軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第74話 終幕と目標

「ああっ、あっちも逃げちゃいますよぉ!?」

クラムとヒカリの二人が去っていく姿を見つめて、エイナは叫んだ。

実験施設の屋上に空いた穴から身を乗り出したエイナの首根っこを掴んで、六波羅は呆れたように言う。

「お前、倫理観ねェのか?」

「ありますが? というか、さっき姉様が無防備だった時に星穿ち使えば良かったじゃないですかぁ。あんなチャンス滅多にないのにぃ」

「……お前のそういう所見てると、やっぱりデモンズギアだなって思うわ。自分の有利な状況になるとすぐに調子に乗りやがる」

誰よりも人間臭いデモンズギア、というのが六波羅のエイナに対する評だった。

「せっかく私が勇気を出して姉様の居場所を教えてあげたのに……」

「それはよくやった。ただ、まァ、なんだ……俺も別に畜生になりてェ訳じゃねえからなァ」

ソルシエラの捕獲命令は依然として続いている。

チャンスがあれば逃すべきではないし、特に六波羅にはソルシエラを捕まえる理由があった。

「……じゃあ、今日もご飯はモヤシなんですね」

「うめェだろ、モヤシ」

「うぅ……中央区で暴れなきゃ……あんなに借金出来なかったのに……」

観光の一翼を担う騎双学園の中央区。

その大部分を破壊し、生徒たちを一時的に狂気に陥れて病院の機能を限定的に麻痺させた代償は重かった。

「ははっ、生徒会長かなりキレてたなァ。俺としては、あそこでドンパチやって生徒会長の座を奪っても良かったんだが」

「どうして戦って欲しくない時だけやる気なんすかぁ。天邪鬼っすかぁ?」

言葉で返すのも億劫だったので、エイナの頭をわしわしと撫でる。

そして、クラム達が見えなくなった頃合いで立ち上がった。

その手には、自前の双剣が握られている。

「……アイツらもいなくなったんだァ、もうここにいる意味はねェだろ。帰りやがれ」

「リーダーぁ?」

空を見上げたまま突然六波羅はそう言った。

エイナは首をかしげたまま、六波羅に抱き寄せられる。

それからすぐに、六波羅の背後の空間が飲み込まれた。

光が存在しない虚空より、闇に溶けるような黒い髪の少女が張り付いた笑顔で姿を現す。

「相変わらず、気持ち悪い勘ですねー」

少女、名を多々良タタリ。

学園都市に君臨するSランクの一人である。

「エイナちゃん、久しぶりですねー。……じゅる」

タタリは、エイナを見ると気さくに手を振った。

が、同時にその腹から空腹に耐えられないかのように音が鳴る。

「相変わらず、下品な音だ。んな奴に食わせる飯はねェよ、悪食」

「んもー。ソルシエラを食べようとした時もずっと私に圧かけてましたよねー?」

「当たり前だ。あの女は俺が倒すんだからな」

双剣の切っ先をタタリへと向けて、六波羅は獰猛に笑う。

タタリもまた、それを見て涎を拭った。

「じゃあ、疲弊した所を二人とも食べちゃいますねー。ふふっ、今回は無理でしたけど、次は絶対に……。ふふ……ソルシエラって初めて実物を見ましたが本当に美味しそうですねー」

「ひぃっ」

「エイナ、コイツ相手なら星穿ち使ってもいいぞ」

「嫌ですよぉ! 帰りましょう! 私、この人苦手なんですぅ!」

「あら、私は貴女の事気に入ってますよ。じゅるる」

「食という意味で気に入ってるぅ!? リーダーぁ!」

服を掴んで泣き叫ぶエイナを見て、六波羅はため息をつく。

それから、双剣を消失させタタリに消える様に手で促した。

「戦わないのですかー?」

「お互い、戦う気はねェだろ。特にお前は、飯を食う時しか戦わねェ」

「……エイナちゃんでもいいですけどー?」

「そん時は、お前が飢えて死ぬのが先だ」

数秒、視線が交錯する。

一瞬たりとも気を抜けない緊迫した空気の中、先に降参したのはタタリだった。

「わかりましたよー。私も、食べた物以上のカロリーは消費したくないですからねー」

タタリは、制服の内ポケットから携帯食料を取り出すとポリポリと食べ始める。

それを見て、エイナが「あ、いいな」と言った瞬間、六波羅はその頭を軽く叩いた。

「エイナちゃんも食べますー?」

「コイツは帰ったら俺のモヤシ料理食うんだよ。余計なモンで腹満たさせンじゃねェ」

「んもー、つれないですねー。じゃ、私は帰りますかねー。こんな場所にいても、何も食べられないでしょうから」

そう言って、タタリは六波羅の前で無防備に背を向ける。

すると、何かを嚙みちぎる音とともに目の前に虚空の穴が現れた。

タタリはその中へと飲み込まれるように消えいく。

が、思い出したかのように振り返って言った。

「そう言えばー、ソルシエラって普段はどこにいるんですかねー? 現状、貴方だけがソルシエラと交戦した訳じゃないですかー。何か、彼女の素性を知る手掛かりとか持ってたりしますー?」

「……俺が知るか。ンなものあったら、とっくの昔にリベンジマッチしてる」

「…………それもそうですねー」

タタリは少しの間、六波羅を見つめていたがやがて納得したように虚空の中へと消えていった。

彼女が消えて間もなく、虚空が閉じられる。

そこには最初から何もなかったかのように静寂だけが存在していた。

「俺達も帰るぞ」

「あ、はい」

エイナは頷くと、六波羅に追従する。

「あの、良かったんですか」

「何がだ」

「姉様の事、教えなくて」

六波羅は、手掛かりどころかソルシエラの正体を知っていた。

所属学園どころか、普段の彼女が使っている顔を知っている分他のSランクよりもアドバンテージがあるだろう。

「別に構わねェよ。アレは俺の獲物だ」

「そっすか……やっぱり正面切って戦うんすね、リーダーは」

「ビビってんのか?」

「はい! ガチビビりしてます!」

エイナは「でも」と言葉を続ける。

「一回、喧嘩を売ったらもうどうしようもないので、トコトン滅茶苦茶にしてやろうとも思ってますぅ!」

それはそれは綺麗なやけくそ笑顔でエイナはサムズアップする。

その様子を見て、六波羅は「よォし!」と声を上げた。

「じゃあ、景気付けにラーメンでも食うかァ!」

「え、いいんですかぁ!? お金とか、口座全部凍結されてるし、財布も生徒会長に奪われたんじゃ……」

「エイナぁ、俺はSランク、栄枯の六波羅だぜ……? 理事長名義のカード持ってるに決まってンだろォ!」

「おおおお!!!」

六波羅が取り出したクレジットカードを見て、エイナが今日一番の反応を見せる。

「勝ったらトッピング好きなだけ許してやるつもりだったンだがなァ。負けたから、一個だ」

「一個は許してくれるんですねぇ!? やった……!」

小さくガッツポーズするエイナを見ながら、六波羅はふっと笑みをこぼす。

(他のSランクも本格的にソルシエラを探してやがる。御景学園との戦争といい、暫くは退屈しなくてすみそうだなァ)

それは戦乱の世の訪れ。

何よりも六波羅の求める世界の始まりだった。

(あァ面白れェ! これだから学園都市ってのは最高なんだ!)

昂る感情を抑え、六波羅は笑みを浮かべる。

その眼は、星を捉えていた。

おはようございまーす!!!

ハッピーエンド後の朝ってのは気持ちが良いですね!!!

『君は朝から元気だねぇ』

昨日あんなにいいものを見れたからね。

いやぁ、やっぱり美少女は救うものだな。

俺は部屋の窓を開ける。

ぎぃ、と軋むとともに開けた窓は金具が外れてそのまま真っ逆さまに地面に落ちた。

「あっ」

少し遅れて、がしゃんという音。

あー、後で掃除しないと。

『いい加減、部屋にも気を使ったらどうだい? いつまで、こんな廃墟みたいな場所に住んでいるつもりだ』

俺は今まで、全てのお金を女装グッズに費やしてきた。

なので、新しい家具や、壁の穴を直すお金がなかったのだ。

そろそろ、部屋もまともにしようかな。

あと、ミステリアス美少女ごっこの為の隠し部屋も作りたい。

『いいねぇ、タロットカードとかペンデュラムとか置こうじゃないか』

それ採用。

よっしゃ、そうと決まれば今日からダンジョン救援頑張るぞー!

『なんならダンジョンを根絶やしにしようねぇ^^』

今の俺達は自由だった。

何故なら、フェクトム総合学園のあれこれが解決したからである。

もうエンドコンテンツしか残ってない。

後は、TSダンジョンの確保をすればいいだけだ。

騎双学園との戦争は、まあ……うん、トウラク君が頑張ってくれる。

特等席からトウラク君の活躍を眺めようじゃないか。

というわけで、俺は今完全に趣味に時間を費やすことに決めていた。

まずはフェクトム総合学園の皆に挨拶よ。

朝から美少女とおはよう出来るって最高じゃんね!

いつも通り、生徒会室に向かう。

今日は、元のにぎやかな様子が扉の前からでも伝わってきた。

「おはようございます」

俺は扉を開けて、那滝ケイとして挨拶する。

そこには、ミロク先輩、ミズヒ先輩、トアちゃんそして、新顔のナナちゃんが揃っていた。

こちらに気が付いた彼女達は俺に口々に挨拶を返してくれる。

「おはようございますケイ君」

生徒会長の席で、ミロク先輩はそう言って微笑んでいる。

やっぱりミロク先輩もいなきゃな!

「おはようございます、那滝ケイ。今日の朝ご飯は、このモヤシ炒めです故」

「あ、ありがとう」

ナナちゃんが俺の分のモヤシ炒めを差し出してくれた。

俺はそれを受け取って、礼を言ってからソファに腰を下ろす。

「今日は私とトアちゃんで一緒に作ったんですよ?」

「ど、どうかな?」

俺は一口食べて、刹那の間に意識を飛ばした。

ダブル美少女の手料理に、脳の処理速度が追いつかなかったのだ。

「おいしい……凄く美味しいです!」

「ふふっそれは良かったです。ね、トアちゃん」

「うん! いっぱいあるからもっと食べてね!」

俺は山盛りのモヤシを見て、それから向かいに座るミズヒ先輩を見た。

ミズヒ先輩は、モッシャモッシャとモヤシを食べながら満足そうに頷いている。

幼馴染の手料理をこうしてまた食べれるようになって良かったっすね。

「それじゃあ、遠慮なく――」

そうして、モヤシ料理を堪能しようとしたその時、ふと思った。

――これって普通にハーレムをしてしまっているのではないだろうか。

裁判長!

『死刑』

慈悲が無い!?

いや、必要ねえか。

だって美少女じゃねえもんな俺。

じゃあ、美少女になるしかねえ!

俺は今食べている美少女の手作り朝ご飯パワーでスーパーミステリアス美少女へと変化する。

勿論、見た目は那滝ケイのままだ。

僅かに少女っぽさが増したが、そこは上手い事隠せているだろう。

裁判長!

『逆転無罪!』

よっしゃ司法万歳!

星詠みの杖君による厳正な審査の結果、俺はまだ生きていても良いことになった。

ただ、このために毎回スーパーミステリアス美少女になるのは普通にコスパが悪い気がする。

……よし、決めたぜ。

『嫌な予感しかしない』

次は、限定的に美少女になれる性転換装置を手に入れよう。

『……ソレがあれば、もう君の求めているダンジョンいらないだろ』

そうとも限らないわよ。

TSダンジョン回で、トウラク君達は一時的に性別を変えられてしまった時、すぐに機械により性別を戻そうとした。

しかし、戻せなかったのだ。

それは概念から覆す魂の美少女化だったからである。

趣味や思考が若干美少女に寄ったトウラク君はそれはもうキャワワだった。

機械では表面しかなぞれない。

それでは、本当の美少女とは言えないよ。

『うーん、わかるようでわからないなぁ』

そして、トウラク君達が最初に使った性別反転機を作ったのがジルニアス学術院だ。

という訳で、次の目的は決まったわよ!

『言うだけ言ってみたまえ』

ジルニアス学術院の頭よさそうな生徒に大金積んで、TS装置を作って貰う!

『性癖の終わった金持ち?』

真っ当だろ。

俺はモヤシを食べながら、頭の中で完璧なチャートを組み上げていく。

ジルニアス学術院の生徒と出会って……いい感じに仲良くなって……大金積んで……ヨシ!

『言うほど、チャートだったかい? 今の』

うるさいやい。

ジルニアス学術院は原作だとメインストーリーにそこまで関わってこないんだし、計画に空白があっても良いんだよ!

久しぶりに周りを気にせず動けそうだねぇ!

『今までも気にしてないだろ』

というわけで、いざジルニアス学術院へ!