作品タイトル不明
第559話 シャーミリアの能力試験
俺、シャーミリア、ファントム、エミル、ケイナは二カルス大森林基地へとやってきていた。シン国と砂漠の国境の防衛ラインに配備する魔人達を迎えに来たのだった。俺とシャーミリアとファントムとエミルの4人はシン国の服をまとっていた。放射線と瘴気騒ぎで服を捨てた後、シン国の城で見繕ってもらった動きやすい服をもらったのだ。俺とファントムとエミルが青い柔道着のような物を着ており、シャーミリアなんかは赤い巫女さんのような恰好をしていた。
金髪巻き髪の巫女さんはなかなかにシュールだ。
ドオン!バゴーン!
基地に到着した時、巨大トレントと魔人達が模擬戦のような事をしているところだった。
「物凄い迫力だな」
「住居とか壊れてるぞ」
「なんか襲われているように見えなくもないな」
「うーん。だけど魔人がトレントを押してるようだぞ」
俺とエミルが話をしていた。
二カルス大森林基地に到着した時ちょうどトレントの道場破りが来ていたのだ。魔人達はこれを訓練と称していたが、物凄い巨大なトレントが暴れるのを難なくいなしているのを見て物凄い成長を感じる。ファートリア前線基地での戦いで若干の1次進化を遂げた魔人達だが、二カルス大森林の環境に適応して独自の進化をしているように思えた。
「二カルスのトレントがあっさり…」
逃げていく巨大トレントを見て、二カルス出身のエミルが呆然としていた。
「俺の兵器を使わずして追い払うなんて、特殊部隊も顔負けだな…」
「まったくだ」
巨大トレントを撃退して再び日常の生活に戻って行く魔人達。さらに驚くべき事にミノスとティラが抜けてからもきちんと自分たちで組織を編成して、大隊長以下中隊長と小隊長がいて潤滑に部隊の運営していたようだ。
「てか本来二カルスの主が味方になったはずなんだから、トレントは何で道場破りのような真似をするんだろう?」
「俺は心当たりがあるぞ」
「なんだエミル?」
「セルマ熊だろ?原因は」
「あ…あの無条件で思いっきりひっぱたいてしまうあれか?」
「それしか考えられないだろう。二カルスの主は絶対根に持つタイプだぞ」
「だってあれは仕方ないんだよ。セルマ曰く本能的にムカついて張り手をかましてしまうみたいなんだ」
「だからそれがダメなんだって」
「本能なんだけどな…」
「じゃ、しかたないか」
俺とエミルの話はとりあえず結論が出た。
「じゃ、俺は魔人達を集めて説明してくるよ」
「わかった。俺は疲れた精霊たちを森に放って休ませることにしよう」
「やっぱ精霊も地元に帰った感覚とかあるのかね?」
「あるみたいだ」
「なるほど」
エミルとケイナはそのまま森に入って行ってしまった。昔なら魔獣の危険もあったと思うのだが、精霊神となったエミルは無造作に進んでいくのだった。
「ブラックドッグとかの群れとか大丈夫なんだろうか?」
「ご主人様。エミル様はもう精霊神となられました。既にこの森は庭のような物ではないかと思われます」
「まあ確かにそうか」
「はい」
「エミルは精霊神として覚醒しているからな…なぜ俺は魔神として覚醒しないのか…謎だ」
「我々しもべはご主人様に付き従っておりますので、覚醒などされておられなくても些細な事にございます」
「覚醒すれば出来る事が増えそうな気がするんだが…まあグレースは受体してもまだ本体が呼び出せないようだし、オージェがようやくレヴィアサンを呼び出せるようになったようだけど何かきっかけがあるんだろう。エミルでもまだ出来ない事があるのかもしれないしな」
「そのように思います」
そんな話をしながら俺とシャーミリアとファントムは、魔人達を集めるために居住区へと向かうのだった。
「じゃ」
俺は広場についてLRAD長距離音響発生装置を召喚した。
「では私奴が」
「頼む」
「はい」
カチ。LRAD長距離音響発生装置のスイッチを入れてシャーミリアにマイクを渡した。
「二カルス大森林で作業中の全魔人に業務連絡。大隊長及び中隊長と小隊長は直ちに広場に集まれ!ラウル様からの作戦指示がある!」
シャーミリアが言うとすぐさま魔人達が集まって来た。しかも昔のように無造作に並ぶのではなく、ビシッと軍隊式に整列して並んだ。本当に訓練を受けた軍隊のようだった。
《オージェの影響かね?》
《はい。龍神様がしばらく二カルス基地においででしたから》
《すげえな》
ビシッと整列している魔人に対してシャーミリアが業務命令を告げる。
「日々の鍛錬ご苦労様。今回はラウル様の為に、日ごろの鍛錬を役立てる事が出来る朗報を持って来たわ」
オオオオオオオオッ!
パチパチパチ!
魔人達が喜んでいる。
「コホン!それではお静かに」
シャーミリアが言うと一斉に静かになる。
「これから数日をかけて、ファートリア前線基地から魔人が移動してくる!それと入れ替わるようにこの基地の精鋭がシン国南端の、砂漠との国境へと移住する事になる!大隊長以下の隊長の面々は、600名の移住者を選抜しておくように!南部ではさらに過酷な環境での防衛拠点の構築作業が待ってる。心してかかれ!」
「は!」
「質問はあるのかしら?」
「は!」
大隊長をやっている魔人が挙手をした。
「なにかしら?」
「ここには千数百名の魔人がおります!希望者が600を超えた場合はどのように致しましょう」
「そうね…では私が試験をしてさしあげましょう」
「シャ…シャーミリア様が?」
魔人達が若干後ろに引いたように見えた。しかしそこは魔人部隊の精鋭グッと堪える。
「ええ。ご主人様は600名と言ったわ、それならば必要な数に調整をするだけの事。自信のない者は下がるがいい!」
ざわざわざわざわ
うん。そりゃざわつく。シャーミリアが試験とか…一人としてクリアできる気がしない。
「皆!ちょっとまってくれ」
俺がシャーミリアからマイクを借りて話す。
「もちろんシャーミリアが本気で手を下すわけじゃない。本気のシャーミリアがやって突破できる者は残念ながら一人もいないだろう。そうだな?シャーミリア?」
「は、はい!その通りにございます!」
あ、こいつ。まあまあ本気でやる気でいた気がする…
《マジで力を制御しろよ。俺の訓練よりさらにな》
《かしこまりました》
そして俺はシャーミリアにマイクを渡した。
「それでは1時間後から試験をはじめるわ。それまでに600の選抜者を選んで広場によこしなさい」
「「「「「「は!」」」」」」
ザッ!
魔人達は一斉にシャーミリアと俺に敬礼をして解散した。
「シャーミリア。本当に手加減するんだぞ」
「かしこまってございます」
《まあファントムがやると完全に手加減は出来ないだろうから、ここはシャーミリアに任せるしかないけどな》
そして1時間の後に再び魔人が集まった。
「よし、何人集まった?」
俺が大隊長格の魔人に聞く。
「それが…全員にございます」
「全員?」
「申し訳ございません」
「いや、意識が高い事は全く問題が無い。それならばこの基地にエリクサーやポーションの類は置いているか?」
「はい。進軍した際に運び込んだものがございます」
「念のため用意してくれるか?」
「は?」
「急いでくれ」
「は!」
数名の魔人達が居住区の方に消えて行った。もし万が一があったら俺が駆け寄って治療してやるしかない。魔人達が数個の木箱を持ってきた。
「よし。これだけあれば大丈夫だろ」
「ラウル様!」
「なんだ?」
「これを使う事があるのでありましょうか!」
「えっと大隊長…君はこれを使わずにシャーミリアの試験に挑むつもりなのかい?」
「えっ?そ、それは…あの」
「心配するな。俺がちゃんと見ていてやるから。俺もそこまで酷いけがはした事が無い」
ざわざわざわざわ
魔人達に動揺が広がった。
「大丈夫だって。な?シャーミリア?」
「もちろんでございます」
「それでは小隊一組何人だ?」
「はい。一個小隊は10名です」
「中隊は?」
「小隊が10集まって中隊となります」
「そして全部隊で大隊か?わかった。だとまずは小隊レベルでの試験になるかな」
「ラウル様!一人一人ではないのでありますか?」
「いや…単体では話にならないよ」
「かしこまりました」
《うん…これは分かってない…》
大隊長の表情を見ても事の重大性が分かっていないようなので、俺はLRADのマイクを握った。
「えっとこれは試験ではあるが、全員シャーミリアを本気で殺しに行くように!演習だと思うな!一瞬たりとも気を抜く事は許さん!隊長クラスとはいえども関係ない!死になく無ければ死力をつくせ!」
俺が言うと魔人達の気配が更にピリついた。びりびりと俺の顔に殺気がぶつかってくるようになった。どうやらトレントとの模擬試験の日々は伊達じゃないようだ。
そして広場の中心にシャーミリアが立つと、シャーミリアを囲むように魔人達が立った。どうやら巨大トレントと戦う事で身に付けたフォーメーションのようなものがあるようだった。
「どこからでも来なさい」
シャーミリアがポツリと言うと、一斉に魔人達が飛びかかって行くのだった。
オリャァァァァァァ!
ソリャァァァァァァァ!
気合十分に攻撃を始める魔人達。
始まってすぐに思う。
…これは本当に試験なのだろうか?そう疑問を持たずにはいられなかった。俺はエリクサーとポーションを持って駆けまわる羽目になったのだった。これは…試験などではない…蹂躙だ。屈強な魔人達がシャーミリアに蹂躙されているだけのように見えた。ギリギリ死にかけたり大けがをしているやつを見つけてはエリクサーをかけて、試合を止める審判のような役割を俺はやっていた。
「この部隊で最後か…ハアハァ…みんな‥よく頑張った…精神が折れないのだけは褒めてやろう…」
俺が怪我をした最後のオークにエリクサーをかけながら言う。
というか…1300人もいたのに1時間も持たなかった。そこにはボロボロになりながらも必死に次の試合を目に焼き付けるようにしている魔人達がいた。いや見ていると言っても…シャーミリアの攻撃が見えているのだろうか?
「ご主人様!試験は全て終わりました!600名の人員は目星がついております」
「えっ!なんか全員が同じようにボロボロになっただけに見えるけど?」
「いえ、きちんと能力をみて差分を確認しております。ご主人様は南の国境を防衛するに足る力を持っている者が、およそ600だという事を見抜いていたのですね?」
いや違うけど。拠点1カ所に対して100人ずつ配備しようと思っただけだけど…
「まあそんなところだ」
「さすがにございます」
というか、蹂躙しただけでよく力量を見極める事が出来たもんだ。きっと格段の差があるから微妙な差でも見分けられるんだろう。俺はそう思う事にした…じゃなきゃ意味が分からない。
そこにエミルとケイナが帰って来たのだった。
「ラウル!凄い音がしたけど戦闘でもあったのかい?」
「いや、防衛ラインに連れて行く魔人の試験をしていたんだ」
「そう…なんだ…?てか怪我をしている魔人が大勢いるようだけど?」
「ああ問題ない。大けがをした者は全てエリクサーとポーションで治療している」
「どんな試験をしたんだ…」
「まあ魔人ならではの試験さ」
「わかった。なら精霊に怪我を治してもらう事にしよう、皆森を散歩していると思うけどすぐに呼び寄せるよ」
「ありがとうエミル」
「しかしあの巨大トレントを子供のようにあしらう魔人達が怪我をするとか、兵器を使った試験だったのかい?」
「使ってない。シャーミリアが1300人組手を行っただけだ…」
「…ああ…そういう試験…」
そのあとエミルは何も聞かなかった。すぐに水と風の精霊を呼び出して魔人達の回復をしてくれている。二カルスの魔人達は自分達がある程度強くなったと思っていたのだろう、いや実際一般の魔人に比べて格段に強くなっていた。だがここに来ておもいきり気持ちをくじかれてしまったらしい。
「ふう」
試験官がオージェなら魔人達の気持ちをここまで折る事は無かったろうけど、シャーミリアはその辺…物凄く厳しい一面を持っているから期待は出来ない。もし今後シャーミリアが魔人軍の訓練を行う時は、少数精鋭のエリート特殊部隊くらいにしておこう。そして少なくても2次進化まで遂げた奴らでなければならない。
今回の件で俺はそれを確認できたのだった。