軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第372話 王都への物資

季節はもうすぐ夏になる。太陽が強く照りつけ日中の気温はすでに30度を超えていた。この世界では徒歩か馬車での移動が普通なので、本来は汗を拭いながら砂ぼこりまみれの旅になるはずだった。

だがガンガンに冷房をかけているため、俺たちの旅は快適だった。

「涼しいのう。」

「冷房をつけてますから。」

「これが魔法じゃないと言うのじゃから驚きじゃ。」

「魔法で冷やすのは水魔法持ちがいないとダメですしね。」

「冷やせたとしても常にやっておったら魔力がいくらあっても足りんぞ。」

「やはりそうですよね。」

「ラウルほどの魔力があれば別かもしれんがの。」

「私の魔法は武器や食料を出すだけです。」

「うむ。とにかく食べ物にもまったく困らんし、なんと言うか…冒険した気がせんのう。」

「もしかしてモーリス先生は馬車の方が良かったのですか?」

「馬鹿を言うな、わしゃもう車かヘリじゃないと移動する気がせんわ。馬車など尻も痛とうなるしホコリっぽいし良いこと無いわい、歩いて移動などもってのほかじゃ。」

どうやら先生は文明の利器のせいで少しずつ怠惰になってきているようだ。

「なら良かったです。」

確かに食料に関しては途中の森でファントムが大型魔獣を捕らえ、シャーミリアが焼いて振る舞ってくれるため全く困らないし、マリアとカララが一緒に森に入り食べれる木の実や、わらびのような山菜を採ってきてくれる。余った素材はすぐにファントムが飲みこみ、また食料が必要になったら森に入って捕って食べる。わざわざ食事の都度そうしているのは素材確保のためだった。

そのおかげで俺の戦闘糧食の出番はほとんどない。強いて言えば乾パンくらい。

「ただファントムから素材をとり出すところは人には見せられません。」

「まあそうじゃな、ファントムの吐き出した物だと悟られんようにせんとな。」

「はい。本当に保存状態は良いんですけどね。」

「いったいアレの中はどうなっとるんじゃろうな?」

「謎です。」

「まあその時間が止まっているような構造のおかげで、魔道書も安全に運べとるわけじゃしの。」

「はい。」

「あっちで動いておる魔導鎧も、中はからっぽなのじゃからな。」

「自動で動いてくれてますね。」

「まったく不思議じゃ。」

「はい。」

今ではファントムが俺のアイテムボックス替わりになっているが、ゲームのように魔法で管理するような物とは違って、見た目も保管の仕方も出し方も本当にキモい。それだけが弱点だと思う。あとはこのアイテムボックス(ファントム)は利点だらけだ。強いし速いし俺から離れたところでも使えるし良い事づくし。ヴァルキリーに関しては走ってついて来る最強の鎧だ。

「本来このあたりの道は人の行き来が多かったんじゃがな。」

モーリス先生があたりを見回して言う。

「まあユークリット王都から、ファートリア神聖国やフラスリア領サナリア領方面に行く商人も多かったでしょうからね。」

「王都があのような状態じゃからのう。」

「はい。また行き来できるような状態になれば良いのですが。」

デモンの襲撃でユークリット王都は全滅した。文字通り人が完全にいなくなったのだ。

言ってみれば王を含め、少人数の人間だけでも生き残ったグラドラムの方がいくらかマシだった。人が完全消滅したユークリットの都市が、元のように栄えるかどうかはこれからの取り組み次第だ。隣国のバルギウスやファートリアの国家運営が正常化すれば、人の往来も戻ると期待はしているが、あとはユークリットの統治をどうするかを考えて行かねばならない。

「ご主人様。お話し中大変申し訳ありません。」

「どうしたミリア?」

「前方に馬車隊がおります。」

「なに?」

「なんじゃと?」

俺とモーリス先生がフロントガラス越しに前方を見るが、視界に入る限り馬車隊は居ない。どうやらシャーミリアの感覚では確認できているが、俺達にはまだ距離があり見えないようだった。

「馬車隊の規模は?」

「およそ15名ほどで馬は3頭。おかしな気配は無く一般の人間のようですが。」

「偵察してきてくれ。」

「かしこまりました。」

ドレス姿のシャーミリアが天井のルーフから空に飛び立っていった。

「馬車隊?敵でしょうか?前線基地を抜けて来たとは思えないのですが。」

「ふむ。なんじゃろうな。」

《ご主人様。》

直ぐにシャーミリアから念話が入る。

《どうだ?》

《おそらくは商人の様です。》

《商人?》

《と申しますか、見覚えが御座います。》

《見覚え。》

《サナリアで見た者達です。》

《サナリアで?》

《あれは…間違いございません。精霊神様のお父上とあの時隣にいた商人です。》

《ハリスさんとマーカスさんだ。》

《はい。いかがなさいましょう。》

《まもなく追いつくだろうから放っておいていい。ただ魔獣に襲われても困るから上空監視していざという時は護衛してやってくれ。》

《かしこまりました。》

どうやらサナリアからエミルの親父とマーカス商人が、ユークリット方面に向かっているようだった。

「マリア、この道の先に商人がいるようだ。少し速度を上げてくれ。」

「はい。」

ブロロロロロロロ

速度を上げてブッシュマスターが街道を走っていく。

「モーリス先生。どうやらサナリアからの商人の馬車の様です。」

「そうかそうか。噂をすれば何とやらじゃの。」

「はい。その一人はエミルの父親です。」

「おおそうかそうか。」

「なんの用件でしょう。」

「なんじゃろうな。」

俺とモーリス先生が話しているとどうやら馬車隊が見えてきたようだった。

「ラウル様。見えましたが、どうやら相手は戦闘態勢に入っているようです。」

「あ、そりゃそうだな。」

「そうじゃろうな。」

「この車は遠目で見たらグレートボアに見えるかもしれない。」

「じゃな。」

「いかがなさいますか?」

「ちょっと止まってくれ。」

「はい。」

そして俺は急いでLRAD指向性スピーカーを召喚する。デモ鎮圧用に恐ろしい音で聴覚障害を起こす事さえできるスピーカーだが、方向を定めず音量を低くすれば人体に影響はない。それを天井ルーフから突き出して話はじめる。

「えーと。すみません!これはグレートボアではありません!乗り物です!あのー!エミルのお父さん、お久しぶりです。友達のラウルです。」

スピーカーで彼らにこちらの情報を伝えた。

「マリア。どうだ?」

「剣を収めたようですね。頭の上で丸を作っています。」

「先生。どうやら分かってくれたようです。」

「本当に便利な魔法じゃのう。」

「はは、ありがとうございます。」

そして俺達は止まって待つ商人の馬車隊に向かって走り出した。

近くまで寄ると荷馬車の周りには、鎧などを着ていない普通の服を着た剣や槍を持った人たちが護衛としているようだった。その中の一人が俺に声をかけて来る。

「おお!ラウル様!」

「ハリスさん!様はいらないですよ!エミルの友達なんですから。」

「そういうわけにはまいりません。」

エミルの父、ハリス・ディアノ―ゼが俺の顔をみて安心したようだった。

「これはこれは魔王子。」

「マーカスさんもお元気なようで。」

ハリスの後ろから来た商人のマーカス・バートが俺に挨拶をする。

「いきなりグレートボアが追いかけてきたのだと思いましたよ。焦って皆で剣を構えたところでした。」

「驚かせてすみません。まさかこんなところに旅人がいるとは思っていなかったので。」

「ああ、こちらこそ勝手な真似をすみません。」

「ハリスさん達はどうしてここに?」

するとエミルの父ハリスはマーカスを見ながら言う。

「マーカスが言い出しっぺなんですよ。」

「マーカスさん?」

「ええ、ユークリット王都の復興のために頑張っている冒険者たちが居ると聞き、マーカスがサナリアの小麦を持って行って支援をしたらどうかと言うものですから。」

「え!それはありがたい!マーカスさんありがとうございます。」

「いえいえ。いろいろと苦労もしましたが民もサナリアの生活に馴染んできまして、小麦の収穫も増えてきたのですよ。それで町民たちと話をしてユークリットに物資を届けようという事に。」

「なるほどですね。ユークリット王都の物流が円滑になれば、その先のバルギウスにもつながりますしね。皆さんもそろそろ帰りたがっているのでしょう?」

「魔王子様は、すべてお見通しと言うわけですな。まずはユークリットを復興させねば我々が帰る為のめどもつかないと思いましてね、それでこのように物資を運び始めたわけです。」

「これが第一弾ですか?」

「はい。」

「ラウル様‥」

ハリスが言いかける。

「あのお父さん。もし呼び捨てに抵抗があるなら君でいいですよ。」

「わかりました。その…ラウル君がこんなところにいると思わなかったから、会えて本当にうれしい。それでエミルはどこに?」

「エミルは他の仲間と一緒に別の作戦行動中です。あれ以降会っていないのでしたか?」

「ええ、まあ便りのないのは元気な証拠といいますし、心配はしておりませんでしたが。」

「いろいろあって彼は凄い事になってます。それはお会いした時のお楽しみと言う事で。」

「なるほど、それは楽しみですな。」

まさか自分の息子が、精霊神なる神様になっているとは夢にも思うまい。

「みなさんも護衛をしてお疲れでしょう。」

俺が皆に声をかける。一般人が冒険者のまねごとをしてここまで来たのであれば、疲れているはずだった。

「いえいえ。この街道には大型魔獣などもおりませんし、それほど苦労はしておりません。」

護衛の一人が言う。

「皆さんは一般市民ですよね?戦いの経験はおありですか? 」

「ございません。ただ小さい魔獣であれば何とか皆で撃退する事が出来ました。」

「そうでしたか。それではここからしばらく私達と同行いたしましょう。警戒を解いていただいていいですよ。」

「それはありがたいです。お強い皆さんに守られての旅路であれば安心です。」

「ハリスさん。今後はぜひサナリアにいる魔人達に護衛を頼んでください。」

俺がハリスに向けて言う。

「いやそれはいささか気がひけますな。」

「なぜです?」

「彼らは我々に貴重な肉や薬草などの素材をくれます。そしてサナリアの復興をして農地まで開墾してくれているのですよ。」

「いやいや、それはこちらの都合でもあるんです。」

「それでも我々は元の生活より贅沢な暮らしをさせていただいている。その上こちらの我儘で商隊を組んでユークリットに行くのに護衛を頼むなどは出来ませんよ。」

「そんなに気を使わないでください。僕たちはエミルにそれ以上、いえその何十倍も助けていただいているのです。ハリスさんが魔人を使うのは当然の権利だと思ってください。」

「エミルが?そんなに役に立っているのですか?」

「はい。彼の力は素晴らしいですよ。おかげで我々の軍隊は凄い早さで北の大陸中に拠点を持つことが出来ました。それは彼の輸送能力があったおかげなんです。さらにここまでの冒険でもかなり助けられておりますし、彼はわが軍の四将の一人となっております。」

「えっ!エミルが将官に!」

「そんな重要な地位についているエミルのお父上ですから、万が一があっては困るのです。ですからむしろ護衛に魔人を使っていただきたいというのが私からの願いです。」

「しかし恐れ多い。」

「魔人には命令をしておきますので、この私の願いだけは聞き入れてください。」

「わ、わかりました。」

ハリスが俺に根負けしてどうやら魔人を護衛として使ってくれるようだ。

すると荷馬車の前の方から声がかかる。

「とにかく募る話もございましょう。まずはユークリットに向けてまいりましょう。」

ハリスとマーカスの後ろから声をかけてきたのは、いつの間にか上空から降りてきたシャーミリアだった。

「うお!」

「わっ!」

後ろから美しい女性の声を掛けられて二人と護衛たちが驚いていた。

俺の秘書が皆さんに先に進むように言っただけなのに。

「これは!秘書殿!」

「ハリス様に置きましてはご健勝の様で何よりでございます。」

「いやいやいやいや!ハリス様などと!」

「いえ。エミル様のお父上とあらば当然至極。」

「エミル…様?ですか…。」

「はい。」

しばらく会わない間に起きた俺達の関係の変化に、ハリスもマーカスもついて来れないようだった。

「とにかく先を急ぎましょう。まもなく陽が暮れます。」

俺が言う。

「そうですね。」

「ふぉっふぉっふぉ。話がまとまったようじゃのう。」

俺達の後ろからモーリス先生がやって来た。

「あ、モーリス先生。こちらがエミルのお父さんです。」

「はじめましてじゃのう。ぜひご一緒しようじゃないか。」

「あの‥‥モーリス先生?」

「ああ、ハリスさん。こちらは私の師匠のモーリス先生です。」

俺がモーリス先生を手で示し紹介する。

「つかぬことをお伺いしますが。」

ハリスが言う。

「なんじゃの?」

「元王宮魔導士でユークリット魔法学院の?モーリス様ですか?」

「いかにもそのモーリスじゃ。」

「これはこれは!」

ハリスとマーカスと旅の一行が全て膝をついた。

「大賢者様とはいざ知らず、高い位置からお許しください。」

「ん?わしゃバルギウスでも知られておるのかの?」

「もちろんにございます。その英知は神のごとく!北の大地で知らぬ者はおりますまい。」

「いやいや止めておくれ!わしゃただの老いぼれじゃ。いや…今はラウルの保護者かのう?」

「ほ、保護者…。」

皆が唖然としていた。

「そうです。私は先生に導いてもらってます。」

「そうなのですね。」

モーリスの登場にみんなの空気が変わった。

「まあ良いではないか。旅は道連れ、楽しく行くのじゃ。」

「は、はあ。」

俺もびっくりした。モーリス先生ってそんなに有名な人だったの?冒険者を引退して学校の校長先生をやって、校長先生も引退して家庭教師になったおじいちゃんだと思ってた。

とにかく俺は直ぐにユークリットに念話を繋ぐ。

《ラーズ!》

《はいラウル様!》

《まもなく王都に付くぞ。サナリアからのお客さんもいるから魔人達に受け入れの用意を頼みたい。》

《わかりました。それでは魔人達と冒険者たちにもその旨を伝える事にしましょう。》

《頼む。》

到着は夜になりそうだが、暗い道も車のヘッドライトを辿ってついて来れるだろう。

「じゃあ先に進みます。シャーミリア!ファントム!カララ!護衛につけ!」

「かしこまりました。」

「‥‥‥‥」

「はい。」

「それではみなさん車の後ろをついて来てください。」

俺達が乗るブッシュマスターはゆっくりと馬車の前に出る。ブッシュマスターの後ろにはヴァルキリーが黙って歩いてついて来ていた。その鎧の異様な姿に皆の視線が集まるが、特には誰もそれに触れる事はなかった。

ブッシュマスターを先頭に小麦を積んだ馬車隊が進んでいくのだった。