軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第391話 労働安全衛生

イオナとの話し合いを終えたモーリス先生と俺は、ファントムを従えて洞窟の研究所へと向かった。エミルとケイナも俺達について歩いている。4人と1体が岩壁の隙間に出来た回廊を進むと洞窟への入り口が見えて来た。洞窟の入り口には俺の巨大な像とエミルの像、そしてオージェとグレースの像がそびえたっていた。

「うわぁ、なんか増えたな。」

「ラウル。これどうにかなんないかな?」

「俺もどうにもならん。来るたび勝手に増えるんだもん。」

「はあ…。」

俺とエミルがげっそりした顔をしている。

「はっはっはっはっ!神子様達は人気じゃのう!こんなに大きな銅像をたくさん作ってもろうて、まさに神殿のようになっとるではないか。」

モーリス先生が腹を抱えて笑っている。

「先生。私がほどほどにって言っても、どんどん作られるみたいなんです。どうにかやめさせる方法はないものですかね?」

「しらんがな。」

モーリン先生にバッサリと斬捨てられてしまった…。

【うん!きっと先生も銅像を作られたら喜ぶだろう!ミーシャやミゼッタにこっそり伝えてやろう!】

「ラウルよく見て見ろよ、オージェもグレースも良ーくできてるぞ。」

「ドワーフの技術を、こんなところに無駄遣いして何を考えているのやら。」

「よし俺がこの像に精霊の加護を与えてやろうじゃないか。」

「エミル、そんなことしなくていいって。」

「せっかく作ってくれたんだ、この洞窟を守護してもらうために、精霊の加護を与えておいても良いんじゃないか?」

するとモーリス先生も言う。

「それは良い考えじゃのう。この奥には魔王軍の重要機密があるのじゃ、魔人達が護衛しているとはいえ、入り口の像に精霊の加護があってもいいじゃろ。よし!わしもこの像を利用した結界を作っていくとしよう。」

エミルは像に手をかざして精霊の加護を与え、モーリス先生は杖を持って像ひとつひとつに結界の印を記していく。俺は何もできないので、ただそれを見つめていた。

《虹蛇曰く、きっとこれも必然的な行動なんだろうな。》

しばらくして二人が作業を終えて俺のところに来る。

「これで敵対心を持った者が侵入すれば精霊が邪魔をしてくれる。」

「ああエミルありがとう。」

「魔法攻撃などがあった場合には、結界が発動してこの地を守るであろうよ。」

「先生ありがとうございます。」

「そうだラウル、今度グレースが来たらこれに命を与えられないか聞いてみようぜ。」

「あ、ゴーレムみたいにか?まあそうだな今度グレースが来た時に聞いてみるか。」

「ああ。」

よくよく考えると二人の言うとおりだった。こんな重要な設備の警備にはもっと考えをめぐらせないといけない。あの王城の裏にある地下の書庫はもっと厳重だった。それを考えるとこの施設で行われている事は、それよりも上位の機密事項といっても過言ではない。

「では中にはいりましょう。」

「そうじゃな。」

洞窟の入り口にある巨大像に、防御策を仕込み終わったので俺達は洞窟へと入っていく。洞窟の壁には魔石が埋め込まれており、通路は明るく照らされていた。さらに進んでいくと両脇の壁に作られた部屋からぞろぞろと魔人達が出て来た。この洞窟を守護している魔人達だった。オーガが2人とオークが10人ほどいる。

「ラウル様!お帰りなさいませ。」

オーガの一人が言う。進化をしていないのでおでこの上あたりに角が生えており、見た目はまんま鬼だった。オークも豚の鼻に牙が生えた無骨なオークのままだ。

「ご苦労。」

俺が声をかける。

どうやらここにいるオーガやオークには剣が支給されているようだった。

「お前達は兵器を持っていないのか?」

「壁上と第一都市や崖の上に常駐する兵達は持っていますが、ここにいる兵はニスラ様の指示で持っておりません。」

俺とモーリス先生が目を合わせる。

「そりゃいかんのう。」

「ええ。」

《ニスラ!ちょっと洞窟の入り口まで来れるか?》

俺は急遽、念話でニスラを呼び出す。

《はい、かしこまりました。》

少し待つとスプリガンのニスラが俺達の元にやって来た。

「忙しい所、悪いな。」

「いえ。何かございましたか?」

「いやちょっと気になる事があってな。」

「はい。」

「ここの警備に兵器を回さない理由があるのか?」

「いえ、もともと我はこの場所を重要だと思っておりましたので兵は重装備でした。」

「重装備…だった?」

「はい。」

「どういうことだ?」

「デイジー様の指示によるものです。」

「デイジーさんの?」

「この奥で研究している物質は火気厳禁という事で、すべての装備を外すように指示が出ています。」

「そういう事か…。」

「なるほどのう…。」

俺とモーリス先生は納得する。

「ニスラ、これからデイジーさんと話をするから一緒に来てくれ。恐らくこの洞窟の改修工事をしなくてはならないようだ。」

「は!」

「みんなは引き続き警護を続けてくれ。」

「「「「「はい!」」」」」

俺達4人はファントムとニスラを引き連れて奥へと進む。

「どうやら研究施設は入り口付近から奥に向けてあるようじゃの。」

「恐らく魔人にも研究をさせているのでしょうね。」

俺達が見る範囲にはダークエルフとゴブリンがせっせと物を運んだり、何かを調合するような作業をしているのが見える。壁面には部屋が作られその部屋ごとに研究しているものが違うようだった。更に奥に進むと昔バルギウス兵達と戦った広い空間に出る。その広い空間の壁面には更に多くの研究室が作られ、白衣を着たダークエルフやゴブリンがせわしなく行ったり来たりウロウロしていた。

「ラウル。まるで前世で見た研究施設みたいだな。」

「ああ、その通りだな。」

エミルに言われて見ると本当に近代的な研究施設に見えて来た。

「働く魔人がラウルに気が付かぬとは、よほど集中しておるのじゃろうな。」

モーリス先生が言うように、ここの魔人達は他の場所の魔人と違って俺には気が付かないようだった。

「すみません!すぐに皆に知らせて挨拶をさせましょう!」

ニスラが言う。どうやら先ほどの武装解除の件と言い、この件といい自分の責任だと思っているらしかった。

「いや!ニスラ!これでいいんだよ。俺が来るたびに作業を中断するなんて馬鹿げた事をしなくていいんだ。これが理想の姿だと覚えておけ。」

「しかし!」

「グラドラムの魔人にだけでもそれを徹底させろ。」

「は!」

ニスラは深々と頭を下げる。

「ラウルに気が付かないほど集中するとは、魔人達にとって相当に難しい事をやっておるのじゃろうな。」

「ええ、彼らは勉強などした事ないでしょうからね。」

「ふむ。」

俺達はたくさんの魔人達が歩く中をすり抜けて奥の部屋へと進む。以前、バルムスとデイジーに新兵器を見せてもらった部屋だ。

「モーリス先生、ここです。」

俺はその部屋の前に着いたのでモーリス先生に言う。

「ふむ。」

「それではー」

ドッゴーン!!

バッリーン!!

ゴロゴロゴロゴロ

俺がモーリス先生に言い終わる前に、なんか鉄の塊がドアを突き破って飛び出して来た。鉄の塊は巨大な鎧のようなものだった。すると建物のなかから似たような小さい鎧が走り出してくる。

ガシャガシャガシャ

「デイジー!」

中から出て来た鎧が叫ぶ。小ぶりな鎧は巨大な鎧に近づいてフルフェイスの兜の部分を外した。

ガパン!

兜の下から出て来た顔はデイジーだった。

「凄い物じゃなー!!!」

大喜びしている。

するとデイジーは俺達に気が付き、頭だけをこっちに向けた。

「おや!ラウルと爺さんじゃないか?」

「婆さんに爺さんとか言われとうないわ!」

「相変わらず小さい男じゃのう。」

「な、何を!」

モーリス先生は軽く顔を赤くしていた。

「というより!大丈夫なのですか!?」

俺が駆け寄ってデイジーさんの横に座る。

「おおラウルよ。おぬしの鎧の外骨格試験じゃよ。どうじゃこの爆発でも傷ひとつつかんじゃろ!大成功じゃよ。」

「そ、それはありがとうございます。と言うか怪我は?」

「まったくない、衝撃も感じなんだ。」

どうやらヴァルキリーの上につける外骨格を作っているようだった。

「凄いですね。」

「わしのような老いぼれが打撲一つないのじゃぞ!凄いじゃろ!おぬしのじゃからな!」

デイジーさんは嬉しそうに笑っている。

「ありがとうございます!」

「ところでわしゃひとりじゃ立てんのだ。起こして建物の中に連れて行ってくれんかのう?」

「ファントム!」

ファントムが近づいて来る。

と言うか…今の大騒ぎがあったというのに、周りの研究者の魔人達は振り向きもしない。自分たちの師匠がこんなことになっているというのにだ。

ファントムがデイジーの所に来て鎧ごと抱き上げて建物の中に入っていく。どうやら俺の魔導鎧と違って外骨格は持ち運びができるようだった。

《ファントムも持てないヴァルキリーって、いったい何の素材でできてんだろう?》

素朴な疑問だった。しかしそれはバルムスでも分からないと言っていた。

「わしをそこに立てかけておくれ。」

「ファントム。」

ガシャン

デイジーさんを鎧ごとカタパルトのような場所に立てかける。

「バルムスよ、着脱の取っ手を。」

「ああ。」

どうやら小さい鎧に入っているのはバルムスのようだった。バルムスがデイジーの鎧の腰のあたりから手を突っ込んでなにかを引っ張る。

バシュー ガシャガシャ!

鎧はなにかガスのような物を噴き出して複雑に開き、開いた隙間からデイジーが出て来た。

「微調整も完璧じゃわい。」

「それは何よりだが…。」

バルムスが心配そうにデイジーを見ている。

「本当に怪我はないぞい。」

「ならよいが。」

バン!

デイジーとバルムスが話をしているのを、俺達が黙って聞いていると奥の扉が開いた。

「あ!ラウル様!」

ミーシャがその人形のような顔をパアッと輝かせて走り寄ってくる。バランスが悪いほど大きな目がキラキラと輝いている。

「ミーシャ!元気かい。」

「はい!」

ミーシャが手にエリクサーを持っていた。

「デイジーさん!怪我は?」

直ぐにデイジーに心配そうに駆け寄る。

「ミーシャ今回は成功じゃよ。」

「よ、よかった。」

ミーシャがホッとした様子で胸をなでおろしている。どうやらミーシャはデイジーの為にエリクサーを取りに行っていたようだ。

「あのう…。ミーシャ、こんなことは初めてか?」

俺は素朴な疑問を投げかける。

「いえ。」

「何度目か?」

「いえ、毎日です。」

「ま、毎日!!」

「毎日じゃと!」

「うそだろ!」

「ええっ!?」

俺とモーリス先生、エミル、ケイナが続けざまに驚く。

「何を驚いておるんじゃ!エリクサーがあればすぐに治るのじゃから問題ないであろう。」

「いえ!デイジーさん!そういう事は魔人にやらせてください!」

「それはダメじゃ。」

「なぜですか?」

俺がすごい剣幕で聞いているというのに、そよ風でも浴びているようにさらさらと言う。

「中に入って細かい状況まで把握するには、わしでなければならんのじゃ!バルムスは製作者本人じゃが、体が小さくて鎧にあわんのよ。」

「かたじけない。」

「なあに、バルムスの責任はこれっぽっちもないのじゃよ。」

バルムスが申し訳なさそうに頭を下げるが、デイジーは気にする様子も無くけらけらと笑っている。

「とにかく、デイジーさんは大切な人なのです。あまり無茶をなさらないようにしていただきたい!」

俺が少し怒り気味に言う。

「何をいうとるんじゃ!わしらの孫が最前線で戦っているというのに、こんな安全な場所でのうのうとしていられるもんかい!!」

逆に怒られた。

「す、すみません!!」

俺は頭を下げる。

「すまんのう。わしも大人げないのう。」

デイジーさんが優しそうな顔でニッコリ笑う。

俺はある事に気が付いた。

彼らはそれぞれの場所で戦っているんだ。俺にはそれを止める権利などあるわけがない。この数日で本当にそれが身にしみてわかった。

ユークリットで見た血のにじむようなカーライルの修練。

目の下をクマだらけにして、何日も集中し秘密の書庫の文献をチェックし続けたモーリス先生。

そしてバルムスの鎧を身をもって検証するデイジー婆さん。

誰もかれもが、俺たち前線で戦う者達の為に必死で作業をしているのだ。彼らの努力は必ず実を結ぶだろう、俺はその気持ちを受け取って必ず平和を勝ち取るだけだ。

「わかりました。その件も含め私に提案があるんです。」

「なんじゃろ?」

デイジーさんが首をかしげる。

「この研究所の安全対策を更に向上させるために、施設の改修のための会議を行いたいです。」

「安全対策?」

「はい、労働安全と衛生の基準を作って守っていく事にしませんか?」

俺が言うとバルムスが大きくうなずく。

「ラウル様の言う通り。我らは武器や防具や薬品の研究に明け暮れて、設備の工事をおろそかにしとったのかもしれん。」

「設備ねえ…。」

どうやらデイジーは研究以外の事には無頓着のようだった。

「この研究施設の研究水準によって区画を分けるのです。」

「ふむ。その話をしようということか?」

「はい、私たちが研究をお願いするうえでも、その部分は譲れないところです。」

「わかった。ではおぬしの話を聞くとしようかのう。」

デイジーが頷く。

「とにかく、ここでの研究は魔人軍の最重要機密なのです。それにしては少し安全基準が甘すぎると言わざるを得ないのです。とにかく場所一度場所を移して話を。」

「わかったわかった。」

デイジーとバルムス、ミーシャが真剣に俺の話を聞いている。

俺は彼らの安全を、彼らに任せきりにしていたことを後悔する。まだ大きな事故が起きないうちに手を打っておこうと思うのだった。

「ではラウル様。この洞窟内にも会議室を作っておりますのでそちらへ。」

ミーシャが言う。

「ああ、ミーシャそうしてくれ。」

「ならばミーシャ、お客様に美味しいお茶をいれておくれ。」

デイジーが言う。

「ええ。もちろんです。」

俺達はミーシャについて会議室へと移動するのだった。

このまま研究を続けていたら死人が出るかもしれない。

安全に研究を続けてもらうためにも、労働安全衛生の基準を制定し業務フローや建物も、基準に準じたものにしなければいけない。こんな危険な事を続けさせたのは間違いなく俺の責任だ。

俺はただただ反省するのだった。