軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

80.園遊会 2

ただ今、東から昇った太陽が八十度の位置までたどり着いた頃。

すなわち昼時より少し前といった時分のことであるが、俺こと藤原信秀は現在、園遊会の会場に来ていた。

まずは現状から説明しよう。

椅子に座る俺の前には小さなテーブルがあり、その上にはチェス盤がある。

しかし対面の椅子には誰もいない。

代わりに、先ほどまで「ローマット!」「ローマット!」と気が狂ったように叫んでいた貴族たちが俺を取り囲んでいる。

さらに、「先生、どうしたのですか! 早くこんな奴、けちょんけちょんにしてください」とうるさく叫んでいる少女。

さらにさらに、皆からはローマット呼ばれ、少女からは先生と呼ばれる男が、俺の前で口をパクパクとしながら立ちすくんでいる。

やがてそのローマットなる男は白目を剥き、口端からは泡を噴き始めた。

おわかりいただけただろうか。

まさに混沌とした状況がそこにはあったのである。

さて、言うまでもなく、現状という結果には過程が存在する。

一と一を足せば、必ず二となるように、世の中というものは合理的な過程の上で成り立っているといっていいだろう。

つまり何が言いたいのかというと、今この時に至るまでの過程を紐解けば、現状の混沌とした状況について説明がつくのではないか、ということだ。

というわけで、時は本日の朝にまで遡る。

――園遊会当日である。

「よし、では行ってくる」

朝、城の前で献上品を役人に渡すと、護衛の狼族たちと別れた。

城の中に使用人を連れていくことは可能。

しかし、何かあっては大事になってしまうだろうと考え、狼族は居残りだ。

代わりにレイナとポーロ商会の者を連れている。

レイナたちは俺の衣装道具をもって使用人の待機室へ。俺は、案内係についていき会場に入った。

レイナ曰く、身分の低い者は早めに来て、話し相手やダンスの相手をするというのが通例なのだとか。

まあ、下っ端が早めに来て雑務をこなすというのは、日本でも当たり前にあることだ。封建社会のこの大陸ならば、それもより顕著であろう。

とはいえ流石に一番に来る必要はないのだという。

会場には、既に何人かの貴族が来ていた。

互いに顔見知りであるのか、彼らは金属の杯を片手に集まり、談笑している。

そこに現れた俺という存在。

貴族社会というものは狭い。見も知らぬ俺という存在がよっぽど珍しかったのだろう。

彼らは俺の存在に気づくと、こちらを見ながら密談でもするかのように話し出す。

さらに、係の者を呼んだ。

俺のことを尋ねているのは明らかだ。

いやな雰囲気だ、と思った。

日本において派遣社員になったばかりの頃、社の食堂を使った時のことを思い出す。

そこには正社員しかおらず、派遣社員であった俺は白い目で見られていた。

「お飲み物はいかがですか?」

執事服を着た係の人間が酒を勧めてきた。

「貰おうか」

手持無沙汰に杯を受け取り、酒を注いでもらう。

少々の心細さに対し、酒の力を借りようという考えもあった。

視界の端では、係の者に俺のことを聞いたであろう貴族たちが、意味もなくこちらを見てクスクスと笑っている。

陰険な奴らだ。

思えば、社の食堂で食事をしていた時も正社員たちから後ろ指をさされた。

そして言うのだ。あなた正社員じゃないよね、と。

言外に出て行け、と。

そもそも、当時の会社でそんな取り決めは聞かされていなかった。社の食堂ならばそこで働いている人間なら誰でも使えると思うのが普通だ。

なお、翌日に班長に聞いてみれば、派遣社員は社員食堂を使うなとのことだった。

全くやるせない話だ。

あの時より八年ほどが過ぎている。

もう少し派遣社員への待遇が良くなっていればいいのだが。

そんな風に、遠い日本のことを憂いている最中――。

「ええっと、そこの方……」

ほうらおいでなすった。

やって来たのは、性格の悪さが滲み出ているような顔をした、まだ若い小太りの男。

他の貴族連中も、その後ろにいる。

「どこの伯爵様であったかな? いや、失礼、もしかすれば侯爵様であられましたかな?」

ドッと笑う貴族たち。

男爵だとわかっているくせに。

「私はたかが田舎領主で男爵にすぎない身。そのような大層な爵位は戴いてはおりません」

「なんと、男爵! そのような者が何故ここに!? もしや立派な血筋なのですか!?」

大げさな身振りで驚きつつ、また質問する小太りの男。

周りの者たちは、またもドッと笑った。

「いえ、北方に領地を買った成りたての貴族でございます」

「これは、なんと、ははははは!

聞いたか皆の衆! なんとここにおわす男爵様は、元は平民で、北に領地を買った成りあがり貴族なんだそうだ!」

庭園の中、小太りの男は大いに叫んだ。

俺がいかにこの場にふさわしくないかを知らしめるように。

そして次に吐かれたのは叱責の言葉。

「何故そんな者がここにいる? 今日は園遊会。貴様のような平民出の貴族など参加できるわけもなかろう」

「いえ、それが私にもわかりません」

知るか。呼んだ奴に聞け。

「わからないわけあるか。大方金を積み、この園遊会に参加させてくださいと、意地汚くも頭を地面に擦り付けて宰相殿に懇願したのであろう」

逆だ、逆。

俺としては金を払ってでも来たくなかった。

すると、また別の――今度は顔立ちのなかなか整った、これまた若い男が俺に言う。

「まあまあ、いいではないか。彼も……失礼、名前はなんだったかな」

「……フジワラです」

「そう、ウジムシ君」

『ジ』しか合ってないぞ。お前の耳には何が詰まっているんだ。

まあ、めんどくさいので、わざわざ訂正しないが。

「ウジムシ男爵が金を積んだとしても、招待されたことには変わりない。まあここは、先輩貴族として新人貴族に礼儀を教授してやろうじゃないか」

「おおそれはいい」「名案だ」

貌の良い男の言葉に、下品な笑みを浮かべる面々。いかにも悪だくみしてますといった様相である。

「ではまずは一献。おい!」

顔の良い男が係の者を呼びつけ、互いの杯にワインを注がせる。

「では、今日の出会いを祝して」

金属製の杯がキンと小気味よい音を鳴らした。

次いで俺は杯を口に付けようとする。

だがそれは、「ちょっと待て」と目の前の顔の良い男に止められた。

「違う違う、そうやって飲むんじゃない。いいか? 杯は鼻につけるんだ。貴族が格式あるパーティーで乾杯する時、ワインは鼻の穴から飲むのだよ」

そう来たか。

明らかな嘘。されど顔の良い男は素知らぬ顔だ。

「く、くっ……」「ぷ……ぷひっ」

他の貴族たちは、必死に笑いをこらている。

笑ったら嘘がバレるとでも?

彼らの中ではどれだけ俺は馬鹿に設定されているのか

なんにせよ、子どものような奴らだ。

そう思いながら、俺は言い返す。

「なればお手本を」

「ふっ、手本を見せてやりたいところだが、それは正しい作法にあらず。まずは格下の者から飲むのが絶対のしきたり。

そののちということであれば、いくらでも手本を見せてやろう。

さあ、私もやるのだから、そなたもやりたまえ」

これは、あれだ。

俺が仮に鼻でワインを飲んだら、その途端うっそぴょーんとか言ってしらばっくれる腹積もりだろう。

そして俺が文句を言うと『いや失礼、まさか本当にやるとは。流石は平民出の貴族だ』とか言って笑い話にするに違いない。

つまりは、いびり。あまりにも幼稚ないびりだ。

とても付き合ってられない。

ということで、俺は、手元の杯に入ったワインをどうしようか考える。

一、 目の前の男にぶちまける。

二、 口に含んだのち、目の前の男にぶちまける。

三、 目の前の男の首根っこを捕まえて、その顔にぶちまける。

よし三だ、三にしよう。

俺は杯を持っていない方の手で相手の襟首を掴み――と言いたいところだが、この選択肢、本気で実行するつもりはないし、俺自身、実行できるだけの力があるかどうかは怪しいものだ。

ただの戯れ。己を慰める戯れだ。

そもそも、俺は日本の社会を生きてきた男。この程度で怒っていたら、派遣社員などできはしない。

結局、俺は何も行動をしないことを選んだのである。

「何故やらぬ。まさか、できぬと申すか」

「ええできません。古今東西そのような風習は聞いたことがございませぬ。もしやあなたは、どこか蛮族の生まれですか」

「無礼者! 成り上がり者が何様のつもりだ!」

怒り。顔の良い男は憤懣やる方なしといった様子だ。

小太りの男を始めとした他の貴族たちも同様。

彼らは俺を同格の貴族とは見ていない。いや、貴族としてすら見ていないだろう。

そんな者からの侮辱は、とても許せないといったところか。

だが俺も言い返す。

彼らがどう思っていようと、俺は貴族なのだから。

「無礼なのはどちらですか。ありもしない作法で私を辱めようとしたくせに」

「馬鹿を申せ。非才のお前にはわからぬだろうが、これはいわば薬。

今日ここで恥をかけば、それを教訓として、お前は今後、貴族としての礼儀作法をよく学ぶようになるだろう。

さあもう一度チャンスをやる。鼻からワインを飲み干せ」

もっともなことを言う。

よく、そんなに頭が回るものだと感心してしまう。

「生憎と、貴族の作法は既に持ち合わせております」

「ほう……申したな? 吐いた言葉は飲み込めんぞ」

貴族社会は根暗だとレイナは言っていた。

新しいものを認めず、古式ばったドライアド貴族なら、それが顕著であるとも。

だからこそ、今日までみっちり叩き込まれた。

隙を見せないように。

――と、こうして俺はダンスバトルや食事バトルをし、現在はチェスバトルにて二人の相手を破り、新たにローマットなる者が現れて冒頭に戻るわけであるが……。

最初に言った通り、肝心のローマットは立ちながらに白目を剥いて、ブクブクと口から泡を噴いているのだ。

どうやら彼は、俺をチェスで破るための最終兵器だったようだが、これではチェスどころではないだろう。

「き、貴様っー! 先生に何をした!」

横にいた小さな少女が憤る。だが、俺は何もしていない。

「いや、何をしたと言われても、こちらが聞きたいくらいなんだが……」

「そんなわけあるか!

大陸最強の打ち手にして、チェス考案者でもあらせられるローマット先生が、チェスを前にしてこのような醜態を晒すなどありえないことだ! お前が何かやったんだろう!」

ん? チェスの考案者?

はて、リバーシ同様、チェスを持ってきたのは俺。そして、チェスを広めたのは――。

そういえば、もう何年も前にいたな。

俺自身、そこまで思い入れがあるわけではない。面倒は全て狼族たちが見ていたし、直に話したのは二度か三度か。

リバーシで活躍しているなんて話を、エルザから聞いたことがある。

すっかり忘れていた。

「ああ、思い出した。あのローマットか。

覚えてるかな? 俺、フジワラだけど」

俺は、懐かしい知り合いに会うかのように語りかけた。

しかし――。

「ゴフッ!」

「せ、先生ぇーー!!」

吐血……はしてないものの、口から何かを吐き出して、ローマットは倒れた。

ええ、どういうことなの……。

「えっと……医者に診てもらった方がいいのでは?」

俺が隣の少女に助言する。

すると医務室へ運ぶまでもなく、群衆の中から治癒術が使えるという貴族が現れて、ローマットを診察した。

だが、その貴族曰く、なんら異常はみられないとのこと。

「よ、妖術だ! この男の妖術で先生は、こんな目に! 先生に勝てないからとなんと卑怯な男! こうなれば、一番弟子の私がこの卑怯な妖術使いに勝って先生を救って見せる!」

診断結果を聞き、猛り狂う少女。

かくして、俺とローマットの弟子らしい少女とのチェス勝負が始まった。

虚ろな瞳でローマットは対局する二人を眺めていた。

必死の形相でチェスを打っていたロマンチェ。

だが、やがてその目に涙を溜め始めた。

「先生……必ず、必ず勝って見せますから」

不意にロマンチェがこちらを見て、泣きながら微笑んだ。

倒れこんだ状態では盤面は見えない。

しかし、周囲の者の表情を見ればわかる。

敗北は濃厚。

だがそれでもロマンチェはあきらめずに、挑んでいる。

誰のために。

師である己のためだ。

『先生、私を弟子にしてください!』

ローマットは突として、ロマンチェが己の弟子になった時のことを思い出した。

熱のこもった眼だった。昔の自分を見るような懐かしさを感じた。

獣人の町で捕虜であった際に、暇つぶしにと渡されたリバーシ。簡単だと自惚れ狼族に挑んでみれば、あっさりと負けた。

悔しかった。やることもなかったということもあっただろうが、ひたすらに没頭した。

食らいつこうと必死になっていたあの時の自分を、ロマンチェに重ねたのだ。

そんな弟子が必死に戦っているというのに、師匠である己は一体何をしているのか。

獣人の町の主。

何故ここにいるのかはわからない。

彼が、ただ一言、「リバーシもチェスもローマットが考案した物ではない」といえば、己の全てが崩れ去る。

もちろんローマットがそれを否定すれば、ここにいる者は皆ローマットを信じるだろう。

けれどもそれは、ローマットにはできない。

義理があった。あの町の者たちには。

今、与えられたものは、あの町で与えられたものなのだ。

だがそれでも、ロマンチェを見ていると戦わなければならない気がした。

ばれてもいい。

ローマットは立ち上がった。

その心にはもはや一点の曇りさえない。

「勝てるか?」

「……」

ローマットがロマンチェに問うと、少しの逡巡ののち彼女は力なく首を振った。

盤上を見れば、戦況は明らかだ。

ローマットはその決意の瞳を信秀に向けた。

「“フジワラ”殿。選手の交代をよろしいか?」

「……構わないが、このままでか?」

「左様」

敗北は濃厚どころか、確実ともいっていい盤面である。

「ば、馬鹿な」「いくらローマット殿とて不可能だ」と、皆はローマットの無謀を口にする。

「せ、先生……?」

ロマンチェもまた無理だと判断し、心配するような目でローマットを見つめた。

「あとは師匠に任せておけ」

ローマットはロマンチェに優しく微笑んだ。

それは母が赤子に対するような、心から安心させる笑みだった。

さて、打ち手が変わるなどという前代未聞の所業。

それを誰も咎めなかったのは、対局者同士の了解があったことと、絶対不利のこの状況に誰もが奇跡を期待したからだ。

もしかすればローマットならやってくれるのではないか。

そんな奇跡を思わずにはいられなかった。

打ち手が変わり、対局が再開された。

互いに砂時計が落ちるまで時間をいっぱいに使った長考。

吸い込まれるように、観衆は二人の対局を眺めていた。

誰かの息を呑む音が、とてつもなく大きく聞こえる。

異常は音だけではない。

一秒が何時間にも感じるような錯覚。

それだけの濃縮した時間を観衆たちも感じていたのだ。

そして――。

「ふぅ……参りました」

その言葉を発したのは、信秀であった。

何が起きたのか。

それをはっきりと理解できる者は、対局者の二人を除いては、その場にいなかったといっていいだろう。

――まさか、ローマットが勝ったのか。

そんな考えが皆の胸に浮かんだが、誰もが依然として夢の中にいる。

誰もかれも、己の視覚情報が現実でないような気がして、意識はおぼろげだ。

それゆえ、群衆の中の一人が己の頬をつねった。

「い、痛い、夢じゃない」

そのどうでもいい言葉は、皆を覚醒させ、現実に引き戻した。

――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

大地が揺れんばかりの大歓声。

奇跡の所業である。まさに奇跡の所業である。

今この場にいる者は奇跡を目撃したのだ。

「ローマット殿がやった! やったんだ!」

「我らは奇跡の目撃者となったのだ!」

そして再び起こるのは「ローマット!」の大合唱。

「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」「ローマット!」

嵐のような「ローマット!」コールが庭園内に、いや庭園を飛び越え城、さらには城を飛び越え街の方にまで轟いた。

王都の住人たちは今頃何事かと、城を見つめていることだろう。

女王陛下並びに、まだこの場に来ていない上級貴族たちは、あまりのうるささに不満を感じているかもしれない。

だが、そんなものは関係ない。

今ここに神の奇跡、いや違う。それは神の奇跡などではない。

ローマットが己が弟子のために自らの手でつかんだ、ローマット自身の奇跡が起きたのだ。

歓声を受けながら、ローマットは静かに目を閉じた。

(勝った……いや、勝てた……)

満足。

満ち足りたものがローマットの中で広がっていた。

思い残すことはない。

最高のチェスであった。

懐には愛らしい弟子が、抱きついている。

己の最高を全て出し尽くしたのだ。

だが、彼のこれ以上ない最高の気分を害する者たちがいた。

「見たか、成り上がり者め!」

「調子に乗りおって、これが真の貴族の実力だ!」

「ローマット!」コールが勢いを弱めると共に、次々になじる声が聞こえたのである。

それは誰をなじる声か?

決まっている、信秀をなじる声だ。

ローマットも元は貴族の出。

貴族社会というものが、いかに陰湿であるかを知っている。

信秀と貴族たち、どちらが悪いのかは簡単に予想がつく。

ローマットが再び目を開けた時、信秀はそれを甘んじて受け止めているようだった。

何を弁明しても、負け惜しみにしかならないということをわかっているのだろう。

ならば、ローマットがやるべきことはただ一つ。

「待て!」

大きさこそ数多の非難の声に足りないものであったが、その声には力強さがあった。

それが立ち上がったローマットのものだとわかると、周囲はの者たちはすぐに静かになり、続く言葉を待った。

「このフジワラ殿のことは私も知っている。非常に人徳のあるお方だ。今のチェスについてもそう。見事な打ち筋であった」

「しかし、こやつは私たちを愚弄し……」

顔だけは良い男が、ローマットに反論しようとする。

しかし、ローマットの鋭い瞳で射抜かれると、呼吸困難にでも陥ったかのように、声が出なくなった。

ローマットは大きく息を吸いこみ、そして叫ぶ。

「私にとっても大恩のあるお方だ。この方を愚弄する者がいれば、たとえ天地が許そうとも、この私が許さんッ!」

裂帛の気合を秘めた咆哮。

群衆はどよりと波打ち、そののちは林のごとく静寂に包まれる。

その様は、シュン、と意気消沈するようであった。

静まり返った観衆たちをよそに、再び椅子に座るローマット。

頭を一つ下げたのちは、先ほどの気合が嘘のように穏やかな声色で、ローマットは信秀に話しかけた。

「フジワラ殿、お久しぶりです」

「えっと、ローマット……殿ですよね? まさかこんなところで会うとは」

「いやあ、先ほどはあまりの驚きで取り乱してしまい申し訳ない。チェスについても途中から割り込む形になってしまい、本当にすみませんでした」

「いえ、助かりました。なにぶんドライアドにて貴族になったばかりでしたので、他の方からあまりよく思われておらず――」

ローマットと信秀。

二人の会話は、ことのほか弾んだ。

ローマットは、『リバーシとチェスを己が考案者だと偽ったこと、なんとかうやむやにできそうだ』と思った。