軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第246話 不可避の罠

俺と魔人達はこの数日間でフラスリア領の護衛についてや、この地に送り込む魔人の構成などの調整事項を話しあっていた。すでに必要な人員と物資の内容をまとめ、念話でルタンとグラドラムに通達を出している。

既に1000人の魔人が物資を持ちグラドラムを出発したころだろう。

さらにファートリア神聖国へと侵攻する部隊の編成なども行っている。

オージェはと言えば今度はマキーナまで巻き込んで子供たちの特訓を始めたらしい。とにかく俺は彼のしたいようにさせる方針だった。俺には彼の考えている事はよくわからないが、おそらく素直に子供たちを鍛えたいと思ってやっているのだろう。

カツーンカツーン

靴音が石壁に響く。

俺はハルムート辺境伯邸の地下牢に続く石階段を降りていた。俺の護衛にはシャーミリアとファントムがついている。前をトラメルが歩き俺の横には代官のローウェルがいた。

俺達がフラスリア領に到着する前までにトラメルが行っていた雑務を、魔人やオージェが代行する事で辺境伯としての仕事に専念できるようになったのだ。

俺達の他には人はいなかった。トラメルが重要機密だというので俺の腹心しか連れてきていない。

「地下牢にはどのくらいの人数を収監しているんですか?」

俺がトラメルに聞く。

「一人よ。敵兵は全て魔人達が殺してしまったし、いま地下牢にいる者は私達の隠れ家そばに逃げて来た人物よ。」

「その人はファートリアから逃げてきたという事でしたよね。」

「本人はそう言っている。」

今回俺は今までの作戦と違ってかなり慎重に動いていた。それは俺達の情報がすでにファートリア本国に伝わっている可能性をトラメルが示唆してきたからだ。今度の攻略対象となるファートリア神聖国は、今までの情報からしても真の敵が潜む可能性があった。

そのため俺は慎重になっていたのだ。

トラメル辺境伯が懸念する”理由”にこれから会いに行く。

トラメルが捕えた囚人に話を聞くために地下牢へ降りている。すでに以前マキーナから念話で情報は入っていたのだが、俺はトラメルが言い出すのを待っていた。

「ファートリア神聖国からの逃亡者とはいえ、内通する可能性もあったので監禁している。さらにはフラスリアの民に知られれば処刑を望むかもしれない。だから地下牢に幽閉する事にしたのよ。」

「なるほど、それを私に話そうと思ったのはどうしてですか?」

「あなたたちのここに来てからの行動よ。」

「私達の行動ですか・・」

「ええ。」

《やっぱ印象は大事!》

どうやら俺達がフラスリアに協力的だったため、トラメルは俺を信用してくれたようだった。

地下は暗かったがローウェルが持つランプで足元が照らされていた。4つの牢屋がありどの牢にも頑丈な鉄格子があった。

「一番奥にいるわ。」

「はい。」

牢屋の前にはきちんと火がくべられ明るく照らされていた。牢屋の天井付近には小窓がありそこから陽の光が注いでいる。

「おい!おまえ!起きろ!」

ローウェルが囚人に声をかける。

どうやら囚われの者は眠っていたようだ。

「あ!トラメルさん!やっと出してくれる気になったんですか?」

目の下のくまがすごいし、痩せこけている。

「違うわ。あなたの話を聞きたいという人が来たから連れてきたまでよ。」

「そんなぁ・・」

「こんにちは私はラウルと言います。あなたは何者ですか?」

鉄格子ごしに俺はその男と話をし始めた。

「私はファートリア神聖国のケイシー神父と申します。」

ケイシー神父と名乗る男は薄汚れた黒いキャソック(司祭平服)を来ていた。顔は優しそうでマル眼鏡をかけておりいかにも神父と言った感じだが、髪の毛は伸び放題で無精ひげもちらほらと生えていた。

「どうしてファートリア神聖国の神父がここにいるのですか?」

「逃げてきたんです。ファートリア神聖国はもう終わりです。」

「終わり?」

「ええ。すでにほとんどの司祭は生きてはいないでしょう。教皇も枢機卿も手遅れだと思います。」

「手遅れとは?」

「悪魔に殺されてしまったと思います。」

「悪魔?」

ケイシー神父は立ち上がって鉄格子に近づいてきた。

「あの!!話をする前に!ここから出してもらえませんか!」

「それは私の一存では決められません。」

「えっと・・そもそもあなたは何者なんです?」

「私はグラドラムから来たラウルと申します。」

「なぜ私に会いに?」

「ファートリア神聖国の情報を聞き出したいと思いまして。」

「話します!話しますから!ここから出してください!」

するとトラメルが言う。

「ここに居るのはあなたの為よ。この領の兵士の家族達は皆殺しにしたファートリアを許す事は無いと思うわ。ファートリアの神父がいると知れ渡ったら、あなたを守りきれるか分からない。」

「それは・・。」

少し興奮気味のケイシー神父はおとなしくなった。気弱そうな顔が更に気弱そうになる。

「一応1日2回の食事も与えているのだし、ファートリア国との状況が見えるまでは我慢してほしいものだわ。」

トラメルが冷たく言い放つ。

「わかりました。でも私が持つ情報はあなた方が欲しい情報なのですよね?では待遇の改善がされるまで話しません!」

「はぁ?あなた。自分の立場が分かっているのかしら?いまここで斬捨てられても誰も気が付く事もないのよ。」

「そ・・それは・・」

確かにこの男は兵士ではないが敵国の幹部候補ともなれば俺達に殺される可能性もある。それをこの男は分かっていないようだ。

「じゃあ聞かなくてもいいです。トラメル辺境伯行きましょう。」

「ええ。あなたがそれで良いのなら。」

《あとでサキュバスに尋問させて吐かせればいいや。》

俺達が踵を返すとケイシー神父が声をかけてくる。

「ちょっと!ちょっとまってくれ!」

「ん?気が変わったか?」

「それは・・」

「じゃあ気が変わったら言ってくれ。」

《ほんと面倒。最初からサキュバス連れてくればよかった。》

「わかーった!わかったよ!言う言う言います!だから食事の質だけでも上げてください!」

えっと・・食事の質?何食わせられてんだ?

「ん?辺境伯はこの人に何を与えているのですか?」

「水と硬いパンよ」

「えっそれだけ?」

「それだけよ。」

この人がめっちゃここから脱出したい理由がいま分かった。

「それはいささか厳しくないですか?」

「領の民や私達でもそれほど贅沢はしていない、食べられるだけでも十分と思うのだけど?」

「さすがにそんな扱いでは、誰でもこのケイシー神父のようになってしまうと思いますよ。」

「私の父母を殺した国の者です。これ以上の施しは必要ないわ。」

「うーん。この者の話は聞いたんですか?」

「聞く必要はないわ。殺さなかっただけでも感謝されるべきね。」

うん。なるほど・・トラメルならこう考えるのはあたりまえの事か。両親の仇の国の人間を許せないという心情は分からんでもない。

「わかった食事の質は俺達魔人が改善しよう。それなら話を聞かせてくれるかい?」

「もちろんだ!洗いざらい話すよ!というか話したくて逃げてきたようなものだし。」

「ローウェルさん、ここを開けて私を中に入れてください。」

俺が言う。

「えっ!それは・・」

ローウェルが躊躇する。

「この状態ではこの者も心開かないでしょう。」

「わかりました。トラメル様はよろしいですか?」

「ならば私も入るわ。もし変な事をするようなら剣の錆にしてくれるわ。」

「ひぃ!変な事なんてしません!」

「ローウェル。開けて。」

「はい。」

ガチャン

「トラメル様。入るのは私だけで良いのですが?」

「あなたは丸腰じゃない。私がそばで見ているから話して。」

牢屋の扉を開いて二人が中に入る。シャーミリアとファントムもついて来ようするがそれを制する。さすがにこの二人もそばにいたら、威圧感で話せなくなってしまうかもしれないからだ。

「ご主人様。私奴だけでも・・」

「シャーミリア大丈夫だ。」

「かしこまりました。」

俺がきっぱり言う事でシャーミリアは頭を下げ後ろに下がった。

俺とトラメルはケイシー神父の前に立って話を始めた。

「さて・・聞かせてもらっていいかな。」

「わかりました。」

「まず悪魔とか言っていたけどどういう事だ?」

「あの・・元は私と同じ神父だった者がおりまして、真面目に戒律にそって日々祈りを捧げる敬虔な信徒だったのですが・・」

ケイシー神父は身震いした。よほどのを思い出したのかもしれない。

「私は・・その者の勤勉な姿勢に感心して近寄りました。」

「あなたは勤勉じゃないのですか?」

「まあ・・真面目ではなかったかもしれません。私は・・政略的に教皇候補として担ぎあげられそうになり、それが嫌で彼の所にかくまってもらっていたりしました。」

「教皇候補?あなたが?」

トラメルが聞く。

「はい。私の名前はケイシー・アピス。教皇の甥にあたります。」

おおっと!ずいぶんなビッグネームが飛び出して来たじゃないか!教皇といえばファートリア神聖国のトップだ。

「その教皇の甥様がなぜ国を追われることになったんだ?」

「はい。先ほど話をした神父ですが...彼が元凶でした。」

「その者の名前は?」

「アヴドゥル・ユーデル神父です。アヴドゥルはその本性を隠して教会内部に潜り込んでいたのです。」

「アヴドゥル・・そいつ一人で国を乗っ取った?」

「はい。 国家転覆(クーデター) を狙っていたようです。」

「でも国家転覆なんて一人で出来る事じゃないだろう?」

「それが、その者は恐ろしい術を使ったのです。」

「恐ろしい術とは?」

「禁術です。」

ビンゴ!

こんなところに知りたい情報が転がっているとはね!

話を聞いて正解だった。

「その男が魔力を発すると恐ろしい業火が燃え盛り、さらには転移魔法をも駆使して人々を虐殺したのです。」

「よくあなたは生きて逃げられましたね。」

「それが・・実は一度は捕まったんです。」

「捕まった?」

「はい。やつと親しく接していただけありまして、私はいち早く奴の所業を察知して命からがら逃げだしました。しかし元のファートリアの騎士たちが追ってきて簡単に捕まってしまいました。」

なんでせっかく逃げられたのにあっさり捕まるんだよ!

「それで?」

「教皇たちの元へ連れていかれ、教皇も私も牢獄に入れられました。」

「ちょっと気になる事があるんだけど、いきなり兵士たちが寝返った?前もってその準備をしていた?」

「いいえ違います。おそらくあいつの魔力のせいです。あいつが何かを命じると兵士や民はいきなりそれに従いだすのです。それが・・私とおじさんの教皇には効きませんでした。」

なるほど。おそらくは魅了だろうな・・それもサキュバスの物よりも強いものだ。今まで出会ったファートリアやバルギウスの兵もすべて魅了にかかっていた。かからないのはグレースとバルギウス兵のジークレストとかいったっけ?彼だけだった。

「でもそんな状況で、どうして逃げられたんだ?」

「分からないのです。ある朝目が覚めると衛兵も誰もおらずに牢屋の鍵が開いていました。そのまま出てみると通路にも誰もおらず、知らん顔でそのまま外に出たら出れたんです。あとは秘密の通路で外まで。」

「ということは・・つけられたか?いや・・それなら魔人達が救出に来る前にトラメル様達はやられていたはずだな。」

「囮って事かしら?」

「そう考えるのが妥当なのですが・・わかりません。」

するとケイシー神父が言う。

「私をつけて来る者の気配などありませんでした。まあ・・私が追跡者に気がつけるかどうかは分からないですが・・」

「そうだね。」

「そうね。」

「うっ。」

それでほかに気になる事は。

「私の神父の勘ですが・・すみませんあてにならないかもしれないですよ。」

「まあそうだね。」

「ええそうね。」

「僕は・・本当に信用ないんですね。」

「ああ。」

「そのとおりよ。」

「・・・まあ・・・いいです。おそらく追跡者もおらず私が不穏な気配に気が付く事はありませんでした。」

「ふむ・・」

「そして命からがら北西を目指してたどり着いた先がここなんです。しかしフラスリアはすでにファートリアとバルギウスの兵で埋め尽くされていたので、さらに逃げようとしたところで・・」

「私達に捕まったと・・」

「そう言う事です。」

「まあ辻褄はあうわね。」

なるほど。

《だとすれば・・こいつは魅了の影響も受けていないのにかかわらず逃がされた。誰かに操られていると見破られないためか?でもこんな男に何が出来る?》

俺は疑問が解消できないため情報を聞き出そうとする。

「あとなにかあるか?」

「いえ。ただ逃げる時に、伯父のロニーアピス教皇の生死を確認できずに来たことが悔やまれます。」

うん関係ないな。なにか糸口は無いだろうか・・次の質問をしてみる。

「ケイシー神父。あなたはサイナス枢機卿をご存知ですか?」

「知ってるも何も!私が幼きとき厳しく指導してくれた方です。」

「聖女リシェルは?」

「一緒に学んだ学友ですよ。なぜにその二人を知っているんですか?」

「ああ、ファートリア神聖国の枢機卿と聖女だったと聞いていたのでただ聞いただけだ。」

「そうなんですね。」

やはりそうか俺の推察が正しければ、コイツはサイナス枢機卿を捕えるための餌として逃がされたとみて間違いないだろう。

「あとありますか?」

「私が知っている情報なんてそんなものです。」

「わかりました。それでは約束通りに1品料理を増やしましょう。肉か魚か前日に伝えておいてください。きちんと料理は届けさせるようにします。トラメル辺境伯もそれでよろしいですね?」

「ええ。約束ですから。」

するとケイシー神父の顔がパアアアアアっと明るくなった。

「ラウル様!あなたは神様だ!ありがとう。」

ケイシー神父が手を差し出した。

俺がその手を何の気なしに握る。

パシィッィィ...

目の前が真っ白になって次の瞬間・・

目の前に砂漠が広がっていた・・

「えっ!」

「はっ!」

「なに?」

砂漠に立っていたのは俺とトラメルとケイシー神父の3人だった。

俺達はその状況を理解する事が出来ず呆然と立ちすくむ。

そのころ・・

パシィッィィ...

シャーミリアの目の前で3人の人が消えた。

「ご主人様!」

「お嬢様!」

シャーミリアとローウェルの声がむなしく響き渡るのだった。

牢屋には外からの光がただ差し込んでいた。

誰もいない牢屋の一室に。