作品タイトル不明
④⑧ お覚悟はよろしくて?
今日の為にピカピカに己を磨いてきた。
三年前、鏡に映った信じられないような自分の姿とはサヨナラである。
もう、お腹に肉は積み上がっていない。
足が重くて縺れることもない。
コルセットで綺麗に引き締まったウエスト。
二重顎は卒業して細っそりとした首と、スルリと伸びた両腕。
メイクは薄付きではあるが、可愛らしい顔を存分に引き立たせる為に、ハイライトやシェーディングを使い、目鼻立ちを際立たせるように顔を作り込んでいく。
小動物のようにクリっとした目にする為に、まつ毛をグルングルンに上げてアイシャドウは控えめに。
可憐なイメージにしたかったのでピンク色のチークと明るいリップを施した。
子供っぽくなり過ぎないようにハニーベージュの髪は緩く巻かれている。
そして何より、贅肉を毎日胸元に持っていくように念入りに引き上げマッサージしてもらい、胸の形をキープするために日中はコルセットで固める。
顔は可愛らしいのに、程よく色っぽい。
人形のように作り込まれた美しいクリスティンに死角なし。
今着ているのは自分でデザインしたオリジナルのドレスである。体型とイメージにピッタリと合うAラインのドレス。
マヤブルーの生地とホワイトのチュールを使い、上半身にはキラキラと輝く銀色の糸で刺繍を施した。
一見すると地味に見えるかもしれないが、軽く華やかな生地を使っているので動くたびに揺れるドレスは他者の目を惹きつける。
エラとコーリー、オクターバ侯爵夫人達と作り上げたドレスは芸術品のように素晴らしい出来栄えである。
この舞踏会でドレスのお披露目をした後に、オーダードレス専用の会員限定のドレスショップを開く予定だ。
目指すのは一種のステータスになる、高級ブランドである。
御婦人達の心を鷲掴みにする為の広告塔はアインホルン家と、あとは……。
会場についてからのお楽しみである。
(マーリナルト王国の貴族達の度肝を抜くのよ!!オーホッホッホ)
会場にアインホルン家を乗せた馬車が到着すると、何処からともなくクスクスと馬鹿にするような笑い声が聞こえてくる。
二年も王家主催の舞踏会に参加しなかったアインホルン家。
見た目を馬鹿にされて傷心したアインホルン家が表舞台に出てこれなくなったというのは、社交界では有名な話である。
「わたくし、あの体型だったら舞踏会には出れませんわ」
「恥ずかしくて見ていられないもの…ウフフ!」
「アハハハ、その通りだな」
「今年は頑張るみたいだな!久しぶりにあの食べっぷりを見られるのか」
「まぁ……!それは見物だわ」
ーーーー御者がそっとドアを開いた。
馬車の中から出てきた四人の姿に、騒がしかった周囲は一気に静まり返る。
「………なっ」
「…!!」
「っ…!?」
「おい………嘘だろう?」
シンとした空気は緊張感のあるものだ。
エラの「……参りましょうか」という声が響く。
腕を組んだトビアスとエラが歩き出せば、自然と道がひらけていく。
口元がにやけるのを止める事が出来なかった。
ヒクヒクと動く唇と震える身体。
思いきり高笑いしたいのを我慢していると、オスカーがすかさずフォローするように前に立つ。
このままではいけないと深呼吸してからオスカーに御礼を言うと、顔を整えてから柔かに微笑む。
一人一人に耳を引っ掴んで「わたくしの努力の成果よ!!」と自慢して回りたいくらいだ。
文句を言っていた奴らの驚いている顔を見ながら、会場へと進んでいく。
(その目に、よく焼き付けなさいッ!!)
この三年間の集大成。
アインホルン家による逆転劇の始まりである。
「さぁ、皆様………お覚悟はよろしくて?」