軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第142話 兆しの少年 ~ルブレスト・キスク視点~

ルブレストはラスト家に仕える騎士だった。

ラシュタルの王都ラータルがファートリアの神官率いる軍に攻め落とされたときに、ルブレストは隣国のシュラーデンにいた。当時ルブレストは隣国シュラーデンの依頼により、突如出現し始めた魔獣対策のエキスパートとして、達人として隣国の兵に戦い方など伝えるために派遣されていたのだった。

隣国から帰る道中でラシュタルから逃げてくる人間たちから祖国の危機を聞く。

寝ずに三日三晩走り続けた。

帰ってきた時には信じられない事実がそこにあった。王家も兵士も皆殺しにあい貴族も一人残らず殺されてしまったという事実だ。王城は得体のしれないファートリア及びバルギウスに占領されていた。

ルブレストは復讐を誓う。

しかし・・一人ではどうする事も出来なかった。準備をする必要がある。

騎士という身分を隠し、一般の民として身を潜めて復讐の時を待った。

潜むのはラシュタルの王都ラータル。敵の盲点を突いて都市の中に潜伏したのだった。潜伏して武器屋として仮の姿を得たが、武器屋はすぐに認可制とされた。正体がばれるのを恐れたルブレストは武器屋を辞め、道具や薬草などを販売する雑貨屋として店舗を構えた。

しばらくすると少しずつ兆しが見え始めた。ラシュタル兵の生き残りがいるらしい、という情報を聞きつけたのだ。町に潜む兵や近隣を探し回るうちに兵が一人また一人と出てきた。

元冒険者だった人間も探したが、既に逃げ出してこの街や周辺にはいなかった。

そんなある日。森の中で薬草を採取していた時にある男が声をかけてきた。

「もしかして、ルブレストさんですか?」

ルブレストは思わず短剣に手をかけていた。正体がばれて敵が探しに来たのかと一瞬思ったからだ。声をかけてきた人間を見ると・・知った顔だった。

「お前は・・たしか、エリックか。」

「覚えていてくださいましたか。」

「ああもちろんだ。まだ冒険者を続けているのか?」

「はい。」

「そうか・・ラリーとペイジという冒険者と活動していたと思ったが?」

「あいつらは・・ファートリア兵に殺されました。」

「そうだったのか・・無念だ。」

2人の間に沈黙がながれる。

「それで・・ルブレストさん。ラシュタルはどうなってしまったのですか?」

「ファートリアやバルギウスのやつらがわがもの顔で歩いているよ。」

「そうなんですか・・王族や兵士はどこに?」

「王族は皆殺しに会った。兵士もほとんどがやられた。」

「くそ!」

エリックは木の幹を思い切り打ちつけた。

「憤りはわかる、しかし感情に流されるな。時は必ず来る、その時は必ずやって来る。」

ルブレストはエリックに言い聞かせるように言う。

「私をルブレストさんの仲間にしてくださいませんか?」

「仲間?」

「ええ、ルブレストさんは復讐を考えておられるのでしょう?」

「むろんだ。しかし圧倒的に数が少ない。集めた仲間達もほんのわずかだ。そんな奴らも軍備増強するどころか、魔獣と戦った経験の少ない兵士達だ。森のアジトで生活するのもままならんよ。」

「でしたらぜひ私を。これでも冒険者の端くれ魔獣対策なら十分に経験があります。」

「・・・・わかった。みんなに紹介しよう。」

ルブレストとエリックは森の中のアジトに訪れた。

「エリックじゃないか!」

「お前生きてたのかよ!」

「冒険者はみないなくなっちまったぞ。」

エリックは生まれも育ちもラシュタルだったため、幼い頃からの顔馴染みもいた。

「おう!みんな良く生きていてくれた。俺ひとりになっちまったと思ってた。」

「なに泣いてんだよ!俺たちがそう簡単にくたばるわけないだろ!」

幼馴染のターフが言う。

「はは、そうだなお前が死ぬわけないもんな。」

エリックは涙ながらに言っていた。

「しかしだ。」

ルブレストが話に割ってはいる。

「すでに残された兵は僅か、出来ることは少ないだろう。」

「そうですね・・」

「しかし我々は諦めたわけではない。他の国にもわれわれの様な志しを持つものが必ずいるはずだ。」

「では、われわれは何を?」

「じっと待つのだ、その日が来るのを。敵にもいつか綻びが出るはずだ。その時まで力を蓄え備えるのだ。」

「待つ・・」

「そうだ、冒険者なら分かるだろう?息を潜め魔獣を確実に仕留められる時をまつ。焦れば死ぬ確率はあがる。だから待つのだ、何年でも。」

「わかりました。」

「エリックに冒険者として頼みがある。この兵達に野で生きるすべを教えてくれないか?」

「俺でよければ。」

ルブレストとエリックの話は簡単なものだったが、お互い通じるものがあったのだろう。阿吽の呼吸ですべき事が分かったらしい。

「エリック!頼むぜ!」

「ああターフ。よろしく頼む!」

顔見知りの兵達も快くエリックを受け入れたのだった。

あれから3年が過ぎ、ラシュタル兵士は少しずつ集まっていき、47人にまで増えた。都市の中にも少しずつ協力者は増え増強しつつあった。

しかしながら、あの強大な敵に立ち向かえるほどではなかった。

そしてある時から、街が変わっていくのだった。

城壁がみるみる高くなり、門を出入りすることが難しくなった。警備が強固な物となっていくのが分かった。

そして厄介な事は続いた。

門に魔道士が立ち、出入りする者たちの正体などを暴く為の対策を始めた。闇魔法の言語誘導で人々は嘘を見破られるようになっていく。

言語誘導とは一種の催眠術みたいな物で、精神に作用し隠し事を話させてしまうのだった。

《何にそんなに怯えているんだ?》

ルブレストは疑問だった。あれほど強大な軍事力を誇るファートリアバルギウスが、何らかの襲撃を恐れているとしか思えなかった。

それ以来、外にいる兵達との連絡が途絶えた。

連絡も取れず、どうする事も出来ずに時間だけが過ぎていった。更に状況は悪化していく・・都市の内部にいた協力者が次々に消えていったのである。

ルブレストは完全に孤立してしまったのだった。

悔しく歯噛みする日々が続いた。

それから数ヶ月・・

いきなり仲間たちが来た。

夜に。

夜はことさら警備が厳重になり、城壁の上にも兵が立つ。さらに城壁は50メードにも及び、あんなところにどうして兵が立つのか不思議だった。

ドラゴンでも警戒しているようだ。

そんな厳重な警備を兵は軽々と突破して来たと言う。

何を言っているのかちょっと分からなかった。

「どうやって来た?」

ルブレストが聞くと新しく仲間になったものの力で、易々と壁を乗り越えて来たのだと言う。

そんな事が出来るわけがなかった。厳重な警備を潜り抜け簡単に来れるほど甘くない。

まずは仲間が敵に懐柔された事を疑った。

少なくとも騙されてしまったのだろうと・・

「本当なんです!信じてください!」

しかし、仲間の兵が嘘をついてる様子はなかった。それでも何か危険な感じがして追い払った。

しかしすぐにある若造を連れて入ってきた。

不思議な雰囲気をもつ若者だ。幼い雰囲気がするのだが、礼儀正しくまるで貴族のようだった。しかしルブレストが気になったのはそこではない。その少年は底が見えなかった。

「お前なんか怪しいぞ!この街で見かけた事ないな・・」

つい本音がでた。なんだかつかみどころがない。それどころか得体がしれない。

「はい。外から侵入してきましたので。」

さっきの兵と同じことをいう。

「夜に外から?門を通ってか?」

それからの少年の話で気になる事がでてきた。

ユークリットから来た、貴族、冒険者・・

いずれにせよ動かねばならなくなる気がして、すぐに判断を下した。この小僧について行ってみると・・

家の外に出るとバケモノがいた。

人には発することのできない、異常な圧力を感じる奴だ。絶対に太刀打ちなど出来そうもなかった。

《こんな奴を連れているのなら、俺など一瞬で骨も残るまい。》

そう思った。小僧がまどろこしい事をしているのは理由があるはずだった。

そしてその結果が目の前にいた。

ティファラ王女。

死んだと思っていた。

王族は皆殺しにあったと聞いていた。王の弟にあたるラスト家の主人の子供のうちの四女、ティファラ様が生きていたのだ。

王子のいとこだったので、本来は王女になる事はなかったのだが、その美しさ故に第一王子にみそめられたのだった。将来的は第一王子の妃になる運命だった。

根絶やしとなった今では、彼女が正統なる王家の血筋だった。

そして・・ティファラ様を救ってくれたのが、自分の弟子だったグラムの息子だと言う。

「なんという因果であるか・・」

ぽつりと呟く。

そして城壁の上にはティファラ王女を守っていた者が3人いたが、そのうちの1人の女に身がすくんだ。はっきりとした恐怖を感じた。

美しすぎる美貌の下には恐ろしい何かがいる。そう感じた。

そしてもう1人、牛の獣人だと言う巨体な男からも、とてつもない力を感じた。最初に家の外で現れた男の比では無かった。

《恐らく集めた兵士などこの男一人で数秒もかからないだろうな。》

そしてその隣にいる小男もかなり危険だと、勘が伝えてくる。

この者たちは本当に人間なのだろうか?そんな疑問で頭がいっぱいだった。

「ルブレストさん。これが俺の配下なんです。あとは今、町に潜入して罠を探しています。」

「わな?」

「はい、転移魔法陣かインフェルノ魔法陣です。」

「禁術を使っていると言うのか?やつらは。」

「確定ではありませんが必ずどこかにあると思うのです。」

少年と仲間たちはラシュタルを救いに来たと言った。そして事を起こすのは数日後だと言うのだ。

ルブレストは考えた。間違いなくこの者たちの力量をもってすれば遂行可能かもしれない。しかし町にいた協力者は消えてしまった。数が少ないのではないか?

「協力出来るのは、我と47人の兵士だけだが?」

ラウルと呼ばれる少年に聞いてみる。

「ああ、それは配下に頼んで金をばらまいてます。」

「金をばら撒いてる?」

「いや・・街に還元しているといった方が正しいかもしれません。」

「金では裏切りが出るかもしれんぞ?」

「想定内です。裏切りが出たらきちんと処理をします。」

この少年の話に背筋がゾクリとした。まるで王のような考え方で金と人を見ているようだった。

「分かった・・王都奪還の暁にはどうするつもりだ?」

「ティファラに女王になってもらいます。」

「それでお前たちが陰で牛耳るのか?」

「いえ。また旅にでます。そのときはティファラの側近として支えてあげてください。宰相に相応しいラシュタル出身の神父も呼びます。」

「神父?なんだそれは・・」

「カリスト・クルス神父と言う人です。」

「「クルス様が生きている!?」」

ティファラとルブレストが2人そろって声をあげる。

「ご存知でしたか・・彼を連れて来ますので、相談してやってくれたらいいんじゃないでしょうか?」

「本当に、君は何者なんだ?」

目の前にいる少年はただ笑っていた。