軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第334話 龍のトレーニング神殿

下の部屋にいた魚人風の男、トライトンを連れてオージェ達がいた部屋へ戻る。

「なんと?部屋に黒龍がいるようなんですが?」

トライトンが言う。

「新しい龍神の母親ですよ。」

「メリュージュともうします。」

「わ、ワイはトライトンと言います。これまで龍神様の付き人をしていました。」

「すみません。この子はいま寝てますのでお静かに願います。」

「はい。」

トライトンが頭を深々と下げる。しかしすぐさま頭をバッと上げて叫んだ。

「スキあり!」

ビシュッ

トライトンは三叉の槍を、メリュージュの手の中で寝ているオージェに向かって投げた。あまりの唐突な事にみんなの初動が遅れ、それにプラスして目に見えないほどの速さで槍が飛んだので、オージェに刺さるかのようにみえた。

「あぶな!」

すると寝ているはずのオージェが、横になったまま裏拳で飛んできた槍を叩き落とした。

バシ!

ガラン!

「えっ?」

みんながポカンとしているなか、間髪入れず俺が叫んだ。

「殺すな!」

もちろんトライトンに言ったのではない。

俺がトライトンを見ると後ろにシャーミリアが張り付いていた。トライトンの首元にシャーミリアの爪が刺さる直前だったが、ぴたりと止まっている。俺が指示をする前にトライトンの首を刎ねに行ったのだった。

《あっぶね。》

すると横になったままのオージェが言う。

「未熟者めが!はっはっはっはっ!」

するとトライトンはスッと土下座をした。

「お見それしました」

「ぐごー、すぴーすぴー。」

「えっ!?寝てんの?」

オージェはどうやら寝たまま喋っていたらしい。

「確かに龍神様でございました。寝ていても身を防がれるその能力はそのままです。」

「えっと…トライトンさん。それはやる前に言ってください。」

「で、でもいきなりじゃないと意味が無いと龍神様はいつもおっしゃってましたので。」

「もう少しで、あなた死ぬところでしたよ。」

俺がトライトンの後ろにいるシャーミリアに目線を向けると、トライトンが後ろを振り向きシャーミリアを見る。

シュッ

シャーミリアの爪が引っ込んだ。

「ひっ。」

「シャーミリア下がれ。」

俺に言われてシャーミリアがトライトンから離れる。

「ワイもしかしたら危なかったですか?」

「ええ。」

トライトンは少し考えこんでいる。

「…でも仕方ないのです。龍神様からはいつも死ぬつもりで来いと言われていますので。」

「死ぬ気で?」

トライトンの言っている事がみんな理解できていないらしく、ちょっと不思議な顔でトライトンを見ている。

「あのちょっとお伺いしたいのですが、いつもこんなことしていたんですか?」

「これが日常です。」

「なんの為にそんなことを?」

「龍神様は日々精進しておられます。寝ている時もご飯を食べている時もいつも臨戦態勢でいなければならないと、逆にワイが不意打ちでその攻撃の手を抜けば、あとから滅茶苦茶しごかれます。」

《うわあ…そんな生活してたの?》

いったい二人にどんな関係が築かれていたのかはわからないが、危険な毎日を送っていたらしい。

「まあまあラウル君。オージェはあのくらいでは死んだりしませんから大丈夫ですよ。」

メリュージュが言う。いま我が子が串刺しになりそうだった実の母親なのに。

「ま、まあメリュージュさんがそうおっしゃるのならいいんですが。」

「というか、トライトンさん?これからもこの子のおつきでいてくださるのかしら?」

「いえ、それは龍神様がお決めになる事。しかしワイは龍神様の世話をしなければなりませんから、出来ましたらおそばに置いてもらえますれば。」

「なら目覚めたらお話してみてくださるかしら。」

「はい。」

《今、自分の息子がおもいっきり串刺しになる一歩手前だったのに、このお母さんはいったい何を言っているんだろう?》

みんなが二人のやり取りを聞いて、ちょっと何言ってるか分かんないって顔をしていた。まあ分かった事はこの人は龍神の弟子のような存在だって事。

「トライトンさん。とりあえず今はまだ龍神が変わったばかりですから、少し休ませておこうと思ってるんです。」

「そうですか…そうですね。」

「なのでもし可能であれば、この神殿内を案内していただくわけにいきませんかね。」

「も、もちろんですとも!それでは早速。」

トライトンが俺の言葉に部屋の出口の方に歩こうとする。

「武器は肌身離さずもっておれ!!」

オージェから怒号が飛ぶ。

「は、はい!」

トライトンがさささと自分の槍を拾い上げる。

「ぐがー、すぴー。」

《やっぱ…寝ながらしゃべってんだ…》

「じゃあメリュージュさんオージェをよろしくお願いします。そしてミリアも引き続きオージェを見ててくれ。目を覚ましたら念話をくれるか。」

「かしこまりました。」

さっきまでトライトンを殺しかけていた美魔人は冷静に俺に礼をする。殺しかけた時も全く殺気が無かったが、俺が系譜でシャーミリアとつながっているから止めれただけで、気配だけで彼女を止めようとしたとしたら、すでにトライトンの首は体から切り離されていたはずだ。

《脊髄反射で人を殺そうとするのはやめてほしいな。だけど俺の親友の危機に動いてくれたのはうれしいぞ。本当に信頼できる秘書だな。》

「はぁぁぁぁ。」

ペタン

シャーミリアが上気した顔で座り込んだ。どうやらシャーミリアに俺の念話が筒抜けだったらしい。俺の考えを読んで何か感じてしまったようだ。

「コホン。」

「し、失礼しました。それでは行ってらっしゃいませ。」

シャーミリアがそそくさと立ち上がる。

「ああ。」

廊下に出てまた奥に向かって歩いて行く。

「トライトンさん。この階には結構たくさん部屋があるのですが何の部屋なんですか?」

「客室や食堂です。さっき皆さんがいた部屋が食堂です。」

「そうなんですね。客室があるという事はお客さんが来るんですか?」

「いえ、ワテがここに来てからは一度も無いです。」

「でも客室と。」

「龍神様が急に人が訪れた時に失礼に当たらないようにと。」

「そうなんですね。」

客室とか言うけど、だだっ広い何もない部屋だ。その広さと天井の高さからして龍のお客さんを想定していたのだろうか?

「下を見せてもらっていいですか?」

「ええ、どうぞどうぞ。」

俺達は再び地下に降りる為の階段を下る。

「えっとこの右の部屋は何なんですか?」

階段を降りた円形の部屋の一番右の扉を指さして言う。トライトンがいた部屋とは逆の部屋だ。

「ここは食料の保管庫です。」

「どんなものが入っているんですか?」

「主に魚です。まあほとんど魚ですが、海藻なんかもありますよ。時折シーサーペントなんかも獲れますし。」

「えっ?」

「龍神様も滅多にシーサーペントは獲っては来なかったですが。」

「あ、ああ。最近は見ないですか?」

「しばらく見てないですね。」

《よかった。まあ龍神がオージェになったからきっとシーサーペントを狩る事はないだろうし、ペンタが食べられることはきっと無いに違いない。…たぶん。》

「真ん中の部屋は。」

「真ん中は更に下に続く階段があります。」

「降りても?」

「良いですよ。」

俺達は真ん中の扉を開けて降りていき、下りきるとまた3つの扉のある部屋に出た。

いたってシンプルな構造の神殿らしい。

「ではこちらへ。」

トライトンが一つの部屋の扉を開ける。

俺達がそのままその部屋に入ろうとすると、トライトンがみんなに手をかざす。

「止まってください。」

「どうしました?」

するとトライトンか壁に開いている穴に三又の槍を差し込んで回した。

ガチャン!

壁の中でなにかが回ったらしい。

「今何を?」

「罠を解除しました。」

「罠?侵入者とかいるんですか?」

「いえ、龍神様用にワイが用意した罠です。」

「えっと‥‥トライトンさんが?」

「はい、100種類ほどの罠が組み合わさっておりまして、入れば永遠に罠が降りかかり続けます。龍神様はその部屋に入りしばらく出てきません。」

「いまは?」

「解除したので罠は作動しません。」

「わかりました。」

そしてトライトンは部屋に入っていく。俺達はその後ろをついて行くのだった。

「ここは体術の身のこなしを訓練する部屋です。」

「罠を避ける事で?」

「はい。」

言って見れば、命がけで体術を訓練するトレーニングジムって事か。

「罠が飛んで来たりするだけでなく、光の目くらましなどもあります。」

「そうなんですね。」

「では他に行きましょう。」

俺達はその部屋を出てまた反対側の扉に行こうとする。

「そちらが修練の間です。時間が違いますので入らぬ方が賢明かと。」

「トライトンさんは入った事は?」

「無いです。普通の生物が入ったら死にます。虹蛇様や精霊神様なら大丈夫だと思いますが、人間なら一瞬で死ぬでしょう。ワイも無駄に年を取りたくはないので入りません。」

《どれだけ加速した時間なのだろう?まあ入らないのが賢明かな。龍神が他の人が来てはならないって言っていた意味が分かった。》

「じゃあこちらへ。」

真ん中の階段を更に下に降りていく。

「また似たような部屋ですね。」

階段を下りきるとまた3つの扉がある部屋に出る。

「そうですね。」

「あの…なん階層あるんですか?」

「ワイでも100階層までしか降りた事はないです。」

「100階層もあるんですか?」

「はいもっとあると思いますが、ワイも100階層までしか降りたことがないのでよく分かりません。」

「もっと深く降りようとしたことは?」

「もう似たような不思議な部屋ばっかりだったので、別にいいかなって。」

「なるほど…。」

この神殿は同じ構造の並びで100階層以上の深さがあるらしかった。

「いったい何のためにそんなに深い階層があるんですかね?」

「それが…ほとんど龍神様が自分を鍛えるために使う部屋らしいです。」

「そうなんだ?」

「はい。」

《という事は…なん階層下に行ってもお宝なんてないんじゃ…》

「あのう。何か変わった部屋はありますかね?」

「すべてが変わっている部屋なので、何を見せたらいいのか分かりません。」

「そうですか…。」

するとトライトンが少し考えて言う。どうやら変わった部屋を思い起こしているらしい。

「それでしたら、ゴーレム部屋なんていかがですか?」

「ゴーレム部屋?」

「龍神様の組手の相手となるゴーレムがいる部屋です。」

《ゴーレム!異世界に来て今まで一度も見た事が無い!》

「ラウルさん!ゴーレム見て見たくないですか?」

グレースが言う。

「そうだな。ゴーレム一度見てみたいな。」

「俺も興味あるわ。」

エミルも見たいらしい。

「でもトライトンさん。私たちが入って危なくないですか?」

「大丈夫ですよ。ワイも入れます。基本的にゴーレムは指示された以外の事はしないので。」

「指示された事って。」

「龍神様が部屋に入ったら徹底抗戦。」

「徹底抗戦?」

「はい、ゴーレムは部屋からは出てきませんが部屋に入ったら最後、何度も何度も龍神様にかかってきます。」

「すごい。」

「ではご案内します。」

結局ゴーレム部屋があったのは地下38階層の右側の部屋だった。

その部屋の中に入ると俺はその既視感に驚いた。いや…既視感というよりも見覚えのある光景だ。その部屋に入って中にあったのは、石か金属のような物で出来た2メートル程度の大きさの人形達だった。それが部屋のあちこちにくまなく石像のように置いてある。

「ラウル。あれ魔王城みたいじゃないか?」

「ああ、魔王城にあった石像たちに似ているな。」

「本当ですね。出来栄えもそっくりです。」

俺達が見ている部屋の中の人形は、魔王城の中のあちこちに置いてあったそれと酷似していた。

「これがゴーレムです。龍神様が来ると動き出すのですが、いまは全て眠っております。」

「すごい!ゴーレムの動力って何ですか?もしかして魔力?」

「いいえ違いますよ。」

「どうやって動くんです?」

「その原理はワイにも分かりませんが、この部屋を作った神の事なら知ってますよ。」

「誰なんです。」

「それは…。」

「それは?」

「虹蛇様です。」

「えっ!僕!?」

「そう聞いております。」

グレースは狐につままれたような顔をしている。

「正確には僕の祖先がって事か…。」

「虹蛇様は命を吹き込まれる神だと聞いております。」

「という事は僕にもその力が…。」

「もちろんあるのでしょう?」

「いえ、使い方が分からないのです。」

トライトンの話だと、とにかく虹蛇はゴーレムを作り出す力があるらしい。グレースは自分の能力がものを収容するくらいしかないと考えていたようだが、トライトンの言うとおりならとんでもない力を秘めている事になる。

この神殿には神の謎を解き明かす秘密が隠されているのかもしれなかった。

そしてトライトンは神と一緒に暮らして来た付き人だ、彼に聞けば何かの情報を引き出せるかもしれない。