軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第504話 部隊再編と戦争責任

二カルス大森林からの魔獣の侵攻を止めつつも、南方の村々を確認しながらガザムとゴブリン隊がここまでやって来た。報告ではやはり生存者はゼロと言う事だった。俺達が一番東に位置する村で、子供たちを救えたのは奇跡的だったと言えるだろう。東は大森林より距離があったため、魔獣の進出がそこまで大規模じゃなかったのかもしれない。

「デモンや魔法陣の罠は無かったって事か。」

俺は久しぶりに再会したゴブリン隊から報告を受けていたのだった。都市の中央辺りにあった広場に集まって話をしていた。

「無かったです。」

「やっぱり問題は魔獣か。」

「はい。ブラックドッグや他の魔獣は森に返しましたが、屍人は未だ入ってきます。」

ティラが言う。

「ティラ。魔獣を森に返す方法ってどんなんだ。」

「えっと、説明するのが難しいです。とにかく魔獣の群れには長のような物がいて、それを森に誘導するようにすれば良いと言いますか…よくわかりません。」

「とにかくティラは二カルスの主のおかげで、それができるようになったと?」

「はい!」

南国の少女のような浅く焼けた素肌でニッコリと笑うティラが可愛い。だがなんとなくティラの今の説明で分かった。あのトレントは絶対に秘訣などを教えたわけではない。面倒くさくなってティラに丸投げした結果、ティラが勝手に身に付けたんだ。

《ティラに何事も無くて良かった…もし何かあったら、あのトレントを燃やしてるとこだ。》

「そして、タピ。その2頭はお前の言う事を聞くって事で良いんだな?」

「はい。じゃあ、お手!」

2頭のブラックドッグがタピの左右の手にちょこんと手を乗せた。細くて浅黒いこれも南国の少年のような子の手に、牛ほどの大きさもある真っ黒くて角と牙が生えた豹が手を乗せている。

「ふぉっふぉっふぉっ!これがイオナに教えてもらったという魔獣の手懐けかの?」

「はい恩師様。イオナ様は優しく心底から接すれば大丈夫と言いました。」

「ん?それだけ?」

「はい!」

うちのお母さんは何を教えているんだろう。それで出来るタピもタピだが。

「あの!俺はこんな感じの事が。」

今度はクレが何かを言い始める。

「うんうん。」

クレの腰にはその体に不釣り合いな少し反り返った剣を携えていた。そして俺達の前から離れて行く。

「えっと、ラシュタル基地で師匠のルブレスト・キスクに教わっていたんです。かなりの事を教わりまして、後は独自にいろいろと考えた結果なんです。」

「ほうほう。」

ルブレスト・キスクに鍛えられた剣技か…そりゃ興味あるな。

「ラウル様。俺にあてるつもりで拳銃を撃ってみてもらえませんか?」

「へっ?」

「大丈夫です。まあいざという時はティラが俺にエリクサーをかけてくれ。」

「分かったけど、何をするの?」

「まあ見ててくれ!ラウル様お願いします。」

とりあえず言われるままに、コルト マスタング ポケット XSPというコンパクトハンドガンを召喚した。

「本当に大丈夫か?」

「お願いします。」

クレが剣を腰だめに低く構えた。俺の想像通りならば…居合。

パン!

シュィン

弾丸はクレにあたる事が無かった。だが…その剣はまだ腰にささったままだ。

「斬ったのか?」

「はい!」

クレは後ろに走って行って何かを拾ってきた。手のひらの上に乗っていたのは真っ二つに切れた弾頭だった。それは俺達が想像する遥かに斜め上の結果だった。

「ふぉっ!こりゃなんじゃ!」

モーリス先生も驚いている。

「ラウルさん…これヤバイですよ。」

「だな。まさか銃弾を斬るやつがいるなんてな。」

「クレ、その剣を見せてくれ。」

「はい!」

クレから渡された剣は、鉈のような日本刀のような形状をしている。

「この剣はどうした?」

「ラシュタルに来ていたドワーフに頼んで作ってもらいました!」

「凄いな…。」

物凄く切れ味の良さそうな刃がギラリと光った。

「でもこの斬り方は戦いでは使えません。あちこちから狙われたら斬れませんから。」

「あくまでも見世物と言う事か?」

「はい。でも弓矢とか魔法は銃弾よりずっと遅いので、それならば戦いでも使えます。」

「なるほど。」

どうやらルブレスト・キスクはクレの素質を見抜いて、ラシュタル基地で仕込んでくれていたみたいだ。おそらく魔人にもこんな剣技を身に付けているやつはいない。

「ルブレストか。あやつはホントにおもしろい奴であったろう?」

「はい!恩師様!師匠はいろんなことを教えてくださいました。」

「なるほどのう。」

どうやらモーリス先生はルブレストの事を知っているようだな。

「あの!俺は!」

今度はナタが話し出した。

「ナタもなんかあるのか?」

「はい!」

なんか知らんがゴブリン隊の発表会のようになっている。

「えっとテーブルが必要なので持ってきます。」

「それじゃあ待ってろ。ファントム!テーブルを持ってこい!」

ファントムが消えてすぐに大きなテーブルを持ってきた。それを俺達の前に置く。

「じゃあ。」

ナタがおもむろにテーブルの上に敷物をしいた。腰に括り付けてあったのでなんだと思ったら敷物のようだ。そして腰にかけてある巾着みたいなものを取り、テーブルの上に置く。

ふぁさ

敷物の上に出てきたのは…白い粉だった。一体何が行われるというのだろう?

「そして…。」

水瓶に入った水を持ってきて少し小麦粉にかけた。俺達の目の前でナタは小麦粉をこね始めるのだった。その手際の良さに俺達が見惚れている。

「これは…。」

「アレだ…。」

「うそ…。」

俺とオージェ、グレースがピンときた。

あっという間に捏ね上げられていく小麦粉を今度は引きのばし始めたのだ。そして腰に携えてあった巨大な麺切り包丁で細く切って行く。

うどんだ。

俺達の目の前に麺をぶら下げて見せるナタ。

「すごいな!」

「食いたい!」

「誰に教えてもらったの?」

俺とオージェとグレースがたまらず聞く。

「あの、ユークリットに残留している、カゲヨシ将軍から教えてもらいました!シン国の料理をいっぱい!」

「凄い凄い!」

「ありがとうございます!あとは剣術と戦術とかを教えてもらいました!」

「マサタカか?」

「はい!」

「そうかそうか。ファートリア国のめどが立ったら彼らを国に送り届けないとな。」

「魔人の建設技術を盗んでいくと躍起になってましたので、まだユークリットに残留する事を望んておられましたよ?」

「そうか。まだ手伝ってくれているんだ。でもシン国も心配だしな。」

「はい。」

とにかくファートリア神聖国内の情勢が安定しないと、彼らの為に時間を割く事が出来ない。今の二カルスの森を越えるのは彼らには出来ないだろうし、少しの間待っていてもらうしかない。

「俺は!」

最後に名乗りを上げたのはマカだ。

「お!マカは何ができるのかな?」

「はい!ただ…食材が必要です。」

「食材?」

「はい、ルタンに集まって来た料理人たちから料理を教えてもらったんです。」

「ルタンの料理か!!」

オージェがおもいっきり食いついた。

「はい!魔人達の賄いをやるのに俺も入ってましたので、いろいろと教えてもらえました。」

「いいね。マカ君!」

オージェが大興奮している。

「じゃあマカの腕前は今日の夜にでも、ふるってもらえるか?楽しみにしているぞ。」

「はい!」

しばらく会っていない間に、彼らは彼らなりの生きるすべを身に付けていたと言う事だ。俺の一番最初の武術の師匠たちはそれぞれの道を歩き始めたらしい。

「そして魔人達を全員無事に連れて来てくれてありがとう。」

「いえ。まあ全員ではないですけど。」

ティラがガザムを見る。

「ん?どういうこと?」

「それは我から説明を。」

ガザムが話を始めた。

「二カルス大森林からの魔獣はティラがどうにか鎮めてくれたのですが、屍人や魔法を使うスケルトンなどは依然進出してきます。それらがそのままファートリア国内に侵入して来れば、人間達に甚大な被害が及ぶでしょう。それ故に廃村となった村々に30人ほどの魔人を配備させていただきました。魔獣の進出は彼らがくい止めます。その間にラウル様の方で施策を考えていただけますと助かります。」

「それはいいなガザム!とにかく南のライン防衛の体制を整えなくてはな。それまでは魔人達に任せておくとしよう。この都市で確保した魔術師と騎士も大勢いるからな、彼らを各村々に派遣して村を復興させるといいだろう。」

「は!」

どうやら南のラインはガザム達の応急処置で、二カルスのゾンビの浸食を防いでくれているようだ。今回この都市で回収した人間達の、魂核の書き換えをして送り込めばどうにかなるだろう。

《ただ…魂核の書き換え作業…あれは辛いんだよなあ。》

《ご主人様。ではアナミスの洗脳に留めてはいかがでしょう?オージェ様と一緒に来たセイラもおりますし、それも使えるかと思われますが?》

《いや。長い目でずっとそこに留まってもらう事を考えているからな。人間を変えてしまった方が安全だろう。》

《申し訳ございません。差し出がましい意見を申し上げました。》

《ミリアはいつも俺を心配してくれてありがとうな》

《かようなお言葉…ハアハア…身に余る…はあ》

ヤベ!シャーミリアを褒めちゃった。

「こ、コホン!それじゃあ南のラインはどうにかなりそうだな。ギルの方はどうだった?」

「中央は以前通った時のままでした。ここから西に危険個所は既に無いかと思われますが。」

「とすればここから聖都、そしてさらに東って事か。」

「はい。」

更にファートリアの奥に魔人達を配備する必要があるという事だ。その東には小国のリュート王国があるが、まだ国境を越えてはいない。その先をどうするかだな…

「ドランの所にゼダとリズがいるんだよな?」

「はい。」

ギレザムが答える。

「どんな感じだった?」

「魔人達に混ざって拠点づくりの手伝いをしておりました。」

「帰りたがってはいなかったか?」

「話をしておりませんので、彼らが何を考えているのかまでは分かりません。」

「わかった、そのうち足を運んでみる。」

「はい。」

そして俺は最後に北から合流したスラガを見る。

「俺は村を3カ所みてきました。」

「それで捕まえたのがその3人か。」

「はい。どうやら北から俺達が進行してきたら、この都市に通達する役割を担っていたそうです。」

「なるほどな。」

俺の前には眠って縛られている3人の人間が転がされていた。どうやら村人に化けて俺達を監視する目的だったようだ。

「ってことは、他の村にもいる可能性があるって事かね」

「そう推察されます」

「それらの洗い出しも必要か…だが…本体無き今、こいつらの帰る場所なんてどこにも無いんだがな。いまさら数人が散らばっていたところで何をすることも出来ない。むしろ被害者みたいなもんだし、スラガには引き続きそういう人間を探し回ってもらう方が良さそうだ。」

「わかりました。俺が村々に入り込みながら地方を回りましょう。」

「泥臭い仕事だけど頼むな。」

「いや、ラウル様のお役に立てるのならば喜んで。そして村人の話を聞いたりするのも案外楽しいものですよ。」

「わかった。何か…スラガって凄いな。」

「俺がですか?特にそんなことは無いと思います。」

どこをどう見ても日本の高校生のように見えるが、これがあの凶悪な巨人になるんだからな。しかもこの国では黒髪と黒い目はシン国からの旅人のようにも見えるし、村人達には温かく迎え入れられそうだ。潜入捜査が向いているかもしれない。

「ラウルよ、その前にまずはここの1500人もの魔導士と、3000からなる騎士を何とかせにゃいかんぞ。」

俺が考えているとモーリス先生が言う。

「はい先生。もちろんです…ちょっと日数がかかりそうですが、出立の準備が出来るまで私はここに待機する事になりそうです。」

「ここのほぼ全員を聖都に送るのじゃな?」

「はい。」

《ただ…その前に全員の魂核の書き換えをするつもりだけどね。デモンの干渉を受けたままの人間をそのまま戻すわけにはいかないから。》

この都市にいた人間は全て捕えていた。1000人ほどはサキュバス霧毒弾丸を受けており、損傷部分をグレースが出したハイポーションで治療した。サキュバスの洗脳状態はそのまま継続しているようだが、デモンの干渉を受けていたため魂核の書き換えが必要なのだ。

「先生。とにかく私の配下は全てファートリア国内にいます。西側の状況は安定しつつありますので、ここにいた兵達をどうにかすればすぐにでも作戦が発動できるでしょう。」

「ラウルが足止めか…ならばわしらが先に東へ向かっておくとするか?」

…なるほど。ここの兵の魂核をいじる間の時間、遊んでいる訳にもいかないか。聖都と一番東のミノスの拠点に兵を戻す必要があるな。

「そうですね先生。聖都ではグレースの収納庫が必要になりそうですし、先に移動していただいたらありがたいです。」

「うむ。ならばそうしよう。」

「でしたらエミルを呼びます。そのままヘリで聖都に飛んでください。」

「わかったのじゃ。」

《ミノス。》

《は!》

《エミルに伝えてくれ。そこから南西に800キロほど飛んで迎えに来てくれと、付近に来たらシャーミリアが迎えに行く。》

《御意》

「エミルが来ます。」

「わかったのじゃ。」

「よし!では部隊を4つに分ける!ここに数日残留する部隊、ヘリで聖都に向かう部隊、東の拠点へと陸路で戻る部隊、各地の残党を探し出す部隊だ。」

「「「「「「は!」」」」」」

部隊編成は次の通り。

都市残留で4500人の魂核書き換えの手伝い

俺、マリア、シャーミリア、ファントム、カララ、アナミス、ルピア、マキーナ、ティラ、タピ

聖都に戻りサイナス枢機卿と復興に向けての調整及び、東南部への残党狩り部隊

モーリス先生、グレース、オンジ、ラーズ、ゴーグ、ギレザム、ガザム、クレ、マカ、ナタ、魔人数名

北東部の拠点に戻り、部隊再編後さらに東へ向かう部隊

オージェ、トライトン、セイラ、ダークエルフ隊、魔人数名

そしてスラガ隊は引き続き、国内の村々に散らばった可能性のある残党探し。

全員がファートリア国内に散らばり、正常化に向けての最終調整に入るのだった。明日の朝から全員が新たな作戦へつくことになる。

「よし!それじゃあ今宵は、マカが作ってくれるというルタンの絶品料理で祝勝会といこうじゃないか!ナタのうどんも食わしてくれよ!」

俺が言う。

「「「「「「おー!」」」」」」

顔を真っ青にした捕えられた兵達をよそに、俺達だけが盛り上がるのだった。

《敵兵全員の魂核を書き換える作業だけ気が重いけど…》

ただ申し訳ないがファートリア国内でアヴドゥルやデモン達に洗脳され、国をボロボロにした君たちがいけないのだよ。君たちがした事は本意じゃないとはいえ、罪は償わなければならない。デモンの力にあらがえずに従ってしまったのは、国内の腐敗した政治とアトム神への信仰を弱めたからだ。一生かけて国の為に無欲で働き続ける人間にしてあげよう。

そしてそれが戦争で負けた人達の当たり前の使命なのだよ。