軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第199話 反乱分子の粛清

バルギウス帝国都市の北門の前。

門から北へ向かう街道が一本伸びている。

都市の北には広大な草原が広がっていた。付近に農地などは無く、食料は広い領土にある田舎の領地でまかなっているようだった。南からヘリで北上してくる間にも広大な農地が見えていた。殺風景な平野にドカンと大きな都市があるのだが、東西南北に太い道が伸びて分岐点になっており、太い街道を見ると相当な物流がありそうなのが分かる。

次第に東の空が明るくなり始めた。俺は無線機を使いヘリで待機しているエミルと話をする。

「エミル・・悪いな結局、朝まで待たせてしまって。」

「いいよ・・それよりもラウル。セルマ熊がさ・・武器の破片を使って人形を作ったよ。案山子のようにそこに立ってるよ。」

「セルマは俺が幼少の頃に、ぬいぐるみとか作ってくれたからな。それが案外可愛いんだよ。」

「ああ・・確かに可愛げがある鉄の案山子だ。」

「なつかしいなあ・・」

「熊も暇つぶしするんだな・・」

「セルマだから。厳密には熊ってわけでもないけどな・・」

そんなことを無線で話し合っていると、太陽が少しずつ東から顔をだした。

ギギィィィィ

俺達が待っているとバルギウス帝都の北門が開いた。

そこには大勢の兵士がいた・・先頭には昨日、幽霊のフリをして話をしたカラフルな髪の毛の少女がいる。

「来た。」

ザッザッザッザッ

きっちり隊列を組んで前進してくる。いざとなったら銃火器を出して応戦しなければならない。

しかし魔法や矢を放ってくるような事はなかった。

ザッ!

全隊が止まった。

凄い人数だ・・・都市の北の広大な土地に、人人人。

物凄い人の群れだった。前世のテレビでは海外の100万のデモとか見た事あるけど、実際に目の前にすると30万人でも圧倒される。

この人数を一晩で全員説得したのだろうか?どうやってかは知らないが一晩で全員がここに来ることを承諾したことになる。それだけ大隊長の言葉は絶対?・・ひいては皇帝の言葉は絶対という事なのだろうか?

《あれ?なんかもしかしてうまく行っちゃった?》

《どうでしょうか?》

《一網打尽ではありますね?》

《でも騙し討ちなんてご主人様の矜持がゆるしませんね。》

アナミス、カララ、シャーミリアと念話で話をしていると・・・

先頭のカラフルな髪の毛をした少女が、一人軍隊から離れて前の方に出てきた。

小さい体に甲冑を来て鉄兜からカラフルな髪の毛が出ていた。華奢な体に似つかわしくないフルプレートは無理やり着せられている感が満載だった。しかししっかりとした足取りで前に進む。

彼女は緊張気味に大きな声で話し始める。

「おはようございます!そしてお初にお目にかかります!わたくし只今この帝都を預かっておりますバルギウス軍、第二大隊のグレース・ケイシーラと申します!この度!貴殿からの降伏の申し出を受け!すでに35万の兵に反乱の意志はない事を確約いたします!」

甲高い声が響き渡り一瞬静まり返るが・・

ざわ・・ざわ・・ざわ・・ざわ・・

まるでギャンブルで結果を待つ人のようなざわめきがおきる。

どうやら半分強制的にいやいや承諾して来た兵もいるようだった。しかしこの子・・昨日はあんなに怯えきっていたのに、今日は大きな声を出して先頭で話している。よく見るとプルプルと震えているが、厳つい男の兵士達の前に立って気丈に俺を見て目をそらさない。

「そうですか!それは賢明なご判断です。してなぜにそのような結果に?」

「はい!昨日、バルギウス皇帝家の先祖からのお告げがあり!降伏するようにと!」

「そうなのですね。それではこれ以上無駄な血を流さずに済みますね。」

「して・・残りの大軍はいずこに?100万人の兵がこの都市を囲んでいると聞き及んでおりますが?」

「100万人の兵?いえ・・私たちだけですが?」

「えっと・・ひいふうみい・・5人?」

「はい。」

「他の兵は?」

「あとクマがいます。」

「熊?」

「はい。」

「魔獣ですか?」

「ペットです。」

「ごにんて・・・ぺっとて・・」

グレースは戸惑っていた。

兵士たちのざわざわが大きくなる。どうやら情報が錯綜しておかしなことになっているらしい。

「おい!ジークレスト!どういうことだ!?」

兵士の1人が叫ぶとガヤガヤが大きくなってきた。すると9番大隊長のジークレストが声をはってそれに答えた。

「きちんと情報は伝えてある!この方たちは強大な魔法を使うのだ!5人でも我々を滅ぼす戦力を持っていると伝えたではないか!」

「そんな風には聞いておらんぞ!我は100万の兵に取り囲まれたと聞いている!」

「は?どういうことだ?」

ジークレストが自分の部下たちに聞く。

「いえ・・私はきちんと伝えましたが・・」

「まてまてまて!我はそのようには聞いておらん!世にも恐ろしいバケモノが来て国民を全て喰らうと聞いておるぞ!食われたくなければ言うとおりにしろと!」

「え?そんな風に伝わってるの?」

ジークレストがあっけに取られてしまった。

「そんな風には伝えてはいないのですが・・伝言で・・もしかしたら・・」

「まて!我はこう聞いている!地獄の門が開いて恐ろしい声があふれ出し、人間を呼びよせるように言ったと、子供達を全て引き渡さなければ国を消滅させるのだと。」

「それは・・根も葉もない・・」

ジークレストという男が焦っていた。どうやらおかしな情報があちこちに広まってとんでもない事になっているようだった。

するとグレースがポツリと言う。

「あのー、ホントの本当に5人しかいないんですか?」

「まあそうです。」

「5人で15万の兵を?」

「そうなります。」

「・・・・・・・」

グレースは考え込んでしまった。

その間に兵達の騒ぎは大きくなり、そのうちに怒号などが飛び交うようになってきた。

「5人などこの軍勢であっというまに蹴散らしてしまえばよいではないか!」

「そうだ!何を戯言に騙されておるのだ?そもそも死体はどこにある?」

「おおかたこいつらに騙されてどこかに進軍してしまったのではないのか?」

疑心暗鬼になっているやつらが叫び出した。

「まてまて!!本当なんだ!本当にこの5人とクマが15万人を消し去ったんだ!」

「そうだ!俺も見た!間違いなく10番大隊長ジャヌル様が一瞬で消し飛ぶところを城壁の上から見た!」

「どんどん兵が倒れていくのだ。そして天からの一撃が吹き飛ばしていったのだ!」

昨日の戦闘を見た者たちがそれに反論しだした。

「静かに!」

グレースが言うが群衆の叫び声にかき消され話も聞こえなくなる。

「静かにしろって!」

ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ

もうグレースの言葉は聞こえなかった。グレースは兜を脱いで大きな声を出す。

「おい!聞こえないのか?静かにしろって!」

もうだめだった・・

そんなグレースに俺はそっとある物を差し出してやる。

「これに向かってどうぞ。」

「あ、どうも。」

「全軍!!!!!しずかに!!しろぉ!!!」

しろぉ・・しろぉ・・しろぉ・・・

えらい爆音が出た。

「え!!!」

グレースが驚いて横を見る。

LRAD長距離音響兵器を目の前にして・・あんぐりとしている。

シーン

兵達は耳を押さえて静まり返っていた・・

俺がグレースに手渡ししたのはLRADのマイクだったのだ。

「え・・エルラ・・」

グレースが何かをつぶやいた。

「ん?」

俺に向かってグレースが言う。

「あのー?こんなことをお願いするのもおかしいんですがね。もし可能ならで良いんですが・・うちの兵達に、昨日使ったと言われる魔法を見せてもらえることは出来ますか?市壁を壊してもいいですから。」

「ああ・・それじゃあ派手なのが良いですよね?」

「なんでもいいです。」

そして俺は手を前に差し出して・・ある物を召喚した。

ミサイルランチャーだ。

「!?」

グレースが滅茶苦茶驚いているようだ。

そして・・

次にグレースが口にしたことで 逆に俺が滅茶苦茶驚いた。

「FIM-92Bスティンガー!!」

日本語発音の英語だった。

聞いている周りの兵達は変な発音に違和感を覚えている。きっとグレースの人種的な言葉だと思っているんだろう。

俺はおもむろに壁面に対してスティンガーミサイルランチャーを構えて撃ちこむ。

バッ

フォーン

ミサイルが飛び出していく。

ガガーン

城壁でミサイルが炸裂して小さい穴が空いてしまった。

「おおおおお!」

「なんだあれは!?」

「あれだ!昨日俺達が見た物は!」

兵士たちからどよめきが起きる。どうやら少しは信じてもらえたらしい・・それよりも・・

「グレースさん・・ちょっといいですか?」

俺はクイクイっと手招きをした。

「ははっ。すごいっすねえそれ・・カッコイイっすねえ・・」

グレースはもうFIM-92Bスティンガーしか見ていない。目の輝きが尋常じゃない。

もしかしたらと思い、日本語で話をしてみる。

「どうもグレースさん。俺はラウル・フォレストと言うものですが・・実は地球の日本と言うところから転生しました。あなたは・・」

「ええ!?そうなんですね!同郷です!日本です!ていうか・・ラウルさん・・日本語?」

「あなたも日本語を話すようですが?」

「元日本人です。この世界に生まれ変わりました。」

!?

日本人転生者が居た!これはおそらく偶然ではない間違いなく引き合わされている。

「ちなみになんですが・・この世界の俺の名前はラウル・フォレストといいます。ですが日本人の名前は高田淳弥です。」

「淳弥さん!!!」

「あなたは?」

「修です!林田修!」

「うっそ!林田!?」

「淳弥さんも転生してたんですか?マジっすか?」

林田はグレースの少女の顔で涙を浮かべていた。俺も・・軽く涙を浮かべている。

しかし周りがジッと見ている。

「えっと大勢の兵がいる・・ここは抑えよう。」

「そ・・そうですね・・なんで・・でも・・そんな。」

「話はあとで。」

「うん。うん。」

グレースは一旦出かけた涙を引っ込めて日本語で話すのをやめる。

そしてキリリとした顔で兵の方に振り返り、腰に手を当てて言う。

「みたか!この方のお力を!我々はひれ伏せねばならぬ!この神のお力の前には我々は無力なのである!全軍この御方の軍門に下るのだ!私の言葉は皇帝代理としての言葉である!異論は聞かぬ!反乱の意を見せた場合は我々正規軍が粛清する事となる!」

全軍がシーンとなった。

やはり皇帝の命は絶対らしかった。

・・・・事が終わったと思い、俺は無線機でエミルに指示を出す。

「エミル!こっちに来てくれ!朗報がある!」

「了解だ。すぐに行く。」

エミルが待ってましたとばかりに無線機を切った。ヘリが飛び出せば後からセルマもついてくる約束になっている。

無線を切ってグレースの方を見ると・・スティンガーを見ている。

そして俺に目を向けた。

目が物語っている・・触りたいと・・

だがまだグレースは敵の指揮官。俺はフルフルと首を振った。

そんなやり取りをしている時だった・・

「こんな茶番を信じるなあぁぁぁぁ」

「そうだ!!うおおおおおおおお」

「全軍をもって殺してしまえ!!」

後方に揃っていた兵たちが突撃して来た。しかし全軍とは言わず5万程度の兵が従わずに突進してきたようだった。モーゼの十戒の様に30万の兵が左右に割れていく。その中を騎馬隊と剣と槍を持つ歩兵、弓兵、魔法使いが突撃してくる。

魔法使いと弓兵が俺達に向かって攻撃を放ってきた。

「おい!グレース様もおられるのだぞ!」

9番大隊長のジークレストが叫ぶが時すでに遅し・・グレースを含む俺達の集団に魔法と弓矢が襲い掛かる。

「やつは裏切り者だ!」

もちろん・・俺達の眼前で全てカララが霧散させてしまう。

「な!」

魔法を撃ちこんだ兵たちが驚いていた。

「やめろぉぉぉ!!!無駄に死ぬなぁぁぁ」

ジークレストが止めに入るが先陣を切る兵士に突き飛ばされて、横にいる兵士に抱きかかえられた。そのままずるずると脇に引きずられていく。

あっというまに30万の軍勢は左右に分かれて最奥の軍勢に道を空けた。

うん・・林田が危ないな。

「シャーミリア。グレースを」

「御意」

ファントムが俺を抱え後方に飛ぶとカララとアナミスが一緒について来た。シャーミリアに黒い羽が生えて空を飛ぶのをみて敵兵がつぶやく・・

「悪魔・・」

「バ・・バケモノめ・・」

抱かれて飛ぶグレース本人も絶句している。

そこに・・

シュルシュルシュルシュルシュルシュル

上空から降りてくるものがあった。

エミルが操縦するAH-1Z ヴァイパー戦闘ヘリだった。朝日の中から現れたその機影をみて敵兵全軍が唖然としていた。おそらく竜が降りてきたと勘違いしているのだろう。突進してきた兵士たちも足を止めている。

「な・・・なんだ・・あれは?」

「龍じゃないのか・・」

「なぜ・・こんなところに?」

兵は恐ろしいものを見るようにヴァイパーを見ている。

無線機でエミルが不思議そうに話しかけてきた。

「ラウルお待たせ・・もう終わったんじゃないの?」

「この5万程度の兵が反乱を・・」

「どうする?」

「反意を見せた者を許しておけば収拾がつかなくなる。」

「了解。」

ヴァイパーヘリが突進してくる5万の兵の前にスッと止まる。やはりエミルは凄い・・ヘリが微動だにせずに空中に止まっているかのようだ。

「弓兵!」

弓がヘリに飛ぶ。

カン!カン!カン!

もちろん弓は全てはじかれる。

「魔法師団!」

火球と氷の槍がヘリに向かって飛ぶが、物凄い強風が横からヘリの前だけに拭いて全て吹き飛ばしてしまった。

エミルの精霊シルフの御業だ。

「ケイナ!ファイヤー!」

エミルが声をかけるとケイナが教えられたとおりに銃火器を発射する。

AH-1Z ヴァイパー戦闘ヘリからM197 20mm機関砲とM261ハイドラ70ロケットポッドの掃射が始まった。

ダダダダダダダダダダ

バシュゥーバシュゥー

ズガーンズガーン

剣や槍を持った人間など、蟻の子を潰すより容易く飛び散っていくのだった。

脇によった30万の兵は蜘蛛の子を散らすようにその場から離れて逃げていく。

5万の兵は1機の戦闘ヘリにあっというまに蹴散らされてしまった。逃げた者もいるが大量に死んでしまう。30万の兵達は自分達の同僚が消されていくにも関わらず、何をすることも出来ずに呆然と見つめていた。

「任務完了だ。」

「ケイナが・・銃火器を・・」

「ノームの恩恵でかなりの知恵が身についたようで、俺の教えをどんどん吸収していくんだよ。」

「そうか・・」

そして戦場は静かになった。