軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第450話 伝説の冒険者

何も無い空中に浮かび上がった火の玉が、音を立てて俺に向かって落ちて来た。

ああ…この泥棒髭は何度も窮地を潜り抜けてきたのに、レベルアップするわけでもなく強くなるわけでもなく本当にポンコツだったなあ…。そもそも見た目が悪すぎだし、思うように動かないし良い事が一つもなかった。

俺が泥棒髭の走馬灯を見ている間も火の玉が迫ってくる。

そして俺の泥棒髭が、巨大火の玉の直撃で消滅してしまうと思われた瞬間。

《みんな!逃げてくれよ!》

皆に最後の思いを伝えた。

パアアアアアアッ

‥‥‥

‥‥‥

‥‥‥

「‥‥あれ?消えてない。」

そう…なぜか俺の泥棒髭は消えなかったのである。

周りを見渡してみると…

俺の周りに半円形の透明なドームでもあるかのように、火が俺に届くことが無かったのだ。どういうわけか火の玉の直撃を受けたにもかかわらず燃え尽きていない。

「バ、バリア?」

辺りはゴウゴウと燃えているのだが、俺の泥棒髭ハイグールは消滅せずにそこにいた。

「なんと!あの小汚い泥棒髭の盗賊風の男がラウルとな!」

とても聞き覚えのある、俺が心の底から安らぎを覚える声が聞こえてきた。

「せ、先生!!」

「本当のようじゃな、何とも‥‥気色の悪い。」

ピューン

ドゴーン!

空中でおもいきり爆発が起きた。

「ギャッ」

次の瞬間空中に赤褐色の巨大な龍が現れた。

ピューン

ピューン

ドゴーン!

ドゴーン!

2発3発とドラゴンに命中していく攻撃。

「あれは、榴弾砲。」

《ラウル様!大変遅くなってしまい申し訳ございません!》

《ラーズ!》

《危ない所でしたな。》

《かなりの負傷者がいる。》

《既にライカンにエリクサーをもたせて急行させています。制止をふりほどき恩師様は先に向かわれましたが。》

《ああ、もうそこにいるよ。俺を守ってくれた。》

《間に合って良かったです。》

《ああ、凄い先生だよ。そして、良く榴弾砲を透明ドラゴンに当てられたな。》

《ラウル様から下賜されたENVG-Bナイトビジョンにて目視できました。》

《なるほど、その手があったか!》

どうやら俺が渡していたENVG-Bで見えないドラゴンが見えているらしい。そう言われてみればあれは暗黒の闇でも人間や動物を確認できるからなあ。

とにかく車両部隊が間に合ってくれた。

空中を飛んでいたドラゴンがよろよろと地面に落ちて来る。不可視だったその体を日の元にさらして、ずたずたになりながらも飛ぼうとするのだが、すでに浮力は無くなってしまったようだ。そしてその背には爆風を受けてボロボロになっている女がいた。気を失ったのか死んだのか、ピクリとも動かない。

《ゴーグ!アナミス!ルピア!こっちにこい!》

《《《はい!》》》

逃げていた3人を念話で呼び戻す。

《ギル!ミノス!ドラゴンを仕留めろ。》

《は!》

《御意!》

榴弾砲の直撃を受けてもドラゴンは死んでいなかった。が、羽と首をやられて地面付近まで落ちてきている。飛べないのであれば超進化した今のギレザムやミノスの敵ではない。

しかしドラゴンの目の光は消えておらず、俺達を威嚇するように睨んで吠え続けていた。

「デカいな。」

その赤褐色のドラゴンはとても巨大で、その目は怒りに満ちており、それでも背に乗った女をかばおうとしているようにも見える。どうやら女が死ななかったのはドラゴンが身を挺して守ったためのようだ。

ドゴッ

そんなドラゴンの頭の上にギレザムが現れたと思った次の瞬間、思いっきりかかと落としでドラゴンの頭にたたきつける。

バズゥ

鎌首を上げたドラゴンの頭が一気に地面にたたきつけられ、もうもうと土ぼこりが上がった。その刹那、ミノスがドラゴンの腹のあたりに、恐ろしいほどのスピードと破壊力で体当たりをぶちかます。

ボッゴオ

ボギン!

世紀末の拳法家の王のようないでたちの男。

赤褐色の巨体が思いっきりくの字に折れ曲がり、何らかの骨が折れる音が聞こえた。それでもどうにか軽く頭を持ち上げて口をひらき始める。

その口の中に光の粒子が集まっているようだ。

「危ない!先生!火の玉です!」

「なんじゃ!」

ドラゴンが火の玉を吐こうとした寸前だった。ギレザムが両の手を合わせて握り再び頭上から思いっきり振り下ろした。

ドゴン!

バズゥ

バフーッ!

ドラゴンは火の玉を吐く直前に、ギレザムの拳を受けて強制的に口を閉じられてしまった。そのためどうやら口の中で火の玉が破裂してしまったらしい。地面に押し付けられた目と鼻から炎を吐いている。

そのままドラゴンは動かなくなってしまった。

《死にました。》

《わかったギル!女を捕縛しろ。》

《は!》

俺はギレザムに指示を出して周りを見渡す。すると俺の後ろにはモーリス先生が立っていた。

「先生!」

「お、おう…ラウルなのかい?」

「そうです!」

「何という…みるも無残な姿になりおって…。」

ん?モーリス先生は何か勘違いをしているらしかった。

「えっと、モーリス先生!信じられないかもしれないですが、これは遠隔操作というものです。私自身がこうなってしまったわけではありません。」

「な、なんじゃと!そうかそうか!」

モーリス先生がホッとした表情を浮かべている。

「先生のおかげで助かりましたよ。この泥棒髭のおかげで私はここで指揮をしていられるんです。」

「足が取れてるようじゃが。」

「それは、そのうち治りますから大丈夫です。」

「ああ、エリクサーでかの?」

「いえいえいえ!あれはこの体にかけてはいけません!」

泥棒髭にエリクサーなんてかけたら消滅してしまう。

「どうやって直すんじゃ?」

「えっと、シャーミリアに治してもらうんです。」

「そうかそうか、そういう術があるのかの?」

「そうです!あの…ファントムの…」

「あー!はいはい、ラウルよ!みなまで言うな。」

「分かりました…。」

どうやらモーリス先生はファントムの補給を思い出したくはないらしい。

「ともかく良かった、わしの可愛いラウルがこのような姿になってしまったら、可哀想でならんかったわい。」

「ご心配ありがとうございます。」

そんな話をしていると街道の向こうから戦闘車両が見えて来た。本当にギリギリ間に合ってくれたようだった。

「ラウル様!」

向こうからラーズが走り寄ってくる。

「おおラーズ。ご苦労様。」

「すみません、恩師様がいきなり駆けだしていくものですから。」

「ふぉっ!すまんのうラーズよ。ラウルが危険じゃと聞いていてもたってもおれなんだ。じゃがこんな姿のラウルに会うとはのう。なんというか感動も半減じゃな。」

「すみません。これは世を忍ぶ仮の姿でして…。」

「冗談じゃよ。」

モーリス先生は変わらずいつもの調子で笑っていた。次々と訪れる戦闘車両と兵士達に囲まれながら、負傷者たちが担ぎこまれていく。車両には大量のエリクサーを積載しているので十分復活できるだろう。

「女を連れてきました。」

ギレザムが女を担いで連れて来た。

「生きてるのか?」

「はい。」

「縛れ。」

「は!」

そして配下達が縄を持ってきて女をすまきにした。

「アナミス!」

「はい!」

アナミスがやってきて女の耳元で何かをささやく。するとスーッとうつろな目を開けた。

「ルピア、ポーションをくれ。」

俺はルピアからポーションを受け取って女にふりかけた。ドラゴンに守られつつも負ってしまった怪我が治っていく。

やはり女は日本人だった。ホウジョウマコとは違って、髪は金色に近い茶髪で、ゆるふわな感じで巻いている。その優しそうな顔つきは、先ほどの乱暴な言葉が出て来るとは思えない可愛らしさがある。

「お前は日本人か?」

俺がアナミスを介して質問を始める。

「そう…。」

声も優しそうな感じで、ちょっとギャルっぽい雰囲気だ。

「なぜ俺達を攻撃した?」

「悪魔だから。」

「そうか、あのドラゴンはなんだ?」

「私が使役している。」

「なんで透明なんだ。」

「私のスキル。」

そうか、やはりこいつの特殊スキルだったのか。さすがにドラゴンの使役と透明スキルはかなりやっかいだったな。

「ドラゴン以外にも使役できるのか?」

「できる。」

「何頭までできるんだ?」

「分からない。」

「どうやって身に付けた?もともとか?」

「もともとだけど、教えてもらった。」

「だれに?」

「神官様のとりまき。」

「どんな奴だ?」

「とても優しい人。」

「女か?」

「そう。」

どうやらこの女にもともとあった能力を誰かが導いたようだ。やはりテイマーの能力を持った奴が敵にいるらしい。騎士たちが乗っている魔獣たちを使役したのは恐らくそいつだろう。

《日本人部隊が接近中です。》

女を尋問していると、ルピアが日本人部隊を確認した事を念話で伝えて来た。

「アナミス。眠らせろ。」

「はい。」

茶髪巻き髪の女はすまき状態のまま再び眠った。

「ラーズ!車両部隊を雑木林の向こうに隠せ。」

「は!」

そして俺の周りに集まってきていた一般兵に指示を出す。

「縛り上げた女たちを装甲車に入れて閉じ込めておけ。」

「「「は!」」」

ダークエルフやゴブリンたちがホウジョウマコと茶髪の女を連れて行った。

「ラウルよ。やってくる敵とは同郷の者達じゃないのかの?」

「一応、投降するように促したんです。ですがその気はないらしく攻撃を仕掛けられてしまいまいて、一人殺してしまったのです。」

「…そうか、なら敵は怒ってるじゃろうな。」

「さらに捕えた女の一人を、敵の魔法使いが思いを寄せているようでして、恐らく奪還するためにこちらに追いかけてきているものかと思われます。」

「なんとややこしい事じゃな。」

「はい。」

《敵影はあと30分ほどで目視できるかと思います。》

ルピアから報告が来た。

「先生、説明は後で。もう敵はそこまで来ているようです。」

「わかった。」

「あ!それと先生、敵にも結界を使う者がいて私の銃を弾いたのです。」

「ほう。それは凄い結界じゃのう。」

「特攻しか対応策は無く難儀しております。」

「どうするつもりじゃ?」

「遠距離砲撃で一気に殲滅してしまおうかと思います。私たちの兵器で結界が破れればいいのですが…」

「なるほど、恐らくそこまで強力な結界もはれんだろうから攻撃は通ると思うがの、同郷の物は死んでしまうぞ。」

「こちらに被害が及ぶよりはいいです。」

「それも悪くはないが…情報は取れんのう。」

「それは諦めます。」

「ふむ。ならばわしに考えがある。」

「考えですか?」

「ゴーグちゃんを貸してくれんか?」

ゴーグ…ちゃん?えっ?モーリス先生はゴーグの事、ゴーグ”ちゃん”って呼ぶの?

「それはかまいませんが、先生も前線に立つのですか?」

「大丈夫じゃ、もちろん無理はせん。」

そしてモーリス先生が俺や周りの魔人達に説明していく。

「いやあ‥先生。それはいささか先生に危険が及ぶかと。」

「大丈夫じゃ。わしも冒険者ではちっとは名の知れた存在じゃったのを忘れたのか?」

「もちろん覚えてはおりますが。」

「ラウルの銃ならいざ知らず、この世界の道理で繰り出される魔法攻撃であれば対処できるというものじゃよ。」

「わかりました。では…ゴーグ!それとライカン部隊4人は狼形態でモーリス先生の指示をもらえ。」

「ん?気を回すでない、むしろゴーグちゃんだけでよいのじゃ。」

俺が護衛の為にライカン部隊を周りに配置しようとしたが、それをモーリス先生から却下されてしまう。

「ですが。」

「大丈夫じゃて!」

「先生、くれぐれも…。」

「過保護じゃのう…大丈夫じゃ!わしを信用せい!」

「…分かりました…。ゴーグ!頼んだぞ!」

「はい!」

俺はしぶしぶ先生の言う事を聞く。

「ではダークエルフ隊も言うとおりにお願いするのじゃ。」

「「「「「は!」」」」」

「よし、先生の言う事を信じてやってみよう!いざとなったらギレザム、ミノス、ラーズ!分かってるな!」

「「「は!」」」

先生が立てた作戦を俺達が実行する事になった。

とはいえ、俺の泥棒髭は足が無いので身動きが取れない、オーク一般兵が俺をおぶってくれている状態だった。俺達の場所からも敵の日本兵が率いる部隊が見えてくるのだった。

「ではいっちょやるとするかのう。」

先生だけがやたら張り切っていた。