

「それと」

「はい」

「魔人基地との乗合馬車や食堂の運営など感謝する」

「いえいえ!魔人基地の仕事はとても人気なのですよ!とても待遇が良くて帝都ではなかなか真似できません」

「そうなんだ」

「はい」

「それともう一つ聞きたい事が」

「なんでしょう」

「バルギウス帝国の貴族についてなんだけど」

「…いや…知らないですね」

考え込むようにジークレスト・ヘイモンが答える。

《ご主人様。脈拍と発汗から考えると嘘をついております》

《なるほど》

シャーミリアが一発で見抜く。

「知らないですか、ちょっと街中で小耳にはさんだものですからもしかしてと思ってね」

すると周りの騎士に見えないように、ジークレストの目が泳いだ。

なるほどね…そうかそうか。

それから2、3の質問をして、これからの魔人軍との交流などを確認していく。しばらく話をしていたが、一方的に質問をしているだけでまるで尋問のようだった。ジークレスト以外の騎士の緊張は一向に無くならないようだし、恐らくはこの地獄の時間帯が早く終わってくれることを切に願っているのだろう。

「えっと、ジークレストさん。俺と二人きりで話をしないかい?」

「二人きりで?」

「俺の仲間と、そちらの騎士の人たちも人払いをして二人だけで」

「か、かしこまりました。お前達…」

「「「「は!」」」」

ジークレストが言い終わる前に、ざっと4人の騎士たちが立ち上がり一礼をして一目散に部屋を出て行った。皇帝代理を置いてさっさと出ていくとは、なんて薄情な奴らだろう。もしくは相当恐ろしかったか。

「では先生も、皆を連れてエントランスでお待ちいただけますか?」

「わかったのじゃ」

「ご主人様、よろしいので?」

「問題ない。危なかったらミリアがすぐに来れるだろ」

「もちろんでございます」

「いえいえ!皇太子殿下!危ない事など何もありません!殿下に危害を加える強者などおりません」

ジークレストが慌てて言う。

「だってさ。とりあえずエントランスで待っててくれ」

「は!」

そして俺以外の11人が部屋を出て行った。ドアが閉められたので再びジークレストに向き直る。

「とりあえず座ろうか」

「は!」

ジークレストと俺はテーブルの角に座った。俺が聞きたいことは一つだ。

「ジークレスト。さっき話してた貴族の事なんだがいいかな?」

するとジークレストは落ち着き払ったように返事をする。

「なんでしょう」

「俺は街中であるうわさを聞いたんだよ」

「噂でございますか?」

「ああ。どうも貴族が生きている可能性があると」

「……それは…誠にございます」

「さっき嘘を言ったのは、騎士達に聞かれたくなかったからではないのか?」

「その通りです。しかしラウル殿下に嘘はつけないという事ですね」

正確にはシャーミリアの前では嘘をつけない、だけどね。

「まあそう言うわけだから聞かせてもらえる?」

「まだ1番隊大隊長も50万の将兵も見つかっておりませんよね?」

「だな」

「ならば他言無用でお願いいたしたいのですが」

「もちろん外で漏洩する事は無い」

「はい。もちろんこうなった以上は隠し通す事など出来ないと覚悟を決めております」

「貴族はどうなった?」

「殺される前に助けられるものは皆助けました。もちろん大半が殺されてしまいましたが」

ジークレストは静かに言う。

「貴族はどこに?」

「帝都にはおりません。人知れぬ小さな村々で村人として生きております」

「誰が逃がした?」

「私です」

「一人で?」

「私と私の妻と子供と使用人で、と言った方が正しいでしょうか」

「よく見つかりませんでしたね」

「巧妙に行いました。荷馬車の樽に入れ穀類の袋に詰め、奴隷商に扮した使用人が奴隷に扮した貴族様を連れ出した事もございます」

「戒厳令がしかれてませんでした?」

「ええ。怪しげなファートリアからの神官たちが来て、大隊長連中や副隊長や小隊長格の者達が何かに操られるかのようにおかしくなる中でしたから」

「その貴族たちは今も?」

「もちろん生きております。私の妻や家の者達が時おり食料を届けたり、様子を見にいったりしておりますが大半は生きております。ですが年老いた伯爵様や男爵様はその生活に耐えられず、病気で亡くなったりした方も大勢おります」

デモンや魅了された兵士たちの目を盗んで、少しずつ貴族を連れ出して助けた…そんなことをこの人はやったらしい。どう考えても企業の気の弱い中間管理職のようなタイプの人間で、自分が生きるのに精いっぱいと言ったような雰囲気の人だ。なんかタメ口を聞いてるのが申し訳なくなってきた。

「ジークレストさんあなたは素晴らしい人だ」

「いえ、不条理に殺されている貴族の方達を見るのは忍びなかっただけです、こういう時代になる前はヘイモン家がお世話になった人もたくさんいるのです。私が小隊長として北へ向かった時も、私の家族には貴族様を逃がし続けるように指示をしておりました」

今の話を聞いて嘘は無いとわかる。そしてこの人は決して弱い人ではない。むしろ強い志のある人だった。武の面での強さはないだろうが、人としての精神力の強さは人一倍強いのかもしれない。本人はそうは思っていないようだが、並大抵のことで同じ事はできないだろう。

「デモンや悪い隊長の行方が分からないうちは、貴族は戻せないですもんね」

「はい」

「わかりました。その役割ですが、もう家族や使用人にさせなくてもいいですよ」

「えっ?」

「私の魔人に精鋭がおりますので、その者達にさせる事にいたしましょう。あなたの家族に危険があるなら、もうそれをやらせる必要はない」

「そ、そんなことを‥‥本当に?」

「もちろんです。村の場所と貴族の人数だけ教えてください。詳しい名前などの情報はいらないです」

「わかりました」

「重要機密なので一人の部下を呼んでいいですか?」

「もちろんです」

《ファントム。来い!》

ドドド、ガチャ

ファントムがドアを開けて入って来た。

「ヒッ」

「大丈夫です。これと私は一緒の存在だと思ってください」

「わ、わかりました」

流石にファントムには慣れないらしく、フードをかぶっていてもその恐怖は伝わってくるらしい。

「では村の地図とおおよその人数を、羊皮紙に書いていただいてよろしいですか?」

「それでは地図を持ってまいります。それに村の場所と貴族の人数をお教えしましょう」

ジークレストが部屋を出ていきすぐに戻って来た。地図を広げてペンで地図の上に書き始める。俺は座ってそれを待っていると書き上げた地図を丸めて俺に渡してくれた。

「ファントム」

「……」

ファントムに地図を渡すと、後ろを向いて口から喉に裂けた穴に地図をしまい込んだ。

「は、はは‥‥とにかく、恐ろしいですね」

「ですが、機密文章は完全に守られます。誰にも知られる事はありません」

「ありがとうございます」

「よく今までお一人で抵抗されてきましたね。家族も巻き込んで…使用人の方達からもバレなかったという事は人望にお厚いのでしょう」

「わたしなど!とてもとてもそのような」

「凄い人です」

「ありがとうございます。これで若い子供たちに危ない橋を渡らせることも無くなりました。本当に何と申し上げてよいやら」

「奥様と息子さん達にもぜひ挨拶させてください」

「は、はい!光栄です」

「ではこの足で」

「もちろんです!」

ジークレストの目に涙が滲んでいるようにも見えた。これまでずっと家族を危険に巻き込んで貴族を助けて来たのだから、そうなるのも当たり前かもしれない。俺がイオナやアウロラにそれをさせられるかといったら、とてもじゃないけど出来たもんじゃない。

目の前の腰の低い気の弱そうな、そして偉大な男に俺は深々と頭を下げるのだった。