軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第550話 蠢く山脈

3日後の夜に俺達は山脈の東側にある海岸線に到着した。海にそそり立つ断崖絶壁で潜水艦を係留させられそうな所はどこにもなかった。さらに物凄く波が荒くてへ岸壁に潜水艦を近寄らせることも出来ない。

「険しいな」

俺はハッチから身を乗り出してレヴィアサンに話しかける。もちろん中身はオージェだ。

「こっちからはお前たちが見えている。そのまま持ち上げるからハッチを閉めて中にはいってろ」

「そうか」

スゥッ

エレベーターに乗って上に上がるような感覚がある。外が見えないのでよくわからないが、レヴィアサンが潜水艦を上に運んでいるのだろう。

「おい。着いたぞ」

「わかったオージェ!」

ガパン!

ハッチを開けるとそこは夜の断崖絶壁の上だった。眼前には険しい山が連なり、そのわずかな平らなところにチヌークの残骸が転がっている。あたりは真っ暗だがエミルの精霊が灯りをともして見渡す事が出来た。

「よお」

「おう」

「ラウル!」

「ラウルさん」

俺達が潜水艦から出ると、オージェとエミルとグレースが近づいて来た。

「セイラも、ケイナさんも良く待っていてくれたね」

「お待ち申し上げておりました」

「安心しました」

「グレース!潜水艦を収納してくれ」

「了解です」

グレースが近づいてきてスッと手をかざすと、たいげいが消えた。

「ラウル、チヌークが大破してしまった」

エミルが言う。

「そのようだ。みんなケガはないのか?」

「着陸は上手くいったが、全員がヘリから出た後に強風で転がったんだ」

「了解だ。じゃあファントム!破壊して海に捨てろ」

ガンゴンガン

ファントムがあっという間にチヌークを破壊して海に放り投げた。もちろんそろそろ30日が経つので環境破壊にもならない、自然に優しい俺だった。エコだ。断崖絶壁の上は非常に風が強く体がもっていかれそうになる。

「この暴風の中に居たのか?」

「それはあっち」

エミルが指さした先には自衛隊73式装甲車が置いてある。グレースが収納から出したものだろう。車体も低く重量がありキャタピラなので安定感がある。皆はその中に入って待っていたらしかった。

「そうか。とりあえずはこの全員は入れないな。同じものを数台召喚するか」

「そうした方がいい。風はもっと強くなる」

「了解だ」

俺は手をかざし73式装甲車をもう2台召喚する。それに全員が分かれて乗るように指示した。

「おっと、ラウル!魔導鎧をレヴィアサンが吐き出すからグレースに渡してくれ」

オージェが言う。

「ああそうだな」

ぺ!

レヴィアサンがヴァルキリーを吐き出した。ドン!と地面に落ちたがやはり安定感があるようで、そこにすっくと立っている。

「グレース。たのむ」

「了解です」

グレースが手をかざすとヴァルキリーが消える。それから人間と魔人が2台の車両に分かれて乗り込んだ。搭乗人数は12名ずつなので2台に20人全員が乗り込むことができた。俺とモーリス先生、シャーミリア、ギレザムがオージェ達の乗っていた73式に乗り込む。

「まるで嵐だな」

「これがここの普通らしい。俺の精霊で風を押さえ込んでもこのありさまだ」

「そうか。風の精霊はシルフだっけ?その力でも及ばないほどという事なんだな」

「ここからヘリを飛ばすのは難しい。このまま73式を進めて山岳地帯を進んでいくのが良いと思う。もっと西に進んでヘリを呼び出せる場所まで移ろう」

エミルが言う。

「だな。この風ではヘリは危険だろう」

「すまんなラウル。レヴィアサンは陸上には上げられんようだ。あれなら全員を運ぶ事が容易だと思うのだがな。転移魔法でも使えれば別なんだろうが」

「ああオージェそれは知ってる。俺達は転移魔法から出て来たレヴィアサンと遭遇したことがある」

「という事は敵が転移魔法陣を仕掛けてレヴィアサンを呼んだと?」

「恐らくはアグラニ迷宮に仕掛けていたんだろう。そのままラシュタルにつなげて出現させたと考えると合点が行く。どうやらアグラニ迷宮は龍の巣と呼ばれていて、龍が大陸に居た頃に使われていた住み家だったらしいんだ」

「敵はあれが出現するのを知っていて仕掛けていたという事なのか?」

「そこまでは分からんが、前のレヴィアサンがあの巣に現れるのを知っていたと考えられる。それを見て敵がどこかに転移罠を仕掛けラシュタルに繋いだってとこかな。そうでなければラシュタルにあれが現れる説明がつかない」

「まったく厄介な敵だな」

「まったくだ」

「アグラニ迷宮が龍の巣か…」

「メリュージュさんもあそこに隠れていたし、おそらくだがオージェがアグラニ迷宮に潜った方が楽だったと思う。龍神が行くと魔物は寄り付かないみたいだ」

「母さんがあそこに居たのか?知っていたのかな?」

「そういうことだ」

話し合いの結果、俺達はある程度風の精霊におさえられた暴風の中73式を走らせることにした。とにかく西へと向かう事になる。山岳地帯はかなり険しいが崖に気を付ければ何とか走れそうな所はあった。キャタピラなので悪路でも問題なく進むことができた。操縦はオージェ、マリア、タピがおこなっている

「オージェが離れたあとレヴィアサンはどうなるんだ?」

「勝手に海を泳いでいるだろうな。恐らくレヴィアサンがあそこを離れれば海の波は収まる」

「え?あの荒波ってレヴィアサンが現れたせいだったの」

「そう言う事だな」

「この強風のせいかとおもった」

「違う」

《なるほど不便だ。そういえばレヴィアサンって津波を操ったりするのが普通だったっけ。てことはあの荒波がおきるのも不思議じゃないって事だ》

73式は悪路を走破していく。山岳地帯を下るように走るが、あまり急な所は危険なので道を選びながらなので時間がかかりそうだ。しかし木も草も生えていないのでまるで月面を走っているようにすら思える。

「こんなところに生物がいるとも思えない」

「そうだな。生き物は居ないと思う」

オージェとエミルが周りを確認しながら73式を進めていくが、どうやら生き物は見当たらないようだ。

《というより、オージェがいるんだから魔物がビビって逃げてんじゃねえのかな?》

《ラウル様》

《なんだタピ》

《後ろから見て、車両が走り去るたびに地形が変わっているように見えます》

《地形が変わってる?》

《強風の為でしょうか、地面が動いているようにも感じるのですが。砂嵐の為あまりよく見えません》

《わかった》

「オージェ!ちょっと気になる事がある!車を停めてくれ!」

「了解」

俺達が乗る戦闘の73式が止まると、後ろの2台も止まったようだった。

「どうしたラウル」

「いや…タピからなんだが地面が動いている気がすると」

ズッズズズズズズ

「動いてる…」

「本当だ」

「なんですかね?」

俺、オージェ、グレースが言う。するとエミルが目を瞑って精霊を飛ばしてやっているようだった。装甲をすり抜けて精霊たちが飛んでいく。

《ご主人様。何か大きな気配が》

《我らも感じております》

シャーミリアもギレザムも同じ事を言う。どうやら魔人達も何かに気が付いたようだった。

「これは…」

エミルがつぶやく。

「どうしたんだ?」

「大規模な…山自体が振動しているようだ。これ…山が生きてるのか?」

「なんだって?」

「山が生きている?」

「そんなばかな!」

俺、オージェ、グレースが驚く。車が軽い地震で揺れるように揺れるだけで、生きた山の上に居るなんていう感覚は無かった。

「‥‥あの…山が動いてるの僕たちのせいじゃないですかね?」

「俺達の?」

「蟻が体を這うと痒くないですか?」

「痒い」

「だな」

「普段生き物なんかいないのに、いきなり動く者がきて痒がってるとか考えられませんかね?」

「ありえる」

ズズズ・・・

そして止まった。今のグレースの話から考えると辻褄が合う。痒かった虫が動かなくなったら体をゆするのをやめたようだった。しかしそれでは俺達はここから身動きが取れなくなる。

《全員そのまま待機していろ!》

《《《《《《は!》》》》》》

そして俺達は一旦、後部の兵員が座る場所に集まった。

「これ、そうとうデカいぞ」

エミルが言う。

「もしかしたら山自体がそれってことか?」

「ああ精霊を飛ばしても全容がわからん。二カルスの主なんてこれに比べたら小さいだろうな」

「山自体が魔物なんてありえるのかね?」

「ラウルさん。前世の言い伝えというか伝承を覚えています?」

「ん?グレース、なんかそんなのあったけ?」

「ダイダラボッチとかいうやつ。地面を積み上げて富士山を作ったとか穴を掘ったら琵琶湖になったとか。ありましたよね?」

「なんとなく知ってる」

流石、グレースは博学でなんでも知ってる。

「そう言うのがこの世界に居てもおかしくないなって感じしません?」

「する」

「うん」

「だな」

俺とエミル、オージェが納得する。だとしたら大変危険な状態にあるんじゃないかとも思うが…実際はどうなんだろう。

「ふぉっ!おぬしたちが言っておるのは、この世界の御伽噺にもあるかもしれんぞ」

「御伽噺ですか?」

「大地が生きており山や湖を作ったという伝承じゃ。じゃがそれは子供だましの夢物語だとおもうたがの」

「先生。それがもし本当だとしたら…いま私たちが乗っているものがそれだとしたら…かなり危険じゃないですかね?」

「どうじゃろう?人に危害を加えるもんじゃないと記されておったが、ましてやその上に乗った人間なぞ誰もいないじゃろうからな。しかし立ち上がりなどしたらひとたまりもないのう」

「わかりました」

もしそんな存在がいたとしたら一大事だ。たしか魔人国の雪山の奥にも恐ろしくバカでかいバケモノがいたけど、それなど比じゃないほどの奴がいる可能性があるという事だ。

「ちょっと車両を動かすのを止めよう」

「そうだな」

《全員に告ぐ!ひとまずそこを動かずにいてくれ、車両を動かす事は禁ずる》

《《《《《は!》》》》》

「だけど、ここがその生き物の上だという事もまだわからないですよね。地殻変動のようなものがおきているだけかもしれない」

「だな。ラウルが言っている事もあるんじゃないか?」

「でも止まりましたよ」

「確かに俺達が止まったら止まったな」

「さすがに状況がわからん以上はむやみに動かん方がいいじゃろ」

「ですね」

「はい」

「わかりました」

「で、どうしたらいいでしょう」

俺、エミル、オージェ、グレースの順に返事をする。

「わからんのじゃ」

「風が収まるのを待ってみますか?」

「確かに俺達がヘリを落としたところよりも西に進んでいるからな、天候が変わって風が止むかもしれない」

「夜が明けるのを待ってもいいじゃろ」

「「「「はい」」」」

先生の意見に全員が賛成した。太陽が上がればこの風も多少収まるかもしれない。また暗闇の砂嵐の中を歩くのは危険すぎる。人間達も同行している以上は無理をするわけにはいかなかった。そのまま73式をこの場所に停めて朝を待つことにするのだった。

もしかするとレヴィアサンや虹蛇の本体のようなものが世界のいたるところに居るのかもしれない。俺達はまだまだこの世界の一部しか知らない事を認識するのだった。