軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第154話 戦いの後

獣がいた。

獣の毛はさかだち後ろ髪はどこまでも続いているかのように長かった。

後ろ髪が絡んだいびつに歪んだ背中からは角がたくさん生えていて、両脇から不自然に伸びる手に生えた爪は鋭くのびている。

顎は耳の後ろまで裂けており、恐ろしく尖がった牙がぞろりと生えそろっている。蛇のような舌がうねうねとのたうち回り、舌の先にも顎があった。

人間がその姿を見続けていれば発狂してしまいそうな恐ろしい獣。

獣はガチガチと牙をならした。

獣は腹を減らしていた。

顎からはヨダレがダラダラと垂れて、今にも何かに襲い掛かりそうだった。

だが恐ろしいはずのその姿の中に凛とした神々しさを感じさせる。凛としたそれには触れる事も、壊す事も出来ない強さのようなものを感じた。

繊細な氷で作られた氷細工のような、美しい雪の結晶のような光るものがそこにある。

暗黒の中で、スポットライトの光に浮かび上がるようにそれはあった。

「喰らえ」

唐突に、なにかが獣に話しかけてきた。

バサササ

獣は黒き翼で自分の顔を覆い隠した。

驚いたのだ。

「喰らえ」

獣は羽を少し上げて聞く。

「ナニヲダ」

「欲望のままに」

「ナニヲ」

「喰らっていいのだ」

獣は何を言われているのかが分からなかった。それに声をかけられたからかは、よくわからないが突然飢餓が襲ってきた。

ボタボタボタボタ

涎が顎から溢れ落ちた。

「ほらみろ」

「ナニガダ」

「喰わぬからそうなる」

一体何を言っているのか獣には分からなかった。そもそもなぜ自分が飢えているのかわからない。

「ナニヲ」

「全てだ」

ますます飢餓が襲って来る。すべてを喰らいつくしたいという欲求が全身を蛇のようにのたうち回る。しびれを伴うようなその感覚が獣を刺激していく。

だが分からなかった。

何を食いたいのか?分からないから食えない。この暗闇の中には自分しかいない。

いや・・そうなのか?

いる。

姿は見えないが。

いる。

しゅぅぅぅぅぅぅ

深く息を吐いて獣が言う。

「オマエヲクウ」

「ふはははは!ワレを喰うのか?おもしろい。」

「クワセロ」

「やはり面白いなお前は。」

「ウルサイ!スグクワセロ」

「それがワレがおまえを従える事が出来ない理由なのだろう・・」

「リユウ・・」

「まあよい。たまに体を貸してくれればワレも楽しめるのだがな。まだ一度きりだ・・」

「タノシム?イチド?」

「そう。お前も欲望に従い楽しめばよいのだ!」

「ハラガヘッタ!クワセロ!」

「ならば思う存分喰らいつくせ!欲望のままに暴れろ」

「ウルサイ・・ウルサイ・・」

がちがちがちがちがち

獣の顎から耳障りな音がする。

「面白い。こんなに抵抗するとはな・・」

「オマエイツカクッテヤル」

「まあそのうちゆっくり話そう、いまはまだ・・・」

獣を相手していた闇からの声が消える。

暗闇があたりを包み込んだ。

俺が気が付くと、どこかの部屋の天井が見えた。いやベッドの天蓋か・・

・・・アンドロアルフスが消えて・・バラバラに飛び散った鳥人間もいなくなって・・

あとなんだっけ?

どうやら俺は汗をかいてベッドに寝ているようだ。部屋のカーテンはひかれたままのようで薄暗い。静かな中に寝息が聞こえた。

横を見るとマリアが俺の右手を握って眠っていた。

「あ、マリア。」

「!?ああ、ラウル様!」

マリアが飛び起きた。つい声をかけてしまったが寝かしといてやればよかった。

「おはよう。マリア。」

「おはようございます。ラウル様ずいぶんうなされておいででしたが大丈夫ですか?」

「夢を見ていた気がするが・・」

「どんな?」

「わからない。嫌な感じだけ残ってる。」

「悪い夢はお忘れになった方が良いのです。」

「そうするよ。」

マリアが窓際に行きカーテンを開けると部屋に日光がさしこんだ。

俺の悪い夢を追い払ってくれるようにしてくれる。子供のころからマリアがやってくれた事だった。

外は天気も良くて明るいようだった。ゆっくり周りを見渡すと、俺はずいぶん豪華なベッドに寝ている事に気がついた。そしてマリアは俺のそばに戻ってきてまた手を握った。

「どのくらいたった?」

「1日と少し」

「朝か?」

「今はお昼過ぎですよ」

マリアがにこっと笑う。そしてハンカチで俺の顔の汗をぬぐってくれる。

「マリア・・なんか少し疲れちゃったよ。」

「ラウル様は頑張ったのです。お休みになられていいのですよ。」

「そうか。」

すると俺はもう片方の手が握られているのがわかった。左を向くとカトリーヌが俺の左手を握っていた。

「ラウル様。」

良かった・・カトリーヌが鳥人間じゃなくなってる。俺はカトリーヌに早速聞きたいことがあった。

「カティ、戦闘時の記憶はある?」

「ええ、意識はあったのですが途中から体が動かなくなってしまいました。」

《そうか・・あの鳥人間になった時、カトリーヌは意識はあったのか。ルフラがカトリーヌの声は聞こえるって言ってたもんな。》

そして俺がわざわざ最前線にカトリーヌを連れて行ったのは訳があった。俺達がデモンを倒す経緯や倒した後どうなるのかを見ていて欲しかったのだ。

「怖い思いをさせたな。」

「いえ、ルフラに包まれていましたからそれほど恐怖を感じていませんでした。」

「なによりだ。」

そしていま・・こうしている。

「俺が二人とこうしているって事は、ルタン町でアンドロマリウスと戦った後と同じことが起こったって言う事かな?」

「はい。でもあの時よりラウル様が眠り続けた時間は短いです。」

「戦闘は無事に終わったという事なんだよなカトリーヌ。」

「はい、わたくしの目で見た感じの事しか言えませんが、ラウル様とカララが武器でアンドロアルフスを滅多撃ちして、挙句の果てに一瞬でアンドロアルフスが消え去りました。」

「そして?」

「はい。見たままを言いますが、アンドロアルフスがいた場所にあった影・・いや・・光でしょうか?それがラウル様に吸い込まれていました。」

「それはもしかすると。」

「アンドロマリウスの時と同じかと思います。」

「ラウル様、私たちがいた市壁の裂けめの前でも魔人全員が倒れてしまいました。」

「そうか・・そのタイミングで俺はアンドロアルフスを倒したんだろうか?」

「すみません。離れた場所にいたので私は確認できませんでした。」

「わたくしからはルフラが抜け出ていって、シャーミリアもカララも倒れてしまいました。」

「やはりそれはあの時と同じだ。」

するとカトリーヌが少し考えてから口を開く。

「あの・・ほんの僅かですが、ラウル様が先に倒れたのです。それに連動するように近い人から倒れていったように見えました。」

「俺が先にか・・」

「という事はラウル様につられて皆の意識も切れるのでは?」

「マリアのいう事はある程度当たっているだろうな。俺に連動してしまっているのだと思う。」

「その程度くらいしか見えませんでした・・」

「いやカトリーヌ十分だよ!だいぶ分かったことがある。」

「それは良かったです。」

やはり眠りに落ちてしまったのか・・。

次の戦闘までにこれを克服する必要がある。デモンを倒すたびに眠ってしまったのでは危険だった。それは魔人達とも相談しながら考えていこう。

「で・・皆は?」

「他の部屋にいると思いますが、動き始めた物もいるようです。」

「ということは・・」

「ええ、ルブレスト様やエリックさん47人の騎士の方達が計画通りに動いてくださいました。」

なるほど。順調に事が進んだというわけだな。だとすればここは王城か・・

「皆ここにいるのか?」

「魔人は全て王城内におります。ルブレストさんや騎士さん達は目覚めた市民たちを家に誘導し、一部の人間達が荒れた街の復旧作業に取り掛かっているようです。」

「わかった。で、マリアもカティも寝てないんじゃないのか?」

「いえ・・ずっとお側におりましたが時折ウトウトとしていましたから。」

「俺はもう大丈夫だよ、二人はゆっくり寝てくれ。」

「どこかに行かれるのですか?それでは私も」

「いや体を休めてほしい。」

「あの・・ラウル様わたくし共は・・もう少しラウル様と居たいのです。」

カティが俺の手を強く握って言う。

「でも配下の様子も見たいし、町の様子も確認しておきたいなと・・」

「わたくしたちはラウル様がどこか遠くに行かれるのではないかと、そんな気がしているのです。」

「いかないよ。ずっと一緒だ。」

どうしたことやら、二人は俺から離れたくない様子だった。

「ラウル様はどんどん変わって行かれて。」

マリアも何を言っているんだ?俺が上半身を起こすとマリアから手鏡を渡される。

俺はまじまじと自分の顔を見た・・

顔の形は変わっていないのだが、大きくイメージが変わっていた。

「目が・・赤い」

そう俺の瞳が赤くなっている。深紅と言った感じか・・そしてもう一つ。髪の毛が・・俺の髪の毛が白髪になっている。

《えー!何これ!滅茶苦茶イメージが変わってる。なんか怖い》

「うそ・・?」

二人が俺を見つめている。

「やっばい・・俺なんか変だぞ。そりゃあ、ひくよね・・」

「いえ、お似合いです。」

「マリア・・。」

「そうです!わたくしもお似合いだと思いました!」

なんだかカトリーヌも慰めるように言ってくれるけど・・

えー!俺白髪やだー!

「俺の中身は変わってないんだよ。」

「そうなのですね・・どんどんわたくしたちとは違う存在になっていく感じがして・・」

「カティ、本当に心配しなくていい。俺は俺だ。」

「・・・・」

「・・・・」

マリアもカトリーヌも黙り込んだ。少し涙を浮かべているような感じもする。

《どうしたらいいんだ・・俺は・・》

誰も答えてくれない。シャーミリアとかカララとか起きてないのかな?ルフラあたりはどうなんだ?

《おーい!えっと・・こういう時どうすればいいんだ?》

表面上の俺も固まっていた。

「・・・・」

なんだなんだ?俺はこんな時どうしたらいいんだ?童貞歴43年とちょっとの俺にはこういう時のマニュアルが何一つないぞ。

《なんだ!なんか喋ったらいいのか?声をかければいいのかね?そうなのかね?》

《僭越ながら・・》

おお!ミリアっち!

シャーミリアが念話で話しかけてきた。

《ご主人様はお二人をそっと慰めて肩を抱いておやりになれば良いのです。》

《それだけ?》

《はいそれだけにございます。》

俺はシャーミリアの言うとおり二人の肩を抱いて引き寄せる。

すると二人は俺の肩に頭を乗せてただおとなしく寄り添っていた。ああ・・女の香りがする・・戦闘で汗をかいて髪もまとわりついているが、まぎれもなく女のいい匂いだ。

つい・・嗅いでしまう。

ドキドキした。これは・・俺にも素晴らしい事が起きるのでは!

と思っていたが、二人は何もせずに俺に寄り添い続けているのだった。

二人の顔を見ていたら・・

そのままにしておいてやろうと思うのだった。