作品タイトル不明
第437話 3人の敵
俺が占領軍に指示をだしてから12時間後、ドランとスラガの部隊から念話で連絡が入った。斥候からの伝令が来てデモン達が西へと進軍していったらしい。とすれば2時間ほどで北の本隊とデモン軍が衝突するだろう。
《戦闘車両の配置はどうなっている?》
ドランに聞く。
《すべて完了してます。》
《ならば敵の様子を見る必要はない。前線基地跡での戦闘で潰したデモンと同じように一斉掃射で綺麗に掃除してやれ。》
《は!》
《エミルとケイナは?》
《ラウル様からの作戦通りに出立しました。》
《了解だ。》
《エミル様が喜んでおりましたよ。》
《まあいよいよ出番だからな。今までの鬱憤を晴らせるいい機会だろう。》
《ははは、そのようですね。》
俺がエミルに伝えた依頼をうまくこなしてくれれば、中央の部隊もかなり楽に突破できるはずだった。
《ゼダとリズは?》
《我らと共におります。》
《ドランと護衛の部隊で守るんだ。いざという時は二人を連れて退却し、魔人軍の指揮は全面スラガにまかせろ。》
《かしこまりました!》
《は!》
リュートの王子と姫は絶対に死なせてはいけない。リュートに民が生きている場合、兄妹が生きているのと居ないのとでは戦後の処理が全く違って来る。とにかくドランが付いているのであれば問題はないと思うが、念には念を入れさせてもらう。
「北の部隊とデモンとの衝突がまもなく始まる。まあ北の部隊の数は300、街道を真っすぐ通って来たから戦闘車両の配備も既に終わっているらしいし問題はないはずだ。」
俺がオージェとグレースに伝える。
「あの火力ならあっというまだろう。」
「だな。」
「オージェさんの言う通り短時間で終わるでしょうね。ガザムさんの隊もあっというまに都市を制圧したとか。」
「そうなんだが、いまガザムはメルカートの街に潜入して調査をしているところだ。」
「きな臭い何かがあるのか?」
「ホウジョウと言う女が消えたんだが、そこに何かがあるのかと思ってな。もしかしたら総攻撃によって骨も残らなかったのかもしれないけど。」
「なるほどな。」
ようやく何らかの情報を持っている女を見つけたが、何も聞けないまま殺してしまったかもしれなかった。連結LV2のままの火力なので、街も更地になってしまっている事だろう。やはり生け捕りは難しかったかもしれない。
《シャーミリア。聖都に何か変わった事は?》
木の上で監視しているシャーミリアに聞く。
《特にはございません。相変わらず翼竜が飛び魔獣に乗った兵が巡回をつづけているようです。》
《わかった。》
うーむ。厳戒態勢をしいたままと言う事は、恐らく敵の重要人物がそこにいると思うんだが、なかなか動きを見せないものだな。ドランの部隊が敵と接触すれば何かが変わるか?
《ラウル様。》
ガザムから念話が繋がった。
《メルカートはどうだった?》
《もぬけの殻です。デモンとデモンの配下の死骸が大量にあるだけです。ただ気になる事がございました。》
《気になる事?》
《鏡面薬で調べたところ、2か所に転移魔法陣がありました。》
《魔法陣が?》
《はい。恐らくこの場所から転移魔法で逃げた者がいるか、もしくは転移魔法でこちらに増援に来た者がいるのかどちらかだと思われます。この転移魔法陣がある以上、いますぐここを動くわけにはいかないかと思われます。》
《だな。隊に魔法使いが居ないから発動させることも出来ないか。魔石を使って発動させるのは時間がかかるしな。》
《もってきている魔石だけで発動させられればいいのですが。》
《後続部隊を待て。じきにやってくるはずだ。》
《は!》
《転移魔法陣からデモンが出現するかもしれん。その時は速やかに葬ってやれ。》
《仰せのままに。》
モーリス先生をガザム隊の場所まで戻すのはリスクが大きすぎる。とりあえずはガザムの隊にメルカートを任せるしかなさそうだ。となればガザム隊はしばらく使えないな。
「マリア。」
木の上で監視をしているマリアにトランシーバーでつなぐ。
「はい。」
「シャーミリアを借りていいか?」
「大丈夫です。」
「マキーナと二人で交代で監視を続けてくれ。」
「わかりました。」
「変化があったらすぐに連絡を。」
「はい。」
交代をしながら聖都の大聖堂を監視させているが、この12時間は特に変わった動きはなかった。このまま動きがなければ、奇襲攻撃と撤退をくりかえすヒットアンドアウェイ戦術を行う事になりそうだ。そのとき聖都に一般人がいる場合は大勢が巻き添えを喰らう事になるだろう。カーライルとオンジがグレースとマリアを連れて北東に引っ込んでいる間に、都にかなりの被害を与える事になる。カーライルにはせめてその惨劇を見ないで済むようにしてやりたいと思う。
シャーミリアが木の上から降りて来る。
「ご主人様お呼びでしょうか。」
「まもなくギルの部隊が洞窟から出て森の中を進んでくる頃だ。俺達が残して来た2体のハイグールに意識を繋いで、敵の駐屯地の状況を掴んで報告してやるつもりだ。」
「かしこまりました。」
「少し待て。ヴァルキリーを着用して有事に備える。」
「は!」
ガシャン
シャーミリアを待たせ、俺は開いたヴァルキリーの背中から入って装着した。
「よし、行くぞ。」
「は!」
俺とシャーミリアが、ファートリア中央あたりに残して来たハイグールに意識を繋いだ。
「ふう。」
やはり出来損ないと言われるだけあって、このハイグールに意識を繋ぐのはかなりの負担があるようだ。泥棒髭の俺の目の前には、木の枝にしがみついている河童がいた。以前意識を放した時よりもだいぶ顔色が悪く、ハイグールとしてだいぶ仕上がってきているようだった。
「シャーミリア、ずいぶん傷んでるな。」
「ご主人様の魔力が注がれれば、多少は復活するかと思われます。」
「しばらく放っておいたからこうなったの?」
「左様でございます。」
そして俺が操る泥棒髭ハイグールと、シャーミリアが操る河童ハイグールが木の上から飛び降りる。
ザッ
まあ腐ってもファントムの超劣化版。高い木の枝から落下しても二の足で普通に着地して何事も無いようだった。
「おい!ゴーレム!起きろ!」
俺が指示をすると腐葉土をかけていた2体のゴーレムが動き出した。これまた虫とか泥とかがこびりついて子汚い感じだ。
「きったねぇ。」
「水に入れば多少は汚れも落ちるかと。」
「まあいいや。車に乗せるわけでもないし、グレースの収納庫に戻す事もなさそうだからな。」
「は!」
「そして声がだいぶ酷いな。」
「喉もだいぶやられておるようです。」
「重要な事は念話で伝えるしかないか。」
「そのようです。」
放っておいた2体のハイグールはだいぶ傷んでおり、既に人間なのかグールなのか見分けかつかなくなっていた。まあファントムよりまだだいぶ可愛げがあるからいいか。
「ゴーレム行くぞ!敵に接触したら好き放題に攻撃しろ。」
ゴーレムに命じるとおもむろに動き出した。
ドスドスドスドス
2体のゴーレムを引き連れて、敵の陣地がいる方向へと歩き出すのだった。敵はゴーレムを瞬殺できるような力があるようなので、十分注意して歩く必要がありそうだ。いざという時の為にゴーレムを先行させて、俺達はそのだいぶ後ろを歩いて行く。いきなり攻撃されて何も出来ないまま終わるのを防ぐためだ。
森の中を2体のゴーレムがズンズンと進んでいくと、途中で破壊されたゴーレムの残骸を見つけた。
《どうやって破壊されたんだ?》
《魔法でしょうか?斬られたようにも見えますが。》
《確かにバラバラではあるが、粉々になっているのとなっていないのと…。》
《敵に魔法師の部隊がいるか、強騎士の類がいるのかもしれません。》
《何もしないまま死ぬのだけはやめような。》
《かしこまりました。》
もうすぐ森の中を出ようかと言うところでゴーレムを止めようとする。
すると…
「お!またゴーレムが出て来たぞ!」
「おう、マジだな。」
「やっちまおうぜ。」
森の外から若い雰囲気の声が聞こえて来た。
どうやらゴーレムは早速見つかってしまったらしい。少し距離があるため木々が邪魔をしてよく見えない。こちらを気づかれないようにゆっくりと移動し木々の間から覗き込むと、敵は3人しかいないようだった。どうやらまだ奥の俺達には気が付いていないようだ。
《3人なら、泥棒髭と河童で何とかなるかな?》
《ご主人様。何やら只者ではないようです。》
シャーミリアに言われ俺は飛び出すのを止める。
「もーらい!」
3人のうちの一人が猛ダッシュでゴーレムに近づく。
ブン!
ゴーレムがその男にパンチを振り回すが、空振りしてしまった。
「のろっ!」
その男は左足を軸にしてゴーレムに対して回転蹴りを繰り出した。
バゴン!
1体のゴーレムが足を粉々に砕かれて横倒しになる。
「もろいねえ。」
その後ろからもう一人の男が剣を抜いて、もう1体のゴーレムに突撃しすれ違うように通り抜ける。
ツッ
ゴーレムの足一本が綺麗な切り口を見せてズレていく。
ドゴン
足を失ったゴーレムがその場に倒れた。
《凄いな強騎士か?》
《どことなく様子が違うように思えるのですが。》
《あの体術も、騎士には見かけないような気がする。》
《はい。》
ブン
さっき足を砕かれたゴーレムが1本の足と2本の手で動き出し、蹴りを繰り出した男に突進する。するとさらに後ろの男から、岩の塊が飛んで来てゴーレムを倒した。倒れたゴーレムに向かって先ほど蹴り倒してきた男がかかと落としをする。
バグン
ゴーレムの頭が砕けちった。
しかしゴーレムは頭をやられたところで死んだりはしなかった。
ブン!
その蹴りの男に腕を振り回すが、後ろの魔法使いらしき男から体を支える腕を弾かれバランスを崩す。
「わりい!そりゃ!」
ガガガガガガガガガガ
体術を使う男が一気にゴーレムに向かって大量の正拳突きを繰り出して来た。
バババババ
どんどん崩れていくゴーレム。男は最後のとどめと言わんばかりにミドルキックを繰り出すと、ゴーレムは跡形もなく崩れ去ってしまった。
「ふう。」
もう1体のゴーレムがまだ防戦していた。
ブン!ブン!
しかし足を斬られたゴーレムは、刀を持つ男のスピードについていけていないようだった。
シュキィン
何回斬られた音なのだろう?ゴーレムは綺麗な切り口を見せて粉々に切り落とされてしまった。
「へ。泥人形はたいしたことねえな。」
「そうか?レッドベアーとか言う熊より手ごたえあった気がするけどな。」
剣の男と体術の男が近寄って話す。後ろから魔法使いが歩いて来た。
「二人とも怪我は?」
「大丈夫だ。」
「俺も。」
「怪我があったら言ってくれ。」
「わかった。」
「まあ俺は怪我なんてしねえけどな。」
「まあ油断は禁物だ。」
そして3人は周りをきょろきょろと警戒しているようだった。
…俺はその3人に驚愕していた…鳥肌が立っていた。
ゴーレムをあっというまに倒した技もさることながら、そんなことは些細な事だった。俺とシャーミリアが見ている前から、その3人が踵を返すようにして森から出て行く。
《まさか…》
《どうされたのですか?ご主人様?》
《いや…。》
俺がその3人に受けた衝撃は戦闘力などではない。
3人が話していた言葉は…”日本語”だったのだ。