軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第225話 目には目を歯には歯を

西の山脈に沿って巨大なヘリが飛ぶ。

俺たちがのる【CH-47 チヌーク】タンデムローター式の大型輸送用ヘリコプターだ。

俺は特等席のセルマ熊のもふもふの肩に寝転がって、美しい毛並みにすりすりしていた。

「見ろーサイナス、湖じゃ!大きいのう!」

「おお!キレイじゃのう。あっちの山頂は真っ白じゃな。まさか空から山なんぞ見れると思わなんだ。」

「そうじゃなー。西の山脈は人類未踏の地じゃが、これならあっという間にいけそうじゃの。」

「それもそうじゃな!ただ見てみいモーリスよ。西の山脈はどこまでも続いておるぞ!どんな化け物がおるか分からん。」

「そうじゃ、果てには龍の棲家があるとも言われておるからのう。」

「興味本位につついてはならんな。」

「その通りじゃ。お!タラム鳥が飛んでおる!手を振ろう。」

2人のじいさんが観光気分で窓の外の魔獣に手を振っている。

もちろん、大賢者と枢機卿だ。

「ほれ!リシェルよお主もこっちに来て外を見んか?」

サイナス枢機卿が声をかける。

「・・あ、いっいえ・・わ・私はけ・結構でご・・ございます。」

聖女リシェルが真っ青な顔で断る。

「なんじゃ、ものっ凄く高くて気分爽快じゃぞ!」

「いえ・・私は特に・・」

「まあ落ちたらひとたまりもないと思うが、ラウルよこれは滅多に堕ちんのじゃろ?」

「はい先生。まあ絶対とは言えませんが問題ないです。エミルにこれを扱わせたら右に出る者はいませんし、なにかがあってもパラシュートというのがあって安全に降りれます。」

「なんじゃ?ぱ、ぱらしゅうと?それやってみたい。」

「いや。緊急事か作戦遂行時くらいしか使いません。」

「残念じゃの。」

すると聖女リシェルの顔がますます青くなった。

「ぜっ・絶対じゃ・・絶対じゃない・・う・・うっぷ」

あ、まずい・・

俺は走りさま災害用の簡易トイレを召喚しつつ、リシェルの元に滑り込んだ。簡易トイレを広げて彼女の胸元に差し入れる。

「うっうぉぇぇ。」

すかさずティラが優しくリシェルの背中をさする。

「大丈夫ですか?」

「だ・・だい・うぉぇぇぇ。」

大丈夫じゃなかった。

そんな事を気にもかけず、じいさま2人は窓の外に釘付けだ。

「うお!みっ見てみい!一本だけものすごい背の高い木があるぞい。」

「本当じゃな。ニカルスの森の木が一本だけ生えとるような・・。おお!見てみい!滝じゃ!ずいぶん高いところから落ちておるようじゃな。」

あのー、お仲間のお嬢さんが参ってますけど。

散々吐き散らかして吐くものがなくなったリシェルに、カーライルが声を掛けてくる。

「リシェル様、皆に気を使わずに横になられては?」

「いえ・・カール・・、皆様が起きておられるのです。私だけ寝ているわけには・・」

「ならせめてご自身に精神魔法をおかけになっては?」

「う・・あ、あのラウル様。」

「なんでしょう聖女リシェル。」

「ここで魔法を使って、こ・これは・・お・堕ちませんか?」

「問題ございません。」

「ありがとうございます。」

すると聖女リシェルは何かを口ずさむ。

パァァァ

リシェルを光がつつむ。

すると顔色が少し戻った。

「あのー。聖女リシェル。もしよろしかったらセルマの背中で寝てください。何かがあってもシャーミリアが飛べます。一目散に聖女リシェル様を救うようにします。」

「ええ・・ご主人様の言うとおりよ。あなたは横になったほうがいいわね。」

「い、いえ・・私だけが特別扱いなどいけません。」

「いえいえ、特別扱いじゃないです。あとの面子はたぶんパラシュートで降りて問題ないですが、あなたは失神してしまいそうなので。」

「すみません・・すみません。」

ペコペコしている。

そう・・聖女リシェルはヘリで飛ぶまで気がつかなかったのだ。自分が極度の高所恐怖症であることに。

「カーライルさんリシェルを連れて行ってあげてください。」

カーライルがお姫様抱っこでリシェルをセルマの背中に連れていく。たぶん暖かくてモフモフだからすぐに眠りにつくだろう。

俺はモーリス先生に話しかける。

「あの・・先生。腹は空きませんか?」

「そういえば減ったのう。」

「私は食べ物も出せるんです。」

「なんじゃと?」

俺は戦闘糧食Ⅰ型を召喚して2人の老人の前にだす。

「ラウルよ、からかってはいかん。これはどう見ても食い物じゃありゃせん。」

「待ってください。」

俺は缶切りを使ってあけてやる。

「ほう!鉄の中に入っておるのか?」

「はい。」

「してこれは何という食べ物じゃ?」

「せきはんとたくあんと言います。」

「ほう。」

そして俺は2人にスプーンを渡し、自分も空けて食べ始める。

ポリポリ。

美味い。

「モーリス先生と枢機卿もどうぞ。」

「面白いのう。」

「まったくじゃ。」

そして2人は赤飯を口に入れた。

「お!変わった味じゃな。」

「先生。そっちのはたくあんと言う野菜の塩漬けです。」

「ほうほう。」

ポリポリ

「おお、しょっぱいが旨味があるぞ。」

「どれどれ。」

ポリポリ

「お!変わった味じゃが美味いのう。こっちのセキハンとやらが食べたくなる。」

「カーライルさんもこっちへ。ティラもおいで。」

そして彼らにはもうちょっと若向けに、フランスのレーションを渡す。

ティラが手慣れた感じで食べ始めるのを見て、カーライルも真似て食べ始めた。

「これは美味い。温めてたべたいね。」

カーライルが言う。

「お湯を沸かして温める事もできるのですが、機内では火は使えませんので。」

「ああ、いいんだ。ワガママを言いたいわけではないよ。」

「じゃあ操縦席にも行ってきます。」

そして俺は操縦席のエミルとケイナのところにいく。

「エミル。2人分のレーションを置いていくから食べてくれ。ケイナさんは、操縦しているエミルに食べさせてくれるとありがたい。」

「もちろん。エミル、あーんしてね。」

「じ、自分で食えるから!」

「あらあ?遠慮しなくていいのよ、小さい頃も食べさせてあげたじゃない。」

「子供じゃないし。」

「ふーん。大きくなったもんねー」

「や、やめろって。」

もちゃもちゃしている2人をそっとしておこう。

俺が皆んなの元に戻ると、モーリス先生がかしこまって話してくる。

「ラウルよ。主のこの魔法は素晴らしくも恐ろしいものじゃ。」

「はい。心得ております。」

「うむ。これはこの世界の理を超越しておるわ。」

「はい。」

「よく理解して力を行使せねば、自分自身を傷つけてしまうかもしれぬ。十分注意するように。」

「はい。私の能力は万能ではないと思っています、むしろ多様な魔法を使える人からみれば、私の召喚能力はかなり偏っていますし。」

「ほう。」

「戦闘作戦に関する武器や物しか召喚出来ないのです。」

「そうなんじゃな。だから食べものがこんな形状をしておるのか。」

「はい。なので私に兵糧攻めは通用しません。」

「うむ。それは長所よの・・短所は把握しておるか?」

「召喚したものは30日で消えてしまいます。」

「30日でか?」

「はい。もし使い続けるのであれば、召喚し続けねばならないのです。」

「なるほど。魔法で生み出した土壁などと同じじゃな。だから魔法で家は作れんのじゃよ。」

「はい。子供の頃先生に習いました。」

「うむ!覚えておったか。」

モーリス先生は、俺が教えを覚えていたことを喜ぶように目を細めた。

「じゃがラウルよ。30日と言うのも破格の能力じゃ。強い魔法使いの土壁でも4日5日で崩れてしまう。30日とはな・・」

30日は逆に長持ちなんだ?

「魔法は空想力じゃ、空想力で生み出したものは劣化せんのじゃ、土壁も崩れるその時までは作った時のままじゃ。しかし時間が来ると唐突にくずれる。」

「そうだったんですね。私の召喚したものは不意に消えます。フッと跡形もなく。しかし使っている間は劣化しません。」

「それはラウルの空想力から生まれた物だからじゃろうて。」

なるほど。銃や砲身など、どれだけ撃っても劣化しないのはそのためだったのか。銃身が熱をもたず銃身交換しなくても撃ち続けられるのは、俺のイメージと魔法が生み出した物だからと言うことね。

「ひとつ謎がとけました。」

「そうかそうか。」

先生がうれしそうに言う。

「あの、私から先生と枢機卿に聞いてほしい事があるのですか。」

「なんじゃ?」

「わしもかの。」

「はい。」

俺は以前から気にしていた事を聞いてみる。

「私が子供の頃サナリアを追われてからは、ずっと戦いに明け暮れておりました。はじめは必死でしたが、敵を殺す事には抵抗があったんです。」

「ふむ。」

「しかし敵を倒すにつれ、そして守るべき者が増えるうちに、敵を殺すことに呵責はなくなりました。」

「なるほどのう。」

「それからは敵を徹底的に排除するようになってしまったのです。酷い事をした敵とその仲間を徹底的に殺したんですよ。・・そう・・慈悲をかける事もなく皆殺しに。」

「・・・・・」

「・・・・・」

2人が黙ってしまった。

いや・・そりゃそうか皆殺しにしてきたなんてわかったら、さすがに黙るよな。ドン引きだよな・・

「えっと、ラウルよ。続きは?」

「そうじゃ、なんの話かね?」

「えっと、続き・・ですか?」

「いやそこまでは普通の事じゃったから、続きがあると思うてな。」

「そうじゃな。わしの信仰する神にも、汝の敵に情けをかけたもうことなかれ。という教えがある、悪き道に堕ちたものをあの世に送ってやる事こそ情けよ。お主は、よう徹底してやってあげたものじゃ。」

「じゃな。さすがはわしの教え子ぞ。そこまで徹底するとは誇りに思えるがのぅ。」

えっ?前世とは根本的に何かが違う?

「まさかラウル!・・もしかして、敵を殺せなくなってしまったのか?」

「それは大変だ。平和呆けの病にでもかかってしまったのかの?リシェルなら治せるぞ。」

「い、いえ。そうではなく私がおかしくなってしまったものかと。」

「おかしくなどない。ラウルよ敵に情けはいらんぞ。愛するものを守れぬようになってしまう。自分自身の信念に従って戦えば良いのじゃ。そうしない方がおかしいのじゃ。」

「カーライルなぞ、仇なす者はみな斬ってしまうぞい。」

な、なるほどー。そうなんだ・・へ・・へぇー。カーライル怖い。

「ラウル様。敵に容赦をしては失礼ですよ。兵はみな死ぬつもりで戦地に行くのです。降伏して軍門にくだる時もありますが、その時は最低でも上官連中の首を差し出すのが筋。さらに裏切りの要素は切らねばなりませんよ。」

・・そうなのか。確かポール王も自分の責任の元で、裏切った使用人を始末してくれと頼んだっけな。

「昨今は、敵にも情けをかける軟弱ものが増えてると聞く。これも平和な時代が長かったからかもしれんのう。」

「昔はカーライルのように、人を斬るための鍛錬を怠らぬ者が多かった。こやつは酒も飲まんで人斬りの修行に明け暮れておるわ。」

「はい。強者をどう斬ってやろう。大人数をどう効率よく斬れるだろう?それだけを考えております。」

カーライルがきっぱり言うと、サイナス枢機卿が言う。

「それだけ?ウソをこくでないわ。おまえは女の事ばかり考えておるじゃろ!」

「違います。枢機卿。それは騎士のたしなみです。」

「何がたしなみよ。シャーミリアシャーミリアとうるさいではないか。」

「い、いや・・それは・・」

カーライルが慌ててシャーミリアをチラチラみる。

ピキピキピキ

《ご主人様。よろしいでしょうか?》

《はいーダメー。殺してはダメー。》

《かしこまりました。》

「じゃがの。ラウルよ叩かれたら叩き返すに収めると言う事も覚えておくがよいぞ。」

「はい。」

「頬を叩かれて、いちいち相手を殺していたのでは道理にあわん。おぬしやわしらは領や国の人間を虐殺されたのじゃ、それにはそれ相応のと言うやつじゃな。」

「頬を叩かれたら頬を叩きかえす。仲間をを取られたら仲間を取る。殺されたら殺し返す・・と言う事であってますか?」

目には目を歯に歯を。という教えなのだろう。

「その通りじゃ。やった事に対してやった罰を返す。この世界はそうやってきたのじゃからな。」

「わかりました。」

「人数など関係はないのじゃ、サナリア兵2000人を皆殺しにされたのなら相手が10億人だろうが、20億人だろうが気のすむまでやればよいのじゃよ。」

これがこの世界の道理。いや・・前世でも戦争なんてもんは一緒だったな。攻撃されたら何十倍にして返す国だってあった。それと変わらないか・・

「わしらの神の教えにも、敵対者は逃してはならぬそれが外道であるなら必ず神のもとに戻して改心させなさい。というものがあるでのう。」

「じゃな。先に非道な事をしたのは敵じゃ。お返しして悪いことなど何もないわい。わしの教え子がほとんど殺されてしもたんじゃからな。」

「それが何者かに操られた行動だとしてもじゃ。」

「そうじゃ。操られていたからとか狂っていたから殺したなどは、言い訳にはならんよ。やったという事実があれば、それは変える事ができんからのう。」

俺は改めて【異世界】に来た事を実感する。前世の日本人の考え方が微かにあるから多少違和感は感じるが、それがこの世界のルールならば従わねばならない。

異世界に転生するとは・・こういう事なのだろう。

むしろ上に立つ者として自分の方が甘かった事に気づかされた。

《ラウル様!》

唐突に念話がはいる。

《マーグか?》

《はい。ラウル様!首を長くして待ち侘びておりましたぞ!》

《おう、待たせた。到着したら現状掌握と、地形の調査結果を教えろ。》

《かしこまりました。情報は十分に揃えたかと。》

《生存者は?》

《多数存在しております。》

《デモンがいたら何をしてくるかわからん。悟られる行動はしていないな。》

《シュラーデンの都市からはだいぶ離れていますから。待っている間に潜入で内部情報も入ってます。》

《わかった。あと一刻ほどで到着だ。基地は出来上がっているのか?》

《発着場がありますので上空からなら分かるとおもいます。》

《了解だ。》

その旨をエミルに伝えて、作戦を皆に話すのだった。

「先生まもなくシュラーデンです。ご準備を。」

「もうか!早すぎるのう。」

「そうなのか・・」

ヘリの機動力にただ驚くおじいちゃん2人は、ヘリから降りるのが名残惜しそうだった。

ひとり聖女リシェルだけが晴れやかな顔になっていたのだった。