作品タイトル不明
⑥⓪ クリスティンの逆転劇(4)
貴族の狡いやり方…ジョエルは周囲から固めようとしたのだ。
そのまま好き放題にさせるのは腹立たしいと思い、ハッキリと意思表示をすることで攻撃を防いでいた。
いくら大人びていても、此方から見ればまだまだ子供だ。
この手のやり方はキャバクラ時代に何度も乗り越えてきた。
体を求められる事や、愛人契約の申し出は日常茶飯事である。
それを機嫌を損ねないように躱すのに、此方がどれだけ苦労しているのか知りもしないだろう。
(オーホッホ!!踏んできた場数が違うのよ!!)
周囲が勝手に盛り上がる中、毅然とした態度でジョエルに言った。
「わたくし、今の貴方のやり方は好きじゃないわ。このまま続けるなら…貴方との関係を考える必要がありそうね」
「…!!」
ジョエルの婚約の申し出を一蹴した。
以前のように真っ直ぐ想いを伝えてくる方が、まだ可能性はあっただろう。
「周囲を固めればわたくしが流されるとでも思った?……甘いのよ」
なかなか手に入らない苛立っているかと思いきや、ジョエルは粘り強く問いかける。
「どうすれば、君は振り向いてくれるの…?」
「正々堂々と勝負なさい。話はそれからよ」
その言葉に素直に頷いたジョエルは、アインホルン家に通い、ストレートに愛情を伝え続けていた。
また強引に攻めてくると思いきや、好きなタイプを分析したのか、巧みにストライクゾーンを攻めてくる。
そんな腹黒く打算的な部分もありつつも、素が見えてくると意外と抜けている事も多く、無邪気で純粋なジョエルの姿は見ていて癒される為、満更ではなかった。
以前の生意気な態度は幻かと思いきや、大人びたクリスティンに必死に張り合おうと、精一杯背伸びをして頑張っていたのだそうだ。
顔を赤くして恥ずかしそうに言うジョエルの姿を見て、心臓を撃ち抜かれたのだった。
「どうしても君じゃなきゃ嫌なんだ」
「……」
「クリスティン、お願い……返事を下さい」
舞踏会の一月前に手を握りながら真剣に訴えかけるジョエルの姿を見て、溜息を吐いた。
「はぁ……分かったわ。仕方ないわね」
「!!」
「貴方の可愛さに絆されてあげる」
そのまま流れるように決まったジョエルとの婚約。
元からジョエルと婚約する事にマイナスはない。
それにこの世界でイワンのような令息に絡まれ続けるのも、笑顔で対応しながら婚約者を探すのも面倒くさい。
それにクリスティンに対しては執念深いジョエルが簡単に諦めるとは思えない。
そして今、ジョエルが婚約者だと堂々と見せつけてこそアリアへの最大の復讐となるだろう。
アリアがジョエルを狙っていた事は周知の事実である。
「わたくし、ジョエル様と婚約しているのです」
「ッ!?」
「あは……ごめんあそばせ?」
「う、嘘よ…ッ!そんなっ」
「………ッ」
見せつけるようにジョエルに寄り添った。
ジョエルも愛おしそうにキスを落とす。
過度に恨まれても面倒臭いので、このくらいで済ませておくのがいいだろう。
クリスティンに振られたような形となったイワンも、とんだ赤恥である。
悲劇のヒロインだったクリスティンは、今や全てを手にして笑っている。
(……悔しかったら這い上がってきなさい)
もし今後、アリアとイワンが此方を貶めようとしても負けるつもりは全くない。
(いつでも受けて立つわ!)
努力して整えた体型にイケメンの婚約者。
羨望の視線と妬む声。
やはり欲しいものを手にする為に頑張ったご褒美は格別である。
優雅に笑ってその場を後にした。