作品タイトル不明
第401話 ファートリア潜入チーム
最前線基地に到着した日の夜はカトリーヌと話をしたり、マリアから体をもみほぐされたりと休養の時間になった。マリアはやたらと俺とカトリーヌを二人きりにしたがっていたが、結局俺がそのまま眠ってしまい朝になる。
朝食を摂ってから、作戦会議の為にみんなが集まっている議事堂へと向かっていた。廊下を歩きながら二人の顔をみるが、カトリーヌは上機嫌でニコニコしていた。マリアはどこか不完全燃焼のような顔をしている。
「マリアは、なんか表情がすぐれないようだが?」
「そうですか?まったくそんなことありませんよ。」
「ならいいんだけど。」
たぶん俺の気のせいらしかった。マリアはいつも通りの表情になる。
議事堂へ入っていくと、既に直属の魔人達とモーリス先生やオージェ、グレース、エミル、そしてそれぞれのパートナーが集まっていた。
「お待たせした。」
「いえ!そのような事はございません!」
シャーミリアがビシっと言う。
「よし!それでは敵地への潜入作戦会議を行う。」
「「「「「はい!」」」」」
「呼ばれた人はぜひ俺に力を貸してほしい。かなり危険な作戦となる可能性もあるため、念入りに準備をしてから出発するぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
今回の作戦はファートリア神聖国の内地に入り込んで、敵地がどういう状況になっているのかを調べる事となる。罠の有無や敵兵の配置、国民たちがどうなっているのかが調査対象だ。敵地の真ん中に侵入する為かなり危険な任務となる事を伝えた。
「作戦は以上だ!」
詳細まで説明をした。
「この潜入に協力してもらうのは…。」
そして俺は潜入する人員を発表する。人員はツ―マンセルを6組集めた一個小隊だ。それぞれにはきちんと役割があった。
(指揮)ラウル (護衛)ファントム
(回復)カトリーヌ (護衛)ルフラ
(狙撃)マリア (護衛)カララ
(洗脳)セイラ (護衛)マキーナ
(前衛)オージェ (斥候)トライトン
(輸送)グレース (護衛)シャーミリア
本当は洗脳部隊にサキュバスのアナミスを連れて行きたかったが、彼女には西部ラインでの重要な仕事があるため、今回はセイラを同行させることにした。セイラはセイレーンなのでサキュバスとは違う能力を持っているが、人間に対しての効果は似たような部分があるので彼女を選んだのだった。ファントム以外は完全に人間に見えるので潜入にはもってこいだ。
「先生は基地にて結界の準備をお願いできますか?」
「むろんそのつもりじゃ。」
「ありがとうございます。」
モーリス先生には前線基地の防御力を向上させてもらうように頼む。
「俺は留守番か?」
「ああすまないエミル、今回は調査が目的だからな。だが緊急時は呼び出すかもしれんからその時は、AH-64E「ガーディアン」で飛んで来てくれ。」
「わかった。」
すると横から声をはさむ者がいた。
「ら、ラウル様!我はグレース様をお守りする使命が。」
オンジが俺に迫ってくる。
「ごめんなさいオンジさん。今回は必要最小限の人員になっているんです。グレースにはわが軍でも最高の戦力であるシャーミリアを護衛につけますので、どうか安心して見送ってほしいです。」
「シャーミリア様であれば心強いですが、私には代々の使命がございまして…。」
どうしよう。オンジさん腕もたつし連れて行っちゃおうかな?魔力が無い人が役立つときもあるしな…
などと思っていると…
「オンジ。僕はシャーミリアさんが守ってくれるってさ。だからオンジには僕からお願いがあるんだ。」
「なんでしょう?」
グレースの言う事に耳を傾ける。
「今回カーライルさんが来たでしょ?」
「はい。」
「カーライルさんと一緒に魔人と稽古をしてみたらどうかな?」
グレースが言う。
「私はかまいませんが?」
カーライルが言う。
「あの!グレース!」
俺が慌てて口をはさむ。カーライルとの修練は命がいくつあっても足りない、そんなのにオンジをつきあわせせたら、俺達が帰ってくるまでにオンジは居なくなっているかもしれない。
「予定変更だ。」
「え?変更?」
「ああグレース、ちょっと思いついた事がある。エミル!」
「なんだ?」
「ヘリに積んで来た物資はどこに?」
「ああ、それなら魔人達が武器保管庫へ全て移したけど。」
「それならカーライルとオンジさんには、あとで一緒に武器庫に行ってもらいます。」
「わかりました。」
「はい。」
出発は夜になるからそれまでに二人には魔剣を使わせてみる事にする。その適性を見てからどうしようか考えよう。
「それとラウル。」
「なんだいオージェ。」
「グラドラムにうちの母さんいなかったろ?」
「メリュージュさんか?なんかどこかに飛んでいったらしいぞ。」
「山脈地帯にいるよ。」
「どこの?」
「グラドラムからファートリア神聖国にかけての東の山脈だ。」
「こっちに来てるって事?」
「ああ、万が一の時は母さんを呼ぶことができるぞ。」
「おお!心強い!オージェがメリュージュさんを呼び寄せられるって事か?」
「ああ、龍神になってからお前と同じような念話が使えるようになった。メリュージュ母さんとはいつでも念話がつながるぞ。」
「わかった。今回はエミルを連れて行かないからな、万が一の場合脱出に協力してもらうかもしれない。」
「伝えとくよ。」
「ありがたい。」
グラドラムからいつの間にか飛び立った巨大な龍は、東の山脈にいるらしかった。
「よし、みんな!それぞれ出立の準備をしてくれ!隠密作戦のため日没と同時に出発する!」
「「「「「は!」」」」」
皆がそれぞれ準備のために動き出す。武器は俺が用意するので、ほとんどは食料や防具の準備となる。目立たないように全てグレースに収納してもらう手筈になっていた。
要は手ぶらで出発する。
「それでは私奴が武器庫へ、ご案内しましょう。」
シャーミリアが言う。
「ではカーライルとオンジさん。武器庫へ行きましょう。グレースもついて来てくれ。」
3人はシャーミリアと俺とファントムの後ろについて歩いて来る。基本ファントムは準備とかしないので俺の後ろをついて来るだけだ。
議事堂から外に出ると、玄関の先にはヴァルキリーが立っていた。俺達が歩いて行くとヴァルキリーも後をついて来る。
《我が主。そろそろ出立されるのですか?》
《ああヴァルキリー。今回お前はグレースに収納されてくれるか?》
《かしこまりました。》
《あとグラドラムでヴァルキリー用に外骨格を作ってもらったんだよ。めっちゃかっこいいぜ。》
《かっこいいですか。かしこまりました。》
まあヴァルキリーが大喜びする事は無いか。俺の分体だから喜ぶと思ったんだがな。
《その前に彼ら人間に魔法の武器を与えようと思ってね。》
《素晴らしい考えです。特にそこの聖騎士は面白いですよ。》
《面白い?カーライルが?》
《はい。通常我は感情がありませんし、気を発する事もありません。》
《それは知ってる。》
《ところがその聖騎士は我の攻撃を避けるのですよ。》
《それは‥見て避けていると言う事か?》
《いえ、我の何かを予測して避けているのです。》
《何かって?》
《我が主。それがよくわからないのです。》
《分からない?》
《はい、とにかくその聖騎士には何かが見えている。と言っていいと思います。》
《なるほどねー。》
どうやらカーライルは何らかの進化を遂げているらしい。これが魔人との修練の成果なのか、彼のもともとの特性なのかは分からない。
《まあ今回はカーライルの故郷での作戦となるので、やはり連れて行くという判断で正解だったかもしれないな。オンジさんの我儘を聞くような形になったが、虹蛇に言わせればこれも必然だったりして。》
「こちらへお運びしました。」
シャーミリアに連れられてきた武器庫はかなり大きかった。入り口には4人の衛兵が立っている。
「これはラウル様!」
ザッ
4人が膝をつく。
「挨拶はいいよ。ここを開けて。」
「は!」
魔人の一人がカギを使って武器庫の入り口を開けた。
「では入りましょう。」
三人を連れて武器庫に入っていく。武器庫の中にはずらりと棚が並び、そこにはユークリットから持ってきた魔導武具や、グラドラムから持ってきた薬品や氷炎手榴弾などが並んでいる。
「グレース、ここにあるカプセルはエリクサーやポーション、竜人化薬、狼化薬なんだ。そして氷手榴弾と炎手榴弾があるんだが、それを数箱づつ収納して行ってくれないか?」
「了解しましたー。」
グレースはのんびりした口調で棚に近づいて行き、どんどん収納していく。手をかざすとパッパと消えて行くのでだいぶ収納には慣れたようだった。
「で、カーライルとオンジさんにはここにある武器を好きに選んでもらいたいのです。」
「好きに?ラウル様、私にはこの剣が。」
カーライルが自分が腰に指した剣を見せる。
「カーライルのその剣は特別な物?」
「いえ、業物ではありますが、それほど思い入れがある物ではございませんよ。ただ使い慣れていると言ったところでしょうか?」
弘法筆を選ばず。ってことかね?
「ならそれも持っていきましょう、グレースに収納してもらいます。」
「ええ。」
「オンジさんのそれは?」
「当家に伝わる刀です。」
「それもグレースに収納して行ってもらってもいいですか?今回二人に同行してもらうのはそれが条件です。」
「わかりました。」
「左様で。」
「ええ。」
そして俺は二人から剣を預かってグレースの所に持っていき説明をする。するとグレースは手をかざして二人の剣を収納してくれた。
「それでは二人にはここにある魔剣と武具を選んでもらいます。」
「魔剣?ですか?」
「それはどういうものですかな?」
「どうやら失われた技術らしいのですが、魔力の無い剣士に魔法を付与するらしいです。」
「!」
「なんですと?」
どうやら二人とも興味があるようだった。とにかく相性などがあるだろうから選んでもらわないと。
「説明書があるので、どれがどういう効果を出すのかもある程度は分かっています。モーリス先生が翻訳した羊皮紙に書いてありますので見てください。」
「わかりました。」
「はい。」
二人が棚に近づいて、魔剣や魔導鎧などを物色し始める。脇に置いてあるモーリス先生が翻訳した仕様書をよく読んでいるようだ。しばらくすると二人がそれぞれ武器と胴当てや小手をもってやってきた。
「私はこれに興味があります。」
カーライルが俺に武器を指し示す。
「これはどういう効果でした?」
「氷魔法が付与されているようですが…どうなるのかはよく分かりません。」
「なるほど。それでは武具はどうしてそれを。」
「とにかく軽くて丈夫そうなものを選びました。私は動きに重きをおいてますので。」
知ってる。
「わかりました。オンジさんはどのような?」
「土の魔法らしいですな。どうやら石つぶてを放つようですが、地面に立てると盾にもなるらしいです。」
「そうですか。その武具は?」
「私は魔法を防ぐ物にいたしました。どうやら魔力を吸収する物らしいですな。」
「なるほどなるほど。」
やはり二人の好みがわかれたが、俺の想像通りだったかもしれない。カーライルはまさに氷の貴公子と言う感じだし、オンジさんはグレースの守護者と言う感じの物を選んだ。
「では出発までそれを試してみませんか?」
「わかりました。」
「はい。」
「グレース!そろそろどうだ?」
俺は後ろで物資を収納していたグレースに声をかける。
「うーん、よくわかんないですが多めに収納しておきましたよ。」
「ありがとう大体で良いよ。これから二人が魔法の武器を試すんだけど来る?」
「行きます行きます!」
「では二人も訓練場へ。」
俺達は武器を出る。
そして俺とシャーミリアとファントム、ヴァルキリーに続いてグレースとカーライル、オンジがついて来た。
訓練場に付くと魔人達が戦闘訓練を行っていた。オークとオーガ、ダークエルフ、ゴブリンの若手を中心とした魔人が30人くらいで組手をやっている。
「あー!ちょっと申し訳ない!」
俺が訓練中の隊長格のミノタウロスに声をかける。
「あ!ラウル様!全員集まれ!」
すると魔人達は訓練を止めて俺の前に整列をした。
「すまないみんな。俺達は今日の夕方にここを出立するんだけど、それまでにどうしても試したいものがあるんだ。この場所を借りたいんだけどどうかな?」
「ぜひ!お使いください!皆!それでは今日の訓練はここまで!各自基地内の警護に回れ。」
「「「「「は!」」」」」
素早く魔人達が基地内に消えて行く。よく訓練されているようだった。
「よくしこんでいるな。」
「オージェ様のおかげです。」
「ああ、なるほど。オージェが基本を教えているのかい?」
「そうです!」
4メートルくらいある隊長のミノタウロスが俺の隣に立つ。角が生えて牛の顔をした魔人だが、軽い進化しかしていないので人間とは程遠い。普通の人間が見たら恐れおののいて失禁するだろう。
「えっとあの端っこでやってる3人はだれだ?」
訓練場の角の方で誰かが戦闘訓練をしているようだった。
「ああ!彼らは特別訓練中のドラン、ゼダ、リズですよ。」
なるほどドランは俺が命じたまま、リュート王国の王子様と妹君に生き残るための訓練をしていたらしい。本当にドランは真面目なやつだ。
《ドラン!》
俺が念話で声をかけると遠くで、こちらを振り返って手を振った。
3人は俺の元へと走ってくるのだった。