軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第222話 孤高のカーライルギルバート

ユークリット王都を出発してから4日目の朝。

村や町の敵兵を掃討しながら西の山脈を目指して進み、森の手前にある西の領を奪還した後で、森に潜伏する反乱軍と合流した。

たった4日の出来事。

ファントムとシャーミリアと俺の3人だけでこの任務を遂行した。こんな芸当が出来るのはもちろん、この二人の魔人と時短ができる俺の兵器のおかげだ。不眠不休で行動できるのも大きい。

「ふわぁぁぁぁ。良く寝たぁ〜」

俺の半分は人間なので、さすがに疲れていたため5時間ほど睡眠をとった。

おかげでスッキリした。

《前世の俺だったら、毎日6時間以上寝ないと仕事の能率が悪くなって・・夕方ごろに疲労で帰りたくなってたっけ・・。残業とかいわれると、えーっ!とか言ってた記憶がある。グレース(林田)はブラック企業で、毎日午前様だって言ってたけど凄いと思ってた。》

この3人の魔人チームで睡眠を必要とするのは俺だけなのだが、シャーミリアが俺の護衛と称して添い寝した。

俺は頼んでいないけど彼女はめっちゃ喜んでいた。

しかし添い寝して思うのだが、シャーミリアは・・匂いがしない。

何も。

マリアやカトリーヌのような人間のいい匂いもしないし、他の魔人の様な臭いもない。

魔人にはアナミスの様にやたらいい匂いがする魔人もいるし、スラガやラーズのようにワイルドな臭いがするやつもいる。でもシャーミリアは匂いがしなかった。

《そういえば女の魔人ひとりひとりと添い寝した事が無いな。今度試してみる事にしよう。》

俺はついシャーミリアをグイっと抱き寄せてくんかくんかしてみる。

「ど・・どうされました!ご主人様!」

「いや・・なんでもない。」

やっぱり匂いしないや。

「よし!そろそろ行動開始するぞ。午前のうちにエミル達が到着するからな。」

「は・・はい!かしこまりました。」

俺とシャーミリアは二人で小屋の外に出た。するとファントムが小屋の前で、俺達が夜に小屋に入った時と同じ格好のまま立っている。

「よう!ご苦労!」

「・・・・・・・」

ファントム君。あいも変わらず何処を見てるのか分からない。

まだ暗いので外に人は出ていないようだ。この集落の結界の端には見張りが立っているはずだが、ここからは暗くて見えなかった。

俺達は広場の方に向かってみる。

ビュッ!

ビシュッ!

「はっ!」

まだ暗い広場で剣の稽古をしてるやつが1人いた。

カーライルだ。

こんな時間に起きて剣の稽古をしていたようだった。彼はちゃんと寝ているんだろうか?

「凄いな。」

以前の俺ならカーライルの動きを目で追う事が出来なかっただろう。カーライルは人間が出来るであろう動きをはるかに超越していた。かつて見た事のあるグラムの稽古よりもはるかにすさまじい。おそらくバルギウスの大隊長クラスと互角以上に戦えるはずだ。

少しイタズラ心で・・俺はカーライルに殺気を飛ばしてみる。

シュッ

こちらに向けてそのまま殺気が返って来た。

《なんだ?俺の殺気がそのまま返って来たぞ?》

《ご主人様。あの男やはり人間では桁が違います。》

《やっぱりそうなんだ。》

《クズですが。》

《まあ・・そう言ってやるなって。》

《ご主人様がそうおっしゃるのであれば、虫くらいですまします。》

《おなじだって・・》

するとカーライルがこちらを見ていた。

「ああ・・シャーミリア様とラウル様。あと・・ファントムさん?」

俺達に気が付いて歩いてくる。

「はい。稽古の邪魔をして申し訳ありませんでした。」

「いえ。毎日こうでもしないと、すぐに腕がなまりますからね。コツコツが一番です。」

「カーライルさんのような天才でもですか?」

「ふっ。私が天才?そんなわけはございません。むしろ皆さんが本気になれば、木から落ちた木の葉が地面に落ちるまでの間も生きてはいられますまい。」

こんなに強いのに謙虚で努力家だ!女には弱いけど。ちょっとカーライルに対する認識が変わった。

そして俺はカーライルに言う。

「まあ・・彼らは人間ではありませんから。私ならばカーライルさんに瞬間で斬られてしまうでしょう。」

「いえ・・私が一番恐ろしさを感じたのはラウル様です。」

ん?

「俺?いや・・買いかぶりすぎですよ。」

「いえ。何と言いますか・・地の底に引きずりこまれるような・・見ていてはいけないような気がします。私ではその領域に立てる事は無いでしょう。」

カーライルは真剣に言うが、俺には彼が何を言っているのかちょっと意味が分からなかった。

「よし!カーライルよ!よく言ったぞ!お前は見所がある!ご主人様のすばらしさを見抜くとは大したものだ!人間にしておくのはもったいない!」

いきなりシャーミリアのテンションが爆上げになる。

「ど・どうしたミリア!」

「いえ。ご主人様、私奴はこのものを見くびっておりました。ご主人様のすばらしさを見抜くとは!なかなかに見所があります。」

「そ・・そうか・・そりゃよかったよ。」

「いやあ・・シャーミリア様にそう言われると、私は天にも昇る気持ちでございます。やっと認めていただけたのですね?」

カーライルが馴れ馴れしく言う。

「はぁ?まだ私が認める100分の1程度だと心しておけ!」

「はい。それでも大変うれしく思います。そのように思っていただけるだけでも光栄です。」

強い。カーライルはやっぱり強い。

「カーライルさん。もしよかったらファントムを稽古にお貸ししましょうか?」

「ファントムさんを?私は死んでしまうのでは?」

「もちろん全力は出させません。」

「そうですか。それはありがたい!ここに居る冒険者や残党兵たちでは相手にならないため、実戦稽古が出来ないでおりました。」

「カーライルさんの注文通りに武装させます。」

「ファントムさんに得意分野はあるのですか?」

「ありません。どうとでもなります。」

「・・・・そうですか。ならば二刀流でお願いいたしたく思います。」

「はい。」

俺は長いコンバットナイフを2本召喚して無造作にファントムに投げつける。するとファントムは刃の部分を無造作につかみ取り、柄の部分を握り直して構えた。

「はは・・今のやり取りを見ただけで、身震いがしますよ。」

「そうでしたか?とにかく二刀流です。えっと・・もしかしたらその剣はどこぞの名刀だったりしますか?」

「いえ。練習用の駄剣です。」

「それじゃあ始めますか?」

「お手柔らかにお願いします。」

「じゃあファントム。いけ。」

シュッ

ファントムがカーライルの目の前に瞬間的に現れる。俺が目で追えてる程度なので十分に力は抜いている。

ヒュン

カーライルは振り下ろされたファントムのコンバットナイフを間一髪でかわして、剣をファントムに突き入れた。しかしファントムはもう一本の剣でその剣を受け流すように脇にそらした。

トン

カーライルはファントムの膝に足を乗せ後ろに跳躍する。しかしファントムはその飛ぶスピードについて行き、カーライルの足をコンバットナイフで削ぎにいった。飛んでいるため避けようがないようにみえた。

斬ってしまう??

《ストッ・・》

俺はファントムを止めようとしたが、それをやめる。

なんと!カーライルは空中を蹴って更にスピードを増して後方に飛んだのだ。ファントムのコンバットナイフが空を切る。

バッ!

宙返りをするようにして地面に着地した次の瞬間ファントムの懐にいた。

《これが縮地か。》

下段からファントムの股間を斬りつけている、普通の人間にその剣影を追う事は出来ないだろう。

しかしファントムは何事も無く、カーライルの剣が股間に当たる寸前にコンバットナイフを置いた。普通ならばそのナイフで止められるはずだったが・・

なんと・・タングステンナイフを切った。

ジャキィィ

しかしタングステンナイフを切ったその一段上にもう一本のコンバットナイフがあった。今度は切れることなくうまく受けきったようだ。そして一瞬動きが止まったカーライルにファントムが思いっきり頭突きした。

髪の毛一本でそれを見切りカーライルが避けた。よけながらもフッとカーライルの足が消える。

ガイン!

カーライルの鉄のすねあてがファントムの側頭部を捕えた。どうやらカーライルはファントムの側頭部を蹴り上げたようだった。

「つぅ・・」

・・しかし・・あれは・・痛い!ていうかカーライルは大丈夫なのか?

バッ

カーライルが反対側の足で中を飛んで後方に下がるが、地面を這うようにファントムが走り寄ってコンバットナイフの先をカーライルの喉めがけて突き入れる。

「止まれ!」

ファントムのコンバットナイフの先がカーライルの喉元1ミリあたりで止まっている。

「ぐぅ・・」

カーライルが膝をついた。

「カーライルさん!大丈夫ですか?」

「なんのこれしきと言いたい所ですが・・足が折れました。気で足を最大強化したはずですがファントムさんは何で出来ているんでしょう?」

「え!足が折れた!?大変だ!シャーミリア聖女リシェルを呼んで来い!」

「は!」

シャーミリアがフッと消える。

「すみません・・ファントムには剣を当ててくださってよかったんですが、足で蹴るとは思ってもみませんでした。」

「ふふ。あははは、剣が当たらぬから足を出したまで。しかし硬い・・私の蹴りは岩も砕くのですがね。」

「私もこいつの材質を知らんのです。私は昔・・こいつに飛び乗って股間を強打しました。」

「ぷっ・・うははは。それは痛かったでしょう。こんなに硬いのに。」

「目から火花が散りましたよ。でも場の空気が壊れるといけないので平然を装いました。」

「ラウル様は面白いですね。これほどの方なのに全く気取っていない。」

「カーライルさんも自然で素直でいらっしゃる。私は一発で好きになりましたよ。」

「ふふ。ありがとうございます・・ですが・・ラウル様・・私にそちらの趣味はございません。」

「そして・・空気を読まない・・いい人ですね。」

そこに聖女リシェルが走って来た。

「カール何をしたのです?」

「いえ・・ファントムさんに稽古をつけてもらっていたのですが、足を折ってしまいました。」

「えっ・・・カールが・・怪我を。」

「ええ。リシェル様!私が怪我をしました!」

なんだろう・・カーライルがずいぶんと嬉しそうだ。やっぱりMなんだろうか?

「すみません。カールは戦闘で怪我などしたことないのです。幼少のころから神童と呼ばれ戦でも傷ひとつ負わず・・それが足を折った・・」

「リシェル様。人ならざる者と真正面から戦ったら、いくら私でも足の一本くらい折りますよ。」

「と・・とにかく治癒魔法で治します。」

リシェルが手をかざすと光が増して一気にカーライルの足が輝いて行く。

「ふぅ。痛みがなくなりました。」

「ええ、きっちり繋がったわ。あんまり無茶をするものじゃないわ。」

「いえ・・私はうれしいのです。全力を出して怪我をするという感覚がこういう物だったんですね。」

一瞬、氷のようなアルカイックスマイルを浮かべるがすぐにいつもの優しい顔になる。

「私がけしかけたんです。すみません。」

「いえ・・ラウル様・・わがままを言えばまたいつかお願いしたいのです。それまでにさらに修練を積みたいと思います。」

「え、ええ。いつでも・・とにかく無理はなさらないように。」

「この私の弱さではリシェル様も守れず・・シャーミリア様のお役に立つことすら敵わないでしょう。もっと強くなりたいのです。」

「分かりました。いつでも声がけください。」

「そんな・・カールが弱いなんて・・」

「私はもっと強くなります。ご安心ください。」

・・・・カーライルギルバート

恐ろしい男だ。

この男はどこを目指しているのか。

俺は彼を尊敬のまなざしで見るのだった。