作品タイトル不明
⑤⓪ エラの逆転劇(2)
そして周囲には聞こえないように小声で話を続けた。
話を聞いているご婦人達はエラの言葉に喜んだり驚いたりと色んな反応を示している。
エラやクリスティン、オクターバ夫人が新しいドレスを作り上げている事は情報が漏れないように伏せていた為、ドレスの出どころは誰にも分からない。
だからこそ価値のある情報となり得るのだ。
エラが口元に人差し指を持っていき"内緒にして"と意味を込めて「しーっ」と吐息を漏らせば、話を聞いていた御婦人達は興奮した様子で勢いよく頷いた。
そんな中、悔しそうに顔を歪めているのは、エラの天敵であるヴェーバー伯爵夫人とエルプ侯爵夫人である。
少し離れたところでエラの変化に驚きを見せたものの、直ぐに「ただ痩せただけで偉そうに」「あんなドレス…」と声を上げて暴言を吐き始めたのだ。
そんな耳障りな声もサラリと躱せば、更に悪態に拍車が掛かる。
自分の思い通りにならない状況に、かなり苛立っているようだ。
エラはそんな二人を全く気にすることなく、クルリと回ってドレスを見せる。
その歓声で、吐き出す毒すらも掻き消していく。
近付いてこない事を考えると、自分達から声を掛けるのはプライドが許さないのだろう。
けれどドレスの話が気になるのか、ソワソワしながら此方を気にしている。
そんな時、一枚の紙を大切そうに持ちながら輪の中から離れた人をヴェーバー伯爵夫人が声を掛けて引き止める。
なんとか会話の内容を聞き出そうとするが「ふふ、申し訳ありません!秘密ですわ」と言って嬉しそうに早足で去っていった。
「何なのよ、あの紙…」
「大した事は書いていませんわ!」
その紙にはエラ達が立ち上げたブランドドレスの詳細が書き込まれている。
直接渡された人だけがオーダーでドレスを作ってもらえるのだ。
エラは「今だけ限定で…」「今回だけはお試し価格で」「私が選んだ方だけに」と言って紙を渡したのだ。
女性の心を掴む数々の言葉と特別感のある演出は、クリスティンの指示によるものだ。
(フフッ、存分に味わいなさい!!)
紙を貰えない御婦人達は、悔しそうに此方を見ている。
しかし今までのことを考えるとなかなか言い出せない。
他の人は知っているのに自分は知らないという焦りや、羨ましいという気持ちを煽っていく。
しかし女性同士の秘密の話は、大抵漏れてしまう。
御婦人達は必ず近しい人に話してしまうだろう。
"秘密にして"と言われれば尚のこと、我慢する事は出来はしない。
それを加味した上で、ブランドの情報を人伝で広めていく。
「私も欲しい」「気になる」という気持ちを高めていくのだ。
ヴェーバー伯爵夫人とエルプ侯爵夫人は、いつもならば自分達が着ているドレスを褒め称えてもらい、どのくらい金が掛かっているか、美しい出来栄えなのかを自慢気に話すことを何よりも楽しみにしている。
今日の舞踏会の為にヴェーバー伯爵夫人とエルプ侯爵夫人が気合を入れてドレスを用意していたのはリサーチ済みである。
他の婦人達よりも良いドレスを作る為に、たっぷりと金を掛けて、より派手に、より目立つようにと細かく注文を入れて、気に入らなければ文句を言って店側を困らせている。
以前の舞踏会では毎回、自分達をより引き立たせる為にエラは側に置かれていたのだ。
美しいドレスを着ることが出来る自分達と、お世辞にもお洒落とは言えないドレスと規格外の体型を並べて比較の対象にしていた。
今ならば喜んで二人の隣に並ぶことが出来る。
むしろ並んでやりたいくらいだ。
(まさかこんな日がくるなんて……今なら自信を持って此処に立つことが出来るわ!)