軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第358話 夜間行軍

前線基地を夜に出発して草原地帯を南に進んでいた。

このあたりの草原の草は俺達の背丈よりだいぶ高く、ファントムの頭だけが一個出ている。ファントムを前に歩かせて、オンタリオの軍用マチェットで二刀流にし、草をバッサバッサと切らせていた。

草をなぎ倒すたびに虫がフワっと浮かんで散り散りに飛んでいく。

「みんな止まれ!」

俺が言う。

「オージェは虫は平気か?」

「俺は問題ない。」

「かゆい人いる?」

「はい足が。」

ケイナが手を挙げる。どうやらゴーグには多めに虫がまとわりついているらしい。ケイナはゴーグに乗ってるから足に虫がまとわりついてるんだろう、もしかしたらゴーグの体温が高いから虫が群がってるのかもしれない。

「俺は気にならないけどね。」

エミルが言った。

「私はルフラに包まれていますので問題なさそうです。」

カトリーヌが言う。

「まあ俺も魔導鎧着てるから問題ないんだけどね。ケイナさんはちょっとしんどいよね?」

「すみません。」

「それは気が付きませんでした!それでしたら私達は虫よけの匂いを発する事が出来ます。」

アナミスが言う。

「え、そんなのあんの?」

「餌を引き寄せる事も出来ますが、寄せ付けないようにも出来ます。」

「すげえ。」

《とにかく便利すぎる!餌って言うのは聞かなかった事にしよう。サキュバスの餌って…あれだし》

「少々お待ちください。」

するとサキュバスたちを中心に白い霧状の煙があたりに漂う。心なしか周りのウルサイは虫がいなくなったように感じる。

「これで大丈夫です。ゴーグは出来るだけ私たちの側を歩きなさい。」

「助かります。」

そして俺達はまた先に進んだ。

「この草原を抜ければ荒野に出ます。そこからはだいぶ進みやすくなりますから、それまでの辛抱です。」

ガザムが言う。

「この草原は後、どれくらいあるんだ?」

「この進み具合ですとあと1刻半でしょうか。」

《なるほどあと4時間半もこのまま進むのか。ファントムがバッサバッサとやってくれているからそれほど苦にはならないが、敵に気づかれないようにするためにはここを通るしかない。》

空を見上げると月と星が美しく輝いていた。この世界の空は本当に美しい。人工の光が全くなく公害も無いため空気が綺麗なのだろう。

俺達は黙々とファントムの後ろをついて草原を進む。皆で一気に草原を刈って進めばもっと早く進めるかもしれないが、目立たないように一列になって進んでいたのだった。

しばらくして俺達が身に着けていた腕時計は深夜0:00となる。

「みんな一旦ここで休憩しよう。」

俺が言う。

休憩する場所を作るために、みんなで円形に草を潰していき、それぞれが適当に座り込んだ。中心にLEDのカンテラを置いて辺りを照らし、俺はフランス軍戦闘糧食を召喚して配った。この世界の人にはこれが合うらしく、カトリーヌとケイナがそれをおいしそうに食べ始める。俺達異世界組は自衛隊の戦闘糧食2型にした。俺も鎧を脱いでみんなと共にその場所に座っている。

「シャーミリアお疲れ。」

「ありがとうございますご主人様。」

空を哨戒して飛んでいたシャーミリアが俺達の元に降りて来る。

「草原を出て荒野に入ったら、飛行組はみんなで哨戒行動に移ってもらう。」

「かしこまりました。」

ゴーグは人化して戦闘糧食をバクバクと食っている。狼化した時にゴーグの服は無くなったので迷彩戦闘服を着ていた。

「あと1時間もすればこの草原地帯を抜けるぞ。そしたら朝までみんなが全力疾走する事になる。ここで十分休息をとってくれ。」

「「「「「了解!」」」」」

「ラウルの魔力は大丈夫なのか?魔導鎧は魔力を消費するんだろ?」

「ああ全く問題ない。どこにいても魔人達の力を感じる事が出来る。」

「あれを着ている時ってのはどんな感じなんだ?」

エミルが言う。

「長時間着てみてわかったけど、なんて言うか着ていないみたいだ。熱くも寒くも無いし視界もはっきりしている。まるで一体化しているように感じるよ。」

「へえ凄いな。」

「なんつーか冷暖房完備しているかの様な快適さだよ。」

「それも魔力のおかげなのかね?」

「恐らくそうだろうな。ただしあれを着たまま大量召喚は出来ないかもしれない。」

「どうしてだ?」

「魔導鎧に魔力を取られるのは微々たるものなんだが、更に魔力を行使しようとすると出口が小さいというか、とにかくたくさんの武器を召喚出来ないんだ。まだ使い慣れていないからかもしれないけど、小規模の武器召喚しか出来ないみたいだ。」

「そうか。なら戦闘に入る前は十分に準備をしないといかんな。」

「いやオージェそうでもないよ。ファントムかグレースが居れば弾丸や砲弾の補充は出来るだろう。だから俺が暇な時には常にグレースの収納袋に武器を収納してもらうか、ファントムに弾丸を飲み込ませているんだよ。」

「そういう事だったのか。」

「しかもファントムとグレースに収納しておけば30日で消える事も無いからな。おかげで俺は魔導鎧を着て歩けるようになったってわけだ。」

「なるほど。」

「ああ、だから俺が魔導鎧を着ている間は、ファントムに弾丸の補給をしてもらう事になる。」

「了解だ。」

みんなが一通り糧食を食べ終わった。

「よし。また進むぞ!」

みんなが立ち上がって身支度をする。俺はまた鎧に体を突っ込んで微弱な魔力をそそぐと、魔導鎧の後ろが音を立てて締まった。

それから1時間。

ようやく草原地帯を抜ける事が出来たようだった。

「よし!抜け出たぞ。」

「やっと走れるな。」

「じゃあシャーミリア、アナミス、サキュバスのみんな来てくれ。」

俺のそばにみんなが寄ってくる。俺は魔導鎧を脱いでみんなの前に立つ。

「よ!」

召喚の時に手を前に出すのは最初カッコいいからやっていたんだけど、最近はそうしないとしっくりこない。

みんなの前にM240中マシンガンとバックパックを出す。

「シャーミリアとアナミス、サキュバス隊はこれをもって空中で哨戒行動をとってくれ。」

「かしこまりました。」

「はい。」

M240機関銃を持って航空部隊は夜空に飛び立っていった。

「よしガザム!それじゃあ一つ目の村に向かって全力で行くぞ。」

「はい。その手前に見つけた転移罠についてはいかがなさいましょう?」

「そこは特に何もしない。こちらの行動を敵に察知されたくないからな。」

「わかりました。」

「村にはどのくらいで?」

「朝には。」

「丁度いいね。」

「はい。」

ガザム隊が見つけた転移罠は作動させずに先に進むことにする。魔法陣を作動させてしまえば、接地した敵に位置を察知される可能性があるからだ。

「エミル!これを!」

エミルにはSCAR-Lアサルトライフルサイレンサー付きを渡した。

「バレルは短くしてある。ゴーグの上でも取り回しがしやすいはずだ。」

「ありがとう。」

「オージェ。トライトンさん。」

二人にはAK-12アサルトライフルと、オンタリオコンバットナイフを2本ずつ召喚して渡す。

「ガザムにはこれを。」

M4フルオート サイレンサー付きとオンタリオコンバットナイフを2本を渡す。

「カトリーヌはこれを。」

P320ハンドガンにサイレンサーをつけて渡した。

「サイレンサーはつけていても音はする。敵を呼び寄せる可能性はあるが、危険だと思ったら撃っていい。」

「わかりました。」

そういって俺はまた魔導鎧を着て、手元にM24A2サイレンサー付きスナイパーライフルを召喚した。

《魔導鎧の着脱がとにかく面倒だ、きたまま大量召喚できるような方法を見つけなければならないな。》

この鎧を着ている時は遠方まで見える為、敵に早く気が付く可能性が高い。そのため俺はスナイパーライフルもつことにしたのだった。航空部隊から指令が来ればすぐに狙撃体制に移る予定だ。

「じゃ!みんな!いくぞ!」

ガザムが先頭で走り出し俺達が後ろをついて行く。

ヒュゴォォォ

風を割いて小隊が突き進んでいく。ガザムに俺、オージェとトライトン、ルフラに包まれたカトリーヌを肩に乗せたファントム、狼形態のゴーグに乗ったエミルとケイナの順で走り出した。魔人達のスピードはおよそ50キロ程度。最高速度はもっと出るが長距離巡行速度としてはこれが限度だった。

荒野をひた走る魔人達。そしてその上空にはヴァンパイアとサキュバスがついて来ていた。

《転移罠を通過します。》

《了解。》

ガザム情報では、どうやら草原から荒野に切り替わった先の街道上に転移罠があるらしかった。しかし俺達はその場所を大きく迂回して更に西側の荒野を走っている。

《しかし…この魔導鎧と言うのは凄いな。これだけのスピードで走っているにも関わらず全く疲れ無い。逆に俺以外の奴らってほんとすげえんだなって思う。》

月が雲に隠れ少し風が出てきたようだった。荒野はたちまち暗黒に飲まれる。

それでも俺達は前を走るガザムを見失うことなくついていけている。ゴーグもシャーミリアもサキュバスもみな夜目が効くから問題はないが、オージェやトライトンはよくついて来れる。

《いや…むしろオージェは余裕なのかもしれない。トライトンはいったい何でこれでついて来れるのか?この人の素性も謎だった。》

ポツリ

ポツリ

雨が降り出した。

暗黒の中を強い雨が降って来た。

ザー

ザー

それでも俺達は走るのを止めなかった。俺は心配になってゴーグに乗っているエミル達を見るが、どうやら彼らには雨は当たっていない。恐らくは風の精霊術を用いて雨が当たらないようにしているのだろう。雨の被膜ができているようだ。

カトリーヌもルフラにくるまれているため全く消耗する事は無さそうだ。上空を飛んでいるシャーミリアとアナミス以外のサキュバスたちも1次進化を遂げているため、十分について来ることが出来ているようだった。

《雨脚が強まって来たな。上空はどうだ?》

《問題ございません。皆が見えています。》

真っ暗で何も見えない暗闇の中で、高高度から俺達を確認しているらしかった。

《サキュバス一般兵は私を見てついて来ていますから問題ありません。》

アナミスが言う。

《引き続き哨戒行動をたのむ。》

《かしこまりました。》

《はい。》

ゴー

ゴー

ザー

ザー

暴風雨になって来た。それでも俺達は50km/h 程度の巡航速度で突き進んでいく。

しかし…すこしスピードが落ちて来た。

《どうした?》

俺がガザムに聞く。

《地面が思いの外ぬかるみますね。》

《俺もちょっと走りづらいです。》

ゴーグも言う。

《分かった少し速度を落としてくれ。》

《すみません。》

巡航速度が30km/h程度に下がった。するとトライトンが俺に近づいて来た。

「どうされました?」

「どうやら地面がぬかるむらしい。」

「ああ、そう言う事でしたか。」

「トライトンさんは気になりませんか?」

「水はワイの最も得意とする属性です。この雨はむしろ私には好都合ですな。」

「そうなんですか?」

「なんならワイが走りやすい所を探して進みましょうか?」

「そんなことが出来るんですか?」

「お安い御用です。」

《ガザム!お前の前をトライトンさんが走る!行き先だけを指示して付いて行ってくれ!》

《は!》

ぬかるむ湿地帯のようになってしまった荒野を突き進む魔人の前に、トライトンが出る。

「ではついて来てください!」

「はい。」

ガザムがトライトンについて行くとまたスピードが上がって来た。

《どうだ?》

ガザムに聞く。

《走りやすいです。》

《少し速度を上げよう。》

《は!》

巡航速度40キロ程度まで上がる。

トライトンのおかげで湿地帯の硬い場所を選んで走れているらしい。

俺達の夜間の行軍は朝まで続くのだった。