軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第502話 使役のための狙撃

俺達は都市から少し離れたところで車を降りグレースが車両を回収する。俺達が来た事はすでに敵に気が付かれているだろうが、警戒すべきなのは魔法だろうと思われる。魔法で狙われるのを注意しながら森を縫うように近隣まで近づいてきたのだった。この世界の大きい都市はどこも魔獣対策の市壁があるのだが、この都市も多分に漏れず市壁に囲まれており中を見る事は出来なかった。

《アナミス!上空から見て城壁の上に人はいるか?》

《いえ。おりません。》

「先生、城壁の上に敵はいないそうです。」

「ふむ。では魔法や弓矢で狙い撃ちされる事もないじゃろな。」

「はい。」

「まあ攻撃されたところで、すばしっこいゴーグには当たらんじゃろうし。」

「それでも油断は禁物です。」

「分かったのじゃ。」

先生は魔導士のローブと帽子を身に付け、高価そうな魔導の杖をかざしてにんまりと笑った。白くてフワフワの髭がまるでサンタクロースのようだ。乗っているのはトナカイじゃなくて巨大狼だけど。

「森から市壁までの距離は約500メートル、それまでに敵の攻撃が飛んで来ないとは限らない。シャーミリアとファントムはゴーグの両脇をはさむように走り先生を護衛しろ。何か攻撃が来たら全て対処するんだ。」

「は!ご主人様!」

「‥‥‥。」

「じゃあゴーグ!先生を頼むぞ。俺はお前の上を飛ぶからな。」

《わかりました。》

ゴーグは狼形態なので念話で答える。

「カララとラーズは結界が解け次第、マリアとダークエルフ隊を市壁まで連れていけ。」

「はい。」

「御意。」

「グレースは武器の補充要員として呼ぶまでここに残り、オージェとトライトンは敵を寄せ付けるな。オンジさんも十分に気を付けてください。」

「「了解。」」

「わかりましたー。」

「注意いたします。」

「では!皆時計合わせ!30秒前‥‥3,2,1」

ピッ

魔人達に渡している軍用の腕時計の時間を合わせた。魔人達が腕時計を触っている光景はやはりシュールだ。

「行くぞ!」

ゴーグがモーリス先生を連れてダッシュで走り出す。俺はその上を飛び上からの攻撃に備えて先生の防御にあたる。両サイドにはシャーミリアとファントムが遅れることなくついて来ていた。

「うほほほぉ!」

なんか約1名めっちゃテンション上がってるおじいちゃんがいる。でもこのおじいちゃん俺にはめっちゃ優しい。そんな優しいおじいちゃんが杖を振り上げて狼にまたがり、帽子を押さえつつも雄たけびを上げている。

「先生!壁に到着します。」

そして何事もなく市壁に張り付く事が出来た。

「敵は攻撃してこんようじゃの?」

「おそらく市壁の上に居れば狙い撃ちされる事を分かっているのでしょう。相手は元日本人ですので兵器の事はある程度知っているはずですし。」

「なるほどの。」

「先生。結界はどうですか?」

「ほほっ解除に関しては問題ない、児戯にも等しい簡単な式じゃな。問題は相当の数の魔導士がこの結界に魔力を注いでいると言う事じゃ。わしが相手の数を見誤るほどにはいるようじゃ。」

「どのくらいいると思われます?」

「さすがここはファートリア神聖国といったところじゃの。魔導士だけで1500と言ったところじゃ。」

「せっ…そんなにいるんですか?騎士じゃなくて魔導士がですか?」

「ふむ。日本人の魔導士の力は既に見ておるからのう、それを差し引いても1500人はいるじゃろうな。」

「えっと…先生は昔、私に教えてくれました。初級の魔導士で騎士10人分の戦力、中級の魔導士で騎士100人分、上級魔導士ともなれば1000人分の戦力があると。それが…1500人もですか?」

「おおラウルよ!よお覚えておったのう!あのころの勉強が懐かしいのう。」

モーリス先生は俺が幼少の頃を思い出しているようだ。

「せ、先生!今はそれは置いておきまして。」

「そうじゃな。」

「本当に解除できますかね?」

「わしだけじゃ無理じゃな。ラウルの魔力をこの杖を媒介にして注ぐしかあるまい。」

「えっと、日本人魔導士と1500人以上の魔導士がいるんですよね?1500対…私と先生?」

「大丈夫じゃよラウル。つべこべ言わずにやってみい。」

「わかりました。」

俺が結界の解除に備えようとすると、モーリス先生が慌てたように振り向いた。

「あーまってまって!一つ言うておくが、おもいっきりはダメじゃぞ。わしの杖がもたん可能性があるからのう。そうじゃな…十分の一か…いや…十五分の一…いやいや…。」

「どうしたらいいでしょう?」

「三十分の一以下におさえて…いやいや…待てよ…。」

「どうすれば?」

「この杖も案外貴重なのでな、百分の一くらいから試してみてくれるかの?なにせあのユークリットの書庫の時に比べると、ラウルの魔力が見えんほどになってしもうたからのう。」

ん?百分の一では無理だろさすがに。

「本当に私の総量の百分の一で本当に大丈夫ですか?」

「いい、いい!それでやってみてくれるかのう!」

「それで本当に1500人の魔法結界が解けるものなのでしょうか?」

「その時はわしも覚悟を決めよう。杖はまたどこかでもっと良い物を入手すればよい。」

「わかりました先生の合図で魔力をあげていきますので、少しずつ増やす感じで良いでしょうか?」

「うむ。そうしてもらえると助かるのじゃ。この杖…高いのじゃ。」

「わかりました。」

《たぶん…杖を壊す事になってしまいそうだ。だけど結界を突破しない事にはどうしようも無いからな。》

モーリス先生が市壁に向けて杖をさし出した。杖の先についている大きい魔石が輝き出す。先生は魔法の術式を解除できるといっていたから、後は俺が魔力を注ぐだけだった。先生の合図を待つ。

「ほい。」

「はい!」

俺は杖を壊さないように、本当に本当にソフトリーに魔石に魔力を流し込む。先生の杖が壊れたら申し訳ないので、気持ち抑えめにセーブしてから流すようにした。

「では行きます。」

「うむ。」

シャン!!!!

耳をつんざくような音がした。

!?ヤバ!

「先生!罠でしょうか!?」

俺が慌てて先生に聞く。

「ううん、ちがうのじゃ。」

「まさか!杖が壊れた!」

「杖はなんとか持ちこたえたようじゃ、ヒヤッとしたがのう。」

「では、解除失敗ですよね?杖が私の魔力に耐えられないんじゃあ他の手段を考えないと!」

「いや、何を言うておるラウル。杖は壊れとらんと言っておるじゃろうが。」

「代わりに媒介にできる大きな魔石を探せばどうにかなりますか!?」

「いらんのじゃ。だって壊れていないのじゃから!」

「ですが…。」

ヤバイな‥先生の魔法の杖を壊しちゃったな。

「解除出来ちゃったし。」

「それでは困りますよね…えっ」

「なんか消えたみたいじゃ。」

「今のでですか?」

「そのようじゃ。 」

「よ、よかった。あれ?先生の杖も壊れていないようですね。よっぽど簡単な術式だったのでしょうか?」

「いや敵は恐らく敵は数日かけて準備したに違いないのじゃ。」

「さすがは先生!」

「いやいやいや。おぬしの魔力が途方もないからなのじゃが。」

「いえ違います!」

「賢者のわしが言うておるのじゃ間違いないわい!」

「あ…。すみません。」

とにかく大規模魔法結界は解けてなくなってしまったようだった。

「では、すぐに指示を出します!」

《カララとラーズ!マリアとダークエルフ隊を市壁の下へ連れてこい!》

《はい。》

《御意》

俺達が待っているとそばまで、カララとラーズに守られたマリアとダークエルフ達がやって来た。

《アナミス、ルピア、マキーナは、市壁の上に何も無いか確認してくれ。》

《《《はい!》》》

「ファントムとシャーミリアはそのまま先生の護衛を。俺も上空に上がる。」

「は!」

「‥‥。」

俺がヴァルキリーのバーニアを噴射させて上空に舞い上がると、市壁の上で3人が鏡面薬を使い魔法陣の有無を調査していた。

「どうか!?」

「今の所ございません。」

十分な足場を確保したので俺は次の行動に移す。

「カララ!マリアとダークエルフ隊を一気に市壁の上に吊り上げろ!」

「はい!」

シュッ

するとマリアと数十名のダークエルフ隊は一気に市壁の上に現れた。カララがその蜘蛛の糸で隊員を巻き上げて市壁の上に乗せたのだった。

「マリア!ダークエルフ隊!すぐに市内に向けて照準を合わせろ!」

「わかりました。」

「「「「「「は!」」」」」

「人間達がいました。」

「騎士か?」

「はい。もしくは魔導士かもしれません。」

マリアが言う。

「マキーナ!オージェとグレースたちを連れて来てくれ。」

「は!」

マキーナが森の方へと飛んでいく。

「各自スコープで都市内部を確認し、騎士や魔導士を補足しておけ。」

「「「「「「「は!」」」」」」」

少し待っているとマキーナが、オージェとグレースを呼んできを。トライトンとオンジはモーリス先生と一緒に下にいるようだ。

「よし!マリア!ダークエルフ隊!これから高濃度のサキュバスの霧毒弾丸を使って、この都市内にいる人間達を全て撃つ。攻撃中に結界が張られて攻撃が通らない奴がいたら放っておいていい。弾丸を跳ね返す結界が張られた場所には日本人がいる。それ以外は射撃訓練だと思ってくれていいからバンバン撃つんだ。ただし!即死をさせないために頭と心臓や急所を狙わないようにしてくれ。足か手にあたれば霧毒で眠るはずだ。」

「はい。」

「「「「「「「「は!」」」」」」」

「撃て!」

バシュ

バシュ

バシュ

各自のスナイパーライフルが火を放ち、その数キロ先では人間達がパタパタと倒れていく。

「グレース!霧毒弾丸はどのくらいストックあるかな?」

「3万発くらいありますよ。」

「十分すぎるな。」

「ですね。」

そもそもディジーとミーシャが、なんでこの非道な弾丸を3万発も作ったのかは分からないが、とりあえず撃ち損じなども考えると今は助かる。スナイプショットを行うマリアとダークエルフ隊の後ろにグレースが回り、補給用の霧毒弾丸を置いて行くのだった。マリア達は手探りで弾丸を取り、手元を見ないでスナイパーライフルに装填していく。

「手慣れたもんだな。」

「ああオージェ。元々ダークエルフは弓矢とかが得意な種族でな、狙撃はマリアが教えていたんだ。この狙撃部隊はずいぶん昔からいる古株なんだよ。」

「そういうことね。」

しばらく撃ち続けていると、射撃の音が止まった。

「ラウル様。」

「どうしたマリア?」

「どうやら敵が撃ってくる方向に気付いたようです。建物の中に入ったり隠れたりして射線が通らなくなってきました。」

「了解了解。それは想定通りだから大丈夫。」

そして俺はアナミスとルピアとマキーナを見る。

「えっと万が一のために俺を護衛して、周囲から攻撃が飛ばないかを確認していてくれ。」

「「「はい。」」」

「じゃあ敵をあぶりだしてくるから出てきたら撃っちゃってねー。」

「「「「「「「は!」」」」」」

ダークエルフ隊が返事をする。

「ラウル様お気をつけて。」

「大丈夫。マリアは狙撃隊を指揮していてくれ。」

「はい。」

「オージェ!グレース。」

「なんだ?」

「なんでしょう?」

「狙撃の位置を変えたい。市壁を反時計回りに動いて45度ほど周りこみ狙撃隊を配置してほしい。」

「「了解。」」

「じゃ。」

「あのーラウルさん。」

「なんだグレース。」

「僕も撃ちたいんですけど。」

「ああ、補給さえしてくれればやっていいよ。」

「わかりました。」

そして俺はそのまま都市の内側へと飛び立つのだった。マキーナとアナミスとルピアがM240中機関銃とバックパックを背負ってついて来る。俺は敵がいそうな建物の上空に来て3人に言う。

「お前たちは一旦、上空から危険が無いか確認していてくれ。俺に大規模な攻撃が及びそうなときは援護を頼む。」

「「「はい。」」」

そして俺は一気に一つの建物に降下する。マリア達が移動したであろう反対側にまわり、窓ガラスの外から中を見た。

「な、なんなんだ!」

「血が血が!」

「とにかく、建物の中なら攻撃してこないようだが‥‥。」

「あれがアブドゥル様の言っていた悪魔の力なのか?」

中では騎士や魔導士たちが右往左往していた。どうやら倒れて眠っているやつからは血が出ており、それを止めようと止血している者もいた。どこから攻撃されたか分からず、血の気が引いている者がほとんどだった。

「パニクってるな。」

《我が主。後ろから魔導士が狙っているようです。》

《大丈夫だ。それも狙い通りだ。》

《魔導士が倒れました。》

《マリアが狙っているからな。建物からこっち側に顔を出したら撃たれるのさ。マリアが標的を外す事は万が一にもないよ。》

《なるほど。我が主が囮を買って出ていると言う事ですね。》

《というわけだ。》

そして俺は周りを気にしながらも、窓ガラスを割りM84スタングレネードを放り込んだ。

「な、なんだ!」

家の中ではM84スタングレネードは爆発し、180デジベルの爆発音と100万カンデラの光を放って炸裂した。

ボン!

ピカッ!!

キーン!!!

「う、うわああ!」

「し、死ぬううう!!」

「にげろ!!。」

「殺される!」

《うん。スタングレネードじゃ死なないけど、相当ビックリはするよね。》

俺がスタングレネードを投げた反対側に、驚いた人間達が転げ出て行った。

「そっちは大変だよ。」

家を出たとたんにパタパタと倒れていく兵士達。サキュバスの霧毒弾丸が足や腕に命中して眠ってしまったのだろう。ダークエルフ達の腕も冴えわたっているようだ。

そして俺は一気に上空に上がった。

「アナミス、ルピア、マキーナ!建物の南側から回って、この手榴弾をばらまいてくれ。足りなくなったらまた取りに来い。くれぐれも敵の攻撃には気を付けるんだぞ。一応マリア達が援護射撃をしてくれているから問題は無いと思うがな。危ないと思ったらすぐに上空に上がれ。」

「「「はい!」」」

軍用のバッグに詰め込んだM84スタングレネードを召喚して3人に渡すと、それぞれ都市内に散って行く。兵士あぶり出し狙撃作戦が開始されたのだった。

しかし…俺のネーミングセンスも大概だな。