軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第538話 大貴族の策略

リュート王国の国境を越え100魔人が王都を目指す。もちろん数台の軍用トラックも走っているが、敢えてゆっくり進み周りに大勢の魔人が歩いている。そしてすぐに最初の村が見えてきた。こんな軍勢がいきなり現れたらさぞ驚くだろうと思っていたら案の定、腕っぷしの強そうなやつが村の外に出て来る。だがさすがにかなりビビっている様子だ。

「ちょっと!ちょっとまってください!」

一人の男が走り寄ってくる。

「全体!止まれ!」

ザッ!

ビシッと止まった。

「あ、あの!あなた方は何をしにこの村へ!」

「うむ!」

「おう!」

世紀末の拳法家の長男のような大男と、明らかに影社会の筋肉隆々の男が答える。もちろんミノスとドランだった。このために連れて来たのだからここは一発かましてもらいたい。

「あ、あわわわ」

男は腰を抜かしてしまったようだ。

「うぬを驚かせるつもりはない!我らはリュート王国第一王子であらせられる、ゼドスウェン・フォン・リューテウス王子の要請に基づきリュート王国に馳せ参じた者なり!」

「ゼ…ゼドスウェン王子がなぜ?」

「おぬしは知っておるのか?ああ?」

ドランが思いっきり凄みを聞かせて語り掛ける。

「は、はぃぃぃぃ!もちろんゼドスウェンの事は存じ上げておりますぅ!」

「そうかそうか!ゼドスウェン王子は我々と共に、ファートリア神聖国に巣くう悪魔を掃討して舞い戻ったのだ!」

「なんと!ゼドスウェン王子が!」

「そうだ!」

ビリビリビリ

体に響き渡る大声でミノスが言う。村から出てきた男たちはすっかり縮み上がり、震えてすらいるようだ。あんまり恫喝しても仕方ないのでこのあたりで演出を終える。

《ゼダを通せ》

ミノスに念話で伝える。

「それではゼドスウェン王子!村の者にどうかそのお顔をお見せください!」

ミノスが言うと、沢山の魔人達の群れがモーゼが海を割るように別れる。

「ゼドスウェン王子のおなりぃぃぃ!」

ゴーグが声高らかに叫ぶと、その中を何かがやってきた。

えいほ!えいほ!えいほ!えいほ!

ゼダは、ギレザムとガザム、ラーズ、ファントムが担ぐ神輿にかつがれてやってきた。もちろん神輿は前の拠点で作ったものだ。男たちの前につくと神輿が降ろされる。ゼダは神輿から降りることなく声をかけた。

「お前たちは、この村のものか?」

「は!」

既に男たちは土下座をして地面に頭をこすりつけていた。あまりにもの圧倒的な雰囲気にのまれているらしい。

「面を上げよ!」

「は、はい!」

男たちが顔を上げる。

「しばらく王家が留守をしてしまってすまなかった。戦争に加勢に行っているあいだ、民にはいろいろと不便をかけたようだ。そして戦でかなりの戦力を消耗させてしまったため、これから国の立て直しを行わねばならない。皆も協力してくれるかな」

「もっ!もちろんです!」

「それではゼドスウェン王子!そろそろ出発のお時間です」

ジョーイが声をかけた。

「まてジョーイ!この村の長に挨拶をしていこうではないか」

「は!」

「そ、それではよろしければ村にお入りください!」

村の男が言うとミノスとドランが先に、そして50人の魔人と共に神輿にかつがれながらゼダが村に入って行った。アデルフィアとジョーイも一緒について行く。

「行ってしもうたのう」

「ええ先生。ここからはゼダの仕事です」

「そうじゃな」

「あの…私は行かなくてもよかったのでしょうか?」

「ああリズ。姫は今の所一緒に居ない方が良さそうだ。戦争から帰ってきた軍勢に姫が混ざっていたらおかしいからね」

「そうですね」

リズはゼダの事を心配そうに見送っていた。だが何かがあったとしても、魔人達を凌駕する人間など一人もいやしない。それよりもゼダが打ち合わせ通り話を通して来れるかが心配だ。

《ゼダは人が良いから村人をそそのかす事は出来るだろうか?》

しかしその不安は杞憂に終わる。ゼダは村人たちの心を見事につかみ戻って来たのだった。どうやら物凄く人望が厚い人間らしい。

「ラウル様!どうにか村人を説得する事が出来ました。腕の立つ人間に、その知らせを持って各地に走らせてくださるそうです」

「それはよかった」

そしてゼダには言わないでもう一つ仕込みをしていた。今頃ミノスとドランが話をしているころだろう。

《どうだ?》

《ええ。頑なに受け取れないと言われておりましたが、きつく言いましたら受け取りました》

《なら村長も何をすべきか分かったんだろうな》

《かと思われます》

《ならもどってこい》

《はい》

ゼダと魔人達が先に戻り、ミノスとドランだけを残して俺は村人に話をさせた。別に村人を脅すわけではない、むしろその反対で村に協力を絶対に遂行してもらうための念押しだ。

「じゃあゼダ。次の都市へ向かう事にしようか?」

「はい」

ミノスとドランが戻るのを待って、俺達は再び東に向けて出発した。俺が車に戻るとモーリス先生が座って待っていた。

「ふぉっ。上手くいったようじゃな」

「はい先生。昔に比べて魔人達もだいぶ演技がうまくなりましたよ」

「ゼダの後ろ盾に物凄い大きなものがあると、間違いなく思うたじゃろて」

「ですね」

実はミノスとドランに恫喝させてまで村人に置いて来たのは金だった。それも金貨500枚。元々滅んだ各地で入手した金がどんどんたまっていたのだが、金を使う機会なんてなかったので有り余っているのだった。ミノスとドランはこう言ったはずだ。

(これはゼドスウェン王子の個人的な餞別である!受け取れぬというか!)と。

村からしたら恐ろしい大金なので、恐らくは断るだろうと考えていた。もらってしまったら何か恐ろしい事に巻き込まれるかもしれないとか、後で確認しに来られるかもしれないとか思うだろう。それなので、ミノスとドランに脅させて金を受け取らせたのである。

「恐らくこれから村は必死に動くじゃろうて」

「まあ、頑張ってもらいましょう」

そしてその次の都市までも王子の凱旋行列は続いた。間違いなくそこでも同じことをする。2回目なのでミノスとドランの恫喝も様になってきたようだ。この二人に言われて金を受け取るのを断れる人間などいない。

俺だって受け取る。

このまま順調に行けば最東端にある分岐点のマナウ市まで、1週間もあればたどり着くだろう。休息のために停めた車の中で俺とモーリス先生が話をしていた。

「順調じゃな」

「はい」

「本当に人心掌握をするのが上手いと思うのじゃ」

「本当に…むしろ恐ろしくすら思います」

「わしもじゃ」

「これが貴族のやり方なんでしょうか?」

「そうじゃないか?わしもようわからんぞい」

「そうですね」

実はここまでの一連の作戦を考えたのは、俺でもモーリス先生でもなかった。もちろん俺がここまで考えられるわけはない。魔人達は系譜の力で言う事を聞いてくれるし、人間は魂核を書き換えたり洗脳したりして管理してきた。しかし恫喝や金の力で人間を支配していくやり方は知らない。

「あら、先生とラウル様はこんなところに居たのですね」

それを考えた張本人が俺達に声をかけてきた。

「ああカティ。ここでも同じことをしているよ。優しいゼダの言葉と、恫喝と金の力で人間の心をつかんでいく作戦は上手くいっているようだ」

「それは良かったです。まず間違いなく民はそれで動くでしょう。そしてその圧力の下から逃れようとするものは、いないはずです」

「あ、ああ。そうだね」

「う、うむ。良い案じゃ!」

「ふふふ。私が少しでもお役に立てたことが嬉しいですわ」

「さすがだよ」

「そうじゃな!さすがじゃな」

「それほどでも!それで、食事の準備が出来ましたので迎えにまいりました」

「わかったすぐいく」

「では先に行っておまちしておりますね」

「ああ」

ニッコリ笑ってカトリーヌがトラックの荷台を降りて行った。

「ナスタリアの血じゃろうな」

「ええ、イオナ母さんよりもっと強く感じます」

「むしろイオナはナスタリア家っぽく無いほうじゃからな」

「というととは、カトリーヌの方がよっぽど貴族だという事でしょうか?」

「否定はできんのう」

「ナスタリアの血ですか…」

「ラウルも苦労するじゃろうな」

「ははっ。でもただの優しい女の人より、よっぽど頼もしいというかなんというか。内政を全て任せたいくらいですよ」

「政治となったらカトリーヌが適任じゃろうて」

「僕もそう思います。一切合切を任せたいなって思います」

「うむ」

そして俺と先生が、皆が集まっている食事の場へと向かった。魔人が獲って来た肉と持ってきた野菜で作った鍋のような料理だった。

「うまそう!」

「ささ、恩師様もご主人様もこちらへ」

「えっと、もしかしたらシャーミリアが作った?」

「はい!私奴が腕によりをかけて作らさせていただきました!」

「そうかそうか!」

最近はずっとシャーミリアがマリアと一緒に料理をしていて、更に腕を上げてきたようだった。おかげでシャーミリアが新しい料理を覚えつつある。焼肉ばかりでは飽きてしまうところだったが、こうして努力してくれているところが本当に健気なやつだ。俺とモーリス先生がスープにさじを入れて飲む。

「うんまぁ!」

「ほほっ!シャーミリア嬢よかなり腕を上げたのう!」

「いえ。そんな!ご主人様や恩師様にそう言っていただけると、本当に何といっていいのやら!」

「本当にうまい」

「ありがとうございます。これもひとえにマリアの教えのおかげですわ。彼女が私奴に親切丁寧に教えてくださったのです」

「私はそんなに教えてませんよ。とにかくシャーミリアが一生懸命だから」

「ふふ。ありがとうマリア、これからもよろしくね」

「こちらこそ」

俺に幼少の頃からべったりついて育ててきてくれたマリアと、今の魔王子という立場の俺にべったりついて助けてくれているシャーミリアがめっちゃ意気投合している。どうやら似たような立場が二人の絆を深くしたらしい。

「ラウルさん」

「なんです?ハイラさん」

「美味しいですね」

「異世界の人の口にもあいましたか」

「はい。こんなにおいしい料理はこの世界に来て初めてかもしれません」

「まあ、絶対結界に閉じ込められて何も食べてなかったでしょうからね」

「それはそうですけど、ファートリアでは男っぽい料理ばかりで大味でした。でもマリアさんとシャーミリアさんが作る料理は手が込んでいるというか、本当に美味しいんです」

「ならよかったです」

「私もこの世界で生きて行くにあたって、何か力を身に付けないといけないなって思います」

そういえば…日本人の中でエドハイラの能力だけ知らない。もしくはエドハイラに特殊な能力が無いのかもしれない。もし何の力も無いのだとしたら、この世界で異世界人が生きるのは厳しいかもしれないが。

「でも、アトム神様がファートリアを救う人だとかなんとか言ってましたけどね?」

「そんな力ないですよ」

「まだわからないですけど、そのうちなにか分かるかもしれません」

「どうだか…」

「もしよかったら、彼女達と仲良くしてやってください。きっと何かがつかめるかもしれません」

「私でよろしければ、よろこんで」

エドハイラが言う。

「まあ気楽にお付き合いしていきましょう。ラウル様はそういう方ですし」

マリアが答えた。

「はい」

エドハイラも必死なのだろう。この身寄りのない世界で、友と呼べるものもいない彼女は不安で仕方ないと思う。幸せな貴族の息子として生まれてきた俺はまだ恵まれている。彼女の不幸な身の上を考えるとやはり、あのバカ神の下に置いて来るのは忍びなかった。

これでいい。俺は俺なりに自分に言い聞かせるのだった。