軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第363話 強制連行

俺たちはまた暗闇の林の中に潜み、事が動くのをじっと待っていた。

俺は魔力消費しないよう魔道鎧を脱いでいて、俺の隣には誰かがそこにいるかのように鎧が立ててある。

《魔力の消費がなきゃ、作戦中は常時着ていたいのにちょっと面倒だな。》

暇なのでボヤく。

林の中ににいるため俺たちの周りには羽虫が飛んでいるが、アナミスの虫除け効果で、ケイナにもシン国の兵2人にも虫は寄り付かない。

アナミスってすごいなあ。

なんて俺がボヤいたり感心したりしていると

ピクッ

シャーミリアが何かに反応した。村になにか動きがあったようだ。

「ご主人様、潜入部隊が動きました。」

「オージェか?」

「いえ、オージェ様は捉えることが出来なくなりました。先程修理工を家の前に誘導した時までは確認出来ていたのですが、どうやら修理工の怪しい気配に気づいたようです。あの恐ろしく強大な気を人間以下に抑えることが出来るようです。」

オージェはまさに神の領域に到達したようだ。

「オージェは凄いな。という事は、ミリアが察知したのはトライトンかい?」

「はい。」

「それじゃあアナミス、修理工を起こして彼らに接触してくれ。」

「はい。」

アナミスが再び修理工を精神ジャックして動かし出した。俺達が覗き見ると、どうやら家に帰った後で酒を飲んでいたらしい。

「おっさん酔っぱらってるみたいだけど大丈夫なのか?」

「問題ございません。」

「酒を無効にするとか?」

「いえ、私が動かしている間は怪我や欠損でもない限り普通に動きます。酔い程度は問題のうちに入りません。」

まるでゾンビのようだ。この進化したサキュバスの能力は本当に凄い。さらには修理工本人が、自分の意思で動いてると思っているっていうのが恐ろしい。

こんな事ができるなら、サキュバス全部隊を常にデモンとの戦闘に参加させ、全員アナミス並みに進化させたいところだ。しかしサキュバスは戦闘において他の魔人より弱い。育てるにしてもかなりのリスクを伴う。

《悩みどころだな。》

俺が皮算用をしているうちに、アナミスに操られた修理工は家を出てマキタカ達の元に向かっていた。

マキタカ一行は昨日も泊まっていた集会場の方に向かっている。

(こんばんは。いい夜ですね。)

夜道を進む一行に接触し、アナミスが操る修理工が自然に声をかける。

(これはこれは、昼間は修理をしていただいてかたじけなかった。荷馬車の状態はどうですかな?)

マキタカは修理工をアナミスだとは思っておらず、修理工と会話していると思っているようだった。

(マキタカ殿、"これ"は違いますよ。)

オージェが言う。どうやらオージェは気がついたようだった。

(それはどう言う…?)

(とにかく集会場へ、ひと目につくといけません。)

(わかり申した。)

一行はそのまま集会場に行き中に入ってドアをしめる。中に入ったと同時に、マキタカの配下達がそれぞれ窓に張り付き、外の警戒をしているようだった。

よく訓練されている。

(ラウルか?)

オージェが修理工に聞いてくる。

(いえアナミスにございます。)

アナミスがおっさんの声で答える。

(アナミスさんか。これからマキタカ殿を連れてそちらにいく。ラウルに伝えてくれ。トライトンと配下の皆様にはここに残ってもらう。)

(オージェ様。会話は既に共有がかけられておりますゆえ、全魔人がきいております。)

(なんだこの技術…とんでもねえな。)

オージェが身震いするのが伝わってくる。

(龍神様?これはどういう?)

マキタカが不思議そうに修理工を見ていた。

(マキタカ殿、説明は後で。私と2人で村の外にいる魔人達と合流しましょう。)

(あいわかった。ではお前たちここで待て!私はひとりで大丈夫だ。)

(((((は!)))))

オージェとマキタカが、トライトンと配下たちを置いて集会場を出た。修理工はアナミスが家に戻す事にする。きっちり仕事もしたし酒もまわってぐっすり眠れる事だろう。

ほどなくしてオージェとマキタカが"上から"降りてきた。マキタカがオージェにお姫様抱っこされている。

ふわりと着地した。

「えっ?オージェ飛べるの?」

「いや、ジャンプだ。」

「あそこから?」

俺が500メートルは離れている村を指差す。

「そうだ。」

まあオージェならそれくらい驚く事はないが、マキタカの事を考えるとちょっと気の毒だった。ふわりと浮かび上がるなら良いのだが、ジャンプとなると初速度はハンパないだろう。シャーミリアのダッシュを経験した事のある俺にはわかる。あれは意識を持っていかれそうになる。

マキタカが若干引き攣っていた。意識を失わなかっただけ褒めてあげよう。

「マキタカ様は大丈夫ですか?」

「は、はい…ラウル殿、ど、どうぞお気遣いなく。私は大丈夫ですから。」

マキタカの声がうわずっていた。

「とにかく落ち着きましょう。」

マキタカの配下2人がマキタカを両脇から支えて座らせた。

「だいぶ力を抜いたつもりですが、申し訳ありませんでした。」

「いえ!龍神様!お気になさらずに。」

マキタカが申し訳なさそうにしている。

「で、ラウルよ。さっきの"あれ"はなんだ?」

「あれとは?」

「さっきの修理工のことだ。」

「ああ、少しアナミスが体を借りてスパイさせてもらい、それを皆で共有すると言う新技術だ。」

「とんでもねえな。」

「まあそれが出来るのはアナミスだけだよ。」

オージェが驚愕の眼差しをアナミスにむける。

すまんオージェ。前にオージェがシュラーデンで鍛えていた、ファートリアとバルギウスの兵士たちは、完全に意思を剥奪して強制労働させてました。

心の中で謝る。

「だけどあの人、普段は普通に自分の意思で生きることができるんだって。」

「まあ元の世界でも似たような技術はあったが、人の意識を操って動かすまでは流石に聞いたことがない。」

「まあこの作戦だけは特例だよ。どうしても無実の人を殺したくないんだ。」

「まあ分かる。他の用途では乱用しないほうが良いだろうな。」

「わかってる。」

オージェの言いたい事はよくわかる。この技術を使えば生きた人間ドローンが出来上がってしまうからだ。自分の意思とは関係なく自爆テロとか胸糞すぎる。もちろん俺はそんなことをさせるつもりはさらさらない。ただ保険として、アナミスのような進化をしたサキュバスは確保しておきたい。

《ラウル様は魔王になるお方。あまり気になさる事はないかと。》

念話を通して伝わってきたが、俺は一瞬だれが言ったのかわからなかった。振り向くとある人と目が合う。

誰あろう俺の正妻候補のカトリーヌだった。

…今のカトリーヌの目と似たような目を、俺は過去に見たことがある…。それはカトリーヌの叔母であり俺の母親のイオナだ。イオナが策を練る時の目は大抵こんな感じだった。

大貴族ナスタリア家のあの怖ーい目。

「それでマキタカ様、村長の話はどんな感じでしたか?」

「ラウル殿の推察したとおりでした。」

「やはり大神官は訪れていたと?」

「そのようです。どうやら僕らしきもの達を引き連れ、村のあちこちで何かをやらかしていたようです。」

「そうですか。」

やはりなんらかの罠を仕掛けている可能性が高そうだった。その罠がなんなのか、転移でもインフェルノでもデモン召喚魔法陣でも、起動すれば村人達の命はないだろう。

「手がつけられそうもないな。」

俺が呟く。

「ラウル殿、村人に正直に言って救出を試みては?」

「いえマキタカ様。その行動を敵に察知されれば、魔法陣が即発動される可能性があります。」

「それではどのように…。」

するとマキタカの配下の1人が言う。

「このアナミス嬢の力で村人を全員外へ誘導してはいかがでしょう?」

「それもままなりません。村人全員を先にあの村から外に出さねば、その施術をする事ができないのです。万が一村の中で魔力が反応すれば、敵はすぐに魔法陣を発動させるでしょう。」

皆が沈黙してしまう。一人一人が試行錯誤しているようだった。

「魔力を使わずに、いったん村人を全員外にですか?」

「はい。」

「見せ物なぞいかがでしょう?村の外で見せ物をすると言って全員を呼び出すのです。」

もう1人のマキタカの配下が言う。

「案としては悪くはないですね。ですがもうひとつ問題がありまして。」

「それは?」

「皆さんがシン国からここに来るまで、何個の村がありました?」

「あ…。」

どうやらマキタカも配下も気がついたようだった。

「ここを助けても、他の二箇所で魔法陣が発動する可能性があるのです。さらに転移魔法が3箇所設置されているのを確認しています。」

「なんとも用意周到なヤツですな。」

「はい。この村だけ単独で救う事はできません。」

皆がまた黙りこむ。

「なら魔力のない奴が、短時間で村人ひとりずつ意識を刈りとって強制連行して、アナミスさんがセットしてまたもとに戻せばいいんじゃないか?ついでに精神スキャンしてデモンの干渉を受けてないか診ればいい。」

エミルが言う。

「そりゃ理想的だが。」

「3つの村でそれをやって、一気に村の外に出せば良いんじゃない?」

短時間で意識を刈り取ってひとりずつ連れてくる。確かにそんな事が出来ればいいのだが。

「バレる前に全部終わらせるには、一夜でひと村終わらせるくらいじゃないと無理だぞ。」

「出来なくは無いんじゃないか?」

「そんな事を出来る奴が…」

出来る奴が…

2人いた。

俺の目の前にひとりと、もう1人そいつのお付きのものが…

俺とエミルがオージェを見る。

「はいはい分かりましたよ。お前ら相変わらず人使いが荒いな。」

「頼むよーオージェしか頼れる人いないんだよー。」

「作戦が終わったら美味い飯たらふく食わせろ。」

「当たり前じゃないか!こんなに大変な事をお願いするんだ、作戦が終わったらなんでも言ってくれ。」

「冗談だよ。」

俺たちは作業の段取りについて話をはじめる。

「だいたい1人あたま10分かな。120〜130人くらいいるんだっけ?子供は親の言う事を聞いて動くだろうから、基本は大人優先でやれば良いか。」

「オージェとトライトンが2人がかりでやれば、時間はその半分で済むだろう。」

「住居への侵入などの段取りならば、私の配下に任せてください。これでも達人揃いですから。」

「ありがとうございます。念のためマキタカ様と数人は集会場にいてください。万が一の時、誰もいないと怪しまれます。」

「わかりました。」

「オージェ、くれぐれも慎重にな。」

「大丈夫だ。今なら俺を目の前にしても、気配を気取られる事はないだろう。」

えっ?見てもいないように思うって事?どゆこと?

「日の出までに終わらせるぞ!」

「ラウル様の魔力をかなり使ってしまいますが?」

「気にするなアナミスどんどん使え!景気良く使い切るぐらいの気持ちでいいぞ。」

「わかりました。」

確かに精神干渉の時の魔力消費は、武器を召喚するのとは桁違いだった。だがここで俺が弱音を吐くわけにはいかない。

話し合いは終わり、敵国市民強制連行洗脳作戦がはじまる。

《長いので連行作戦としよう。》

「じゃあマキタカ様よろしくお願いします。十分注意をなさってください。こちらの2人も作戦に参加していただいていいです。」

おっかない魔人達の元から解放される事で、2人のマキタカ配下はほっとした表情になった。そうして4人は再び村に戻って行ったのだった。

「さてと!忙しくなるぞ!みんな準備はいいか?」

全員が頷く。

「施術し易いように私がベッドを作りましょう。」

ケイナが土の精霊術で土を盛り上げて、林の中に4台のベッドを作ってくれた。

「ありがとう、これはかなりやり易いよ。」

「ではラウル様以外は少し離れた方が良いわ。ラウル様、あのマスクとやらをつけていただけますか?」

アナミスから俺に指示が飛ぶ。

「わかった。」

俺は化学兵器にも対応する防毒マスクを召喚して取り付けた。

コフーコフー

「いいぞ。」

コフー

「はい。」

アナミスからたちまち紫の煙がたちこめる。4つのベッドがあっという間に煙につつまれた。

「シャーミリアとファントムは私の煙に影響されないから、村人が来たら彼らから受け取ってちょうだい。」

「わかったわ。」

「‥‥‥」

「ファントムはアナミスの言う通りにしろ。」

「ほら!ウスノロこっちだよ!」

ファントムがシャーミリアに叱られながら林の入り口に立つ。

そんな光景を見ていたエミルがポツリとつぶやいた。

「まるで戦闘が始まる前みたいだな。」

これから次々に運ばれてくる人を、出来るだけスムーズに処理していかなければ夜が明けてしまう。俺は精神を集中してアナミスの肩に手を置いた。

《ラウル様頑張りましょう。》

《ああ足を引っ張らないように頑張るよ。》

アナミスと俺は目を合わせて頷いた。

「オージェ様が来ました!」

ガザムが言う。

いよいよ第一号の村人が意識を無くして運ばれてきた。シャーミリアがオージェから受け取りベッドにのせた。オージェはそのまま村に行く。

「トライトンも来ました!」

俺とアナミスの戦いが始まったのだった。