軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第89話 交渉オブスキュア

身バレしてるんだけど。

ねえ、身バレしてるんだけど!

『落ち着きたまえよ』

落ち着けると思うか!?

がっちりしっかり言ってたぞ、那滝ケイって!

ミステリアス美少女タイムを満喫していた俺の前には、確かに空無カノンちゃんの姿があった。

それも、すでに蝶々を出して戦闘が可能な状態である。

どうして蝶々にマストダイとかいう恐ろしい名前がついているんですか?

どうしてそれが沢山飛んでいるんですか?

「いやぁ、まさかここがわかるとはね。セキュリティも全然意味がなかったし、流石は星詠みといった所かな」

ねえ、いつ?

いつバレたの?

「私は学会から星詠みの杖に関する知識はダウンロードしてないからさ、あんまり知らないんだよね君の事。つまり、未知ってわけ」

蝶が、辺り一帯に広がっていく。

それが何かはっきりとわかる訳じゃないが、間違いなくヤバイという事だけは理解できた。

「……私は、貴女に興味はないのだけれど」

「そうつれない事言わないでよ。あ、こっちの方が良いかな?」

その瞬間、カノンちゃんの美少女の輝きが消失した。

「……っ」

「うん、やっぱり《《見えているね》》。……てことは、学会で 01(ゼロワン) が言った通り同質の存在か。厄介だなぁ」

再び、カノンちゃんの中に美少女の輝きが生まれる。

何が起きているんだ……いやマジで。

「ねえねえ『救世』と『探求』に続いて、君は何を人に見出しているの?」

「……当ててみたらどうかしら、その自慢の頭脳で」

俺の知らない俺の話を勝手にするな!

星詠みの杖君、助けて!

『私にもさっぱりわからん』

じゃあ、俺達無知ってこと?

『そうだ』

最悪の状況じゃねえか。

「もう。それが君の素なの? 全然かわいくなーい。……いや、こういう子を困らせるのもアリか。昼間の素直な君もいいけど、そういう生意気な子猫ちゃんを調教するのも楽しそうだね」

こいつ……美少女の輝きが付いたり消えたりしやがる。

これじゃあ、オイラは攻撃できねえよぉ……。

『情けないねぇ。どれ、転移でも準備しておこうか。奴に知覚されないように、少しずつ構築するから時間を稼ぎたまえ』

ありがとう、星詠みの杖君。

その間、出来るだけ情報を引き出すからさ。

『ソルシエラで全知ムーブしてるのに情報とか引き出せるのかい?』

できらぁ!

「くだらない計画を進めている人間らしい発言ね。やはり、魔眼は貴女に相応しいものじゃない」

「うん。だから、もう使ったんだ。というか、随分と意地悪なこと言うんだね。君ももう知っているんでしょ?」

「……ええ、勿論。よーく見せてもらったもの」

だめだぁ……何もわかんねえ……。

魔眼って使うものなの?

装備とかじゃなくて消費アイテムなの……?

『ふむ、つまり魔眼を彼女は持っていないのだね。研究資料には、魔眼は情報を糧に生きる生物であるかのように記されていた。それに、あの潰れた文字。魔眼に相当する何かかそれとも、魔眼を使用したという存在の名か。いずれにせよ、博士に会い魔眼が何かを確かめる必要があるだろうね』

君、ちゃんと考えられてえらいねぇ。

『これをやるのが君の役割なんだよ。ソルシエラなんだから、しっかりしたまえ。美少女に関する時だけ急に賢くなりやがって』

他に賢くなるタイミングないだろ。

だが、博士については知識が少しあるぞ!

博士は銀の黄昏にいる幹部の一人で教授の仲間だ。

本編内では目立ったボスというよりは、後ろで碌でもない武器とか色々造るタイプだった。

俺の知る限りだと、原作では倒されていないはずだ。それと、姿はまだ公開されていない。

まあ、その博士な訳ないけどな!

だって、博士がジルニアス学術院でなんかしているなんて情報は知らねえし!

普通の博士やろ、わはは。

『またそうやって楽観視して……』

とりあえず博士に会えばいいんだな!

その方針だけがわかれば馬鹿でも動けるぜ!

よっしゃ、聞き出してやるわ!

「はぁ……私は貴女ではなく、博士と話がしたいの。くだらないお話に付き合う暇はないわ」

「ははは、嫌だなぁ私が博士だよ? 銀の黄昏は、貴女ならよく知っているでしょう?」

そう言って、カノンちゃんは笑う。

彼女がわざとらしく言う「博士」と、トドメの「銀の黄昏」というワードが彼女が何者であるか示していた。

星詠みの杖君、この人が博士だわ。

やばいわ、今。

『じゃあ情報を引き出してほしいねぇ』

さっきやったけど無理だったでしょ。

俺に無茶な事させないで。

『君、今はとことん木偶の坊だねぇ』

うるさいやい。

「……ああ、君が言っているのはゼロか。アレは今は実体を持たないよ。学会に接続すれば話は変わるけど」

カノンちゃんは黙った俺を見て、勝手にそう言って納得してくれた。

あー、ゼロっていうのがいるのか。

知らない情報ばっかりでまいっちゃうわよ。

「ならさっさとしなさい。私、待つのは嫌いなの」

俺は大鎌を召喚して、カノンちゃんに向ける。

しかし、彼女は目の前の鎌を見ても不気味に笑っているだけだ。

それどころか、カノンちゃんは一歩踏み出してきた。

「ねえ、君にとってミユメちゃんは友達?」

「……どう答えれば満足かしら?」

俺はふわっとした回答で誤魔化す。

こういうのばっかり上手くなるわね。

「そこは素直に友達って言ってよ、もー。……ねえねえ私とさ、手を組まないかな?」

カノンちゃんは夜食に誘った時と同じ、軽い調子でそう言った。

悪意も躊躇いもない。

本当に、ただの雑談のようだった。

俺は辺りを舞う蝶を眺めながら言う。

「手を組む相手を前にしている割には随分なご挨拶ね」

「 等分された死(マストダイ) は戻すつもりはないよ。これは保険だからね。君がプロフェッサーを殺したという情報は既に入手している。アレが死ぬなら私も用心しないとね」

カノンちゃんは俺の言葉に逆らうようにさらに蝶で辺りを囲う。なんで……?

ほ、星詠みの杖君、まだ転移は出来そうにないの?

『待ってくれ。今、バレないように少しずつやっているから。あと少しだけ時間を稼ぐんだ』

転移さえ出来れば、後はどうとでもなる。

俺は、冷笑を浮かべてカノンちゃんを見た。

「臆病な人。……いいわ、言ってみなさい」

俺の言葉に、カノンちゃんは満足げに頷くと口を開いた。

「ネームレスを一緒に始末しよう。殺すんだ、あのイレギュラーを」

黙ったまま、カノンちゃんの言葉の続きを待つ。

俺の態度で察したのか、カノンちゃんはさらに言った。

「君は行動の方針からデモンズギア関連であることがわかる。事実、君はネームレスが現れるまで魔眼に興味はなかったようだしね」

カノンちゃんはそれから「けれど」と言葉を連ねる。

「ネームレスは違う。明確に魔眼へと干渉してきた。他にも学会では多くの研究がなされているというのに、なぜか魔眼だけに興味を示した。オマケに、君と同じ魔法式まで使うそうじゃないの。君と同等の実力者で、目的も不明。……嫌だね、そういう気味が悪い子は」

俺以上に、余程ネームレスに対して関心を持っているらしい。

成程、つまり最初から俺をネームレスを殺すための戦力として考えていたようだ。

「どうかな、そっちにとっても悪い話じゃないと思うんだけど」

今まで通りの明るい笑みで、カノンちゃんは言った。

その表情に騙されそうになるが、これは殺しの提案である。

「お断りよ」

「……君も、大概読めないや」

美少女を殺生するわけにはいかない。

ネームレスは確かにミステリアス美少女で被っているし、明らかにあっちの方がミステリアス度が高いが、それでも美少女だ。

あの行動には必ず美少女的理由がある。

ならば、殺すわけにはいかない。

というか、カノンちゃんを人殺しにしちゃ駄目だ。その手は、ミユメちゃんを撫でるために綺麗なままでいなさいね。

「殺すなんて……。やり方が野蛮ね、銀の黄昏の連中は」

「あはは……嫌われちゃったかな。でも本当にいいの? 君もネームレスの正体は知らないんでしょ? 私と一緒なら、見つかる可能性が高いよ」

それはそうかもしれないが、無理なものは無理です。

そして、もしも彼女が本当にミステリアス美少女なら、俺と再び相まみえるだろう。

その時に、俺がいい感じに上回ってやればいいだけの事よ。

「ふふっ貴女と一緒にしないでくれるかしら」

ネームレスの正体知ってますよ、と存分にアピールしながら笑う。

カノンちゃんは、その空気に見事に騙されているようだった。

ミステリアス美少女は登場人物全てを知っていなければならないからな!

「へぇ……。やっぱり面白いね、貴女は」

今までの尖った雰囲気が霧散する。

カノンちゃんは大きく伸びをして笑った。

「うん。じゃあ、手を組むのはナシって事で。それと……私の実験は静観してもらっていいかな? あと少しだからさ」

実験を知らないのよ。

どこでやってんの? ここ?

というか魔眼ってそもそもなんだよ。

まあ、適当に返しとくか。

こういう時は相手に解釈を委ねるような、ふんわりとした返事をするといいわよ。

「私がどう答えるのか、その賢い頭で考えたらどうかしら」

俺の言葉にカノンちゃんはふっと微笑む。

「……素直じゃないなぁ。よっし、少し遊ぼうか」

「ふふっ、ダンスの誘い?」

ヤバイよ星詠みの杖君。

なんか、戦う流れになってるよ。

『君、途中でバチバチに煽ってなかったかい?』

煽るわけねえだろ、こんな馬鹿みたいに不利な状況で。

俺はただミステリアス美少女に準じていただけだ。

『それが原因では?』

「それじゃ、行くよー!」

「せいぜい頑張って私を楽しませる事ね」

俺は大鎌をわざとらしく構えて、クールに微笑む。

そして、駆け出した。