軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第554話 黒い絨毯

俺達はシン国の南の果てにある砂漠との境界線に数時間でたどり着く。そこには武将だけではなく大工などの民が集まり、木の櫓を組み敵を食い止める防波堤を作る作業をしていた。数日で組み上げたにしてはかなり堅牢なものではあったが、そんな木の櫓では魔獣の群れを止める事は出来ない。さらにシン国の中央の街道の果てにあるこの場所は、恐らく一番の激戦区になる事が想定された。

「ラウル殿!」

緊急防衛対策本部が設営されており、そこにカゲヨシ将軍以下の武将がいた。

「カゲヨシ将軍!ご壮健でなによりです。とにかく間に合って良かった」

「かたじけない。ラウル殿も息災のようじゃ」

「現状は?」

「大ババより聞いておると思うのじゃが、6つの拠点を設営しておる」

「祠があるとききました」

「それはあそこに」

カゲヨシ将軍が指さす方向を見ると雑木林が見える。

「林の中に?」

「人の目につかん場所にある」

「なるほど。その影響でこの砂漠が浸食してこないという事なのですね」

俺達が南の方角を見ると広大な砂漠が広がっており、不思議とシン国側の土地へは砂も入ってこないようだった。砂漠とのラインがきっちりと分かれている。

「古の宝玉が納めてあるのじゃが、それが壊され宝玉が奪われでもすれば悪魔に力を与えてしまうかもしれん」

「わかりました」

俺は他の5つの拠点の場所に自分の配下を分散させることを将軍に伝えた。中央のここから最も離れた2つの拠点にはエミルがヘリで人員の輸送をし、近い3つの拠点には車両を召喚して各自で向かってもらう事にする。

「じゃあエミル!頼んだ」

「分かった」

エミルとケイナがガザム、アナミス、カララ、ルピアを連れてオスプレイに向かった。既に拠点にはグレースが収納から出した装甲車両などが配備されているらしいが、不足するであろう兵器を一緒に輸送してもらう。

「ラーズ、ティラ、ドランはそれぞれ74式特大型トラックで拠点に向かえ」

「「「は!」」」

「ギル!ラーズ、ゴーグ!先生をくれぐれも頼むぞ」

「「「は!」」」

「ラウルよ。わしもそれなりに戦えるつもりじゃがのう」

「もちろん分かっております。ですが敵の戦力が未知数です十分お気を付けください」

「わかったのじゃ」

「一番近い拠点にはマキタカがおります故、モーリス殿はマキタカに命じて必要なものを用立て下され」

「ふむ将軍よ。特に必要な物なぞありゃせんので大丈夫ですじゃ」

「大賢者に何かあってはシン国は北との交流を断たれそうですわい」

「ふぉっ!わしごときに何があろうがそんなことは無いのじゃ」

「とにかくお気を付け下され!」

「ふむ」

カゲヨシ将軍との会話を済ませてすぐに、ギレザム、ラーズ、モーリス先生、ゴーグ、ミノス、ティラ、ドラン、マキーナがそれぞれの車両に乗り込んで出発していった。トラックには大量の銃火器を詰んでいく。

「よし!では俺も行ってきます」

「ラウル殿はどこへ、行こうというのですかな?」

「敵情視察です」

「魔獣の群れを?」

「ええ。敵が分からぬ以上は対応も分からないので、自分の目で確かめたいのです」

「危険ではなかろうか」

カゲヨシ将軍が物凄く不安な顔をする。

「はは。将軍様!ラウルなら問題ないですよ。我らの隊長は偵察でへまをうつことはありません」

「これはすまなんだ」

「いえ。すぐに戻りますので、そのまま防衛拠点設営の作業を行っていてください」

「わかりもうした」

「グレース!魔導鎧とバーニアを」

「了解」

グレースが収納庫からヴァルキリーとバーニアを呼び出した。俺はすぐさま魔導鎧を装着しバーニアを取り付ける。

《久々に飛ぶけど大丈夫かな?》

《我が主。私が記憶しておりますので問題ございません》

《わかった》

「ラウルさん。既に機動用の燃料は充填されています」

「サンキュ、グレース」

《ヴァルキリーそれじゃあ偵察に行こうかね》

《かしこまりました我が主》

「シャーミリアは俺の護衛につけ」

「かしこまりました」

「ラウル様!お気をつけください!くれぐれも無茶はなさらぬよう」

「ああカティ。心配はいらない」

俺はカトリーヌに親指を立てて見せる。

「じゃあシャーミリア!行くぞ!」

「は!」

ドシュッ

魔導鎧とシャーミリアが一気に上昇し砂漠に向けて高速飛行を始めた。以前は徒歩や虹蛇本体で移動した砂漠だったが、上空から見るとその砂漠はどこまでも広大な事がわかった。果てが見えず前も右も左も砂丘しか見えなかった。

《広いな》

《ここがご主人様が飛ばされた砂漠でございますか》

《ああ。虹蛇のおかげで生還出来たと言っていいだろう》

《確かに過酷なようです》

《お前は大丈夫か?》

《進化する前でしたら、すぐに消えていたと思われます。それほどにここの日差しは強い》

《弱体化したりはしないか?》

《今は全く問題ないようです。そして…どういうわけか血を欲する欲求も減ってきたようにも思うのです》

確かにシャーミリアの雰囲気はこのところかなり変わって来た。あのファートリア神聖国での大量デモン駆除作戦から、ギレザムといいシャーミリアといい何か大きな変化が起きているように感じる。シャーミリア以外にも、直接作戦に参加したカララ、セイラ、ルフラの雰囲気は変わったように思える。俺からの直接の指示というより、各自の考えで動いているように感じるのだ。セイラなどはむしろ自分からオージェの側で働く事を進言して来た。おかげで今回のように戦力を分散するような作戦でも安心して任せられた。

俺とシャーミリアはしばらく砂漠の上空を飛び続けた。高速飛翔でかなりの距離を進んだ時だった。

《しかし…いつまでも続くな》

《かなりの広さをもっているようです。ご主人様、あれを…》

シャーミリアが空中で止まり砂漠の先を指さす。すると白い砂漠を埋め尽くすように、南の先一面が真っ黒になっていた。この砂漠の過酷な状況をものともせずに、北進を続けているようだ。

《なんだありゃ》

《かなりの数の気配を察知しました》

オージェに言われていたものの、その膨大な数の魔獣の群れを見て俺は言葉を失った。ファートリア神聖国でも大量のデモンとしもべを見たが、その数の比ではなかった。その黒い絨毯がどこまでもどこまでも続いているのだ。

《あんなのに襲われたら、南の防衛線なんてひとたまりもないな》

《もしあれがシン国へと侵入したら甚大な被害をもたらす事でしょう》

《草の一本も残らんだろうな》

《そう思われます》

《どう見る?》

《デモンの気配、しもべ、魔物、屍人の気配もございます》

どうやらこれまで現れた魔物の類の混合チームのようだ。それが真っ黒の絨毯のように左右にも広がり面になって進んでくる。

《この距離で俺達に気づかないかな?》

《かなりの高度を取っております。私奴は気配を発しておりませんので目視でなければ恐らくは。ご主人様は魔導鎧をまとっておりますので気づかれる事は無いかと。ですが敵にどんな者がいるか分かりませんので、これ以上の接近は要注意でございます》

《あの先がどれほど続いているかを調べる事は難しいか》

《上空を通過するのは危険かと》

俺は双眼鏡を召喚して先を見渡してみる。なるほど恐ろしそうなデモンや魔獣がわんさかといる。

《オージェはあの前に降りたのか…馬鹿じゃねえのアイツ》

あんな大量の魔物の前に降り立つなんて自殺行為だが、どうやらそれと戦ってみて強さを実感して無事に帰ってきたようだ。

《龍神様であればそれも可能かと》

《だけどくい止める事は出来なかったって事だな》

《数が多すぎます》

《ああ。戻るぞ》

《はい》

シャーミリアと俺は敵影を確認して、再び高速飛翔で砂漠との境界線まで戻った。

ドン!

基地に戻り降り立った俺の下にカゲヨシ将軍、オージェ、グレースが来てくれた。

「どうだったかの?」

「凄い数です。白い砂漠がいちめん真っ黒でした」

「やはりそうか…」

「オージェはあれの前に立ったんだよな。戦ってみた感想は?」

「魔物に銃撃は効くもののグールやデモンには全く効かなかった。俺の体術で何とか倒せたがな」

なるほど…オージェは素手でデモンを倒すのか。やっぱり怒らせないようにしておこう。

「それは仕方ないんだ。二カルス大森林を超えては俺の魔力が届かない。今は北の魔人達が使う武器が魔力を通さない通常兵器の状態になっているよ。むしろ北大陸に脅威は無いと推測するから問題は無いけどな」

「ラウルがこっちに居ればあいつらにも武器は効くってことだな」

「そう言う事だ」

「それでラウルさん。対策はどうします?」

「ああグレースそれが問題だ。あの数を砲撃で駆逐するのはかなり難しいだろう。第一弾としてこれからあの魔物たちが到着するあたりに、爆弾を仕掛けて爆発させてみるとか?」

「ラウルよ。あの数は爆弾では無理だろ」

「だよなあ…」

俺はじっとグレースを見る。

「なんです?」

「砂漠と言えば、虹蛇本体の独壇場だと思うんだけど」

「すみません。どうやって呼び出せばいいのかまったくわかりません」

「分体のグレースはどうやって動いてるんだろうな」

「そういわれても、僕が本体のような気もしてますしどうしていいやら」

「まあそうだよな。俺だってまだ覚醒していないんだし、オージェは何故レヴィアサンを使役できた?」

「わからん。セイラの呼び寄せがあってそうなった」

「セイラ来てくれ!」

「はい」

やはりセイラの雰囲気が変わっているように思えた。見た目はほとんど変わっていないが、俺の系譜から外れてきているようにも感じる。

「セイラはなぜレヴィアサンの存在と、オージェの繋がりが分かったんだ」

「あの…それはよくわからないのですが、私の系譜が…」

「ああ、分かっている。どうやら俺の系譜にセイラは居ないようだ」

「私は龍神様の系譜に加わったようなのです」

「やっぱりそうか。セイレーンは龍神が作ったと言ってたもんな、セイラがオージェの系譜に入るのは当たり前だよ」

「もうしわけございません」

「謝る必要はない、元々は龍神の子なんだし問題は無い」

「はい」

「という事は系譜の繋がりによって、レヴィアサンの気配を感じ取ったと?」

「私の歌が関係しているのだと思います」

「呼び寄せたと考えていいのかな?」

「そのように考えていただいてもよろしいかと」

そう言えばラシュタルでのレヴィアサンとの初めての邂逅の時にも、セイラの歌によって怒れるレヴィアサンを鎮めたんだった。歌によってレヴィアサンを呼び寄せられると考えても不思議ではない。むしろその流れが自然だと思える。

「グレース。オンジさんは?」

「えっと」

「オンジ殿であれば、武将たちを指揮して櫓を組んでおります」

カゲヨシ将軍が言った。俺達はオンジ達が作業をしている櫓の場所へと向かう。

「オンジ!ちょっと聞きたいことがある!」

グレースが言う。

「はい!」

オンジが手を止めて俺達の下へと来た。

「虹蛇本体の事なんだけど、なんかしらない?」

「もうしわけございません。我は虹蛇様を守る一族ではありますが、そこまでは存じ上げません」

「うーんと…じゃあさあ。ちょっと砂漠と草原の切れ目まで一緒に来て」

「わかりました」

グレースに言われてオンジが砂漠の方へと向かった。俺達とカゲヨシ将軍がその後ろをついて行き砂漠と草原の切れ目の所に立つ。

「オンジ、砂漠に向かってなんか歌でも歌って」

「う、歌ですか?」

「なんでもいいから!」

「わかりました」

そしてオンジが砂漠に向かって歌を歌い始める。その歌声は驚いた事に前世で聞いた事のあるヨーデルのような裏声をくるくるとまわす歌だった。ヨーロレリヒーっていうやつだ。

「凄いな」

「僕が彼をオンジって言ったのはこれもあるんですよ」

俺とオージェは頷いた。見た目だけでそう呼んでいるって言ったと思ったけど、思わぬかくし芸に俺達は聞き入っていた。

だが…

砂漠を見ていても何も起きなかった。

「何もおきませんね」

「だな」

「うーむ」

俺とオージェが微妙な空気を漂わせると、後ろからカゲヨシ将軍と武将たちが拍手を送って来た。どうやら今の歌声に感銘を受けたらしかった。始めて聞く歌に惜しみない称賛を送っている。

「素晴らしいものですな!」

「良い物を聞かせていただきました!」

まあ…将軍たちが喜んでるならいいか。

とにかく虹蛇本体の呼び出しに失敗したことだけは確かだった。