軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第440話 異世界のルート

俺たちは、ファートリア聖都から数キロほど南東の、山岳地帯の森に潜伏し相手の動きを監視していた。その森のとある一本の巨木の根元に、俺とオージェとグレースの3人が座りこんでいる。

カーライルとオンジとトライトンから席を外してもらい、転生組だけで話をすることにした。魔人達は念話で共有されるため、それぞれ哨戒行動をしながらも話しを聞いているだろう。もちろんカトリーヌもルフラをまとっているので筒抜けだが問題はない。

「どうしたものか…。」

俺は腕組みをして呟いた。

俺の考えは基本的にグレースと一緒だ。こちらの脅威になるのであれば排除するしかない。それが例え同郷の人間であってもだ。しかしオージェとエミルは神でありながらも、前世の記憶も感情も持ったままの、元自衛官とドクターヘリパイロットの意識が強い。どちらも前世では日本人の命を守ってきた2人だった。

…さらに2人はそれほど割り切りの良いタイプじゃない。

《うーむ。仕方ないとは思っていても、納得は出来ないかんじかな?》

《申しわけございませんラウル様。私には良い助言が出来ません。》

カララが俺のぼやきを念話で読みとって答えた。

《私もです。》

ルフラも同意した。

しかし…

《私はオージェ様のお気持ちが理解できます。》

セイラだけがオージェに同意する。もちろん自分の創造主である龍神だからと言うのもあるだろう。同郷の人間を殺す事に抵抗がある、オージェの気持ちが分かると言った。

《セイラ。あなたはご主人様の僕なのですよ。ご主人様の意思決定が全てと知りなさい。》

シャーミリアが優しく諭しているが、少々ピリついているのがわかる。

《待ってくれミリア。セイラの意見も貴重なんだ、蓋をしないでほしい。》

《は!差し出がましい真似をお許し下さい。》

《もちろんお前の意見も貴重だよ。》

《は!》

俺が今はっきり決めないと亀裂が入りかねないな。ここにエミルはいないが、合流して話している余裕もない。なので俺の考えを素直に述べてみることにする。

「俺の考えを言うがいいか?」

「もちろんだ。」

「もちろんです。」

オージェとグレースが身構える。なんとなく2人とも不協和音になりそうな空気を感じていたらしい。

「俺は俺の仲間に危害が加わりそうなら何者も容赦はしない。だか今回は特別な事情がある。」

「ああ。」

「はい。」

「それに、2人にはまだ話したい事があるんだ。」

2人は俺の次の言葉を待っている。

「まず敵は俺たちの事をどこまで知っているだろう?」

「それは流石にわからん。」

「僕もです。」

「俺の推測なんだが、敵は俺達の事情を知って、日本人を召喚したんじゃないと思うんだ。」

「と言うと?」

「あちらの世界から渡ってきた俺たち転生者が日本人だったから、召喚者も日本人になったんじゃ無いかと考えてる。」

「どういう事だ?」

オージェもグレースも首を傾げる。

「知り合いだった俺達4人が、この世界に呼ばれたのは偶然じゃないと思わないか?」

「まあそうだな。」

「間違いなく必然でしょうね。」

「そうだ。俺たち4人は恐らく、全く同じ道を辿ってこっちに来たと思うんだ。」

「そんな気はしてる。」

「ですね。」

やはり2人とも魂の繋がりの道筋の事は感じていたらしい。

「俺たちが似たようなルートで呼ばれたんだとすれば、その魂の道はどこかに爪痕を残したと思うんだよ。」

「ラウルさんは、何者かがその爪痕を見つけたと言うのですか?」

やはりグレースは頭の回転が速い。前世の林田の時も、この飲み込みの良さからくる、正論やら反論には舌を巻いたものだ。

「そうだ。その道筋を辿ったら、今回も召喚されたのが日本人だったんじゃないかと思うんだ。」

「俺たちがきた道をその日本人達も辿ったと?」

「ああ。」

「そのルートを通して何者かが日本人を召喚したと言う事ですか?」

「そうだ。道のようなものが出来ていてそこを通してきた。そんなふうに思えるんだ。」

「なるほど…。」

「そうかもしれませんね。」

ホウジョウマコの素性を聞く限り、適性で呼ばれたのではなく、ランダムに連れてこられたような気がしていた。まあここまでの推察に一切の確証はないが、勘だけが正しいと伝えてくる。ホウジョウマコを連れて来るか仲間を連れてくるときに、芋づる式に6人がついてきたような気がするのだ。

「俺が西の人間の魂核に触れた事は、みんなも承知の通りだ。」

「はい。」

「ああ。俺も書き換えられてないか不安になった奴だな。」

「そうそう。もちろんオージェを書き換えてなんていないがな。あの時、なんて言うか輪廻みたいな物を見たんだ。」

「輪廻?」

「そうだ。魂の起源みたいなもんだ。」

「それが何か関係あるんですか?」

「さっきアナミスがな、捕まえた日本人の魂核が、俺たちのそれと似ていると言ったんだよ。」

「似ているってですか?」

「ああ。」

「なるほど、転生者と召喚者の魂が似ていてもおかしくはないか。ましてや日本人だしな。」

「確かに同じ日本人ですもんね。似ててもおかしくはないですね。」

「そう思うんだよ。」

これは一度、魂の道筋のような物を見たことがある俺だからわかるようなもんだ。もしかしたら敵にも、俺とアナミスがやった事と、似たような事が出来るデモンがいてもおかしくは無い。その時にルートかコードのようなものを見つけて、引っ張ったのではないかと推察したのだった。感覚的な物でしかないが、輪廻に触れた俺は半ば確信めいた物を感じていた。

「今までの俺たちの動きや情報の機密性から考えると、魔人達やモーリス先生から漏れる事はない。」

「それはそうだな。」

「僕もそう思います。」

「ただ気になる事もある。」

「なんだ?」

「なんです?」

「俺は一度、相手の大神官に手札である現代兵器を見られていると思うんだ。」

「えっ!」

「そうなのか?」

2人が驚く。

「ああ、敵の正体の確証はとれていないが、グラドラムの決戦で敵に転移魔法を使う奴がいたんだ。俺は恐らくそいつがアブドゥルとかいう大神官だと思ってる。」

これは推測でしかないが…今までの状況から考えても大きく外れることはないだろう。

「なるほどです。それならば敵が異世界の存在を探っていもおかしくはないですね。」

「ああ。こんな兵器がこの世界にあるとは思えないだろうからな。」

「なるほどな、その経緯があってたどり着いたのが俺たちの元の世界って事か。」

「そんな流れが1番自然だと思ったんだ。」

「まあ、しっくりくるな。」

「ラウルさん流石です。」

2人が納得してくれたようだ。あくまでも推測の域を出ないが、辻褄があう気がする。情報のパズルを合わせればかなり確率が高い。

「問題はここからだよ。」

「だな。」

「ですね。」

2人は俺の考えている事がわかったようだ。

「異世界召喚が何度もできるのかどうかだ。」

「だな。そうなると…。」

オージェが言う。

「一回限りなら良いが、何度もできるのだとなればかなり深刻な事態だな。」

「そうなるな。」

ここまで来ると3人とも考えることは同じだった。

「2次被害を防がないといけませんよね?」

「そういうことだ。」

「だな。」

グレースの意見に俺とオージェが賛同する。もし異世界召喚がこの一回限りなのだとすればそれほど問題はないが、繰り返されれば大勢の日本人が死ぬ。もしくは勇者として戦わされるだろう。

「テロリストに一度でも身代金を支払ったら、何度も同じことをするってやつですね?」

「そうだグレース。」

「またコラテラル・ダメージということか…。」

「ああオージェ。これで俺たちの侵攻が弱まったり、相手に突き入る隙を与えたら、勘付かれる可能性があるって事だ。意を決してやらなきゃならない。」

「まあ手を抜いたりしたら、何かあるな?って思うだろうな。」

「そういう事。そして既に敵の大神官やデモンからは、こちらの情報を掴まれていると思って戦った方が良いという事だ。」

「ようは躊躇なくやらねば、相手にヒントを与えてしまうだろうという事だな」

「すまんなオージェそういう事だ。不本意かも知れんがこれ以上、日本人の血が流れるのを防がないといけない。」

「わかった。まあ、戦争をしているわけだからな、ラウルが言うのが正論だとわかってるよ。ただ昔の記憶がな、俺にストップをかけてしまうのさ。」

「オージェは悪くない。」

「僕も単刀直入に正論を吐いてしまいました。言葉足らずですみません。」

なんか、これ既視感あるなあ。前世でもこうやって話し合いながら4人の最適解を見つけてやってきたんだ。

「で、どうするよ。」

「ホウジョウマコは返さないよ。とりあえず俺たちが捕らえておく事にする。」

「ラウルさんに、なにか考えが?」

「女を人質として利用し、敵日本人に武装解除や投降を促す。まずは殺さなくても済む方を模索してから、話し合いの余地がなければ人質もろとも始末する。」

……………

「あの…僕よりシビアな答えでびっくりしました。」

「まったくだ。絶対敵にしたくないと改めて思った。」

俺が決める事によって、2人の間に禍根を残さないように配慮したつもりだが、今のが俺が出した1番の答えだ。本当にそうしなければ、第二第三の被害者が出るだろう。

正直、戦争をしているのだから甘い事を言ってる暇はない。ここは前世の国際法があるわけでも、ジュネーブ条約があるわけでもない無法の異世界だ。

魔人国はおろかラシュタル王国の王と民、グラドラムの王と民、ユークリットで生き残った民、占領したバルギウスの市民、シン国の将軍達とその民、リュート王国の兄妹、ニカルス大森林のエルフの里、そしてモーリス先生やサイナス枢機卿たち。さらには神になったオージェ、グレース、エミル、また俺の1番大事な家族達の命を預かっている。

敵に召喚されただけの日本人にかける情けなど1ミリもない。

《まあ、呼ばれた日本人達には我が身の不幸を呪ってもらうしかないな。》

《ご主人様!それでこそまさしく覇王。世界の王たるにふさわしきお考えかと思われます。》

シャーミリアがうっとりしちゃってるようだ。でもそれが今の俺が背負うもの。敵に日本人がいたところで些事にすぎないのだった。

そう考えていなければ今ごろ俺は仲間もろとも死んでいただろう。それだけこの世界に来てからの人生は過酷だった。

俺がなぜ決まっている事を、わざわざオージェやグレースと話をしに来たのか?

それは簡単な事。

コンセンサスを取るためだ。最初から答えが決まっていたが、俺が嫌なのは内部の不協和音だった。

仲間達の仲が悪いって嫌じゃん!

って事。

「2人には驚かれるかもしれないが、隙をつかれて2度と仲間を失いたくないんだよ。それが俺の考えだ。」

「わかった。」

「わかりました。」

2人が頷く。オージェとグレースが納得してくれれば、エミルはどちらかと言うと多数決に乗る保守派だし問題はない。

とりあえずやることは既に決まっているので話しを終える。

「じゃ、そういうわけだから!」

そう2人に言い残し、俺は木上に作られた聖都の監視場に登るのだった。

うだうだ話していても仕方がないし。

「マリア。どうだい?」

「変わらずです。」

マリアが俺に単眼鏡を手渡す。

確かに変わった様子がない。相変わらず魔獣に乗ったやつらが市内を回り、空には翼竜に乗った兵士がいる。大聖堂にもなにも特に変化はなかった。

「ふぅ。」

俺は軽く溜息をつく。

タイムリミットはあと1日。そこまでに何も起きなければ聖都への攻撃をしかける。なるべくなら敵の大将を仕留めるか、重要人物を捕らえて一般市民への被害を食い止めるように交渉したいのだが。

「まあ今までの敵の動きを見てりゃ、交渉が通用する相手じゃないがな。」

さっきのオージェたちとの会話の名残で、ついボヤいてしまった。

「ラウル様のお気持ちが天に届く事を祈ります。」

マリアが俺の右手首あたりを掴んで微笑む。幼少の頃から何度この笑顔に救われた事か。木の上には俺とマリアとマキーナだけ、俺はそっとマリアの肩に頭をつける。するとマリアは何も言わずに、俺の肩に手を回してギュと抱きしめてくれるのだった。

「マリア。ずっとありがとうな。」

「これからもずっとおそばにおります。」

聖都を眺めながらほんの少しの間そうしていた。マキーナは隣にいるが、そんな俺とマリアを見ないで監視に集中してくれている。

「早く争いの無い世界を作りたい。」

「はい。必ずできると信じています。」

マリアに言われると落ち着く。前世の大人の記憶を持って、幼少期から彼女と共に生きてきたが、乳母的な存在としていつも心の拠り所になってくれた。

《マリアは、この世界の基準では既に行き遅れの年齢だ。戦争が終わったら彼女の責任も俺が取ろう。》

そんな事を考えた時。魔人達の温かい気持ちが俺に流れる。どことなくシャーミリアとカララやセイラの笑い声が聞こえたような気がした。

どれ、嫌な事は早めに片付けますか!

俺は1人心の中で自分に言い聞かせるのだった。