作品タイトル不明
④④ 真っ黒な笑顔
「君が余所見しないように頑張るから、僕だけを見ていて欲しいな」
「それは貴方の努力次第でしょう?」
「手厳しいね」
「オホホホ…!そう簡単に手に入ると思ったら大間違いよ」
「うん……でも良かった」
「…?」
「僕の想いを認識してくれただけでも大きな進歩だから…」
「……ジョエル」
「これからは僕も遠慮しなくていいんだね……嬉しいなぁ」
子供のように無邪気に顔を綻ばせるジョエルに、珍しく胸がキュンとときめいていた。
(ジョエルって意外と可愛いところもあるのね…)
これだけ純粋な恋心を見せられてしまえば、萌えずにはいられない。
夜の世界にヒタヒタに漬け込まれていた疑心暗鬼な心が癒される。
しかし、このほっこりとした温かい気持ちは、この後一瞬で消されることになる。
「クリスティン」
「何かしら…?」
「僕は今から父上に、僕と君との関係を報告させてもらうよ」
「!?」
ジョエルの気持ちが分かったので、これから更に動きやすくなる事だろうと思っていたが、予想外の言葉にギョッとする。
「正式な手続きはもう少し先になるけど、トビアス様にも改めて挨拶に向かうね。ずっと願い出てはいたんだけど、やっぱり君の意思が必要だろう?」
「は!?まだわたくしは…」
「手続きは僕の方で進めるから、君は何もしなくても大丈夫だよ?」
「ちょっとジョエル!勝手に進めないでよ…!」
今のところジョエルを婚約者にするつもりはない。
あくまで舞踏会のパートナーとしての出席をお願いしようと思っていたのに勝手に動き始めたジョエルに声を上げる。
今から色々と結婚相手を吟味しようと思っている事を見透かしているのだろうか。
すっと立ち上がると、椅子に座っている目の前で立ち止まる。
そして背中に覆い被さるようにテーブルに手をついた為、食器がガチャンと音を立てた。
恐る恐る振り向くと、ジョエルの薄水色の透き通るような瞳にクリスティンが映っている。
機嫌は良さそうではあるが、目が笑っていないように見えるのは気の所為だろうか。
「君がどんな知識を持っているのかは知らないけど、貴族の狡いやり方には疎いみたいだし……それを利用しない手はないよね」
「は……良い性格してるじゃない」
「君には負けるよ?」
「あら、そうかしら」
ジョエルの指が頬を撫でる。
後ろから耳元に息が掛かり背筋がゾクリとする。
ジョエルの勢いに押されて、無意識に視線を逸らそうとしたが顎を掴まれてグッと引き上げられる。
抵抗しようと身を捩るがそれも無意味だ。
いつも笑みを浮かべて無害そうなジョエルが見せる荒々しくも男らしい一面に驚いていた。
「それに僕を嫉妬させようなんて、なかなか手の込んだ事をしてくれたよね」
「………」
「僕の気持ちを試しただろう?悪い人だ」
「……何を言っているか、難しくて分からないわ」
「君は全く……焦らすのが上手くて嫌になる」
「いい女は相手から言わせるものなのよ?」
「そう、なら今回は君の計画に乗ってあげる…でも次は僕の番だ」
「……いい加減にっ!」
「君の挑発に乗った僕も僕だけどね……あーあ、悔しいなぁ」
どうやらジョエルは自分の計画や感情を乱された事が、心底気に入らないらしい。
(もしかして何か早まった…!?)
焦っているのを感じ取ったのか、嬉しそうに此方を見つめている。
前言撤回、どうやら純粋で可愛い訳ではないようだ。