軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第447話 戦局

「申し訳ございませんでした。」

俺が泥棒髭から意識を離して聖都が見える森に戻って来た途端に、シャーミリアから謝られてしまった。

「なんだ?何の謝罪だ?河童の事か?」

「それも含めて上手く事が運べず、撤退を余儀なくされてしまいました。私がもう少し耐えていれば。」

「ああ…いやいや!元よりちょっかいを出すためだけにやったようなものだから。と言うよりもあそこにデモンがいたら早々に撤退していたよ。日本人の魔法使いまで手が回らなかっただけだ。」

「しかしまだやれた事があったのでは?」

「無い無い。情報は十分すぎるほど取れたし、河童1体くらい仕方ないさ。むしろあんな強い日本人を1人殺せて、そのうえ日本人の女を捕獲したんだから上出来すぎるくらいだ。日本人の剣士も相当な手練れっぽかったしな。」

「はい…。」

「それよりもシャーミリアには、すぐにやってもらいたい事がある。」

「なんなりとお申しつけください。」

泥棒髭の補修のため騎士の死体を食わせるようにシャーミリアに依頼した。ギレザム達が森林戦闘時にゼロ距離射撃で結界を破り、何人かの敵騎士を仕留めてくれたおかげで死体を入手。その死骸をミノス達が拾ってきてくれたので、その素材で泥棒髭だけは復活させられそうだった。

《あの拳闘士の死体を補強のために回収したかったが、あの魔法使いの地面から生える土槍は危険だ。あの場面では逃げの一手しかなかったな。とにかくラーズの部隊と合流させて武器弾薬を補充させねば。》

森を迂回している車両部隊がギレザム達の元へと急行している。トラックには弾薬もたっぷりあるから、補給後に攻撃を再開しても遅くは無い。

それより…

部隊を撤退させたロスよりも、かなり重要な情報を引き出せた事の方が大きい。

敵の上層部が銃の存在を知っている事。

敵は日本人を何らかの形で召喚している事。

敵は少なくとも6人の日本人を召喚している事。

日本人召喚の目的は悪魔を討ち取るため、勇者召喚だと思い込ませて戦わせている事。

ファートリアやバルギウスの騎士たちより日本人の方が位が上だと言う事。

日本人にはスキルと呼ばれる特殊能力がある事。

日本人には強力な防御結界が張れる事。

日本人魔法使いは目視した場所に石槍が出せる事。

日本人の誰かには敵を感知する能力が備わっている事。

日本人の魔法使いはバフの能力を持っている事。

日本人の結界は連結LV2のゼロ距離攻撃でようやく殺せるぐらいの強さがある事。

そしてホウジョウマコの能力。

さらにその能力で、バルギウス小隊長クラス以上に強化した5人の騎士を倒せる剣士がいる事。

まあ、あのままギレザムがゴーグかミノスに白兵戦を仕掛けさせれば、余裕で始末出来た可能性はあるが、石槍の危険性がある以上撤退しか選べなかったがな。

《ラウル様。》

北のラインでデモンと接触したであろうドランから念話が入る。

《ドラン!状況は?》

《村の東50キロ付近で敵デモンと接触しました。》

《攻撃は通用したか?》

《しました。ただ敵の空と地下からの攻撃によりこちらにも損害が出ております。》

《敵は?》

《徹底抗戦の後に沈黙。今はなりを潜めて動きが見えません。》

地下からの攻撃か…そりゃ厄介だったな。

《被害の状況は?》

《ヒトロク式1台大破、ナナヨン式1台大破 ハチナナ式1台中破 後の車両は無事です。ゴブリン隊に死亡者が2名、オークに重傷者1名、軽症者多数。》

《そうか…ゴブリンが二人死んだか…》

《は!名誉の戦死にございます!》

名誉ね…

やはり1次進化未満の魔人には前線での戦闘は重荷だったかもしれないな…

そいつらの亡骸は魔人国に送還してルゼミアに埋葬してもらおう…

《ですが、デイジー殿のエリクサー注射を首元に打ち込んだ所、すぐさま蘇生し無事に生還しました。》

ズルッ

俺は初めての戦死者をどうしようかと考えていたのだが、例のデイジーミーシャ製のチートエリクサー蘇生装置により無事に生還したらしい。

《敵のデモンは討ち取ったのか?》

《現状はまだ確認できていません。》

《そうかデモンを確認するまでは進軍するな。》

《は!》

《リュート王国の兄妹はどうしてる?》

《無事に後方の車両にて待機しております。ですがあの者達は…いえ…なんでもありません。》

ドランが口ごもる。

《なんだ?》

《普通の人間より力が強いと申しますか、魔人ほどではないにせよ成長が甚だしい気がします。》

ああ、やっぱりあの兄妹にも出ちゃったか…それ。

《ドラン。気にするな人間は魔人達と居るとそうなるんだよ。》

《わかりました。》

イオナもマリアもミーシャもミゼッタもなった。カーライルやオンジも大きく影響を受けていた。人間が大勢の魔人達と行動する事で体に大きな変化がある。

ただ‥放射線の被爆みたいに人体に悪い影響がないと良いんだけど。

《他には?》

《デモン達が出現した更に東に潜伏していた斥候からの伝令です。》

《なんだ?》

《さらに人間達の軍隊がこちらに向かっていると言う事です。》

《ああ、やっぱりそっちに行ったか。途中で俺達がすれ違った奴らだと思う。》

《大丈夫でしょうか?》

《そうだな…》

もちろんドラン達にも俺達のジャングルでの戦闘内容は伝わっている。日本人がいた事と、そいつらが驚異的な能力を持っていた事。それに苦戦して俺とギレザムがひきいる部隊が撤退した事。

《ドラン!そいつらに接触する前に全員徹甲弾に切り替えろ。敵が攻撃に備える前にデモンと同じ要領で一斉攻撃を仕掛けるんだ。出来ればダークエルフ隊により長距離狙撃による奇襲攻撃が望ましい。どこかに高台を見つけてダークエルフを派兵し待ち伏せしろ。》

《分かりました。》

《敵は察知能力を持っている可能性がある。さらに弾丸が貫通しないような結界を張るかもしれないが、強力な武器の攻撃は試していない。狙撃を切り抜けてきた部隊には155㎜榴弾砲の一斉掃射をお見舞いしてやれ。》

《はい。》

《ゼロ距離攻撃なら通常弾が貫通する事は確認済みだ。だが敵がどんな能力を使って来るのかは分からん。また死人が出る可能性があるから慎重にな。》

《は!》

既にドランに話した今の俺の話はスラガにも伝わっているだろう。スラガはかなり強い。もしかするとアイツ一人でも戦局を変えられる可能性があるが、敵が石槍以上の攻撃能力を持っていた場合、大きな損害を受ける可能性がある。とにかく遠距離からの奇襲攻撃でどれだけ削れるかを試してもらおう。

《まだデモンの消滅を確認していないなら、それを急いだ方が良いだろう。しかしそれも慎重に行ってくれ。俺達が聖都まで進む間に転移魔法は確認できていないが、他の方法でも転移できる可能性はあるからな。》

《かしこまりました。》

どうやら北の部隊は一度デモンを退けたらしい。しかしガザム隊と同じくデモンの痕跡を見失ってしまったようだ。敵に転移魔法がある以上、完全に撃退したことを確認するまでは動けない。動いた後に兵站線を切るように出現されるとかなり厄介だ。

俺はドランへの指示を終える。すると俺の元にオージェとグレースがやって来た。

「ラウル。どんな状況だ?」

俺は再びオージェとグレースに戦況の報告をするのだった。さらにジャングル戦とホウジョウマコから知りえた情報を全て話し、日本人を一人殺害した事を報告する。

「すんなりはいかせてくれないみたいですね。」

「ああ。」

「日本人が死んだか…。」

「ああ、オージェ。でなければこちらの誰かが死んでいた可能性がある。それにそうしなければ敵の情報を集める事は出来なかったよ。」

「責めてはいない。自衛官としての気持ちがまだ残っていただけだよ。」

「神様になっても変わらずか。」

「ああ。」

やはりオージェには複雑な心境だったようだ。だが手加減してやれるほど弱い相手でなかった為、ああする以外に方法が無かったのだ。

そして俺達は日本人がこちらに何人来ているのかの推察と、日本人がもつ能力をどうやって制していくべきかの話をする。

「その石槍は厄介ですね。」

「そうなんだ。その強度もわからんから、魔人達がどの程度まで耐えられるかもわからない。しかし敵の石弾はスナイパーライフル以上の貫通力と精度を持って狙って来る。白兵戦なら剣士は恐らくミノスかギレザムで余裕で押さえられるだろうが、やはり日本人の魔法使いが要注意だな。」

「俺なら対処できそうだがな。」

「ああ、オージェがいたのなら状況は大きく変わっていただろうな。」

「だが、透明ドラゴンの存在が気になるんだろ?」

「そうだ。カースドラゴンやそれ以上のモンスターがでないとも限らないからな、オージェ一人にそれらを対応させることはかなり危険だ。」

「俺がリヴィアサンを呼び出せればな。」

「オージェさん。それを言うなら虹蛇だって同じことですよ。」

「いや、待て待て。二人は虹蛇とかリヴィアサンの力知らないだろ?」

俺が慌てて二人に言う。

「そう言われればそうだな。」

「確かに僕も知りませんね。」

「恐らく二つの神格化した蛇が暴れたら、世界が破滅する事になると思うよ。」

「そんなにですか?」

「ああ、だから虹蛇は人の住む場所では決して本体を出さなかった。」

「そうなんですね…。」

「リヴィアサンだってそうだ、ラシュタルではほんのちょっと顔を出しただけで壊滅しそうになったんだぞ。」

「それは…良くないな。」

「恐らく世界の破滅ってやつだよ。」

「なら覚醒させないようにしときます。」

「俺もだ。」

いやマジで。せっかく助けたグラドラムやラシュタルとシュラーデン、バルギウスの人間たちまで死んでしまったら元も子もない。世界を助けるためにやっているつもりだからな。

「とにかく、なるべく被害を出さないように制圧したいというのが本音だ。」

「わかりました。」

「わかった。」

「敵が銃の存在を分かっているとなれば、聖都にも結界が張ってある可能性が十分にある。」

「それを調べるにも銃を撃たねばならんと言う事か?」

「撃てば潜入したことに気が付かれるでしょうね。」

「だが遅らせれば俺達が先に潜伏している利が失われてしまう。」

「タイムリミットはあと9時間。9時間の間に動かなければ仕掛けるって事でいいですか?」

「変わりないよ。俺の最大魔力を使ってマリアに狙撃させてみるさ。」

「敵は顔を出しますかね。」

「ここまでは動きが無かったがな。」

「動きが無ければ総攻撃をかけて離脱するだけさ。」

ファートリア全土で魔人達とデモン達の攻防が始まった。さらに人間の敵兵も活発に動き出している。いまだに光の柱の謎も解けていないままだ。手探りで情報を集めながら総攻撃の準備を行わなければならない。

《ラウル様!》

《どうしたギル?》

撤退中のギレザムから念話が繋がる。

《敵が追撃してきました。》

どうやら日本人たちは簡単には俺達を見逃してはくれないようだった。

《シャーミリア!泥棒髭の状態は。》

《8割は回復しております。》

《80%か。》

《しかし能力は10割出せるように調整しました。》

《よし!上出来だ!変わってくれ!》

《かしこまりました!》

俺はシャーミリアが直してくれた泥棒髭に再びログインするのだった。