軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第488話 龍神の指導と精霊神の加護 ~エミル視点~

俺達はルタン町兵舎の前にある広場に集合していた。

全兵士達へは作業が休みだと伝えてある。早朝から一人も欠けずに3000人全員がここに集まっていた。いま俺達が見ている前では、兵士達にオージェが号令をかけて”ビシィ”っと整列していた。

「休め!」

ザッ

オージェの声がびりびりと響き渡る。相変わらず凄い迫力だ。

「毎日鍛錬を怠っていないようで俺は嬉しいぞ。」

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」

足を肩幅に広げ腰に手を組んだ兵士たちが返事をする。なんていうか自衛隊の訓練風景でも見ているようだ。

「今日はお前たちの仕事は休みだが、1日俺と組手をしてもらう!」

「「「「「「「「‥‥‥。」」」」」」」」

「どうした!怖気づいたのか?」

「「「「「「「いいえ!」」」」」」」」」

「ならどうなんだ?」

「「「「「「「大変うれしく思います!」」」」」」」

「よし、それじゃあ徹底的にどこまで出来ているのか見て行く事にする。おまえとおまえ、そしておまえとその後ろのヤツそしてその隣のヤツ前に出ろ。」

「「「「「はい!」」」」」

タタタタタタッ!

素晴らしく機敏にオージェの前に駆け足をして整列をした。

「よし!ひとりひとり意気込みを聞かせろ!」

‥‥えっ?そんなことすんの?

「はい!私は久しぶりのオージェさんとの組手に胸が躍ります!」

「はい!私はこれまで鍛錬を怠らずに、この日に備えてまいりました!」

「はい!私はオージェさんと離れてから常に何が自分に必要かを考え続けてきました!」

「はい!私は以前お褒め頂いた体術を欠かさず訓練してまいりました!」

「はい!私は人々のお役に立てるよう、日々精進し勉強してまいりました!」

5人ははきはきと元気な声で答える。

「よし!お前たちの意気込みは良くわかった!すぐ5人全員でかかってこい!」

「「「「「はい!」」」」」

そう言うと5人はオージェにかかっていく。その前では3000の兵士が休めの姿勢で組手を眺めているのだった。

オージェの打撃により一人、また一人と地面に組み伏せられていく。

「…そりゃそうだよな。だって人間なのに、相手はオージェだぞ?トライトンさんはどう思う?」

「わいも似たようなものですが、まあご愁傷様とでも言っておきましょう。」

「それが一番合っている言葉だな。」

俺とトライトンが話しているそばから、オージェの怒号が聞こえて来る。

「立てぇぇぇい!」

ザッ

倒れた5人は一気にシャキっと立ち上がった。

「もう一回!」

「「「「「はい!」」」」」

え…またやんの?

そして俺達の前で5人があっというまにボロボロになっていく。

「エミル…あれ大丈夫なの?」

ケイナが心配そうに聞いて来る。

「ケイナ、大丈夫だ。オージェは相手の状態を見てギリギリで攻めている。」

「そうなんだ。」

たぶん…そうだと思う…

するとまたオージェの怒号が聞こえた。

「よし!もとの位置に戻り休め!」

「「「「「はい!」」」」」

ザザザザザザ

あざだらけになりながらも全員が元の場所に戻り、休みの姿勢をとった。

いやいやいや、座らせてやんねえのかよ。

「つぎ!お前とお前と----」

また次の5人がオージェの前に整列する。

「よし!ひとりひとり意気込みを聞かせろ!」

ええ!!!これ3000人全員やるの?マジで?

「はい!私は------」

オージェに5人が意気込みを聞かせた後、またボロボロになるまでしごかれる兵士達。

「みんな、ここはオージェに任せて向こうで休みませんか?」

俺はマキーナ、アナミス、セイラ、ケイナに言う。

「では私はエミル様の護衛につきます。」

マキーナが言う。

「そうですね、では私はラウル様より申しつけられている、ルタン町の状態の調査をしてきます。」

「そうだね。アナミスさんよろしくお願いします。」

「じゃあ私はエミルについて行くわ。」

「わかった。町長に話を聞いたり、洞窟の状況を見たりするから一緒に行こう。」

「うん。」

「セイラさんはどうします?」

「私はオージェ様の訓練を見ていたいと思います。」

セイラはにっこり笑って言う。

まあ…そう言うだろうと思った。

「わかりました。あまり暴走しないように見ていてあげてください。」

「はい!わかりました。」

トライトンに限ってはオージェの組手を特に興味もなさそうに見ていた。だが彼はオージェの付き人なのでそばを離れる事も無いだろう。

「しかし…オージェのやつ。ブラックだな。」

「ぶらっく?エミルなにそれ?」

「まあ兵士たちが大変だなって事だよ。」

「まあ…そうね。」

まるでブラック企業の朝礼と軍隊のしごきのような場を離れて町内を歩いて行く。ルタン町内を歩いてみると、とにかく人がごった返していた。

「活気づいてるね。」

「そうみたいね。」

俺とケイナが歩く後ろをマキーナが護衛の為についてくる。

「獣人もいっぱいいるし、なんか安心したよ。」

「そうね。二カルスの森では大量の獣人が殺されたものね。」

「ああ‥‥。」

こうして獣人が平和に生きていられるのは、魔人達が北の大陸を制圧してくれたおかげだ。ラウルはこの状況を全域に広げるために必死にやっているんだなと再確認する。

「都市も近代的だし。」

「なんかグラドラムみたいだけど、カラフルじゃないのね?」

「だな、鼠色の建物が多い気がする。」

ケイナの言う通りグラドラムより色目が無く石造りの建物が多かった。

「木造もところどころにあるけど。」

「あれは元からあった建物だと思う。」

「なるほどねー。」

四角い石造りの家の通りを歩いて行くと、ひときわ大きめの木造の建物があった。

「こちらですね。」

マキーナが言う。

「ありがとうございます。」

俺がその建物の前に行くと、玄関が内側から開いた。

「お待ちしていましたぞ!エミル様!」

パトス町長だった。俺が来るのを待ち構えていたらしい。

「ああ、昨日はごちそうさまでした。」

「いえいえ。いかがでしたか?」

「それはもう美味しかったです。」

「よかったよかった!お嬢様は喜んでいただけましたか?」

パトス町長はケイナに向けて言う。

「もちろんです!あんなにおいしい料理はエルフの里にもありません。」

「おお!そうですか!しかしエルフの里には伝説の酒があると聞きます。」

「ネクターですね。」

「そうそう!」

「美味しいですよ。」

「そうですかそうですか!とにかく立ち話もなんですので、こちらへお入りください。」

俺達は応接室に通された。

「ところで、ファートリア神聖国の状況はいかがなのです?」

「まだ聖都を奪還したばかり、国内には残党がまだまだ残っておりこれから掃討作戦に移る予定です。」

「そうですか…早く正常化される事を祈ります…。」

パトス町長は悲しそうな顔をして伏せた。

「そのために今回は来たのですから。」

「そうでしたね。」

「それでお話とは?」

「はい、この度いらっしゃると言う事で、前線で働いている方達の労いも込めていろいろな物資を用意しました。それを持って行っていただけるものかと思いまして、物資を見ていただきたかったのです。」

「おお、それは冒険者や魔人たちも喜ぶでしょう。」

「そうですか!それでは後ほどご確認いただきます。」

「わかりました。」

「それと…もう一つ。」

「なんでしょう?」

「ここにいる魔人達に聞いてくれと言われている事がありまして。」

「魔人達に?」

「はい。」

「なんです?」

「自分たちはいつ前線に行けるのか、聞ける時間があったら聞いて欲しいと。」

パトス町長が困ったような顔で言う。

「はは、それはパトス町長に言われても困るでしょうね。」

「そうなのです。ですが一日も早くラウル様のお役に立ちたいとの事でして。」

「残念ながらそれは私では相談になりませんね。」

「そうなのですね…ダークエルフのダラムバさんに言ってもダメなようで、私の所に話に来るのですよ。」

「なるほど、そこで私に相談というわけでしたか。」

「そうです。」

「わかりました。ラウルには何とか言っておきましょう。」

「そうですか!エミル様にお願いした旨を魔人達に話してもよろしいですか?」

「ええ、いいですよ。本当に言いますし。」

「ありがとうございます。なんだか今回は人間の兵士を連れて行くと言う事で、それならば自分たちもと言う若い魔人が多いのです。」

「まあその気持ちは分からんでもないですが、戦いが一段落したらラウルが巡回したほうが良いかもしれないですね。」

「ただ…お忙しいのでしょう?」

「まあそうですね。ラウルは特に。」

「とにかく気長に待ちましょう。あの子たちがとても熱心に訓練などをして、ラウル様のお役に立つように頑張っているのです。私もそれを見て、放っておけない部分もあったのですよ。」

パトス町長は額の汗をハンカチで拭いながら言う。俺に言うのにすら緊張していたらしい。顔から優しさがにじみ出ているが、魔人の若手を思いやる気持ちがあるなんて博愛的な人だ。

そしてメイドたちが冷たい飲み物を運んできた。

「どうぞお飲みください!」

「ありがとうございます。ではこれを飲んだら、ぜひその物資とやらを見せてください。積載量などの問題もありますので。」

「わかりました。」

飲み物を飲みながらその場で他愛もない話をし、労いの為に送るという物資を見にいく事にする。

町長の家を出てすぐのところにある倉庫にあるようだった。

ガラガラガラガラ

「どうぞこちらへ!」

倉庫のドアを空けてパトス町長が中に入っていくので、俺達3人が付いて行く。すると倉庫の中には所狭しといろんなものが置いてあった。

「これは…。」

「はい、状況が分からなかったので申し訳ないのですが、他国の人たちに会う時の為に幹部様達の正装をご用意いたしました。それと高級薬草のクラル草やファルマコ実、ドロル木の皮などの束が御座います。そして保存食としてグレートボアの干し肉。こちらにはグラドラムから渡すように依頼のあった、噴射剤と氷手榴弾と炎手榴弾の箱、エリクサーとハイポーションの箱づめです。」

「かなりの量だ。」

「持って行けますでしょうか?」

「ヘリの中には人を乗せていくから、巨大な箱に入れて吊るしていけば何とかなるかも。」

「それでしたら…。」

「何かあるのですか?」

「グレートボア用に作った檻があります。」

パトス町長がそのまま倉庫を出てその隣に置いてあった檻を指さす。グレートボアが丸々1匹は入りそうな檻が置いてあった。

「ああ、これなら十分です。」

「良かった。それじゃあ行く時に持って行っていただけますか?」

「はい。」

「私のお願いは以上でした。エミル様からは何かございますか?」

「いや、これからダラムバたちと洞窟に行くけど問題あるかな?」

「いえ、まったく。」

「了解です。」

「では私は公務に移らさせていただきます。」

「はい、私たちもこれで。」

パトス町長と別れ街中に行くと、待ち合わせの場所にダラムバとマリスがいた。

「お待たせしたね。」

「いえ、それほど待ってはおりません。」

「では行きましょう。」

俺がダラムバに頼んでいたのは、森の奥にあるという洞窟に連れて行ってもらう為だった。

「ダラムバさん。この森は危険なのですか?」

「もともと人間には安全な場所ではありませんでした。ですが我々が介入し魔獣が奥に移動したらしく、特に危険な場所ではなくなったと思われます。」

「そうか、なら街が魔獣に襲われたりはしなくなった?」

「はは、我々がいて魔獣が町に寄り着くなどありません。」

「それは良かった。」

俺達が森の中を進んでいくと洞窟の入り口が見えて来た。洞窟にそのまま入っていくと中にはたくさんの魔人や獣人が働いていた。壁にはランプがかけており中は明るく照らされている。

「ここでは何をしているんだい?」

「洞窟の奥には魔獣もいるのですが、燃える石が取れるのですよ。」

ダラムバが言う。

なんと、どうやら石炭が取れるらしい。

洞窟の奥に行くと中には炭鉱夫のような恰好をした魔人や獣人たちが居た。それぞれがつるはしなどを持って石炭を掘っていたのだった。

「誰が見つけたんですか?」

「こいつです。」

ダラムバは隣にいるマリスを指さす。

「凄いねマリス君。」

「た、たまたまです!」

「君の発見で街の活気が分かったよ。これは石炭っていうんだ、これは使いようによっては車も動かせるんだよ。」

「そうなのですか?」

「そういう機関が作れればね。」

「凄い…。」

マリスはキラキラとした目で俺を見る。前世の常識を話しただけなのだが、魔人と言うのはどうしてこうも純粋なのだろう。

「ダラムバさん。でも崩落などで怪我をする人もいるでしょう?」

「まあそうですね。」

「では地の低級精霊による加護を洞窟全体に与えます。それにより不意な事故は少なくなるはずです。」

「あ、ありがとうございます!」

ダラムバが嬉しそうに言う。

その後も洞窟内のあれこれを確認し、危険個所などを見ては精霊の加護を与えた。土の精霊はケイナも使えるのであちこち危なそうな所を見て回る。洞窟は広くかなりの時間を費やしてしまった。

「ひととおり見ましたので大丈夫です。」

「助かりました。」

「はい。それじゃあそろそろ戻ろうかと思います。」

「行きましょう。」

「あ、あとランプで火災が起きるといけないので、光の低級精霊を住まわせます。灯を使わなくても明るくなると思いますよ。」

「わかりました。」

俺は気になっていた洞窟の安全を確保した。けっこうあちこち見回ったので時間がかかってしまった。だがオージェはまだやっているだろう。

俺達は洞窟を出て、魔人達が根城にしているという町にやって来たのだった。

「ここに魔人達がいます。」

ダラムバが言う。

「いっぱいいるね。」

「かなり増えたと思います。」

「なるほどです。ではここの魔人達に伝えてください、ラウルの役に立つ仕事をしているのだから焦る必要はないと。だけどみんなの事はラウルに伝えておく。そう言ってくれませんか?」

「お気遣いありがとうございます。エミル様からならかどは立たないでしょう。」

「まあ、あいつは忙しいからね。かるーく言っておくよ。」

「過度な期待をしないようにさせます。」

「そうしてください。」

町長の家に行き、洞窟の処理をして魔人の街を視察したら既に夕方になっていた。

「じゃあ、兵舎に戻ります。」

「はい。」

俺はそう言いながらも魔人達の街に、風の低級精霊を住まわせるようにした。やはり魔人達が集中して住む町は魔力濃度が濃い。人間の子供などには体調を崩すものが現れるだろう。

「じゃあお前達、人間の子供たちを守っておくれ。」

俺の手からフワリと光の玉が魔人達の街に飛び立っていくのだった。

「さて、ケイナ。マキーナさん戻るとしますか。」

「はい。」

「かしこまりました。」

《ラウルは忙しくて気が回らんだろうからな…。》

俺はあちこちの拠点に行くたびにやっていた事を、ここでも淡々とこなすのだった。

俺とケイナとマキーナが再びルタンの街の中を歩きだした。