軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第380話 精神操作誘導 ~オージェ視点~

ラウル達が魔導書の謎を調べるために書庫で作業をしていた1日ほど前。オージェ率いる魔人軍部隊は、既にファートリア西部ラインの村々に配備されていた。

「こういう運命なのかね。」

俺は一人つぶやく。

まさか俺はこちらの世界に来てまで人命救助を行うとは思っていなかった。だが前世で自衛官だった時には、災害派遣に行く事もあり救助は手慣れているはずだが、今回の作戦はそれとはだいぶ勝手が違うものだった。そして前世からの親友が俺に軍の指揮を任せると言った。

「あいつが苦労して下地を作ったんだ。失敗するわけにはいかんな。」

元々ラウルが前世の高山淳弥だったころから、あいつの丸投げには慣れている。彼がなんやかんやアイデアを出しまくって、実施する段階になると頼まれる事が多かった。前世では無茶ぶりもあったが、今回の作戦は用意周到に準備をして終わっている。

「龍神様。いつでも。」

ラウルの直属の部下であるギレザムが語りかけて来る。

「わかった。ラウルに伝えてくれるか?」

「はい。」

ラウル率いる魔人というのは不思議な力を使う。離れていても携帯電話か無線のように念話と言う通信手段があるのだ。そしてここにいるアナミスと言うギャル風の魔人は、精神を操る事が出来るのだという。

「作戦を進めてくれとの事です。」

「了解だ。」

俺の目の前には救うべき民がいる。

あの国境付近で見たような、デモン召喚魔法陣が仕掛けてある可能性があるのだ、それを考えるといっさい油断は出来なかった。

「それではアナミスさん。少人数ずつ村の外に誘導してください。」

「わかりました。」

「ところで、離れた3つの村を同時に誘導出来るのですか?」

「はい、そうでなければ意味がないとのラウル様からのお達しです。」

「では頼みます。」

「はい。」

アナミスが目を閉じで何かを行っているようだ。なんでもラウルとの繋がりが常に保てるようになってから、こんなことが出来るようになったらしい。遠くの村でも同じことが行われているようだ。

一旦することが無くなったので、ふと俺は横に目を向ける。

「トライトン。お前には念話は使えないのか?」

隣にいるトライトンに言う。

「ワイには使えません。」

「お前って魔人じゃないの?」

「自分でもよく分かりません。」

「ふーん。」

「なんですか!なんかワイがおかしいみたいな目で見てませんか?」

「おかしいとは思ってないよ。なんか特技とかあんのかなあって思って。」

「もともとワイには特技なんて特になかったんです。ですが龍神様のせい…おかげで不意打ちが得意になりました。」

「それ特技かね?」

「まあ今の龍神様のせいではないので何とも言えないですが、何も無いよりあった方が良いかなって、ワイなりに思ってます。」

「ならよかった。」

村を見ていたらどうやら動きがあったようだった。10人くらい人がぞろぞろと出て来る。100人くらいいるから目立たないように少しずつ行う必要があった。

「ギレザム。他の村はどうなってる?」

「同じように少人数が出てきているようです。」

他の二つの村にはガザムとゴーグがおり、常に彼らを念話でつなぐことが出来ているようだった。

「よし、継続して異変が無いか監視しろ。」

「はい。」

「アナミスさんはそのまま続けてくれますか?」

「かしこまりました。」

俺が村を見ているとまた数人の村人が出てきた。先に出てきた人は体操でもするように体を伸ばしたりしている。あれは操られている訳ではなく、自分の意志でやっていると思っているらしい。

《うーむ。村人が村の外に出てきてなんとなく集まっている事に対して、村人自身は不思議に思わないのだろうか?いったいどう思ってるんだろう?》

「他の拠点も問題なく進んでいるようです。」

「そうか分かった。」

ギレザムが俺に逐一報告をくれる。

あれを隣で目を瞑ったアナミスが操作しているというのだから、空恐ろしい。

「アナミスさん。疲れたら言ってくださいね。」

「大丈夫です。」

どうやらそれほど疲れはしないようだった。

アナミスはギャルっぽい雰囲気で服装も煽情的で色っぽい。この人が前世にいたら恐らく俺は相手にもされないだろう、渋谷辺りにいそうな感じだ。

「あの…龍神様。」

「なんだトライトン。」

「さっきから気になってる事があるんですが、よろしいでしょうか?」

「言って見ろ。」

「どうしてギレザムさんには命令口調で、アナミスさんには敬語なんですか?」

「えっ!いやそんなことあったか?」

「気が付いてないんですか?」

「ああ、自分では気が付かなかったよ。」

「本当ですか?」

「ああ。」

「逆にびっくりです。 」

俺はトライトンに指摘されるまで、そんなことを意識していなかった。何というか…屈強な男に命令するのは慣れているが、ギャルっぽい女の人に命令をした事など無かったからかもしれない。

「でも別にそれで良くないか?」

ちょっと不服だ。

「良いかどうかはワイはよくわかりませんが、龍神様が良いならいいんじゃないですか?」

「いや俺はむしろ、彼らが問題ないならいい。」

「龍神様、我は問題ございません。丁寧なお言葉など不要です。今のままで結構です。」

ギレザムが言う。

「ならよかったよ。俺もそのほうがありがたい。スムーズに指示が出せるし。」

「あの、私も丁寧な指示でなくてもよろしいのですが。」

アナミスが言う。

「分かりました。それでは気を使わないように指示させていただきます。」

「‥‥‥。」

「‥‥‥。」

なんだ?魔人二人が黙ったぞ。

「龍神様。」

「なんだトライトン。」

「‥‥。」

「なんだ。」

「天然ですか?」

「天然!いや断じて違うぞ!俺はそういう人種ではないはずだ。」

「そうですか。」

うーん。なんだかおかしいぞ、俺が天然扱いされると思わなかった。とにかく今後は気を付けるとしよう。

「トライトン、村人がだいぶそろってきたな。」

「はい。」

続々と村人が村から出て来た。そして少しずつ村から離れ街道からも外れて草原に集まって談笑なんかしている。

「アナミスさん。とにかく少しずつでいいですよ。」

「かしこまりました。」

そしてまた出て来た村人がまとまって、更に草原の方に進んでくる。

その草原の先には魔人がひそかに作ったバーベキュー会場のような場所を設けており、グレースが収納から出した食料が置いてあった。人々はそこに集まりおもむろにピクニックを始めるのだった。

「あれで村人たちは不思議に思わんのですか?このテーブルがどこから来たのか、竈門がどうしてこんなところにあるのか、そもそもテーブルの上にどうして食材がそろっているのか?」

「はい、彼らは自分の意思で行楽を楽しんでいると思っています。心から癒されておりますわ。」

「凄いですね。精神的な負担は無いのですか?」

「彼らの精神的負担は既にラウル様が背負いました。魂核に刻まれたものは正真正銘の自分自身なのです、彼らは本当に幸せを感じておりますよ。」

ぶるっ

俺はつい身震いしてしまった。

何ということだろう。あそこにいる人間たちは自分の意思で楽しんで、自らが求めてあれをやっていると思っているのだ。しかしそれは本当に彼らが求めているものなのだろうか?生まれながらにしてそれを受けいれるべく生きてきたのだろうか?

「楽しそうですもんね。」

トライトンが言う。

「ええ、魂の奥底から楽しんでいるはずです。精神に曇りも無いので身体機能も向上しますし、恐らく昨日までよりも心身が健康になっていると思います。」

《うわあ…強制的にデトックスされている感じなのか?でも魂の根幹から幸せに思っているんじゃ、これ以上の幸せはないって事になるな。ならそれならそれで問題ないのかも。》

うん。きっとそうだ。

自分に言い聞かせる。

しかしそれをやっているのが、まるでギャルサーにでもいるような、めちゃ可愛い女の子なのだ。催眠や洗脳や精神誘導でもない、人の魂の奥底から自分の考えだと思うように彼女が仕向けているのだ。何というか納得がいくような行かないような割り切れない感じだった。

《俺が…彼女に敬語を使ってしまう理由。それは底知れぬ恐ろしさを彼女に感じているからに他ならない。》

それから夕方まで村人たちが全員で外に出てきて、ピクニックを楽しんでいるという異様な光景が広がる。そんな光景を何時間も見つめ続けていた。

「そろそろ日が沈むな。」

「そのようで。」

トライトンが言う。

「ギレザム。他の拠点はどうなってる?」

「他もまもなく全員が出るようです。」

「よし!」

しばらく待っているとすっかり日が暮れて来る。村人は近くに積み上げてあった木のやぐらに火を放ちキャンプファイヤーを始めた。この木の櫓も魔人達があらかじめ作っていたものだった。

「アナミスさん。村人にライターを使わせたのですか?」

「その通りです。虹蛇様が出してくださったものを使っています。」

「元はラウルのですけどね。」

「はい。」

「村人はライターを見ても何も思わないのですか?」

「もちろんです。」

《地球のものを見ても既に村人は違和感すら抱かないらしい。そもそもやぐらが組まれている事にも疑問をもたないのだ。》

俺達がその村人の光景を見ていると、全員でキャンプファイヤーの炎を取り囲み肩を組み合わせて歌い出した。

「あれもアナミスさんがさせているのですか?」

「いいえ。どうやら彼らはいつしか、豊穣のお祭りをしているのだと思い込んでおります。」

「祭りを‥‥。」

「はい。」

「自分で自分を納得し始めさせたという感じでしょうか?」

「言ってみればそのようなものに近いのかもしれません。」

「それで幸せなのですか?」

「もちろんです。今宵は今まで生きて来た何倍もの幸せをかみしめていると思います。」

「そ、そうですか。」

なんてこったい。でも不幸じゃなく最高の幸せを感じているんだからいいのかな…

《いかんいかんそんなことを考えている場合じゃない。次の作戦に移らねば。》

「ではアナミスさん。次の行動に移ります。」

「はい。」

「彼らを深い眠りにつかせて下さい。」

「それでは、いってまいります。」

アナミスが音も無く飛び立って村人の元へと向かった。俺達は彼女が終わるのを待ち、しばらくすると彼女は上空から降りてきた。

「おまたせいたしました。全員眠らせました。」

「ありがとうございます。」

「いえ。」

「じゃあギレザム。眠った人間達を安全な場所まで運ぶように魔人に指示をしろ。」

「はい。」

ギレザムが動き、魔人達が素早く村人が眠った場所まで向かう。あらかじめ魔人達に作らせていた地下防空壕へと運び込ませるためだった。

そして俺は腰につけた無線機を取り出した。

「エミル、応答せよ。」

「オージェか待ちくたびれたよ。」

「出番だ。来てくれ。」

「あいよ。」

しばらくすると上空からV-22オスプレイが降下して来た。

「じゃあギレザム、一旦ここで待機だ。夜明けまでにすべての村人を保護してくる。」

「わかりました。」

「じゃあアナミスさん、このエミルのヘリでグレースたちがいる南の村に向かいます。」

「かしこまりました。」

そう言って俺とトライトン、アナミスがオスプレイに乗り込んでいく。

「お疲れ様です。」

オスプレイの後部にはエルフのケイナさんがいた。

「ああケイナさん。おまたせしたね。」

「いえ大丈夫です。エミル!3人が乗ったよ!」

「了解だ。」

ハッチが閉まりオスプレイは夜の空へと舞い上がった。南の村の民を同じように眠らせて防空壕に入れるためだ。それが終わったら前線基地付近の北の村の民も、防空壕へ入れて保護する予定だ。

「エミル。俺は俺だよな。」

俺はなんとなく自分が不安になって、操縦席に座っているエミルに聞く。

「はっ?何言ってんだよ藪から棒に?オージェはオージェだろ?」

「ははっ、だよな。」

「いったい何言ってんだ?」

「いいんだ、いいんだよ。」

「龍神様。ワイには何が言いたいのかが分かりましたよ。」

「いいんだトライトン。俺は間違いなく俺だ。」

「それはワイが保証します。」

そう。俺はもしかして俺が知らないうちに、俺の魂が何者かに書き換えられたりしていないか不安になってしまったのだった。もちろんそんなことはないだろうし、俺がそのような不意を突かれる事はなかったはずだ。

「あの…。」

「どうしましたアナミスさん。」

「龍神様はもしかすると、村人のように魂核に操作をされていると思っておいでですか?」

「はは、実はお恥ずかしながらそうなんです。」

「龍神様の魂核になど触れられるものはこの世に存在しません。5大神様はそもそも我々より、はるかに高い存在にあられる方です。もし私風情が龍神様の魂核に触れたら、瞬く間に死んでしまうことでしょう。いえ、そもそも触れる事も敵わず、外殻を見る事すら出来るはずがございません。」

「そうなんだ。俺もまだ龍神とやらになりたてなもんだから、もしかしてと思ってさ。」

「ふふっ、ようやく敬語をおやめくださいましたね。」

「え、そうだった?」

「ほら。」

「龍神様はやはり・・・天然。」

「トライトンは黙ってろ。」

「失礼しました。」

しばらくして南の村に付くと、ここでもやはりキャンプファイヤーをしているようだった。俺達が側にオスプレイで降りたにもかかわらず誰も気にしていないようだ。

完全に不自然だ。

それでもすみやかに作戦を実行せねばならない。

「アナミスさん。村人をねむらせてくれ。」

「かしこまりました。」

さきほどの村と同様にアナミスが村人を眠らせた。

「ゴーグ君。魔人軍に村人を防空壕へと運ぶように指示を。」

「わかりました。」

ゴーグが走って魔人達と共に眠った村人の所へと向かった。

「グレース!お待たせしたね。」

「暇でゴロゴロしてました。」

「そろそろ出番だ。まもなく村へ魔力を注ぐ作業を始めるから、魔人達へ大量の武器を供給してくれ。」

「了解。」

グレースにはこの南の村の魔人、中央の村の魔人、北の村の魔人に武器を供給するという重要な役割があった。

「武器を供給次第、北の村へ飛ぶ。」

「了解。」

エミルが答える。

眠ってしまった村人を全て防空壕へと避難させ、戻って来たゴーグにグレースが魔力を注いだ大きな魔石を渡す。魔人達には武器を供給して次の指示を出す。

「ゴーグ君。全ての村で避難が終わったら魔石を村に放り投げる予定だ。ギレザムからの合図を待て。」

「わかりました。」

ゴーグが言う。

「ではゴーグ君くれぐれも油断の無いように。常に臨戦態勢で待っててくれ。」

「はい。」

「ではアナミスさん、グレース、俺と一緒に北の村へ。」

「かしこまりました。」

「了解です。」

そしてアナミスとグレースと付き人のオンジがオスプレイに乗り込んだ。俺とトライトンが最後に乗り込むと再びオスプレイが闇夜に飛び立つ。

順調にオスプレイが飛んで北の村に付くと、やはり他の村と同じように村人がキャンプファイヤーをしていた。オスプレイがそばに降り立っても誰も気にしていないようだった。

「ガザム。状況は。」

「宴をしています。」

「よし。アナミスさん村人を眠らせてくれ。」

「かしこまりました。」

ここも同じ要領で北の村の村人も眠らせた。

「ガザム、村人を全て防空壕へ。」

「は!」

他の村とまったく同じ作業を行う。

「グレース、ここの魔人達に必要な武器を供給してくれ。」

「了解です。」

グレースが武器を供給し終わり全ての作業を終えた。

「ガザム、それじゃあ合図があったらこの魔石を村へ放り込め。」

「はい。」

魔力が注がれた魔石をガザムに渡す。

「戦闘態勢を崩す事の無いように。」

「は!」

そして俺とグレースと二人の付き人、そしてアナミスが再びオスプレイに乗り込んだ。

「エミル。中央の村へ飛んでくれ。」

「了解だ。」

飛び立ったオスプレイが中央の村に着くころには夜が明けつつあった。

「どうやら夜明けに間に合ったようだ。アナミスさんとエミルもグレースもありがとう。」

俺はアナミスと、エミルとグレースに礼を言う。

「私の仕事はここまでです。後は龍神様にすべてを託します。」

「俺達は近接デモン戦闘なんか出来ないからな。せいぜい遠距離から支援射撃をさせてもらうよ。」

「すみません。僕もそうさせてもらいます。」

「ああ実戦なら俺の出番だ。お前たちは眠っててもいいぞ。まあ国境の戦いを見る限りではデモンに近寄る事もなさそうだけどな。」

「さすがだよ。」

「本当です。」

オスプレイが中央の村付近に着陸する。

中央の村のそばにくると、ギレザムが俺達を出迎えてくれた。

「よし!グレース。ここの魔人達に兵器を配給してくれ。」

「了解。」

いよいよ西部ラインの奪還作戦は大詰めを迎えた。

この村に何の罠が仕掛けてあるのか?

オレンジ色の太陽が世界を照らし美しい紫の空が広がるのだった。