作品タイトル不明
①⓪ 反撃の下準備
体型の事は置いておいてもトビアスは語学が堪能である。
何ヵ国語も話せたり、他国にもアッサリと受け入れられる大らかな人柄と繊細な気配り。
しかし地位にはあまり執着しない為、社交界に顔を出す事にも利益がないと思っている。
トビアスの仕事には、マーリナルト王国の貴族達との繋がりは直接関係ないからだ。
自分の仕事にやり甲斐を持って、楽しく働けているので貴族同士のやり取りはどうでも良いらしい。
エラもマーリナルト王国もさることながら、他国の歴史やマナーに詳しく、貿易のやり取りには欠かせない存在だ。
アインホルン家に嫁ぐ前は、才女として学園に名を馳せていた。
商家を営む令息達から大量の結婚の申し出を受けていたという。
結婚した当初、幸せ太りをしたトビアスを痩せさせようと努力していたが、いつの間にかエラ自身も食の虜となっていった。
そしてオスカーを産んだ後、いつの間にか体型は戻らなくなった。
弟であるオスカーは基本的にボーっとしているが、頭だけは飛び抜けて良い……頭だけは。
しかし何か大切なものが抜け落ちている。
自分が興味ある事以外は、覇気がない虚な目でモシャモシャと何かを食している。
『アインホルン家改造計画』の中で一番の難敵といえるだろう。
そしてクリスティンはというと、恋に恋している年頃の女の子である。
頭は王子様やメルヘンな事でいっぱいだ。
特に特技は無い。
強いて言うならば、いつも花のようにニコニコしているので癒される。
令嬢特有の毒気や刺々しさがないので、社交界や駆け引きに疲れている令息達には、癒しに思う部分があるかもしれない。
そして何を言われても気にしない前向きな性格も長所といえるだろう。
ある意味、恐ろしい程のポテンシャルを秘めているアインホルン家。
何故今まで、この扱いで我慢出来ているのか……生まれ変わったクリスティンの率直な感想である。
昔の記憶にも、しっかりと残っている心ない言葉や態度の数々。
やはり見た目が負い目となっている部分もあるのだろう。
つまりは蔑ろにされる事に慣れすぎていて、当たり前に受け入れている現実を根底からブッ壊さなければならない。
その為には、まず"悔しい" "見返したい"という気持ちを呼び起こしていく必要がある。
それに、この国でアインホルン家を見下している奴等を割り出さねば復讐は始まらない。
(アインホルン家を敵にした事、存分に後悔するがいいわ!!!)
クリスティンのまま生きるしかないのならば、以前のように輝きに満ちた人生を送らなければ自分のプライドが許さないのだ。
「これはわたくし達を馬鹿にしている奴等に対しての……復讐の始まりに過ぎないのよ!!!」
「「「……!?!?」」」
「オーッホッホッホ!!」
高らかな笑い声が馬車の中に響き渡る。
この一年間で身につけた高笑いは完璧な仕上がりである。
「今日は存分に、憎しみを溜め込みに行きましょう…!」
オスカーはまた始まったと気怠そうに溜息を吐き出す。
エラやトビアスはポカンと口を開いている。
何を言っているのか分からないと言った様子だ。
「クソ野郎共の態度と言われた台詞を一語一句、聞き逃しては駄目ですよ…?耳の穴かっぽじって、よぉぉく聞いてくださいませ!!」
「えー…」
「心をボロボロにしてでも全部受け入れて下さいな」
「……クリスティン」
「耐えられるかしら…」
「そして、その時の腹立つ顔と言葉を焼き付けて、帰りの馬車で思い出しながら家でメモを取りましょうね……ウフフフフッ」