軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第325話 黒龍とBBQ

突然ルゼミアがとっ捕まえて来た巨大な黒い龍はオージェのお母さんらしい。

翼を広げれば50メートル以上あるようだ。そのウロコは黒く光り、頭はとげとげで口を開けば尖った牙がたくさん生えている。神々しいほどのその姿に俺達は息を呑む。

その神々しい黒龍が…

先ほどからルゼミアに平謝りしている。

「勝手に魔人国に入り申し訳ございませんでした。」

「我こそ息子の友達の母を絞めてしもた。すまん。」

「いやいや勝手に入ったのは私ですから。」

「今日は息子のめでたい日だったので邪魔されたくなかったのじゃが、友達の母となれば大歓迎だったのじゃよ。先に言ってくれれば良かったのじゃが。」

「すみません。神速で絞められたものですからお答えできませんでした。」

「すまぬ。」

「いえいえ。勝手に国に入ってしまい申し訳ございませんでした。」

「我も気が短かった。すまぬ。」

母親同士がペコペコしている。なんかレストランの出口でどっちが払うか揉めてるおばちゃんのようだ。

だが俺にはもっと他に問題があった。

《さ、寒い。早く城に入りたい。唇が紫色になりそうだ。》

この魔人国の夜は凄く寒いのだ。

ものすごく。

俺が周りを見るとカトリーヌが薄っすら光っている。

「カトリーヌは寒くないのかい?」

「回復魔法の応用で体内に魔力をめぐらせております。」

「そんなこと出来るんだ。」

俺も教えてもらいたいが出来なそうだ。とにかく裸にローブしか着ていないのは寒すぎる。

そして俺の目の前では母親たちがまだ会話を続けている。

《そろそろ限界だ。》

「少し寒くなってきましたね。」

「そうだな。」

俺が言いだす前にグレースとエミルも言ってくれた。

「だよな!とにかくみんな防寒の戦闘服を召喚するから着たらいい。」

俺は4人分の防寒用の戦闘服(ロシア製)を召喚した。

皆がすぐにローブを脱いでそれを着る。

「えっ?ここで着替えんの?」

皆がいそいそと着替えているが、寒すぎて俺はここでローブを脱ぎたくない。

皆は既に着替え終わってしまった。

「やっぱりあったかいな。」

「極寒にはこれって感じですね。」

「性能が良さそうだ。」

3人が喜んでいる。

《仕方がない着替えよう。》

俺は召喚した戦闘服に着替え始める。

「はっ!」

思い切ってローブを脱ぐ。

「うう寒い。」

急いで戦闘服に袖を通す。

「冷たい。」

とにかく急いで服を着替える事が出来た。ただ歯がガチガチいってるけど。

そしてどうやら母親同士の謝罪合戦は終わったらしい。

「ママ!」

「オージェ!元気そうでよかったわ。」

《なんだろう?オージェの”ママ”って言う響きが馴染めない。》

「どうしてここに?」

「家を出たっきり戻らないから心配で仕方なかったのよ。それでもしかすると龍神様の海底神殿に向かったんじゃないかと思って、このあたりの海域を探していたのよ。」

「海底神殿ですか?」

「そう。だけど私の取り越し苦労だったみたいね。良いのよ。」

オージェのお母さんはすっごく優しそうだ。見た目は黒龍だからすっごく怖いけど。

「あの!私はオージェの友達でラウルといいます!ルゼミア王の息子です!魔人の名はアルガルドです!」

「あら!ルゼミア様の息子さん?凛々しくていらっしゃって素敵だわ。」

「あ、はい、あの、ありがとうございます。」

《いきなり褒められるとなんといっていいか分からない。恐らくルゼミア王の前だから社交辞令的な物だろう。》

「ん?アルガルドよ。寒いのか?」

ルゼミアが寒そうにしている俺を見て言う。

「はい、寒いです。」

「ならばほれ。」

ブォンッ

俺達の前に大きな火柱が上がり、それが燃え続ける。

「あったかい‥‥」

どうやらルゼミアが俺の為に炎を灯してくれた。燃やす木も無いのにキャンプファイヤ―のように火が燃え盛っている。

そしてその炎に照らされてオージェのオカンの全身が見えた。

「カッコイイ…。」

グレースが言う。

その通りだった。威風堂々とした生ドラゴンは俺達の想像以上にカッコよかった。暗闇で炎に浮かび上がるその姿は幻想的ですらある。

「みんな。こちらが俺の母のメリュージュだ。」

「これはこれは。お母様わざわざお越しいただいてありがとうございます。」

ガルドジンが今更ながらしっかりした挨拶をする。

「ああ、この者は我の夫じゃ。」

合わせてルゼミアが紹介する。

「メリュージュと申します。」

「せっかくオージェ君の母君が来たんだし、ここに宴の準備をさせようかの。」

ルゼミアが言う。

「それでしたら私がここに天幕をはる事にします。」

俺は20人ほど入れるテントを召喚し、異世界組4人でてきぱきと組み立てた。

「い、いまどこから?」

メリュージュが言う。

「ああ、私は召喚魔法が使えますので。」

「召喚魔法ですか。昔の人間にも使える者はいましたが、でもあなた一人で?」

「はい。」

「凄いんだよママ。ラウルは一人で凄い物をいっぱい召喚できるんだ。」

「さすがは魔王様のご子息ですわね。」

「ふふ、自慢の息子じゃ。」

ルゼミアはご満悦の様だ。

「とにかくテントに入ります。メリュージュさんは寒くは?」

「私は龍です。このくらいの天候は問題ございません、ルゼミア様が大きな炎を灯してくださっていますし。」

「でしたらよかったです。」

テントの1面を全部まくり上げて俺達が中に入ると、魔人達が城の中からテーブルや椅子を持ってきてくれた。そしてすぐに料理も運んできてくれる。

「良かったらバーベキューにしませんか?」

俺が言う。

「バーベキューとはなんじゃ?」

「外で串に肉や野菜を刺して焼いて食うんです。」

「人間の冒険者とやらのようじゃのう!」

「やりましょう。」

ルゼミアがノリノリになって来た。そしてガルドジンがメリュージュに聞く。

「お母さんの食べ物はどうしたら…。」

「私は海ですませました。お気になさらずに」

《海ですませた?何を食ったんだろう?》

「すみません。私達だけ。」

「いいえ、ぜひ宴の続きを。」

「ありがとうございます。」

そして再び外での宴が始まる。

メリュージュはテントの前に頭を下げて、テントの中を覗き込むようにした。

「ところでおめでたい事というのは?」

メリュージュが聞く。

「ああ、うちの息子に良い縁談があったものじゃから。」

「まあ、なんと素敵なことでございましょう。」

「この子なんじゃが。」

「先ほどから気が付いてはいたのですが、彼女は人間?でございますか?」

「そうじゃ。」

「なんと!魔王子と人間の縁でございますか。」

「そうなんじゃ。」

「あら、情緒的で甘美なお話ですわね。うっとりしてしまいます。」

どうやら異種族のロマンスは龍にとってはロマンチックらしい。

「アルガルドも魔人と人間の間に生まれた子でな。」

「血は争えないという事でしょうか。」

「そうじゃな。」

《ちょっと待ってほしい…俺は今までどの女の子も意識した事はなかった。いきなりルゼミアや魔人達から、カトリーヌと結び付けられてしまったように思うのだが、血は関係ないと思う。》

俺が微妙な顔をしているが、カトリーヌはとても幸せそうな顔をしている。その幸せそうなカトリーヌの顔を見ていると細かい事を考えているのが馬鹿らしくもなる。

《まあ俺が変な顔をしたらカティが可愛そうだしな。とりあえず喜んでおくとするか。》

「それで、メリュージュ殿は息子を探しにと言っておったが。」

「ええ、龍国からオージェを送り出したのは良いのですが、この子は見た目通り華奢ですから心配で心配で、それで探していたのです。」

「わかるぞ。我も息子がなかなか戻ってこぬから心配じゃった。息子を持つ親の気持ちはだれでも同じという事じゃな。」

「そういうことですわ。」

しかしこの広い世界でなぜに今日ここに来るのか?やはり虹蛇の言うように偶然などではないのだろう。不思議に思うのだが間違いなく必然だ。

《引き寄せ…か。》

「そして息子を見つけたがどうするのじゃ?」

ルゼミアが問う。

「彼について行きたい所なのですが、人間の大陸には足を踏み入れるわけにはいきません。それで海の上を飛んでいたという事なのです。」

メリュージュが言う。

「オージェのお母さんはしばらく前から海を飛んでいましたか?」

俺が聞く。

「ええ。」

《あーなるほどね。ポール王の所で漁師が見たという飛行物体は十中八九メリュージュだな。》

「なるほどのう。我も何度か感じたのはメリュージュの気配じゃったか。」

「ああ!それじゃあ大きな魔力の正体はルゼミア陛下でしたか。」

「そういうことかのう。」

《という事はルゼミアの、あのスピードの飛翔から逃げる事が出来るって事?この黒龍…いやオージェのオカンは。》

「今日はとうとう捕まってしまいました。」

「早とちりですまなんだ。」

「いえいえ。」

「とりあえず今宵は我が洞窟を掘ってやる。城のそばで眠ると良い。」

「お気遣い感謝いたします。」

《なに?洞窟を掘ってやるって?スケール感のおかしい会話が続くな…》

「でもオージェにこんな素敵なお友達がたくさんいるなんてびっくりですわ。」

「あ、自己紹介が遅れました。私はエミルと申します。」

「私はグレースです。」

エミルとグレースが頭を下げる。

「エミルさんにグレースさんね。息子をよろしくお願いしますね。」

「いやいや、こちらがお世話になっております。」

「こんな華奢な子に何かできる事があればよいのですが、何かお役に立つことがあるなら言ってあげてくださいね。」

「わかりました。」

大きな黒龍と俺達が世間話をしている。初対面の黒龍と世間話をする人なんて、きっと俺達くらいなものだろう。

《しかし…メリュージュはさっきからオージェを華奢華奢って言うけど、俺達の中では最高戦力級の強さを持っているんだが…。》

「まだ未熟かもしれんが自分の息子を信じてやらんか。オージェ君もこう見えてだいぶしっかりしておる。我の息子を助けてくれておるのじゃ、きっと龍国を出た時より逞しくなっているであろうよ。」

「まあ…そうですか…。でも子供が成長して強くなることはうれしい事でもありますが、少し寂しくも感じるものでもありますわね。」

「そうじゃな…。」

魔王と黒龍がママトークをしている時にビッグホーンディアのもも肉に、グレースから出してもらった岩塩を目いっぱい振りかけて串に刺して焼く作業をする。

ジュー

肉汁が垂れて上手そうだった。さっきまでの魔人が出してくれたそこそこ洗練された料理もいいが、このワイルドなバーベキューは本当に満足感が得られる。

ルゼミアお付きの料理長の、厳つい顔のオーガが肉に張り付いて焼け具合を見てくれている。きっと焼きすぎて堅くならないように、そして生焼けにならないように見てくれているのだろう。

肉の焼けるいい匂いがしてきた。

「えっと、母さん。」

「なんじゃ?」

「この大きな炎なんですが、ずっと魔力を消費して燃やし続けているのでは?」

「そうじゃが?」

「それならばファントムに薪を拾ってこさせます。」

「ん?別にこのくらい何も問題ないぞ。眠っていてもできるが?」

《うっそ。こんな大きい炎をずっと燃焼させるのを…眠っていても出来るって…。》

「雰囲気もありますし。ファントム!」

するとファントムが俺達の前から消える。

「私は木を積み上げてキャンプファイヤーというものがしたいのですよ。」

「ふむ!なにやら面白そうじゃのう!」

暫くするとファントムが帰ってきて俺達の前に大木を積み上げていく。あっという間に5メートルくらいの高さの櫓が出来る。

「母さん。軽く火をつけてくれますか?」

ボウ

櫓に灯がともった。

その周りにまた棒に刺した肉を立てたっぷり岩塩をかけていく。

「なーるほどのう。これはこれで趣があるものじゃの。」

ルゼミアが嬉しそうに言う。

「私達も簡単に炎を操る事が出来ますからね。このような事をした事が無いので新鮮ですわ。」

メリュージュが言う。

《シャーミリア》

俺は念話でシャーミリアに話しかけた。

《はいなんでございましょう。》

《オージェの母ちゃんってどのくらいの強さかな。》

《おそらく私奴を含め、ご主人様の配下全員でかかれば何とかと言ったところでしょうか?ご主人様の兵器を用いればそれには限りませんが。》

《わかった。》

念話でオージェのオカンの大体の強さが分かった。

…この龍が我を忘れて見境なく破壊の限りを尽くしたら人間界は滅ぶ。

俺はオージェを無事にこの母の元へ返してやらねばと思うのだった。

《まあ…それを言ったら俺もなんだけどね。》