軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第55話 月の女神の通行手形

拠点に戻り作戦会議を行う事にした。

ヴァンパイアが作り出したゾンビにより、しばしの時間稼ぎができるだろう。

「こちらは異状ないか?」

俺がマリアに聞く。

「はい、特に何もありませんでした。ラウル様がご無事でよかったです。」

イオナがテントから出てきて、俺に駆け寄る。・・ああお腹大きいんだから走らないで!と声をかけるまもなく俺に寄り添って無事を確かめる。

「ラウル・・よかった・・」

「問題ないよ。母さん」

イオナに無事を伝える。

じゃあ作戦会議の始まりだ。

「いまここにいる全員と屍人、グリフォン5匹が俺達の現状の戦力だ。」

俺、ギレザム、ガザム、ゴーグ、シャーミリア、マキーナ、マリア、ミーシャ、ミゼッタ。この9人と200の急ごしらえのゾンビ、そしてグリフォン5匹が戦力の全てとなる。

「母さんは身重のため戦力には数えられない。」

「足手まといでごめんなさい。」

イオナが申し訳なさそうに言うが、皆が首を振る。

「いいえイオナ様、私は幼少の頃より貴方様を守るためにいるのです。元より戦わせることなど不本意でした。当たり前のことなのですよ。」

マリアが言うと、ギレザムも合わせていう。

「ラウル様の母君であらせられる、イオナ様をお守りするのが我々の務めです。お気になさらずともよろしいのです。」

「そのとおりですわ。あなた様の母上様ならば身命を賭して守るのが私達の喜びです。」

シャーミリアもイオナを気遣っていう。

魔人たち・・すごく心配りができるじゃないか?なんで人間と相まみえない種族といわれているのか・・わからん。差別や迫害の類で追いやられているだけじゃないのか?

「母さんが敵から追われているのは、必ず理由がある。何らかの理由で、執拗に付け狙われているんだと思う。敵に母さんを渡すわけにはいかないんだ。必ず守るよ。」

「ラウル・・」

「とにかく俺たちに任せて。」

イオナが頭を下げる。

とにかく今は一刻を争うので本題に入りたいと思う。

「街の状況はどうか?」

「住人たちは一か所に集められたままです。ですが兵士に動きがあるようです。」

マリアが拠点から動きを見ていたため、状況を掌握しているようだった。

「兵士に動きか。」

「はい。住人の周りにいた兵士の数名が民家の暗闇のほうへと消えていきました。」

「そうか・・伝令が回ったか。」

「であれば、屍人や死体の存在もすぐに露呈するでしょうね。」

ギレザムが答える。俺はみんなに伝える。

「そうだなその前に動く必要がある。シャーミリア達の合流で、俺達は作戦を有利に進められるようになった。」

「ああ、なんという。あなた様に褒めていただけるとは・・。」

「そうだ。そのおかげで俺たちは戦力を分散できるようになった。」

ヴァンパイアのおかげで作戦の進め方がかなり楽になった。1軒1軒しらみつぶしに行こうと思ったが、思いのほか敵戦力は弱くないと推測された。良い時に雨が降って来てくれたと思う。

「簡単に説明する。夜が明ければこの拠点は翼竜に乗った敵に見つけられる可能性がある。すぐにここを出る。」

「わかりました。すぐに準備をしましょう。」

「それから兵力を分ける。ギレザムとガザムがゴーグと味方の救出にあたれ。街で大きな火をあげるのが合図だ。おそらく洞窟の中のやつも何かしらの動きをとるだろう。」

「それでは、皆様の護衛が手薄になるのでは?」

「問題ない。シャーミリアとマキーナがいる。」

「オーガよ、妾たちに任せるがいい。」

シャーミリアが相槌をうつ。

「しかし・・」

「大丈夫だ」

「わかりました。」

ギレザムは不安なようだった。確かにそう思うのも無理はないがこの二人はもう大丈夫だ。

なぜ俺はハッキリとそう言いいきれるのか?

先ほどからシャーミリアとマキーナの視界を俺が共有できているからだ。自分が使役しているという感覚が強い。意識をシャーミリアに集中させると、シャーミリアから見ている視界が俺にも見えるのだ。おそらく系譜の力だろう。ただ・・俺が同調しているときにシャーミリアは・・ちょっと変な感じにハァハァするが・・

「そしてマリア・・みんなを頼むことになる。オーガ3人以外はいったんグリフォンで街の外に出る、作戦はこうだ・・」

俺は作戦を全員に伝えた。重要確認事項などは2度言うなどし、質問を受け付けながらじっくり説明した。

「・・・というわけだ。総力戦を開始する。」

「「「「「「はい!」」」」」」」

全員の了解を受けたため作戦行動を開始した。

グラドラム正門、バルギウス帝国兵が占拠した門番待機所付近の外側。

そこに通ずる道の向こうから光が近づいて来た。ランプの光ではない。ランプの光にしては明るすぎたからだ。正門を見張っていたバルギウス帝国の兵士は、その明るすぎるランプの光に異常な雰囲気を感じ2名の伝令を街の中に走らせた。

「伝令はいったか?」

「はい」

「よし」

門番を任されていた小隊長のノルダーは、伝令が走ったのを確認して街道のほうをみる。ランプに明るく照らされていてこちらからは光しか見えない、いったいなんだと思う。こんな夜に辺境のグラドラムを馬車で走ってくるバカはいない。凶悪な魔獣もいる辺境の地で、夜に普通の人間が来るわけがなかった。

「止めるぞ」

「「「は!」」」

待機所を出て脇門から兵士10名がでてきた。ノルダーが真ん中でその後ろにずらりと精鋭部隊が並ぶ。眼光鋭い男たちは、ただならぬ気配をまとっていた。正門を任せられるにはそれだけの力量が必要だとグルイス大隊長から直々の指名だった。

「あの光はなんだ?ずいぶんまぶしいランプだな。」

ノルダーはそんな光は見たことがなかった。いったい・・あの光は?どんどん近づいてくる。

「お前たち正門の前で止めるぞ!」

「「「「は!」」」」

兵士たちは皆腕に自信のあるものばかりだった。少し口元が吊り上がっている・・笑っているようだった。いよいよ近づいて来たので声をかける。

「止まれ!」

ズササササー

変な音を立てて止まった。馬車か?いや・・なんだ?馬がいない。モンスター?

光でよく見えないが、彼らが見ている物はそもそもこの世界には存在していない。理解をしろといってもできるものではなかった。それもそのはず、彼らの目の前に停まったのは米軍のM1126 ストライカーICV8輪装甲車である。

いや・・これは乗り物だな?

ノルダーは直観的に思った。

「おい!中に乗っているやつ出てこい!」

・・・・・

特に何も答えはしなかった。

「よし火をかけろ。」

弓兵が矢じりに火をつけようとしたときだった。変な乗り物から返事が来た。

「私はユークリット公国のサナリア領から来た、イオナフォレストです道をあけなさい。」

なんだ・・・やたら声がでかいな?しかしだ!やっと俺にも昇進の順番がまわってきたようだな。なんとお尋ね人本人が、のこのことグラドラムにやってきたようだ。

「キュリウスの言うとおり来やがったな・・」

・・2番小隊のキュリウスが、ラシュタルの商人を捕らえて拷問して聞き出したんだそうだったな・・あいつにも手柄が行くのか、忌々しいな・・

キュリウスとは2番小隊の隊長で見た目は小綺麗だが、薄汚いドブネズミ野郎だった。剣の才もないが策略や謀略にかけては天下一品の気持ち悪い奴だった。ノルダーはどうもキュリウスが気に入らなかった。

「顔をみせろ!本物かどうか分からねえ。」

「だまって道をあけなさい。」

しかし・・やたら声のデカイ女だな。耳がキンキンする・・。

それもそのはずだった、イオナは拡声器を使って話しかけているのだ。中のイオナは、普通の音量で話していると思っているので全く気が付いていないが・・

「うるさいな!聞こえてるよ!とにかくでてこい。」

「下がりなさい!手加減できませんよ!」

キーンキーン

イオナが拡声器で大きく叫ぶので、ハウリングをおこしキーンと言っている。なかの女性陣も流石にキンキンしたようだ。

「うるせえな!へんな金切声あげんなよ!」

「まあとにかく、下がりなさい。」

冷静な返事が返って来た。

「おい!火をかけろ。」

「はっ!」

弓兵が矢尻に火をつけて矢を放つ。

コン!

と音を立てて矢が地面に落ちた。

「あれ?」

刺さらない矢を見てノルダーが驚く。

「なんで?」

矢尻が地面で燃えている。

「おい!松明をよこせ!」

とノルダーが松明を受け取って近寄ろうとした時だった。

ガパン!

と音を立てて屋根がひらいた。

兵士たちは剣に手をかけて見上げる。すると不意にランプが消されて乗り物の全容がみえた。見た事のない乗り物だった、大きな箱に大きな車輪が8つ付いている不思議な形をしている。屋根の上には人が半身だけ出してこっちを見下ろしている。

「私がユークリット公国サナリア領、グラムフォレストの妻イオナフォレストです。」

屋根の上から出てきた人間が凛とした声をあげた。

兵士たちはそれぞれに松明でその人間を照らした。うっすらと人がいることがわかる、女のようだった。その時小雨はいつしかやみ、雲の切れ間から月が顔を出したのであった。スッと雲間から降りる月の光が闇を割り神々しくその女を照らした。

「め・・女神・・」

ノルダーは思わずつぶやいた。そこには女神と見まごうほどの絶世の美女が、貴族のドレスを着て浮かび上がった。天からの月のはしごに照らされて女神が現れたのだった。

「皆様、夜分に門の見張りご苦労様です。黙って通せなどと大変失礼をいたしました。かわりと言ってはなんでございますが、あなた方に差し上げたいものがございますので、何卒すみやかにお通しくださいませ。」

凛とした声は美しく、兵士たちは半ばうっとりしたような表情で聞いていた。しかし一瞬の後ノルダーがいった。

「賄賂か?命乞いか?まあ捕らえろとの命令だ、悪いようにはせんよ。」

おぞましいくらいの下卑た笑いを顔に浮かべさせて、にんまりと笑い口元には糸をひいていた。

「それは、よかった・・それではこれをどうぞ・・大変珍しいものです。」

この世のものと思えない美しさの微笑みに、「ほぅ」「ぐへへへ」「おほっ」などと下品な笑みを浮かべて兵士たちは女神を見つめた。

「では、みなさまお受け取りくださいませ。」

女神は乗り物の上から何かの塊を投げてよこした。

ボト、ボト、ボト、ボト、ボト

5個の塊だった。女神が授けた5個に対して兵士は10名、争奪戦が始まった。

「おい!これは俺のだ!」

「さきに拾ったのは俺だぞ!」

「おい、なんでお前2個もってんだよ!」

「ばかやろう、俺が先だっただろ!」

「うるさい!おまえら小隊長の俺を差し置いて!俺が2つだ!」

拾った塊は確かに見た事のない物だった。鉄?黒いまるい塊に出っ張りがある・・これはいったいなんだ?珍しそうではあるが・・実際何なのか全くわからない。よく見ると輪っかのところに紐みたいなのがついて、先をみると女神につながっていた。

「こりゃなんなんだ?」

ノルダーが下品な笑顔を浮かべて聞いてみる。

「私がここを通る通行手形のようなものです。私にとっては大変価値のあるものでございます。お手を放さずに私とつながっていてくださいますか?」

女神がつながっていたいと言っている。

「お、おう!」

「いや、俺に言ったんだ。」

「ばか、俺だろ。」

「とにかくこれを俺によこせ!」

「俺のだ!」

また兵士たちが醜い争いを始めた。

ガパン!

気が付くと女神がまた乗り物の中に消えていった。するとその乗り物は来た道を反対方向に後ろむきに進み始めた。塊についている紐がピンと張りつめ、鉄の輪が抜けた。

ピンッ、ピンッ、ピンッ、ピンッ、ピンッ

驚いて足元に落としたものや、かろうじて手に持ったままお手玉したり、落ちた物を拾おうとしたりと、何とか自分のものにしようと必死な兵士たちだった。

「お、おい逃げるのか?」

と思ったら、少し先で止まった。

「何だ、驚かせやがって・・」

ボグゥ、バンッ、バガッ、ボズゥン、ドガン

手に持っていた塊は閃光と共に木っ端みじんになった。

・・それを持つ人間と周りの人間も一緒に。

それもそのはず、イオナが渡した通行手形はM67破片手榴弾なのだから。