軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第377話 秘密の書庫

枢機卿や将軍達へ挨拶をした後で俺は魔力の補充も兼ねて眠る事にした。戦闘や過酷な作戦に慣れたせいなのか、眠ろうと思えば直ぐに熟睡できるようになった。寝室に魔人達がいる事も特に気になることは無い。

「ご主人様。」

シャーミリアが俺を優しく起こしてくれる。部屋にはシャーミリアとカララ、ファントムの他にマリアがいた。

「ああ、先生が起きたのか?」

「左様でございます。ご主人様。」

俺はベッドの側にいるマリアを見る。子供の頃から慣れ親しんだメイドの笑顔。乳母代わりに俺を育ててくれたマリアがいるだけで心が安らぐ。

《俺は、なんやかんやでマリアといるのが1番安心するみたいだ。》

「マリアは疲れてないか?」

「十分休ませていただきました。」

「無理はするな。」

「ありがとうございます。」

俺が上半身を起こすと、自分が裸になっている事に気がつく。

「あれ?」

「ラウル様が凄い汗をかいておりましたので、脱がせて汗を拭き取りました。」

カララが言う。

「ありがとうカララ。」

「いえ。」

俺がベッドから降りて立ち上がると、するりとマリアが服を羽織らせ前のボタンを締めてくれる。子供の頃から何百回も続けられた所作は自然で、俺が意識をすることなく服が着せられていく。

「やはり見事ね。」

シャーミリアがマリアの仕事を見て言う。

「そう?専属メイドとしては普通の事よ。」

マリアが微笑んで答える。

「ご主人様がこんなに、くつろがれているのはマリアがいるからよ。」

「そうよマリア。ラウル様の心拍も安定しているようだわ。」

「私は久しぶりにお世話が出来て、とても幸せなの。」

マリアがにっこり笑う。

《癒される。》

あのファートリア西部で精神がガリガリ削られる経験をしてから、こんな日常の一幕でも異様に幸せを感じるようになった。

「でもとても逞しくなり、昔より着せごたえがあります。」

マリアが言う。

目覚めたその部屋はとても豪華で絨毯には美しい模様が描かれていた。キングサイズのベッドに、羽毛布団のようなものが敷かれている。

「先生は?」

「先にお城に行って準備をしているそうです。」

「先生を待たせるわけにはいかない。すぐに行こう。」

「かしこまりました。」

俺たちは寝所となっていた部屋をでる。

ここは高貴な貴族が住んでいたであろう大きな屋敷だった。大きいなんてもんじゃない、どこまでも続くような廊下に毛足の長いフッカフカで豪華そうな絨毯。壁に施された装飾はとても手が込んでいる。恐らくは一流の職人の仕事だ。

「さっき来た時も思ったけど、凄い豪華な建物だな。」

「ラウル様にはご記憶が無いかもしれませんね。」

マリアが言う。

3歳ごろの記憶はバッチリあるよ。

「えっ?ここ俺の家じゃないだろ?」

「はい違います。残念ながらフォレスト邸は崩壊しました。」

「だよなあ。じゃあここは?」

「イオナ様のご実家です。」

「ナスタリア家?残ってたの?」

「破壊された都市部は北東でしたから、南西方面には無傷のお屋敷もあるようです。」

「じゃあマリアはここを知っているって事か。」

「初めて奉公についた場所ですから。」

「俺は覚えてないけど。」

「訪れた時は、まだ赤ん坊でしたから確かに覚えてはいませんよね。」

「爺さん婆さんもいたって事?」

「もちろんです。」

「でも冒険者達はここに住もうとは思わなかったんだ?」

「王都出身の冒険者もいたようですし、ナスタリアの屋敷に入り込もうとはしなかったようです。」

「どうしてなんだろう。」

「ふふっ。ユークリットが栄えたのはナスタリア家があったからですし。」

「そうなんだ?」

「王家を陰で支え続けてきた貴族様ですから。」

だからこんなに建物が豪華なのか。冒険者達も恐れ多くて手を出さなかったと言うことかね。

「なんにせよありがたいよ。イオナ母さんも喜ぶと思う。」

「はい。」

俺たちが屋敷の外に出ると、周りには壊れていない屋敷があった。その中に母さんの実家が残っていたのはありがたい。

「ちなみにナスタリアの家はここだけではありません。あちこちにございますよ。」

「本当に実力のあった貴族だったんだな。」

「ユークリットの歴史にナスタリアあり。ユークリットの常識です。」

「なんかわかんないけど凄い感じはする。ユークリット公国と共に生きてきたって感じかね。とにかく母さんに早く教えてやりたいよ。」

「はい。」

マリアが嬉しそうだと俺も嬉しくなってくる。イオナにもカトリーヌにも帰る家があるってことかな。

「城は。」

「こちらです。」

マリアに連れられて立派な屋敷が並ぶ路地を歩く。

「マリア。子供の頃一緒に買い物に出たよね?」

俺が子供の頃を思い出して言う。

「ええ。もちろん覚えておりますよ。あの時はまだ私も10代でした。」

「昨日の事のようだ。」

「本当に。」

マリアは少し目を伏せた。きっと幸せだった頃の事を思い出してしまったのかもしれない。あの時はこんな事になると誰もが思っていなかった。

ナスタリア邸から城まではそれほど遠くはなかった。王城はまだ復興の目処がついていないようで、ほとんど手付かず半壊のままだ。その城の前にはラーズが待っていた。

「ラウル様。御師様がお待ちしております。」

「お待たせ。」

「こちらです。まだ建物が破損しておりますので、お気をつけ下さい。」

「城は手付かずなんだな。」

「はい。増築するか建て替えなのかがまだ決まっておりませんし、御師様の指示で止めております。」

「先生の?」

「はい。」

「何か理由があるのかな?」

「書物庫の結界に影響があるかもしれないからと。」

「なーるほどね。」

俺がそのまま城に入ろうとする。

「そちらではございません。」

ラーズは王城には入らず敷地内を回っていく。

「中じゃないのか。」

「はい。」

てっきり王城の中にあるんだと思ってた。

「城内は少し荒れてるんだな。」

「結界に影響があるといけないので手つかずになっております。」

「きっと綺麗な庭園だったんだろうけど。」

「私も王城には入った事が御座いませんが、イオナ様がおっしゃるには綺麗な場所だったと。」

マリアが言う。

「なんとか復活させたいもんだが、さすがに魔人には庭師はいないな。」

「人間で探さないといけないと言う事ですね。」

「他の国で探すしかないな。」

「そうですね。」

荒れ果て草が生え放題の庭園を歩いて行くと、崩れた城壁が見えてきた。俺達はその城壁伝いに回り込んでいく。

「こんなところに秘密の書庫があるのか?」

「御師様も見つけた時はとても驚いていらっしゃいましたよ。」

「よく見つけたものだ。」

大きな敷地なのでかなりの距離があり、足元には雑草が生えているので歩きにくかった。更に奥まで歩いて行くと城壁の角に到達した、そこをまた左に曲がって進んでいく。

「裏はさらに荒れ放題だ。」

「そのようです。」

「ファントム。草を刈れ。」

ファントムが先頭に立ち体内から軍用マチェットを吐き出して、ばっさばっさと雑草を刈り取っていく。

「お!あれだな!」

俺達の先に祠のような建物が見えてきた。恐らくはあれが秘密の書庫だろう。

「違います。」

ラーズに思いっきり否定された。

「え、違うの?祠でしょ。」

「あれは衛兵の詰め所です。」

「そうなんだ。」

その詰め所を過ぎて更に先に進んでいく。

「その城壁にある扉を入ります。」

「外に出るの!?」

「いえ、その扉を出てもまだ城内です。」

「そうなんだ。」

そしてラーズについてその城壁を外に出る。すると花が咲いた庭園が目の前に広がる。しかし雑草や木々が無造作に生えており、どこに何があるのかが分からない。噴水もあるようだが水は出ていなかった。

「ここも相当荒れてるな。」

「王族が憩うための私有の庭園のようですね。」

「だな。結構な広さがあるみたいだ。」

「整えたらさぞ美しいでしょう。」

「ああ。」

庭園をすぎて雑木林のような場所に入る。

「ここも王城内なんだな。」

「そうです。この先も全て城壁に囲まれており外からは見えないようになっております。」

「城も巨大だけど敷地も広いんだな。」

「はい。」

雑木林の中も荒れていて進みづらかったが、ファントムが草を刈ってくれるので歩くのは苦労しない。すると俺達の目の前にまた小屋のようなものが見えてきた。

見えた。あれだな。

「ラーズ!あの小屋か。さすがにあれは書庫だとは気が付かないな。」

「違います。」

「違うの!?」

ラーズがその小屋に付くだいぶ手前で右の雑木林に入り込んでいく。

「こっち?」

「はい。」

しばらく手が入ってい無さそうな雑木林を歩いて行くと、ラーズがおもむろに立ち止まった。あたりは雑草が生えまくっていて何もなさそうだ。

「ここです。」

「ここ?」

周りを見渡しても木が生えている以外は、なにも目に入ってこない。

「木にドアとかあるのかな?」

「違います。」

ラーズの目線が下に下りる。

「ん?」

そしてラーズがしゃがみ込んで草を払いのけると地面から鉄の輪が生えていた。ラーズはおもむろにそれを掴んで持ち上げる。

ガパン

鉄板で出来た扉が地面にあった。その鉄の扉を引き上げると下に空間が出てきた。

「ここか。」

「そうです。ここを降ります。」

「わかった。」

ラーズが先に下り俺が後に続く、マリア、シャーミリア、カララ、ファントム、そしてヴァルキリーが続いて降りてきた。

「明かりがついてるんだ?」

「恩師様が壁に取り付けてあった魔石に魔力を注いで、灯りをともしているようです。」

「ずいぶん広いんだな。」

「はい。かなりの広さがあります。」

階段を降りると広い場所に出た。その部屋にはたくさんの部屋があるが、これのどこかに書庫があるのだろうか。

「こっちです。」

ラーズはどの部屋にも入らず通路を更に奥へと歩いて行く。

「ここを降ります。」

また階段が出てきた。

その階段は壁伝いに下に続いている。階段を降りると一気に視界が広がる。広い空間が現れ、その広い空間の下にひときわ明るく光る場所があった。

「先生。」

俺達が見る先の明るい場所にモーリス先生が座っていた。

急いでその階段を降りてモーリス先生の元へ向かう。

「おお、待っておったぞ!」

「すみません。お待たせいたしました。」

モーリス先生は立派なローブと大きな魔石のはめ込んである杖を持っていた。俺がその姿について聞く前に先生が答えてくれた。

「魔力を増幅させるためにいろいろと装備したわい。」

「そんな立派な装備があったんですね。」

「王城にあったものじゃが、王宮魔導士のものじゃろうな。」

「そう言う事でしたか。」

「ふぉっふぉっふぉっ、どうせ使いこなせる魔導士は皆死んでしまったろうからのう。わしが大切に使ってやろうと思ってな。」

「道具は使ってナンボですから、とても良い事だと思います。」

「そうじゃろう!」

「それでここですか?」

「そうじゃ、ようやく見つけた場所じゃ。」

そしてモーリス先生の前にあるドアは光のベールのようなもので包まれている。

「とにかくすぐに入ろう。わしに魔力を注いでおくれ。」

「はい。」

俺はモーリス先生に手を当てて薄く魔力を注ぐイメージをする。

「うお!も、もう少し弱ーく注いでくれるかのう。」

「あ、すみません!」

魔力を更に弱める。

「すまんのう。」

そしてモーリス先生は杖の先を光のベールに向けた。そのベールの前に一つの魔法陣が現れて回り出す。すると光のベールが少しずつ収まって消える。

「開いたのじゃ。」

「はい。」

「それじゃあ入るぞい。」

「みんなが入って大丈夫ですか?」

「問題はない。ただそのあたりをむやみに触らんことじゃ。どんな仕掛けがあるのか分からん。」

「はい。」

俺が皆に目配せをすると皆が頷く。

「では行こう。」

俺達はモーリス先生について秘密の書庫へと入っていくのだった。

中に入るとさらに驚いた。物凄い広さの部屋が広がっていたからだ。

「広いですね。」

「わしも入り口付近にしか入った事がないのじゃ。」

その物凄い広さの部屋にどこまでも続く棚が何百列にもなって並んでいた。

こんな書庫が王城の下にあるなんて、人間の技術でこんな場所が作れるものなのだろうか?

俺は秘密の書庫の棚を見て疑問を抱くのだった。