軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第245話 龍の民の稽古

俺はユークリット王都に駐留している魔人に連絡を取る。

《マカ》

《はいラウル様。》

《ギレザムの部隊は西側で拾えたようだな。》

《はい。滞りなく。》

《エミルに伝えてほしい。基地建設部隊を編成して、二カルス大森林の巨大トレントと約束した3ヵ所のうち、ファートリア神聖国に近い東に基地の建設を頼む。》

《はい。わかりました。》

《途中のバルギウスでドラン、アナミス、グレース、オンジを拾っていくように。》

《はい。》

《ユークリットからはミノス、カララ、ルフラ、ギレザム、ゴーグ、マリア、カトリーヌ、モーリス先生とサイナス枢機卿一行、ドワーフ、そしてスプリガン2人オーガ3人オーク3人を連れて行ってくれ。》

《了解です。》

《マカはガザムと共にバルギウスでタロスと合流し、バルギウス兵の牽制と引き続き連絡役をお願いしたい。》

《はい。》

《ラーズ!スラガ!》

《はい。ラウル様。》

次に念話をラーズとスラガにつなぐ。

《ラーズとスラガはそのまま反乱軍冒険者と共に、ユークリットに残留し都市の再建継続をたのむ。さらに1000名の魔人が来る予定だ。ルタンから魔人の足なら5日もあれば到着するだろう。》

《かしこまりました。》

よし。ユークリット王都再建と森の最前線基地はこれで問題ないだろう。

魔人1000人がユークリットにつき次第、精鋭の兵を再編成してバルギウスに送る予定だ。

そしてここフラスリアにルタンからの魔人部隊が到着した。

ドワーフを含む基地建設のための部隊だ。建設部隊とはいえドワーフ以外の魔人は戦闘になれば、かなりの強者ぞろいだ。最強の土木作業員である。

ドラグとマキーナ達があらかじめ選定していた森に近い草原地帯に、最前線基地を建設する予定となった。

「トラメル辺境伯。これでフラスリアもかなり安全になるはずです。」

俺は建設予定地を眺めながらトラメルと話していた。

「我が領では、本当に炊き出しだけ協力すればいいのかしら?」

「もちろんです。魔人達はかなりの物資を運搬してきました。また彼らはここに居るあいだも魔獣や薬草などを採取してきます。ですから炊き出しだけお願いできたらありがたいです。」

「わかったわ今はそうさせていただきます。でも領の運転資金が安定してきたらそれなりの対価を支払いさせてください。」

「わかりました。ではそれでお願いします。」

「ええ。」

俺は基地の規模が大きくなったら更に魔人達を移住させる予定だった。いつ敵が湧いて出るか分からない状況なので戦争が終わっても駐留を続ける事になる。

「しかし魔人という者はみなこうなのですか?」

「ええ、働き者で素直で文句のひとつも言いません。むしろ文句のひとつでも言ってくれたほうが、ありがたい時もあります。」

「すごいものだわ。」

トラメルが感心している。

「じゃあドラン基地建設の指揮はまかせた。」

魔人達の建設予定地にいたドランに言う。

「わかりました。早急に事を進めます。」

「ああ。」

俺とトラメルは都市に向かって歩き出した。

《あとはルタンからの道の整備だな。》

グラドラムからの最短距離となるルタン経由の道のりは、破壊されまくっていたのだった。おそらく魔人達の進軍を遅らせるためだ。橋は破壊され峠道は崩されていた。

それでも高速で移動できたのは魔人の力だ。

おそらく敵は人間を想定した妨害工作をしたつもりだろうが、魔人にそれが通用するわけがない。しかしトラックが使えなかったため想定の半分以下の物資となってしまった。

それでも現状をしのぐには十分な量の物資を運んできた。

俺が道路状況をふまえ念話で連絡をし全員徒歩で来るように指示を出した。

俺達ほどの速さではなかったが、5日もかからずに来れたのは魔人達の無尽蔵の体力のおかげだった。1日休ませてすぐに基地の建設作業に取りかからせている。

「それでオージェさんはどこに行ったのかな?」

俺が後ろを歩くシャーミリアに聞いてみた。昨日まではずっと一緒にあちこち見回っていたのだが今日は朝から別行動だった。朝早くに「いってきまーす」とか言って出ていったきりだ。

「はい。昨日の空き地の方向に気配を感じます。」

「あの子供たちが練習していた空き地?」

「はい。」

するとトラメルが言う。

「彼はどうやら子供たちの訓練に興味があるようよ。昨日の夜に私は尋ねられたの、子供達の訓練の進捗をね。」

「子供の訓練の進捗ですか?」

「ええそれから彼はひとりひとりの特徴を言って、彼はああしたほうがいい彼女はこうしたほうがいいと私にいろいろと言うのよ。」

「それでどうしたんです?」

「興味がおありならご自身でやったら?といったわ。」

龍の民が人間の子供に稽古・・どんな?

「それで今日は朝から・・」

「私もこれから行く予定よ。」

「ではトラメル辺境伯。私も同行させてください。」

「どうぞご勝手に。」

うむ。やはりトラメル辺境伯は言い方で損をしていると思う。シャーミリアが少しピリついているが、この間トラメルの苦労話を聞いて文句を言うのを止めているようだ。

そして俺達はオージェと子供たちが訓練をしているだろう所に行く。

すると・・・子供たちの掛け声が聞こえてきた。

「やあ!」

「うわぁ!」

「ほっ!」

「とう!」

訓練・・じゃない。

これは何をしているんだ?

俺が言う前にトラメルが言う。少し怒り気味に・・

「あの!訓練をなさっているんじゃないんですか!?」

するとオージェが言う。

「ええ、立派な訓練ですよ。」

二人の子供が両側にいて 鞠(まり) をもち、二人の間にいる子供達が逃げ回っている。そして両側の子供が、その鞠を投げて間にいる子達にぶつけようとしているのだった。二人の間にいる子はその玉を一生懸命よけている。

そう・・これは・・形はすこし違うが・・ドッジボールのようだ。

「これのどこが訓練なんです!?」

「まあまあ。トラメルさんちょっと見ててくださいよ。」

「なん・・」

トラメルは何かを言おうとして言葉を呑んだ。

子供達はいろんな体制になりながら鞠をよける。ぶつかると玉を持つ人と避ける人が入れ替わってまた同じことを始める。

「どうです?のびのびと回避しているでしょう?」

「そ・・そのようね・・」

「狙う方も投げるふりをしたり目線を他にずらしたりして、相手の動きに迷いを持たせたり動きを止めたりしてうまく鞠を当てている。」

「本当だわ・・」

「今までの剣の振りと受けの訓練では、子供達の体が思った通りに動いてくれてないようでした。」

「はい・・」

あれ?トラメルがめっちゃ素直に返事をした。

「もう朝からだいぶこれをやっているので彼らも汗だくです。でも凄く楽しそうじゃありませんか?」

「はい、確かに・・」

どうやらトラメルは自分の指導に欠けている部分を、オージェがこともなげにやっているので感心しているようだった。

「辛い修業はもっと大きくなってからでいいのです。まずは体を作る事と反射神経や筋力を向上する事をした方がいいです。」

「それは・・どうして?」

「初めから型を押し付けると癖がつくからですよ。もちろんトラメルさんの教えで変な癖はつかないようで、皆まっすぐで素直な剣筋でした。でも・・それでは実戦で敵に当たらないんです。」

「はい。」

「ただ、トラメルさんのお教えになっていた弱い立場の者が、強者を動揺させ更に失敗を誘って隙をつくというのは優れた考え方です。」

「ありがとうございます。」

「今は柔軟でしなやかな体作りを心掛けさせてください。そうすればもう1段も2段も上の力を身につけさせることができます。実戦形式の練習より体を駆使する運動練習をお願いしたいです。」

「わかりました。これからその形式を取り入れてやってみます。」

《おおお!トラメルさんがすっかり敬語になっとるじゃないか!オージェは凄い!》

するとオージェが子供たちに鞠当て練習を止めさせる。

「はいそこまでー!それじゃあ次はその辺の棒でも石でもなんでも使っていいから、私に全力で攻撃してきてください!」

「あの・・一人ずつですか?」

「いいえ。全員でですよ。」

「全員で?思いっきりですか?」

「はい。」

すると子供たちが・・いいの?と言う顔でキョトンとオージェを見ている。

「さあ!きなさい!」

ビリビリビリ

あの凄い気迫のこもった声に子供全員が撃ちだされるように突進する。

「とりゃ!」

「それ!」

「うりゃあ!」

「はい!」

子供達はその辺にあった石とか棒を持って素早くオージェに打撃を繰り出す。

すると・・

ひとつもオージェに当たらない。

それどころがオージェは子供達のお互いの攻撃がお互いに当たらないように手でそらし、体を押してやり足をすくい怪我をしないようにさばいていく。

もう・・見事としか言いようがなかった。

子供達は不思議そうな顔をしているが、それが面白かったのかどんどん攻撃のバリエーションを増していく。

土をつかんでかける。

石を顔に投げつける。

棒を両手に持って振り回す。

服を掴んで引っ張ろうとする。

石を持った手で殴ろうとする。

草を千切って振り回す。

子供達はいろんなことを試してみる。しかし・・オージェには何も当たらない。子供たちがどんどん必死になればなるほど当たらないのだった。

そんなことをしばらく続けていると子供たちが息をきらしてきた。さっきまで鞠当てをやっていたのだし、どうやら体力がきれたらしい。

「よーし!やめ!」

オージェの掛け声と共に子供たちがその場にへたり込む。

「それじゃあ少し休もう。その辺に座ってくれ。」

「「「「はい!」」」」

「やっぱり食事の影響もありますね、彼らは十分な栄養が得られていない。これは魔人達に頼んでいい食料を分けてもらうのがいいと思います。」

「いいえ私たちは炊き出しだけを受け持っているので、食料をいただくわけにはいきませんわ。」

トラメルが遠慮するので俺が言う。

「トラメル辺境伯。魔人は毎日森に魔獣や薬草、キノコ、木の実などを取りに行きます。栄養価の高い物も含まれていますので、子供達の為に余分に取りに行かせましょう。」

「そこまでは・・」

「いいえ、子供にはその権利があるのです。不幸に生まれたくて生まれたわけじゃない。親も選べないし孤児になろうと思ってなった訳じゃない。だからいい食べ物を食べる権利くらい、トラメル辺境伯の権限で与えてもいいじゃないですか。」

「どうして私たちにそこまでしてくださるの?」

「私が同じ国の人間だから。と言う理由では足りませんか?」

「それは・・」

トラメルはどうやら甘える事をしたくない性分らしい。なかなかうんと言わない。

「では隣の領主を失った平民が、辺境伯様に税金がわりに収めるという事でいかがでしょう?」

「税金代わりに?」

「その代わりサナリア領が復興するまでフラスリア領が全面バックアップする。という条件付きならいかがでしょう?それなら子供達だけと言わず、フラスリアの食糧事情も改善するほどの物資を入手してご覧に入れます。」

「わかったわ。そこまでおっしゃるのなら条件を飲みましょう。」

「ありがとうございます。」

するとオージェが子供たちに言う。

「よし!今日はこのラウルさんがみんなにご馳走してくれるぞ!」

ん?そうなの?

「え・・いいんですか・・」

「本当に・・?」

「お、お腹減った・・」

子供達の俺を見る目が痛い。

「ああ!もちろんさ!みんなのお腹がはちきれるまで食べると良い!」

「やったー!」

「お腹減った!」

「食べたい!」

するとトラメルが子供達を諫める。

「こら!あなた達!そんなに卑しいことでは・・」

ぐぅぅぅぅぅ〜

言ってるトラメルの腹がなった。

「あの、トラメルさんも子供達と一緒にいかがです?食を共にするのも訓練ですよ。」

オージェが屈託なく言う。

コイツめ・・俺が金を払うのにいいとこどりしやがって。

でもなぜか憎めないのだった。