軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【幕間】『帝都狂騒曲、舞い散る瓦版と大言壮語』

カンカンカンッ!

乾いた拍子木の音が帝都の目抜き通りを埋め尽くす人々の喧騒を鋭く切り裂いた。

抜けるような青空の下、木箱の上に陣取った瓦版売りの男は額に光る汗を袖口で乱暴に拭いながら、喉が裂けんばかりの声を張り上げた。

「号外、号外ァッ! 聞いて驚け見て驚け! 北の荒野を血で染めたあの狂王クルガン、ついに討ち死にッ! その太い首を落としたのは……皆様ご存知、我らが帝国の守護天使、『天翼の軍師』様だァァァッ!」

「おおおおおっ!!」

集まった黒山の人だかりから、地鳴りのような歓声が沸き起こった。買い物かごを提げた主婦、荷車を引く商人、職人、そして非番の兵士たちまでもが足をとめて男の言葉に釘付けになっている。

瓦版売りはニヤリと笑い、手に持った粗末な紙の束をバサリと振った。

「聞きたいか!? どうやってあのバケモノを倒したか!」

群集の熱気がさらに一段上がる。

「軍師様はな、白銀に輝く丘の上からふわりと天へ舞い上がり、天に向けて指を指し示されたそうな! するとどうだ。天から如何なる者にも裁きを与えるという『天翼のイカヅチ』が放たれ、狂王の大剣を空中で真っ二つにへし折っちまったって言うじゃないか!」

「なんだと!? 空を……飛んだだと!?」

「雷を落とす魔法か!」

瓦版売りの大仰な身振りに、人々は目を丸くし、どよめいた。

「それだけじゃない! 軍師様は荒野のど真ん中に『ミチノエキ』なる街を一日で創りあげ、さらにその中に『チャシツ』なる、そこにいるだけで心を溶かすというこの世の物とは思えぬ静謐な空間を作り上げた! そして、狂王の配下たちの心をたちまち掌握しちまったっていう話だ!」

「一瞬で街を……!?」

「心を溶かす……『チャシツ』……恐ろしい魔法だ……」

実際に行われた「MC-1による超長距離狙撃」「突貫工事での道の駅建設」「茶室での素朴な癒やし」といった事実が、人々の伝言ゲームと商魂によって完璧なまでに原型を留めない神話レベルのファンタジーへと昇華されていた。

「おまけにな、あの北壁のシュタイナー将軍も軍師様の命を受けて白馬で空を駆け、敵の将軍の鼻を素手でへし折って泡を吹かせたって話だぜ!」

「がっはっは! さすが帝国の武神だ!」

「その瓦版、一枚くれ!」

「こっちにもだ! 早くしろ!」

群衆が我先にと手を伸ばし、銅貨が宙を舞う。瓦版は飛ぶように、いや、むしり取られるように売れていく。

この熱狂を帝都の商人たちが見逃すはずもなかった。

通りのあちこちで、すかさず看板の書き換えが始まる。

「さあさあ、軍師様にあやかった『北壁・必勝大福』だよ! これを食えば勝負に負けなし!」

「こっちには飲むだけで頭が良くなるという、『チャシツ』でふるまわれた『天翼様のマッチャ』があるよ! 魔法の粉末入りだ!」

「軍師様のお使いになったという『魔法の茶器』、限定五個!」

嘘か真かなど、もはや誰も気にしていない。

帝国の民衆はただこの熱狂に酔いしれ、まだ見ぬ英雄の凱旋を心待ちにしていた。帝都全体がまるで祝祭のような熱気と狂騒に包み込まれていく。

そんな狂乱の渦の中心、瓦版売りの人だかりの最前列で。

誰よりも早く銅貨を叩きつけ、瓦版をひったくるようにして手に入れた男がいた。

小洒落た外套を羽織ったその男――帝都劇場の座長は瓦版の誇張された記事を食い入るように読み、目をギラギラと血走らせていた。

「これだ……」

座長の口元がにんまりと吊り上がる。

「これこそが……これこそが客が求めている最高のエンターテインメントだ!!」

彼は瓦版を大事そうに胸に抱え込み、熱狂する通行人を乱暴にかき分けながら己の劇場へと猛ダッシュで帰還していった。

その背中は、新たな演目のインスピレーションに憑りつかれた芸術家の異様な熱を帯びていた。