軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第384話 王政復活の第一歩

俺はファートリア西部の全ての村人をユークリット王都に移住させた。どうしてそんなことをしたのかと言えばもちろん目論見があるからだった。

ユークリット王都の民は一人残らずデモンに屍人にされ滅亡してしまった。もともとユークリット王都は大都市であり、南はバルギウス帝国、東にファートリア神聖国、北にシュラーデン王国やラシュタル王国に囲まれて、物流の中間都市として経済的な発展を遂げていた場所だ。それが今ではゴーストタウンと化してしまったのだ。

現在のユークリット王都の人口比率は冒険者が120人程度で、残りは魔人1000人となっており、ほとんどが魔人の国となってしまった。俺はまずその比率を50%50%にしようと思っている。今回ファートリア西部から連れて来た人間は340人なのでそれでも足りてはいない。もともと百万人以上いたであろう大都市なのでもちろん絶対数は足りないが、それでも人間がいないと話にならなかった。

「これから私はまた先生と共に王城に籠らなければならないのですが、その前に皆さんにお話をしておきたいことがあります。」

俺が話を始める。

今、俺の目の前にいるのはエミルとケイナ、エミルのお父さんのハリス・ディアノ―ゼと商人のマーカス・バート、モーリス先生と俺、そしてマリアがいた。その周りにシャーミリアとカララとファントムが立っている。俺達は議事堂の一室で話をしていた。

もちろんシン国のカゲヨシ将軍たちや、ファートリア神聖国のサイナス枢機卿一行など、他国の人間はここには入れていない。そしてオージェとトライトン、グレースとオンジは既にファートリア前線基地へと帰投していた。前線基地の防衛が心配だったので早々に帰ってもらったのだ。

ここにいるのはほぼ身内だけ。いわゆる密談と言うやつだ。

「話とは?」

ハリスが言う。

「はい。私はこのユークリット王都を復興させるために、王政と貴族を復活させる予定でおります。」

「いや‥‥しかし。王族や貴族は全て皆殺しにあったのでは?」

「その通りです。」

「どうやってそんなことを。」

「えっと、今回貴族をいっぱい連れてきましたから。」

「ん?なんですって?貴族を…連れて来た?」

「どういうことですか?」

ハリスとマーカスがそろって面食らった顔をする。

「そのままの意味ですが?」

「そのままって…。」

「心の奥底から貴族の人たちを連れてきましたので問題ありません。」

もちろん心の奥底からの貴族たちと言うのは、ファートリア西部から連れて来た超ド田舎の村人たちの事だった。しかしハリスやマーカスにはそのことを伝えてはいない。

「父さん。俺も保証するよ、間違いなく心から貴族になりえる人たちだ。」

「あのエミルよ。今一つ状況が飲み込めないのだが。」

「父さん、心配しなくていいよ。心の奥底からのユークリット王都の貴族だから。」

エミルが念を押す。

部屋の中に少しの沈黙がおちる。俺達が言っている意味を理解しようとしているのかもしれない。

「ふむ。ラウルよ、いきなりすぎて面食らうのも無理はないのう。貴族は根絶やしにされたはずじゃが、300以上の貴族の生き残りがいたというのは少々無理がないかの?」

モーリス先生が内情を分かっていながらも助け船を出す。

「そうですね。ちょっと説明を端折りすぎました。彼らは古くからの貴族ではありません。新しく貴族として生きていく者達です。」

「新しく貴族として生きて行く者達?」

「はい。」

「どういう事なんでしょう?」

「このユークリット王都では全ての民を根絶やしにされました。しかし私は王政を復活させようと思っています。王に相応しい人も一人知っています。ですがその王の元に貴族や民がひとりもいないのでは国として成り立ちません。そこで、その王の権限で人々に地位を与え国政をやっていくと言う事です。」

「まあ理屈は分かりますが、言うほど簡単な事ではありますまい。」

「ですよね。そこでお願いしたいことがあるのです。」

「お願い?」

「エミル、いいかな?」

「ああ、ラウル。」

俺に代わってエミルが父親のハリスに話はじめる。

「父さん。ちょっと驚くかもしれないけれど落ち着いて聞いて欲しい。」

「まあここまでの事を見てきて今更驚く事もないだろうがな。」

ハリスさんが落ち着こうと思って置いてあるお茶を口に含む。

「ならよかった。父さんにはユークリット公国の 宰相(さいしょう) をやってもらう事になった。」

「ブッ!」

ハリスが吹き出す。

「お、おまえ!何の冗談だ?宰相って言うのは偉い人がやるもんだ。それこそ公爵家や伯爵様なんかがやるんだぞ。」

「やっぱりそう思うよね。ラウル伝えてくれ。」

「ああわかった。ハリスさん。」

「はい。」

「ハリスさんはユークリットの伯爵になっていただきます。」

「はあ!?」

「ぜひお願いします。」

「私などに伯爵など務まるわけがない!」

「大丈夫です。我々が全面的に後ろ盾となりますから。」

「そんな簡単に…。」

「なってもらわねば困るのです。私もエミルも。」

「エミルも?」

そして隣でそのやり取りを見ていた商人のマーカス・バートが笑い出す。

「わっはっはっはっ!」

「何笑ってんだ。」

「だってハリスが宰相なんて面白くってな。」

「笑いごっちゃねえ!こいつらの顔をみて見ろ!本気で言っているんだぞ!」

「ああ、その様だな。いやー気の毒に。俺にはそんな大役は無理だな、立派な息子を持つと苦労するようだな。」

マーカスが他人事のように大笑いしている。

「えっと、マーカスさんにも伯爵となってもらい財務大臣の職に就いてもらいます。」

「ブッ!」

マーカスがお茶を噴き出す。

「はぁ?」

「やり手の商人さんが居てくれてよかった。」

「まってください!私が伯爵?しかも財務大臣ですと!?」

「ええ。適役かと。」

「無理無理無理!無理です!そんなことできるわけがない。」

「もちろん我々が後ろ盾になりますのでご安心を。」

「ご安心できませんって!私は一介の商人なのですよ!財務大臣などとご冗談を言わないでください!」

俺とエミルとモーリス先生が真顔でハリスとマーカスを見つめている。

「頼むよ父さん。なってもらわないと俺のラウル軍での地位が微妙なものになるんだ。」

ん?エミルはいったい何言ってんの?俺そんなこと言ってないけど?

「エミルが微妙な立場に?俺が宰相にならないとどうなるんだ?」

「俺はたった一人で最前線に送られて来週にはこの世にいないかもしれない。」

「そ、そんな。ラウル様!それだけはどうかやめてあげてくださいませんか!?」

さすがエミル。お父さんの弱い部分をよくわかっているようだった。だがそれだと俺が相当の鬼畜だと思われないかな?まあ、言っちゃったものは仕方がないから話に乗るとしよう。

「いえダメです。ハリスさんが引き受けて下さらないのならば、エミルには一人で最前線に行っていただくしかありませんね。」

「ちょっとまってください!」

「待てません。」

ハリスが押し黙ってしまう。

「もちろんマーカスさんにも、なっていただかねばいけません。」

「ハリスよ、エミル君が大変な事になるのであれば、この話受けさせてもらうしかないだろう?」

「わかった!わかりました!仰せの通りにいたします!」

「そうですか!良かった!エミルもよかったな命拾いして。」

「良かった。俺もまだ生きていたいからなあ。」

ハリスとマーカスは引きつった顔で固まっている。

「ふぉっふぉっふぉっ話がまとまって良かったのう。」

モーリス先生が何食わぬ顔で言う。

「はい。モーリス先生、では近いうちに王を向かいに行かねばなりませんね?」

「じゃな。」

次期、ユークリット公国の宰相と財務大臣は苦笑いを浮かべていた。

「それで…王様とは?」

「今はまだ秘密ですが、戦争が終わったらここに連れてきます。ちょっと命を狙われている節がありますので。」

「はあ…」

「とんでもない事になってしもうた。」

ハリスがため息をつきマーカスが青い顔で言う。

「シャーミリア。到着した貴族の皆さんはどうなっているかな?」

「サキュバス隊及びハルピュイア隊が住居を割り当て、屋敷に残っていた衣服に着替えさせました。」

「了解。それじゃあ貴族のご家族の皆さんを講堂へと集めてくれ。」

「かしこまりました。」

「ではハリス卿、マーカス卿。まいりましょう。」

「‥‥はい。」

「‥‥分かりました。」

二人がとぼとぼと歩き出す。とにかく丁度いいところにいたのだから仕方がない。サナリアにじっとしていてくれていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。

俺達は会議室を出て講堂へと歩いて行く。

俺達はこの新議事堂をユークリットの拠点としている。王城の方は未だ半壊しているため舞踏会場などはない、そのためこの議事堂にある講堂へと民を集める事にした。

「いやー、引き受けてもらえないんじゃないかと思いましたよ。」

俺は笑顔でハリスに言う。

「は、はは…すべてはエミルの為です。」

「マーカスさんは良かったのですか?」

「も、もちろん…です。」

「いやー、本当に良かった。」

俺はニコニコしながら前を歩く。

俺達はまだ誰もいない行動に入り”貴族の皆さん”を待つ。

「いらっしゃいました!」

カララがドアを開けると、ぞろぞろと元ド田舎の村人たちがドレスやタキシードを着て入って来た。

「ほ、本当だ!貴族様が!」

「こんなにたくさん!」

ハリスとマーカスが驚いて目をむく。

サキュバスとハルピュイア達が、村人へドレスを着せてかつらをかぶせたらしい。何も知らずにぞろぞろと入ってくるがどこをどう見ても貴族だ。

《ただ…所作が貴族じゃないみたいだな…。》

《はいご主人様。元は農民でございますから。》

《簡単に見に付くものではないか。》

《次期王に教育をしてもらわねばならないかと。》

《もともとあの人も上級貴族ではあるけど、自由奔放な人だからなあ…》

《ふふ。その通りです。私奴はあの方が大好きです。》

《ラウル様、私もですわ。魔人は皆あの方が大好きです。》

《人望?魔人望が厚くてなによりだよ。》

《はい。》

《そうですね。》

俺とシャーミリア、カララが念話こそこそ話をする。

サキュバスたちにエスコートされた新貴族が勢ぞろいした。老若男女、全ての村人が着飾って宝石を身に着けている。王都に侵攻したデモンは宝石やドレスなどには興味が無かったようで、ほとんどが無事だったようだ。

《ルピア!降りてこい。》

《はい。》

念話で伝えると、ルピアが講堂の前にある壇上の上から羽を広げて降りてきた。

「民よ、よくぞ集まってくださいました。」

新貴族たちが深々とルピアに頭を下げる。

「頭を上げなさい、新しい世界の貴族たちよ。あなた方はこの世界の未来を作る者。皆が神の愛おしい子供なのです。神の命ずるまま、あなた方はその身に相応しい立ち振る舞いをしなければなりません。」

「はい。」

「はい。」

「はい。」

皆が厳かに礼をする。

「そして次なる世界の為、新たなる仕事をしていかねばなりません。それは国をそして領土を統治していくと言う事です。」

「はい。」

「はい。」

「はい。」

皆が冷静にルピアの話を聞いている。誰一人として田舎者風の立ち振る舞いをしていなかった。

《いいぞアナミス。》

《私も、あの御方の立ち振る舞いや行動を参考にしていますので。》

《なるほどね。》

《中身までは無理かもしれませんけど。》

《ああ、あの人は生粋の貴族だからな。そこまで真似る事は難しいだろう。》

《はい。》

「ハリスさん!どうですか?この国を納めていくのに相応しい方達でしょう?」

「は、はあ。」

ハリスが困った顔で言う。

《ルピア。》

《はい。》

念話でルピアに指示を出す。

「それではみなさん。」

ルピアが話し出す。

「これから皆さんを導いていく方を紹介します。ハリス・ディアノ―ゼ伯爵です。」

ルピアがハリスを指さす。

「えっ!わたし!?何をすれば?」

「ハリス伯爵。壇上へ。」

「は、はい!」

ハリスは慌てて壇上へと歩いて行く。

「はあ、オヤジめちゃくちゃ緊張してうろたえてるよ。俺ちょっとかわいそうになって来た。」

「いやエミル、もう決めたことだろ。」

「まあそうだけど。」

「知らない人や身内以外に国の重職なんか任せらんねえし。」

「あの親父に務まるかなぁ…。」

「ちゃんと魔人達がバックアップするよ。」

「ホント頼むぜ。」

「了解。」

しどろもどろになりながらも所信表明のような物をしているハリスを見て、エミルが物凄く気の毒そうな顔をしていた。もちろん俺だってそう思うが、精霊神の親父をただの町民にしておくわけにもいかない。

とにかくこれからもっと人間を増やさないといけないし、兵隊もこさえないといけない。税金を払う市民だって増やさなきゃいけないからやる事いっぱいだ。まずはこの地を魅力ある土地にしていかないといけない。

《まあ…人間の兵隊だけはあてがあるけど。》

《はいご主人様。龍神様が鍛えた精鋭がおります。》

《だな。》

《さらに魔人達が磨きをかけている事でしょう。》

《ああ、あとは王城を直す大工だな。》

《はい。シュラーデンやラシュタルを当たるしかないかもしれません。》

《そうだな。》

これからのユークリット王都復活のためにやる事は山積みだった。

《とにかく王様に来てもらうまでにカッコつけとかなきゃな。》

《はい!王を迎えるに相応しい都市に仕上げてまいりましょう。》

カララも言う。

今、本当の復興に向けて第一歩を歩み始めたのだ。

最初は張りぼてかもしれないがいつか本物になると信じて。