軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第65話 決着と限界化

燃え盛る世界は、依然としてその脅威の手を広げている。

焔である筈のそれは、奇妙なことに何も焼き焦がすことなく、まるで幻のようにそこに存在していた。

『……何をしたかはわからないが、俄然その体が欲しくなった!』

プロフェッサーの操作でオルトロスが起き上がる。

そして簡易的な砲撃を放った。

前の二撃に比べると破壊力が劣るが、それでも強力であることに変わりはない。

威力を捨て、速さをとった一撃。

ミズヒはそれを一瞥して、右手をかざした。

「小賢しい」

地に満ちる焔が湧き上がり、壁となる。

焔の壁は砲撃と激しくぶつかると、まるで食らうようにさらに激しさを増した。

『な、なんだその焔』

「お前にはこれがただの焔に見えるのか?」

ミズヒが手を振ると、それに合わせて天井を覆っていた焔が蔦のように垂れ下がりオルトロスへと障壁ごと巻き付いた。

拘束を振りほどこうと藻掻くオルトロスだったが、本来は実体のない焔による拘束に成す術がなくじりじりと体が焼け焦げていく。

「魔力障壁か、くだらん。薪にしてしまおう」

ミズヒの言葉に呼応するように焔がさらに激しさを増す。

同時に、オルトロスの障壁が焼却され本体へと焔が到達。

藻掻き苦しむオルトロスを前に、プロフェッサーは何もすることができなかった。

『あり得ない……あの障壁はAランクの探索者でも突破不可能なんだぞ!』

『突破したのではありません。丸ごと、燃やしたのです』

シエルはすぐにミズヒの操る焔の正体を理解し言った。

『彼女に魔力由来の攻撃は効きません。魔力は彼女の焔の糧となってしまいます故』

『何を馬鹿なことを……。くそっ、なんだこの魔力深度は! これをあの小娘が!?』

プロフェッサーは測定器により叩きだされた数値を見て、叫ぶ。

それは、長年探索者という物を研究してきたプロフェッサーだからこそ理解できた事だった。

『こんなのSランクと変わらないじゃないか!? 明星計画にこんな奴はいない。Sランクの育成プランに存在していない!』

プロフェッサーはコンソールを乱雑に叩く。

すると、燃え盛る壁からいくつもの砲台が出現した。

『Sランクに自力で至るなど、天文学的確率だ! そんなふざけたイレギュラーで私の英雄伝説が邪魔されていいはずがないだろう!』

砲撃がいくつもミズヒに向かって放たれる。

ミズヒはそれを前に何もすることは無かった。

放たれた魔力砲撃が、ミズヒへといくつも直撃する。

激しい爆発で辺りは黒煙に包まれた。

トアはその光景に固まり、ミロクは辛そうに眼をそむける。

『意識しなければ、防げないだろう。複数の方向からの攻撃には対応できない筈だ』

プロフェッサーは勝ち誇ってそう叫んだ。

が、黒煙が端から燃えていく光景を見て、その表情を歪ませた。

「――この程度か」

『……は?』

黒煙が、焔へ転じて辺りに広がる。

その中心に、傷だらけのミズヒがいた。

いつ倒れてもおかしくない程の傷だが、それでもミズヒは何事もなかったかのようにプロフェッサーを見ている。

『何故だ。確かに直撃したはず。なのにどうして、貴様はぁ!』

「確かに直撃した。が、それだけだ」

傷口から、焔が溢れだす。

血のようにミズヒの体内より生み出されたそれは、傷を焼却しさらに勢いを増した。

あり得ない現象を前に、プロフェッサーの思考が停止する。

『……おい。お前今、何をした……?』

傷を治したのではない。

もっと根本的な事象。

傷そのものを焼却し無かったことにしたのだ。

ミズヒは空へと手を向ける。

すると、腕を伝い焔が集まり、一つの銃へと変化した。

「まだわからないか」

焔の意匠がなされた赤い銃。

その銃口の先にオルトロスを定めて、ミズヒは引金を引く。

「私の焔は、燃やしたいと思った物を燃やす。傷も、魔力も、お前の言うくだらない英雄伝説も、すべて燃やしてくれよう」

『概念への干渉……だと!? それじゃあまるで、本当にSランクじゃないか!』

一発の銃弾が放たれる。

それは、この世界で何よりも赤く紅く赫く、燃え盛る焔の弾丸だった。

『オルトロスぅ!』

プロフェッサーに従い、オルトロスが前へと飛び出る。

この怪物に既に砲撃は放てない。

そうなるように砲撃の機能を燃やされたからだった。

「無駄だ」

弾丸は、オルトロスを一切の減速無しに貫く。

ただ一発の銃弾。

が、それで充分だった。

オルトロスの体の端から、灰へと変化し崩れ去っていく。

その光景を前に、プロフェッサーは半ば泣きながら叫ぶことしかできなかった。

『あ、あああ! 私の作品がぁ!』

「くだらないジャンク品だったな」

『貴様ァ!』

「……なんだ、お前も燃やされたいのか」

ミズヒは銃口をプロフェッサーに向ける。

『ひぃっ』

プロフェッサーは今までの余裕が嘘のようにその場に崩れ落ちた。

『ひ、ひぃぃぃ! くそくそくそくそぉ!』

情けない悲鳴を上げながらその場を這いつくばって、プロフェッサーは部屋の奥へと逃走した。

「……今は、あんな奴に構う事はないか」

一瞬、追って殺そうかと考えたミズヒだったがすぐに却下する。

自分たちはミロクを助けに来たのだ。

「ミロク、どうだ」

燃え盛る焔を背に、ミズヒはミロクの前に立った。

床に座り込んだミロクは、何も言えずにただミズヒを見上げている。

「私はお前を助けるために、お前と共に生きるために強くなったぞ。もう犠牲なんて必要ない。そんな物が必要だというなら、私が犠牲を求めた世界ごと全て燃やし尽くしてやる」

それはミズヒという少女の答えだった。

犠牲を強いる世界への反逆の意志。

あるいは覚悟と呼ぶべき強い意志は、辺りに揺らめく焔がその強さの程を証明している。

「だから、帰って来い」

ミロクへと手を差し伸べる。

それは今までと何ら変わりない、幼馴染同士いつも通りの光景だった。

「ここまでしても、まだ自分に意味が無いと思うか? 価値が無いとほざくか?」

「でも、ここまで身勝手な事をして今更私は……」

ミズヒはやれやれと、仕方がなさそうに微笑む。

「本当に、お前は面倒臭いな。お前と喧嘩をするといつもそうだ。どうせ最後は仲直りするんだから、早いに越したことは無いだろう」

「……なんですか、それ」

ミズヒは、ミロクの手を無理矢理掴むと、力いっぱい引き寄せる。

そして、ミロクが拒否するよりも早く抱きしめた。

「こういう時はごめんなさいでいいだろ、馬鹿。これ以上、私は大切な人を失いたくないんだよ」

「…………ごめんなさい」

焔の燃え盛る音にかき消えそうな程に小さな声。

けれど、それは確かに一つの事件の終わりを意味していた。

「お前は頭が良いからな。見たくないものまで見てしまうんだろう。……もう、価値が無いとか役割りとか、そんな悲しい事は言わないでくれ。ミロクがミロクでいる事に意味があるんだよ」

「ミズヒ……」

名を呼ばれ、ミズヒはさらに強く抱きしめる。

「……ありがとう」

ミロクは僅かに躊躇したが、やがて手を背に回した。

くぁwせdrftgyふじこlp

『なんて?』

こんなに良いものが見れるとは思わなかった……!

お金……! お金はどこに払えばいいんですか!?

やばいやばい! これが美少女だよ!

天然で、先天性で、そうあることを運命づけられた美少女としての輝き!

これに勝る輝きがあるか!?

無いだろ! だって美少女の輝きだもんね!

太陽がビビって泣いちゃうくらいに輝いているもんね!!!!

ね!!!

『ちょ、うるさいな』

というか、ミズヒ先輩なんなの?

カッコよすぎじゃない!? 美少女ってカッコよさも兼ね備えているの!?

俺の美少女がキュンキュンしちゃうよ!

焔とか凄く強そうだし、やっぱり頼りになる美少女だぜ!

ああやって道理とか蹴っ飛ばして、自分を貫ける美少女って素敵わよ!

私も自分を貫くあの姿勢は見習うわよ!

学びわよ!

『落ち着きたまえ、……え? 嘘だろオイ! ちょ、ま■た■■!』

ミロク先輩の関係性を考えるとやっぱりミズヒ先輩に助けて貰って良かったね!

対照的な性格の二人が幼馴染の時にのみ局地的に発生するという美少女エネルギーが溢れかえってたもん!

幼馴染しかわからない悩みとかあるもんね!

ってか、美少女同士の幼馴染とかどんだけの確率だよ!

世界ありがとう! アンタに感謝を捧げるぜ!

『■■■■、■■■■■■■■……』

最後のハグもとんでもねえな!

あまりにも尊すぎて眼球無くなったかと思ったもん!

今までもああやってお互いが行き過ぎた行動をとった時には手を引いて止めていたんだろうなぁ。

慣れたようにハグしているし、もしかしてアレが仲直りの儀式だったりするのか?

美少女同士の仲直りとか、それだけでも美しいのにハグって……!

おいおいおいおい! 世界が産声を上げてやがるぜ!

何度目の誕生だよ! ハッピーバースデー!!!!

『■■■■』

あー、フェクトム総合学園っていいなぁ!

最高!

生きててよかった!

アレ? 一度、死んだんだっけ?

じゃあ、死んでよかった! トラックのおっちゃんサンキュー!

よっしゃ盛り上がってきたし、このまま辺り一帯を――

『相棒!!!!!!!』

うるさっ。

え、何?

どうしたの?

『こっちのセリフだ。急に君との接続が切れたから焦ったよ。こんな事、前例がない。私がいなかったら迷彩も解けるし、真っ逆さまに落ちるから気をつけてくれ!』

マジ?

ごめん、ちょっと俺の中の俺が溢れかえって美少女の形をとろうとしてたわ。

『何言っているのかわからないねぇ。ともかく、そろそろ動くべきだ。やることがあるのだろう』

あ、そうだ!

これを見届けた後、俺にはやることが二つある。

一つは、いい感じにボロボロになって最初にミズヒ先輩達と別れた場所にスタンバっておくこと。

そしてもう一つは、プロフェッサーの実験記録を盗むことだ。

この実験記録は価値がある。

特に、御景学園はこれを求めてトウラク君達に潜入を命じるくらいだ。

その潜入先がもう滅茶苦茶になったので俺が代わりに届けようと思う。

これで原作の帳尻が合うって寸法よ。

我ながら賢い作戦だねぇ。

『賢い……賢い?』

疑問を持つんじゃないよ。

あ、そう言えばプロフェッサーにマーキングは出来た?

『ああ、問題ない。エイナ程精密ではないが捕まえようと思えばいつでも捕まえることが出来るだろう』

流石だ、星詠みの杖君。

『早速殺すかい?』

いや、今日はいい。

せっかく、美少女の美しい友情で終わったのだ。

これを悪党の血で汚すわけにはいかない。

それと、プロフェッサーは浄化ちゃんに献上する予定だから俺達は殺しはしないよ。

浄化ちゃんの騎双学園に対する憎しみは全てプロフェッサーに受け止めてもらおう。

なんであんなに嫌っているか知らないけどね。

まあ、美少女のサンドバッグになれるならいいんじゃないですかね!

『相変わらず、君は倫理観がないねぇ』

あるだろ、なに言ってんだ。

倫理観ってのは美少女なんだよ。

『は?』

まったくこれだから素人は……。

それじゃ、さっさと実験記録を盗んで、スタンバイするよー。

『はーい』