軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 美少女はいつも誰かの期待を背負っている

月宮トア。

俺はトアちゃんと心の中で呼んでいる。

金髪が特徴的などこかおどおどとした一年生だ。

そう、俺と同い年であり唯一のクラスメイトである。

ミズヒ先輩とミロク先輩が卒業したら俺達二人だ。……気まずいねぇ!

「きょ、今日は頑張りましょうね!」

「あ、はい」

トアちゃんは、たぶん俺の事がそこまで得意ではない。

今だって、俺の一挙手一投足にいちいち反応をしている。

そりゃ俺みたいなモンを警戒するのは当然と言えば当然だ。

何せ、急に百合の花園にぶち込まれた 汚物(モンスター) 。

百合の間に割って入る男は、大きな業を背負うというのが世の常だ。

クソ、俺が美少女だったらこんな事にはならなかったのに……!

「いつもは、どっどんな感じで救援をしているんです、か?」

「ミズヒ先輩に来た救援依頼に同行するって感じですかね」

「成程……! 私もたまにミズヒちゃんに付いていくときは、そ、そうなんですけど。じゃあ、今日って」

「……とりあえず、特区を歩きますか」

「はっ、はい!」

昼下がり。ミズヒ先輩と一緒にいた時と違って、時間は余っていた。

既にいくつもの救援を成功させ実績があるミズヒ先輩とは違い、俺には名指しでダンジョン救援の依頼が入ることは無い。

そうなると、マップに表示されている救援の信号を見つけるところから始めるのだが、今日はそもそもダンジョンの数が少ない様だった。

俺達が向かえそうな丁度いい難易度の救援はない。

「ひっ、一つくらいは救援をしたいですね。何も出来なかったってなると、ミズヒちゃんがまた無茶しそうなので」

「そうですね。何か一つでも救援があればいいんですけど。それか、ダンジョン?」

俺達が特区を歩いているのは、ダンジョンにめぐり合う可能性があるからだ。

少ない確率ではあるが、ダンジョンを見つけることができれば攻略の権利を譲るだけでもお金が貰えるし、自分で攻略ができればコアが手に入りウマウマである。

「ダンジョンなんて、滅多に見ませんけどね……。こ、この辺りには他校の前線校舎が沢山ありますし」

トアちゃんは悲しそうな顔を隠さずに言う。

彼女の言う通り、俺たちが今いる特区の外周は多くの校舎が存在していた。

これは、校舎とは名ばかりのダンジョンにいち早く駆けつける為の観測所のようなものであり、この中で授業などが行われることはない。

それでも、校舎としての体裁を保つために外見上は校舎そのものである。

が、俺は知っている。

特区を覆うように存在している校舎群の全てがサーモバリック弾でも傷一つつかないような要塞仕様であることを。

「ダンジョンが見つかっても、他の生徒たちと争いになる可能性があるかもしれませんね」

そうなれば、俺達の勝ち目は薄い。

俺がソルシエラで、相方がミズヒ先輩であれば四大校以外なら相手にできるかもしれないが、今は女装していない俺とトアちゃん。

マルチーズ二頭をサバンナに放り込んだようなものである。くぅーん。

「あ、争いは嫌、です。……決闘も」

「決闘ですか。まあ、ソッチの方が勝ち目はありそうですけどね。数で来られるよりは」

ダンジョンの攻略権利をかけた争いは、ダンジョンの等級が高いほどに激化する。

Bランクなどの難易度の高いダンジョンは、もはや学園同士の全面戦争に近い。

が、これがDなどになると、いちいち騒ぎ立てる時間が無駄なので見つけた当人同士で決闘により決めることが多い。

俺達がダンジョンを得られるとすれば、この方法だけだろう。

「ははは。まあ、そんなダンジョンなんてそう簡単に見つかりませんよ」

「そ、そうですよね。あ、ははは」

「「ははは…………ん????」」

トアちゃんと声が重なる。

初夏ですらないというのに既にクソ暑い日差しの中で、俺達は目の前に浮かぶそれを見つけた。

空間に見つけた渦。

時空の歪みであり、この世界へと浸食を開始するための起点である穴。

そう。

「「ダンジョン!?」」

同時刻、ミズヒはベッドの上に寝かされていた。

いや、軟禁といった方が近いだろうか。

ミロクが扉近くで書類整理をしながら監視をしているのだ。

「心配ですか?」

書類に目を落としたまま、ミロクはぼそりと呟いた。

「ああ」

窓の外を見ながら、ミズヒは短く答える。

晴れのまま固定された空は、随分と気持ちの良い青が広がっていた。

まもなく、フェクトムにも初夏が訪れるだろう。

「私たちは、いずれケイとトアを残して卒業する。……いや、それよりもこの学園が潰れる方が早いか」

「そうとも限りませんよ」

ミロクはふっと微笑む。

「ケイ君が来てくれてから、少しだけ借金の返済速度が向上しました。それに、四人なら戦領祭だって、本当に勝てるかも」

「勝てたとして、《《奴ら》》は約束を守るのだろうか」

「守らせますよ。仮にそうでなかったとしても、戦領祭を勝利するだけの実力を持った学園相手なら支援をしてくれる企業はいくらでもあるでしょう」

「……最近、楽しそうだな」

ミズヒは、ミロクを見てそう言った。

ミロクはきょとんとした顔のまま首をかしげる。

「そうでしょうか?」

「ああ。よく笑うようになった。昔みたいに」

「そういうミズヒも、笑っていますよ。気が付いてます?」

「……知らなかった」

自分の頬をペタぺタと触りながら、ミズヒは誤魔化すように咳ばらいをする。

「ともかく、いずれはアイツらがこのフェクトムを引っ張っていくことになる。ケイの麻痺毒と、トアの武装は相性が良い。ここで経験を積んでおくのは私も賛成だ」

「その割にはソワソワしてますけど」

「あの二人はまずは練習で慣らすべきだった。トアはそもそも実戦経験が少ないし、ケイも魔物相手なら問題ないが、対人戦となると上手く刃を当てることができていない。対人経験が浅いんだ」

それは二人を見てきたからこその言葉だった。

ミズヒの目から見た二人は、同年代と比較しても高いポテンシャルを持っている。

が、それを最大限に引き出すことが出来ていない。

いや、そのような環境がそもそもこのフェクトム総合学園には存在しないといったほうが正しいだろうか。

「心配性ですね」

「お前はどうなんだ」

「多少は心配ですね。……けど、私はケイ君ならトアちゃんの事を任せられると思っていますので」

「そうか……そうだな」

脳裏に、馬鹿真面目な男子生徒の顔が思い浮かぶ。

蒼銀色の髪に、青空のずっと奥を閉じ込めたような目。

彼と一緒にいると、不思議と安心できる事をミズヒは理解していた。

「これからはダンジョン救援のローテーションに、アイツらのペアを組み込むとするか」

独り言だった呟きに「いいですね」と優しい声が返ってくる。

二人が自分を超える一人前の探索者になることを願い、そして二人の為にこの学園を残さなければならないと決意を新たにする。

フェクトム総合学園を取り巻く現状は相変わらず絶望的だ。

それでも、照上ミズヒは抗わなければならない。

そのためには――。

(あの収束砲撃の際の感覚。あそこにたどり着くことさえできれば)

本来ではあり得ない筈の、自身のさらに上のステージ。

それが様々な無茶と偶然の上に成り立っていたものだったとしても。

(私は、もっと強くなれる)

焔は確かにそこにあった。