軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第433話 謎の女の残滓

最南端を進むゴーグとミノスの部隊がどの部隊よりも先行していた。

それは二カルス大森林に沿った草原には人が住む村がなかったからだ。もともと村が無かったわけではない、村があったらしいのだが消えてしまったと思われる。ファートリアの騎士団や冒険者の活動が無くなってしまったために、二カルス大森林からの魔獣により村が侵食されたのだろう。廃墟はあれど村に人間はいないらしかった。

その荒廃した南を進むゴーグの部隊を、聖都に向かうため北東へと進路を変えさせた。その進軍の途中でまだ人間達が無事な村を発見したらしい。そんな報告をアナミスから受け洗脳で村を制圧するように指示をする。

いったん休息に入ろうした時、北寄りの進路を取っていたガザムから念話が繋がった。

《どうしたガザム。》

《以前ラウル様から念話で通達のあった、不審人物の情報を入手いたしました。》

《俺たちの前線基地を、化け物が住み着いたとか吹聴していたやつか?》

《そうです。》

《どんな情報だ?》

《名前と特徴をきちんと覚えている村人がいました。》

《なに?どんな特徴だ?》

《人間の女で黒髪だったそうです。背はそれほど高くなく名をホウジョウと名乗り村の若い男と出て行ったようです。》

《ホウジョウ?黒髪?シン国の人間かな?》

《そこまでは分かりません。ただ同じように西に化け物が住み着いたから村を出るなと言っていたようです。しかしそいつをきちんと覚えていた女が1人だけでした。あとはうろ覚えのようです。》

《うろ覚えか、最初に接触した村と同じだな。》

《はい。デモンの干渉はないようですが。》

《認識障害とかの力だろうか?》

《もうしわけありません。サキュバスの力をもってしても感知できないようです。》

《よく覚えていた人間がいたもんだ。》

《その若い男は、覚えていた女の亭主だったようです。》

《それは忘れんわな。》

《はい、かなり恨んでいるようでしたから。》

《他には?》

《それがいつの間にか亭主を連れて、出ていったとしか分からないようなのです。》

《それはいつごろの事かわかるか?》

《およそ10日前ごろとの事です。我が推察するに、まだそれほど遠方には行っていないかと。》

なるほど…謎の人物の尻尾を捕まえられそうと言うことか。

《その村にデモンの干渉はなかったんだな?》

《はい。》

《なら人間に気を遣う必要はない、魔人軍の力で占領してしまえ。ただし村人は殺したりするなよ。武力で制圧しつつ食料などを提供してやれ。》

《直ぐにとりかかります。3時間ほど時間をいただけますか?》

えっ?そんな時間で大丈夫?

《慎重にな。》

《は!》

ガザム…あいつなんでそんなに仕事早いんだろ?魔法とか使えるわけでもないのに。とにかく…黒髪のホウジョウと名乗る女、そいつならあの光の柱の謎を知っているかもしれんな。

「ラウル様。」

カトリーヌがまだテントに入っておらずに話しかけてきた。

「ん?どうした?カティ。」

「ラウル様も鎧をお脱ぎになって休まれてはいかがです?」

そういえば俺はヴァルキリーを着たままだった。なんにも着ていないと錯覚するくらいに身体に馴染んでしまっているが、やはり分体というだけあって自分の一部なのだろう。そういえばグレースはあれが分体でオージェはレヴィアサンが分体なんだよな。あいつらがそれを早く使えるようになればこんな苦労しなくて済むような気がするが…

ガシャン

開いたヴァルキリーから出る。

「ふう。」

なんか脱いだ方が体が重い気がする。ヴァルキリーは凄いサポート能力を会得したらしい、ずっと着ていたらダメな人間になってしまいそうなくらいに楽だ。

「ではラウル様は天幕へ。」

マリアが言う。

魔人達は警戒のため四方に散らばり見張りに出ていた。カトリーヌとマリアは休息のためにここにいる。どうやら俺の事を待ってくれていたようだった。

「ふたりとも、疲れたろ?先に寝てて良いんだぞ。」

「ラウル様を待っていたのです。」

マリアが言う。

そしてマリアはテントの入り口を捲り上げて、俺とカトリーヌを中に入れて自分も入ってきた。

「ラウル様、マリアと私と3人で寝ましょう!」

カトリーヌが言う。

「そうだな。とにかく休まんとな。」

「「はい。」」

二人の声が揃う。

そのまま俺を真ん中にして川の字に横になる。疲れているだろうに俺に気を遣ってくれているようだ。

「わたっ…」

カトリーヌが何かを言いかける。

「いいかい?休むのも仕事のうちだ。ヘロヘロになってまで俺に気を使うな。」

どうせ俺の疲れを取るためマッサージを!とか言いかねないので先に手を打っておく。

「わ、わかりました。」

「すみません。」

いつしか2人から寝息が聞こえ、深い眠りに落ちたようだった。

《まったく、2人は俺に遣いすぎだ。》

《ふふっ。それだけラウル様を愛しているのです。》

警戒行動中のカララに俺の考えを覗かれてしまった。

《愛か…悪い気はしないがな。》

《カララの言う通りでございます。彼女らは心底ラウル様を愛しておりますわ。》

セイラが言ってくる。

えーっと。なんだか身体が熱くなってきた。そんなこと言われると恥ずかしくて体が火照ってくる。

《私達もお慕いしてますわ!》

ルフラがいきなり言って来る。

《そう、私達はみなラウル様を愛しているのですわ。》

カララがダメ押ししてきた。

《お前たち!ご主人様に不敬です。このような状況の時にそのような戯言を。》

《あら?シャーミリア?あなたが1番のぼせているように見えるわよ。》

《カララ!黙りなさい!》

《いいえ、シャーミリア。このような時だから言うのよ。》

《セイラ、あなたまで。》

《敵は強大かもしれないわ。みんなあなたみたいに不死身じゃないのよ。》

カララが言う。

俺はみんなの言わんとしている事がわかってきた。これから敵の深部へ潜ろうと言うのだ、生きているうちに伝えたい事を伝えておこうと思っているのだろう。

だが。

《みんなの気持ちは痛いほど伝わってるよ。だけどな、俺はお前たちの誰一人として失うつもりはない。危なかったらケツをまくって逃げるだけだ。それとな、俺たちの仲間には神様がついてるんだし大丈夫だ。俺はこれからもお前達とまだまだ一緒に居たいんだ。》

《ご主人様、私奴の魂は未来永劫ご主人様と共におりますわ。》

《ふふ。シャーミリアも素直になったわね。私もどこまでもお供します。》

《私も!カトリーヌと共にいつまでもお守りします。》

《あら。みんな大胆ね、ラウル様が照れてますよ。》

シャーミリア、カララ、ルフラ、セイラが言う。

《あ、あの!私めも末席に加えてはいただけないでしょうか?》

まさかのクールビューティーのマキーナまで参戦してきた。シャーミリアの手前こんな事を言うキャラじゃないのに。

《もちろんだマキーナ。これからもよろしくな。》

《は、は!》

《んじゃ、みんなどこまでも俺と一緒に来る事を命ずる。全力で使命を全うしろ!使命とは死なない事だ!》

《《《《《は!》》》》》

みなの喜びが伝わってくる。こういう時、念話は感情がストレートに伝わってきて良い。俺は敵地の真ん中で、みなの愛情に包まれ眠るのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・

《ラウル様》

ガザムからの念話で目が覚めた。時計を見ればきっちり3時間。

本当に時間に正確なやつだ。自分の仕事がどのくらいかかるのかをきちんと掌握しているらしい。

《占領したか?》

《はい。一部の村人の反抗はありましたが、サキュバスの誘導により静かになっております。》

《傷はつけてないか?》

《はい、人間に負傷した者はおりません。》

《村にはそのまま魔人を100名駐屯させろ。》

《はい。》

まずは強制的に村を制圧させた。

さてと…

俺の両隣ではまだマリアとカトリーヌが熟睡している。そっと俺はテントを出た。

「オージェ。」

「おう。」

オージェが太い倒木に座りながら、俺が渡したMG5機関銃を組み立て直していた。さすがは元自衛官のレンジャー、その手並みは鮮やかだ。

「ガザムが謎の人物の尻尾を捕えたらしい。」

俺がオージェに伝える。

「どんな情報だ?」

「ホウジョウとかいう黒髪の女らしい。村の若者を連れ出して消えたんだと。」

「カゲヨシ将軍の所の民かね?」

「名前と容姿からはシン国の民っぽいんだがな。」

「俺達の存在を知っているヤツだよな。」

「そうだろうな。」

「俺達を脅威として、村に人を縛り付けておくための噂を吹聴している。」

「その目的は何だろうな。」

すると俺達の後ろから声がかかる。

「オージェさん。僕はあの光の柱と関係があると思うんですよ。」

グレースだった。

「グレース。俺もそう思うんだが、この前接触した村でもガザムが接触した村でも光の柱やデモンの干渉が無いんだよな。」

俺が答える。

「じゃあデモンじゃないと言う事ですかね?」

「じゃないか?そもそも普通の人間みたいなデモンはまだ見ていない。」

「かといってデモンでないという保証もないがな。」

オージェの言うとおりだった。デモンが人間に見えないとも限らない。しかし吹聴して回った村の人間に、デモンの干渉が無いという事から考えるとデモンではないと思えた。

「どっちだろうな?」

「ん?どっちとはどういうことだラウル。」

「敵か味方か。」

「俺は敵だと思うがな。」

「僕もそう思います。」

「そうか、二人もそう思うか。」

「ラウルもそう思うか?」

「ああ、この治安の悪いファートリア国内を自由に動き回れるなんて、どう考えても普通の人間だとは思えないんだよ。」

「「たしかに。」」

オージェとグレースの声が重なる。

「ただ目的がな。」

「ああ。」

「そうですね。」

俺達に直接攻撃を仕掛けてくるわけでもなく、ただ噂を振りまいているだけだ。不審な行動ではあるが俺達に被害があるわけではない。しかし必ずその行動には理由があるはずだった。

「前線基地よりさらに南東にずれた辺り田舎の村に現れたのが10日前。普通の人間ならそれほど遠くには行けないはずだ。」

「ラウル。それが普通の人間ならな。」

「単独で動いているって言うのが怪しいですよね。」

「相当な強さがあるとみて間違いないんじゃないか?」

確かにオージェの言うとおりだろう。何らかの力を持っていないとこんな治安の悪い国を一人で歩けない。女ひとりなぞあっというまに盗賊に捕まって襲われてしまうだろうから。

「とにかくガザムに追わせようと思っているんだ。きっとまだ近くにいると思う。ただそのあたりの地図がわからないからな、どこに向かったらいいのか分からない。」

「カーライルが起きるのを待つしかないだろう。」

「そうですね。」

カーライルも相当疲労していた。ほとんど魔人と同じように走ってきているのだ、いくら身体強化に長けた騎士だとしても限界がある。そのためカーライルもきっちり休憩を取ってもらうため、セイラの歌を聞かせて眠らせている。オンジも同じようにセイラが眠らせていた。彼らは常に臨戦態勢のため眠りが浅い、それでは疲労が取れないのでセイラにお願いしていた。

セイラはセイレーンなので人間を歌で誘い込み眠らせて…”食う”。あんな聖母マリアみたいな感じなのにそんな一面があるとは思えないが事実だ。と言うよりも魔人には人間を養分とする種族が多い。セイレーンに限らずヴァンパイア、アラクネ、サキュバスどれも人を食うか血を吸うか精を吸う。しかし魔人らは俺の影響であまり(・・・)人間を食わなくなり、魔獣や普通の食事で体を保っている。

たまーに盗賊とかいると、ご飯としてあげちゃうときがあるけど。

ともかく、セイラは皆の良い睡眠に一役買っているのだった。

《しかし謎の女。絶対に何か知っているはずだが…》

生け捕りに出来るかどうかも分からない。

俺達はただカーライルの覚醒を待つのだった。